わたしの「しない贅沢」。<全4回>
2021.01.01
肉・魚・卵・乳製品などの動物性食品を一切口にしない完全菜食主義者、ヴィーガン。健康意識はもちろんのこと、環境保全への高い意識から、ライフスタイルとしてヴィーガンを選ぶ人も増えてきました。そこで、日本ベジタリアン学会会員で、日本で初めてのヴイーガン料理教室を開いた野菜料理家の庄司いずみさんに、自身が実践する「豊かな食生活」と、未来に残したい真の贅沢について伺いました。
(撮影:小野真太郎)
出産で実感した、体調を左右する食事の重要性
野菜料理研究家の庄司さんが野菜中心の食生活に変えたのは、26年前の出産がきっかけでした。
「娘を出産したあと乳腺炎にかかり、助産師さんのアドバイスで、野菜とご飯中心の生活に切り替えたんです。たまに肉やケーキなんかを食べると、また乳腺炎がぶり返して、食事はダイレクトに身体を作っているんだと実感しました。しかし、動物性タンパク質は生きていく上で必要なものだと当時は思い込んでいたので、そのあとすぐにヴィーガンになったわけではありません。ですが、あれやこれやと試行錯誤しているうちに、ハリウッド女優やスーパーモデルたちの間で、マクロビオテックやヴィーガンが流行し始めたんです。その噂を聞いて、気軽な気持ちで試してみようと思ったのがきっかけでした」。
その頃、日本でのヴィーガン実践者はごくわずか。ヴィーガン向けのレシピや情報もほとんどない中、庄司さんは手探りで野菜料理に取り組みました。
「もともと凝り性だったこともあり、色々と実験をしているうちに、野菜料理にのめり込んでしまって。肉を使わない餃子やハンバーグを作ってみたら、それが意外なほどおいしくて、体調や肌の調子が格段に良くなったんです。もちろん個人差があり、すべての方に無条件でおすすめするわけではありませんが、私はもともと消化器官が強い方ではなかったので、体質にも合っていたんでしょうね。こんなにおいしくて健康になる料理があるなら、野菜の良さをみんなに伝えたいと思い、レシピブログを始めました」。
おいしくて健康になる食事が、豊かな暮らしを形作る
レシピブログを始めた11年前は、ブログブームの真っ只中。多くの人気ブロガーがレシピブックを出版していた頃でした。庄司さんは雑誌ライターの仕事のかたわら、毎日ブログを更新。珍しい野菜料理のレシピは瞬く間に注目を集め、さまざまな出版社からレシピブック制作の声がかかりました。
「無農薬や有機野菜などが流行って、改めて食の安全性が注目されたり、クオリティ・オブ・ライフの観点から健康を気遣う人が増えたりと、ちょうど野菜がブームになるタイミングとも重なったんです。年に10冊レシピ本を制作する日々が続き、10年ほど前に、野菜料理の教室をスタートしました。最初に来てくださったのは、人一倍体を気遣うモデルさんたちで、それから一般の方も来てくださるようになったんですが、ヴィーガンの方はごくわずか。普段食べているハンバーグやラーメンなどが、野菜だけでも作ることができると知った途端、皆さん目を輝かせてくださいます」。
おいしくて健康にもなる野菜中心の食事は、真の贅沢な暮らし方だと庄司さんは語ります。
「豊かさとはなんだろうと考えると、食生活においては、自分の好きなものをおいしく食べることではないかと思います。だから、肉が好きな方も、まずはそれぞれの好みで楽しむことが一番大切。ただ一方で、近年では、現在の食生活を続けていると、2050年には全人口分の食糧が賄えなくなるという説も謳われています(令和元年9月 農林水産省大臣官房政策課食料安全保証室調べ)。自分たちの世代だけが豊かさを享受して未来の子どもたちに我慢を強いることが豊かな暮らしなのかと考えると、それは違いますよね。私たちが今できる範囲で未来のために生活を変えていくことも、本当の意味での豊かさではないでしょうか」。
今日の食事が、未来の子供たちの食事にもつながる
地球環境のためにも、自分の健康のためにも、野菜料理中心の食生活は今後さらに推奨されるべき習慣です。しかし、食べる楽しみ無しでは、これを続けることは難しい。だからこそ、おいしい野菜料理を提案したいと庄司さんは語ります。
「日本にはおいしい野菜がたくさんありますし、季節ごとの旬や豊かな食文化もあって、実はヴィーガンになるのにとても適した国なんです。最近では、おいしいヴィーガンレストランも増えました。また、ネットで探せばいくらでもレシピが出てきて、楽しく健康になれる時代でもあります。とはいえ、いきなりすべての人がヴィーガンになることは難しいので、まずはポール・マッカートニーが提唱する〈ミートフリー・マンデー〉(*1)を取り入れて、週に1回、野菜中心の食事にしてみてはいかがでしょう。それだけでも、未来は変わると思います」。
*1 ミートフリー・マンデー
ポール・マッカートニー氏が「週に1日のみ完全菜食の日を設けること」を提唱し、世界中に広めている活動。地球環境保護などを目的とし、日本でも「ミートフリーマンデー・オールジャパン(MFMAJ)」が活動を展開している。
では、庄司さんの考える5年先の未来とは?
「5年は短いようでいて、何かが変化するには十分な時間です。未来も健康でいるには、自分への優しさが必要です。まずは今から、少しでも体を気遣う食生活に切り替えて、健康な5年後を迎えたいですね。また、5年先の未来は、健康を意識する食生活が普通のことになっていて、ヴィーガンというライフスタイルが、当たり前の選択肢になっていて欲しいと思います」。
庄司いずみ
野菜料理家。日本ベジタリアン学会会員。かんぶつマエストロ。ヴィーガン料理を紹介する著書は70冊以上。日本のヴィーガンブームを牽引してきた人気料理家。 主宰する『庄司いずみ ベジタブル・クッキング・スタジオ』は、日本初のヴィーガン料理専門スタジオとして知られ、国内外のトップシェフらとのコラボレッスンなどで注目を集める。 ヴィーガン料理の浸透を願い、商品開発やレシピ監修にも力を注ぐ。
編集後記
取材の中で、どんなに地球の為であっても、食べる私たちが美味しいと思わなければ意味がないというお話がありました。
自らの幸せと、取り巻く環境の幸せ。どちらも欠かさず贅沢の要素に盛り込む事が、真の贅沢であり、それを叶えてくれるのが料理の力なのかもしれません。
(未来定番研究所 窪)
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