二十四節気新・定番。
2020.04.03
これからの5年で変わるもの、変わらないもの。<全8回>
今起きている”変化”の中から5年先の未来の種を探してきたF.I.N.。変化を追い続けてきたからこそ、これまで目を向けてこなかった、”変わらないもの”の中にも未来の種の可能性を感じるようになりました。そこで、2019年から2020年へと移り変わる今のタイミングで、ビジネス、カルチャー、ライフスタイルなど、各分野を牽引する方々にご登場いただき、「これからの5年で変わるもの、変わらないもの」について伺っていきます。
今回お招きしたのは、ロボットクリエイターの近藤那央さん。慶應義塾大学在学中にペンギン型水中ロボットを開発する「TRYBOTS」のリーダとして活動後、アメリカに移り住んで活動を続けている近藤さんに、「これからの5年で変わるもの、変わらないもの」についてお話しいただきました。
イラスト:tent
5年先も変わらないもの:「人間がコミュニケーションすること」
5年先に変わっているもの:「コミュニケーションの対象と方法」
変わらないものは、人と人がface to faceで話す直接的なコミュニケーションです。今の時代では希薄になりがちですが、最近は少しずつ見直されてきています。これは人間の欲求として変わらないものだと思います。私たちが住んでいる街は無機質なものに囲まれていて、それでいてかつ、ほとんどのことが想定内で、人間が何かをして何かが起きています。もともと人間は、動物や自然と共存して、その相互作用の中で生きる動物でした。しかし、テクノロジーの進化によって、そうではなくなり、地域への親近感みたいなものや繋がりも忘れてしまっているように思います。考える余裕がなくなっているというか。
私の場合、人と対話する中で新しい価値観を得て、気づきや新しい考えが生まれます。それは一人でいくら考えていても至れない考えがほとんどで、面白い人や同じ考えの人、逆に言えば、考えは違うけれど同じくらいの熱量を持っている人と、じっくり話すからこそ起こることだと思っています。日本にいた時、かなり多くの方が私のSNSアカウントをフォローしてくださっていましたが、SNSでいくら注目されても自分の精神的な豊かさは得られませんでした。やはり人と人とが濃く繋がることが大切だと感じています。
一方で、変わっていくものはコミュニケーションの対象や方法です。もっと人と人とのリアルな繋がりを生む社会を作るために、テクノロジーをもっと活用できればと思います。私自身アメリカに移住してしばらくの間、知り合いがいない上に、英語もあまり話せないことに悩んでいましたが、現地の人とロボットなどものづくりを通じて繋がることで、「アメリカでも生きていけるかも……!」という安心感を得られたんです。その経験がきっかけとなり、小規模なイベントで、人と人の繋がりをサポートするアプリ「nocnoc(ノックノック)」を開発しました。このシステムでは、ホストが招待したい人にダイレクトメッセージなどでURLを送ると、そのリンクでグループトークに入れます。チケット売買ができるPeatixなどのイベントホスティングサービスは便利ですが、参加者同士や参加者とホストとの距離が遠く、イベント前後に連絡を取るだけで熱量を共有することはできません。逆にLINEのグループやフェイスブックのチャットは、お互いの連絡先を知らないとできない。知らないグループに入って、知らない人に連絡先をオープンにするのはちょっと抵抗がありますよね。どちらも今にフィットしてないなと感じ、この中間を狙っています。「nocnoc」は、トークも一定期間で消えるし連絡先も繋がらないから、気軽に参加できます。あくまで“人と人が直接会うこと”を目的に、それをたくさんの人が簡単にできるよう、テクノロジーでサポートしています。
今後は、ロボットというテクノロジーを使い、人と情報の間にロボットが入ることで、人間がもっと自然な形で情報を受け取り、他人と関わるような行動の変化が起こせるのではないかと思っています。ロボットと人がコミュニケーションをとって、それによって街を好きになるとか人を好きになるとか、そんな風に人の行動が変わっていくことが、私が目指している未来像の一つです。半ば願望ではありますが、きっと変わっていくはず。ロボットがいることによって、物と人との繋がりが深くなるとか、ロボットがいることで人が気づけていなかったことに気づくとか。人間本来の能力を引き出せるような関係性になれたら、ロボットは今よりさらに、意味のある存在になれると思います。
※新型コロナウィルスの影響により、「nocnoc」のサービス内容に変更がありました。詳細につきましては公式ホームページをご確認ください。
近藤那央さん
ロボットアーティスト。空想の絵本のような世界を、ロボット技術で実現することを目指す。2013年より、ペンギン型水中ロボットを開発するTRYBOTSのリーダとして活動後、現在はアメリカに拠点を移し、ロボット作りだけでなく、小規模なイベントを通じて人と人の繋がりをサポートするアプリ「nocnoc」もリリース。慶應義塾大学環境情報学部卒 、Forbus30under30,日経ビジネス次代を作る100人,ロレアル・ユネスコ日本女性科学者賞特別賞受賞。
編集後記
この取材中、近藤さんの口からは「人と人とのリアルな繋がり」、「熱量を共有する」、「人間本来の能力」など、人のアナログな部分にまつわる言葉がたくさん発せられました。それは、テクノロジーは機能性や利便性を追求するもの、というイメージをことごとく覆す、大変興味深いものでした。
ロボットやアプリなど、テクノロジーをハブにすることによって人々がより強い繋がりを得たり、癒やされたり、励まされたりできる未来はとても健全で、人間らしいよろこびも得やすい社会なのではないかと思いました。
(未来定番研究所 中島)
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第8回| ロボットアーティスト ・近藤那央の場合
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