2026.03.13

〈バイローカル〉加藤寛之さん、林千晶さん、「ご近所資本主義」はどんな未来が描けますか?

ここ数年、応援を通じて何かを支える行為は、誰にとっても身近な習慣になりました。一方で、その熱量に疲れを感じたり、応援の対象や方法を見失ったりする人も増えているように思います。

 

以前よりも日常に溶け込んだからこそ、応援との距離の取り方が改めて問われているのかもしれません。そこで今回は「応援はどこへ向かうのか」という問いを手がかりに、その行方とそこから生まれる新たな関係性や可能性を目利きたちとともに探ります。

 

2025年8月、地域創生の第一人者らが集結し、〈一般社団法人バイローカル〉が設立されました。掲げるテーマは「ご近所資本主義」。ふるさと納税や移住など、これまでにも街を応援する方法はありましたが、「ご近所資本主義」とはそれに対してどのような考え方なのでしょうか?今回は、理事を務める加藤寛之さんと林千晶さんに話を伺いました。

 

(文:大芦実穂)

Profile

加藤寛之さん(かとう・ひろゆき)

〈一般社団法人バイローカル〉理事。都市計画家。〈株式会社サルトコラボレイティヴ〉代表。「地域に新しいチャレンジを創出する」「ご近所を素敵に変えよう」「食卓から地域を変えるおいしい革命」をミッションに、25年以上まちづくりの現場に携わる。地元・大阪阿倍野では複合施設〈THE MARKET〉を経営。2013年よりバイローカルの立ち上げと運営をリードしている。

Profile

林 千晶さん(はやし・ちあき)

〈一般社団法人バイローカル〉理事。クリエイティブカンパニー〈ロフトワーク〉を共同創業。現在は〈株式会社Q0〉代表。デザイン経営の実践者として国内外で活動し、まちの文脈に根ざしたプロジェクトの共創を推進。デジタルものづくりカフェ〈FabCafe〉や、地域産業創出を目的とした飛騨市の官民共同事業体〈株式会社飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)〉などを手がける。

Q. “バイローカル”って何ですか?

加藤さん

僕たちの屋号でもある“バイローカル”は、「よき商いを守り、育てる」を合言葉に、地域にすでにある商いを、生活者自身が知って、使っていこうという運動です。わかりやすい取り組みとしては、地元の商いや職人さんを紹介するマーケットを開催しています。商業振興というよりは、都市の暮らしを楽しくしたり、幸せにしたりするうえで、小さな商いは欠かせない、という思いから始めました。

加藤さんが中心となって開催している、阿倍野区昭和町エリアの魅力的な店舗を一堂に集めるイベント「バイローカルの日」(撮影:大森カメラ)

林さん

私はこれを「地方創生」とはあまり思っていなくて。「地方創生」とか「地域活性化」って、どこか外から見た言葉だな、という感覚があります。それよりも、自分が暮らしている場所で、歩いて行ける範囲に何があって、どんな人との関係があるのか。そういう日々の実感が、結果的にその地域を支えている気がします。

加藤さん

まさにそうだと思います。僕は大阪・阿倍野に住んでいるんですが、自転車で10分も行けば〈あべのハルカス〉があって、大手のコーヒーチェーンが6軒くらいある。もちろんどちらも利用するんですが、これだけが自分の暮らしじゃないよなぁ、という感覚もあって。もっと面白い街にできるはずだと思って、2013年にこの活動を始めました。

林さん

結果的に、阿倍野はすごく変わったよね。

加藤さん

そうですね。〈バイローカル〉のマップに、10年前は載せられるお店が30店舗しかなかったのが、今は140店舗になりました。そのうち80店舗のほとんどは2018年以降にオープンした新しいお店。そう考えると、「80店舗分も空き店舗があったんだ」と、改めて驚きますよね。ただ、ここ数年で地価が40%以上上がっていて、今度はこれをどうやってバブル化させないかという、新たな課題も見えてきました。

〈一般社団法人バイローカル〉は、加藤寛之さん、林千晶さん、日野昌暢さん、東海林諭宣さん、小野裕之さんの5名が理事を務める。写真は2025年10月に開催した設立記念イベントの様子

Q. 地域と関わる、地域を応援するその先には何がありますか?

加藤さん

僕がこうした活動を続けるのは、簡単にいうと、地域に元気がないから。どの街にも同じチェーン店ばかりが並ぶと、地域の中でお金が回りにくくなります。もちろん、チェーン店が悪いわけではないし、便利だから僕も使う。ただ、そこで使ったお金が、そのまま地域の外に出ていってしまうことが問題です。チェーン店の本社の多くは都市に集中していますから。

 

実は地方は、観光でも工場誘致でも、ちゃんと稼いでいる。でも、使う場所がなくて、結局よそに出ていってしまう。だからこそ、地域の中でお金が回るようにしよう、というのが、僕らの活動なんです。

 

