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「うちの地元でこんなおもしろいことやり始めたんだ」「最近、地元で頑張っている人がいる」――。そう地元の人が誇らしく思うような、地元に根付きながら地元のために活動を行っている47都道府県のキーパーソンにお話を伺うこの連載。
第45回にご登場いただくのは、千葉県千葉市・西千葉を拠点に、街に根ざした場づくりをしている〈株式会社マイキー〉のディレクター、西山芽衣さんです。暮らしの実験広場「HELLO GARDEN」や、ものづくりのシェアスペース「西千葉工作室」を通して、地域の人が街と繋がるきっかけを生み出してきました。こうした変化のなかで、西千葉には近年、新しい個人店や若い世代の移住者も増え始めています。
(文:大芦実穂)
西山芽衣さん(にしやま・めい)
1989年、群馬県生まれ。千葉大学工学部建築学科を卒業後、〈株式会社 北山創造研究所〉に入社。2014年、〈株式会社マイキー〉に入社、ディレクターに就任。企画・コンテンツ開発・クリエイティブディレクション・人材育成など幅広いスキルを生かして、西千葉のみならず日本全国で人の日常の舞台となる場づくりと人々の創造的な活動のサポートに取り組んでいる。
住宅街にひらかれた、街の庭と工房
JR西千葉駅から歩いて約500m。住宅街の真ん中に、ふと視界がひらける場所があります。誰もが自由に過ごせ、やってみたいことがあれば表現できる街の庭、「HELLO GARDEN」です。さらにそこから約300m進むと、ものづくりスペース「西千葉工作室」が見えてきます。ここは自ら手を動かし、ものをつくったりなおしたりすることができる場所。これらを手掛けているのが、西千葉を拠点とするシンク&ドゥ タンク、〈株式会社マイキー〉です。西山さんはここでディレクターを務めています。
「新しい暮らしをつくる実験広場」がコンセプトの「HELLO GARDEN」は、365日24時間地域にひらかれている屋外オープンスペースです。椅子とテーブルが置かれ、食事をしたり、お茶を飲んだりと、思い思いの時間を過ごすことができます。
「楽器の練習をしたり、編み物をしたりと、お家の延長として使っている方もいらっしゃいます。自ら企画したイベントを開催したり、音楽や演劇などの表現活動の発表の場として活用する方もいます。この場所が何であるかは、使う人によって本当に十人十色なんです」
一方、地域の人たちが気軽にものづくりに取り組めるスペース「西千葉工作室」は、「つくる」「なおす」「つくりかえる」で日常をもっと楽しく、がコンセプト。木工や洋裁、電子工作のための道具をはじめ、3Dプリンターやレーザー加工機といった、制作に必要な設備が一通りそろっています。
「『西千葉工作室』の特徴は、集まってくる人が、いわゆるクリエーターやアーティストだけではないこと。地域の人が、何かをつくるためや、なおすために利用しています」と西山さん。
そして、この場所を支えるのもまた地域の人です。
「大学生や主婦、フリーランスのデザイナー、元エンジニアのシニアなど、地域のさまざまな人たちがボランティアスタッフとして携わっています。25人から30人のボランティアスタッフが日替わりで店頭に立ち、それぞれの得意分野を生かして利用する方へのサポートをしてくれています」
学生時代に住んだ西千葉で、まちづくり
「HELLO GARDEN」の隣、「緑町公園」で行われる歴史あるお祭り「みどり盆踊り」。
西千葉は、千葉大学のキャンパスがある街としても知られています。西山さん自身も千葉大学の卒業生。当時の西千葉の印象について、こう振り返ります。
「千葉大学は総合大学で、学生だけでも1万人以上が通っています。でも、学生も先生も、あまりキャンパスの外に出ない印象がありました。私自身も、大学と家、バイト先の往復がほとんどで。4年間住んでいても、西千葉の街で暮らしているという実感はあまりありませんでした」
そんな西千葉へのイメージが変わったのは、大学4年生の時でした。
「進路に悩んで大学での居心地が悪くなった時、初めて街のなかに自分の居場所を求めるようになりました。はっきりとした特徴が無い街かと思っていましたが、1人ひとりと向き合ってみると、本当に面白い人がたくさんいることがわかりました」
その後、西山さんは都内のまちづくり会社に就職します。
「大学では建築のハード面も学んでいましたが、建物そのものよりも、そこで暮らす人が何を考え、どう生きているのかに関心が向くようになりました。個人の小さな行動や選択が、少しずつ街や社会のあり方を変えていく。そのプロセスに関わりたいと思うようになり、まちづくりの会社を選びました」
まちづくりの仕事で再び関わるようになったのが、学生時代を過ごした西千葉です。ある日、西千葉出身の実業家から、「地域に貢献できるプロジェクトを考えてほしい」と相談を受けたのが始まりでした。