それが実際にうまく回っている例として、飛騨の取り組みはすごくわかりやすいよね。

林さん

そうだね。飛騨市って地域内でのお金の循環がすごく高いエリアなんです。理由はシンプルで、飛騨で採れた米や野菜、飛騨で仕込んだ味噌や醤油を、できるだけ地域の中で使い、流通させているから。それに加えて、地域通貨「さるぼぼコイン」もうまく機能しています。日常的に使われているから、お金が自然と地域の外に出ていかない。「地域の中でお金が回る状態」が、飛騨では実際に起きていると感じています。

加藤さん

もう1つ大事なのが、幸福度ですよね。地域が元気になると、そこで暮らす人たちの幸福度も高まる。

林さん

私、それに気づいたのが、コロナ禍だったんだよね。遠くに行くことがほとんどなくなって、「じゃあ、自分の足元には何があるんだろう」と考えるようになって。私が住んでいる中目黒には、歩いて15分くらいのところに小さな和菓子屋さんがあって、パン屋さんがあって、コーヒー豆を焙煎してくれるお店がある。そういうお店と出会うなかで、街にこんなに豊かな選択肢があったんだと気づいたんです。

 

こうした小さな商いは、GDPや経済成長とはまったく別の視点で、ウェルビーイング、つまり生きていてよかった、という実感があるということ。徒歩20分圏内くらいで買い物をするようになって、暮らしの手触りが、明らかに変わった。

加藤さん

最近、僕らは「ご近所資本主義」という言い方をしています。街には、お金では測れない「ご近所資本」みたいなものがあると思っていて。例えば、チェーン店のコーヒーが1杯500円で、街の小さな喫茶店のコーヒーも1杯500円だったとします。飲むという行為そのものは同じでも、小さな喫茶店の500円の中には、値段には換算されない価値が含まれている。店先を掃除しながら近所の人に声をかけたり、誰かの居場所になっていたり、お祭りを手伝っていたり。その店があることで、「この街、なんかいいな」と感じられる。そういう価値は、価格には表れません。もしこうした小さな商いが減っていけば、その分、ご近所資本も失われ、街の暮らしはだんだん味気ないものになっていと考えています。

(撮影:大森カメラ)

Q. 人が街に関わる場をつくる際、大事にしていることはなんですか?

林さん

中の人と外の人が、半々くらいで関われるようにすることです。中の人は、誰がキーパーソンか、どう進めれば話が通るかをよく知っている。でも、その地域の強みや特徴は、実はそこに生まれ育ったからこそ見えにくいことも多いんですよね。その点、外の人は、「この街の面白さってここじゃない?」と発見する機会が多い。中の人と外の人が、お互いを尊敬しながら、フラットに意見を言い合える関係でいることが大切です。

加藤さん

例えば、富山県滑川市はホタルイカが有名で、地元の人もそれを誇りに思っている。でも、僕らが外から行って感じたのは、「ホタルイカだけじゃないよね」ということ。海の美しさや厳しさがあって、さらに立山連峰から富山平野、富山湾、能登まで見渡せる景色がある。ものすごく特別な風景を持っているのに、地元ではあまりにも当たり前すぎて、価値として語られていなかった。僕らが大事にしているのは、「今、その地域にすでにあるものから、未来が生まれると仮定してみませんか」という視点なんです。

富山平野・富山湾・能登半島が見える(撮影:田中啓悟)

三重・伊賀には10軒以上の和菓子屋があったが、あまり知られていなかった。

林さん

「その地域に合った人を呼ぶ」という話も、よくしているよね。

加藤さん

例えば、歴史のある街だったら、歴史や空気感を面白がれる人が合う。逆に、キラキラした新しいものや、スタイリッシュな空間が好きな人は、都市で暮らしたほうがいい。どちらが良い悪いではなくて、地域ごとに「似合う人のカラー」があるという感覚です。もちろん、どんな人が来てもOK。でも、外から積極的に呼ぶのであれば、その土地がもともと持っているものと、来てほしい人のカラーは、きちんとそろえたほうがいいと思っています。それはまさに、デザインリサーチの考え方で、「今あるものを丁寧に見る」ことから見えてくる。この街にはこういう風景があって、こういう暮らしがあって、だから、こういう感覚の人がきっと合うよね、という仮説を立てる。そこを飛ばしてしまうと、どうしても消費的な関係になってしまう気がするんです。

Q.「ご近所資本主義」では街を応援するためにどんなアクションがありますか?

林さん

地域とのマッチングがうまくいって人が集まり始めると、チェーン店が入ってきますよね。1つひとつの店が悪いわけではありません。でも、それが積み重なると、どの街も同じ景色になってしまうリスクがある。でも、例えば米国のカリフォルニア州では、出店をコントロールできる行政法のルールもあるらしいので、それらをどう活用するか、どう制度設計していくかを、きちんと研究していかなければならないと思っています。

加藤さん

あと、イタリアも見習うべきところがあります。チェントロ・ストーリコという歴史的市街地の建物は基本的に壊してはいけないんですよ。区画も勝手に変えられない。いわゆる歴史的地区の保存制度が、きちんと機能している。それは景観を守るためというより、そこで営まれている暮らしを守るためなんです。日本においても地域のかたちをどう残すのか、どこまで変えていいのか。そのあたりは、きちんと議論しながら、短期的な経済効果だけでなく、長期的な視点で考えていく必要があると思います。

伊賀にある「美味しい食」を集めた「伊賀FOOD風土マーケット」を開催。

加藤さん

方法は、正直なんでもいいと思っています。それより大事なのは、「今あるものをどう生かすのか」という前提をきちんと共有したうえで、地域の人と外の人が本気で議論すること。地方創生には、いろいろな成功事例や流行がありますが、それをそのまま持ってくると、結局は“劣化コピー”になってしまうんですね。手法ばかりが一人歩きして、中身が伴わない。自分たちの地域に本当にある良さは何なのか、そこから出発していないからです。

林さん

私も、「地域にある良さ」を見つけるうえで、歴史や文化を紐解くことは、とても重要だと思いますね。例えば、私が関わっている山梨県の富士吉田は「テキスタイルのまち」なんですが、最初はピンとこなかった。でも、少し文脈を読み解くと、富士山の伏流水が豊富に流れ、その大量の水が染色に適していた。だから昔から織物や染色が盛んで、今でも国産ネクタイの約8割が富士吉田でつくられている、といわれると納得できますよね。ただ「豊かな自然です」と言うのは簡単で、それだけではどの地域でも言えてしまう。その土地ならではの歴史や積み重なりを、もう一度読みとき科学的に見つめ直すというのは、どの地域でもやったほうがいいと思います。

富士吉田の宿泊施設〈SARUYA KIKU〉。シーツやカーテンは、地元の職人が織ったもの。

Q. 今日からできる、街の小さな応援はどんなものがありますか?

林さん

「ご近所資本主義」と言っていますけど、それって結局、「ご近所で友達になること」なんじゃないかなと思うんです。お店とお客さんという関係を超えて、顔が見える関係になることが大切だと思っています。お店の人とも友達になるし、お客さん同士も友達になる。「おはよう」「こんばんは」と自然に声をかけ合える関係が増えていくこと。その小さな関係の積み重ねが、地域を支える最も小さな応援のような気がするんですよね。

加藤さん

林さんの言うとおりだと思います。以前、理事の1人である日野昌暢さんが『グッド・ライフ』という本を教えてくれました。ロバート・ウォールディンガーという、ハーバードで80年以上続いている幸福研究の責任者が書いた本で、著者が「人はなぜ幸せなのか」をリサーチした結果、「結局、人間関係なんだ」ということが分かったそうです。今って、SNSでは何千人と繋がっていても、日常で顔を合わせて話す人があまりいなかったりする。街で友達をつくる、といっても大げさなことじゃなくて、道で会ったら挨拶するとか、お店に行けば見たことのある顔がいるとか、そういうことでいい。小さな繫がりをつくることが、地域を応援することにもなり、同時に自分たちの安心にも繋がっていくと思っています。ただし、気持ちとしての応援だけでは続かないので、〈バイローカル〉では地域内経済循環を起こす生活者の消費行動の変化を重視しています。ご近所資本主義というコンセプトを掲げることで、ご近所での自身の考えと行動の変化が社会を変革すると伝えていきたいと考えています。

(撮影:大森カメラ)

〈一般社団法人バイローカル〉

画一的なまちの風景が増え、地域経済が縮小していく現状に強い危機感を抱いた、〈株式会社サルトコラボレイティヴ〉代表の加藤寛之、〈株式会社Q0〉代表で〈株式会社ロフトワーク〉共同創業者の林千晶、〈株式会社博報堂ケトル〉プロデューサーの日野昌暢、〈株式会社シービジョンズ〉代表の東海林諭宣、〈HOME/WORK VILLAGE〉プロデューサーの小野裕之の5名によって設立。地域内経済循環を生む「ご近所資本主義」というコンセプトを掲げ、地域に存在する既存の価値を再編集することで、未来の”ご近所”を創造するイノベーションプラットフォームを目指している。

https://note.com/buylocal_jp

【編集後記】

地域に元気になってもらいたい、という気持ちがとても温かく、応援する気持ちを起点にした商売などに繋がる素敵なお話をたくさん聞かせていただきました。成功事例や定型を応用するだけでなく、土地の個性や地域の特性を理解して、それぞれのスタンダードを編み出し運営する多様化が今後ますます大切になるのを感じました。 なんとなく窮屈に感じてしまう都市の暮らしですが、自分が住んでいる近所の範囲でも、規模にかかわらず店と客となる住人との関係ができ、地域に愛着が生まれて、そのなかで互いに経験の交換や共有がされていけばとてもいい!と思います。

(未来定番研究所 内野)

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