西千葉に縁のあった西山さんがプロジェクトを担当するなかで、企画の1つとして提案したのが「HELLO GARDEN」と「西千葉工作室」でした。その後、プロジェクトにより深く関わるために会社を退職し、プロジェクトの運営会社となる〈株式会社マイキー〉に入社。現在はこの2つの場の運営と成長に携わりながら、全国の街でさまざまなまちづくりや場づくりのディレクションや運営サポートを行っています。
街の中で、多様性を練習する
西山さんがまちづくりを考えるうえで、大切にしていることがあります。それは、運営側が利用者を選別しないこと。
「私たちが携わるまちづくりは、公共性を求められるプロジェクトであることが多いです。まちづくりや場づくりの現場では、どうしても優遇したい人が生まれがちです。例えば子供とその親を最優先にするといった判断。でも、誰かを優遇するということは、同時に誰かを排除することでもあります。公共性が求められるプロジェクトにおいては、より多くの人にその価値が届くことが大事なので、その排除をどうすれば生まれにくくできるかを、私たちは常に考えています」
とはいえ、すべての人が常に同じ空間で心地よく過ごせるわけではないことも、現実として理解しています。
「全員が同時に仲良く過ごすのは無理だと思っています。だから、時間をずらしたり、使い方を工夫したり、空間をうまく領域分けしたりしながら、特性の違う人たちが同じ場所を共有できる状態を探っていく。意見がぶつかった時も、すぐにルールで白黒をつけるのではなく、『違う感覚がある』ことをその場で共有する。正しさを決めないまま、グレーを残すことも大切にしています」
西山さんは、多様性のある社会は自然に生まれるものではなく、「練習」が必要だと考えています。
「本当に多様性が担保された社会は、ただただ優しくて、皆が仲良しな世界ではないと思っているんです。摩擦もあるし、ときには我慢も必要。分かり合えないことがあっても、そこにいることを互いに許し合う。そのためには、個人でも、社会全体でも、練習が必要だと思っています。私たちのプロジェクトが、そうした練習ができる場として地域にあったらいいな、という意識が常にあります」
2年に一度開催されるイベント「ふふふ文化祭」の様子。
西千葉がわざわざ訪れたい街に
この場が生まれてから13年。活動が地域に受け入れられ、街そのものにも変化が生まれてきました。「マイキーがあるから西千葉に来た」という声も、少なくありません。
「子供の頃に西千葉で過ごし、一度は東京に出たけれど、街の動きを見て戻ってきたという方が何人もいました。クリエーターの方がオフィスを移し、『〈マイキー〉があるから西千葉が面白いと思った』と言ってくれたこともあります。地域の方からは、『このプロジェクトは街の財産だね』と言ってもらえることもありました」
「HELLO GARDEN」や「西千葉工作室」を起点に、活動は街全体へ広がっています。行政から一部パークマネジメントを担うといった取り組みも増えてきました。
2025年には、新たな動きとして、街を舞台にした国際的な芸術祭「千葉国際芸術祭2025」にも関わりました。西山さん個人はプロデューサーとして芸術祭の実現に深く関わりながら、〈マイキー〉としてもアーティストとプロジェクトの共同実施や海外アーティストの滞在受け入れなど、さまざまなカタチで参加しています。
「芸術祭では、場所探しや協力者集めなど、初めてのことがたくさんありました。それでも、それを実現できたのは、この地域で13年活動して築いてきたネットワークでした。アーティストを受け入れられたのも、地域にこれまでの土壌があったからだと思います」
市民参加型アートプロジェクトの祭典「千葉国際芸術祭2025」。/提供:千葉国際芸術祭実行委員会、撮影:ただ(ゆかい)
この経験を通して、西山さんは5年先、10年先の西千葉の姿を、より具体的に描けるようになったといいます。
「文化芸術は、西千葉にこれまであまりなかった要素だと感じました。その面白さや可能性を実感して、今後はそうした要素も地域の中に生み出していきたいと思っています。芸術祭は一過性のイベントですが、私たちは恒常的な場を持っています。だからこそ、文化や芸術といったテーマも扱いながら、これまで西千葉に無かった視点を持ち込めるのではないかと期待しています」
【編集後記】
色んな場面で多様性について語られることが増えてきたように感じますが、西山さんの捉え方と言語化はとても胸に響きました。人同士が関わり合う場であるかぎり、分かり合えないことを前提にして過ごし、赦しを繋げていくことは、人として、とても豊かに感じます。譲り合いや対話をしながら場を共有することで学びや気づきが得られる。「HELLO GARDEN」「西千葉工作室」が長く地域に愛されているのが素晴らしいと思いました。人の支え合いや思いやりが、場をより活性化させたり輝かせることができる可能性を深く感じました。土地の個性を住む皆が知り、住み続けたいと願う街は、共生や多様化を自然に育んでいくのだろうと思います。施設や建物をつくるよりもずっと難しく、でもやり続けるべきことだと実感しました。
(未来定番研究所 内野)
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第45回| 「ものづくり」と「庭」から、西千葉を変えていく。〈株式会社マイキー〉西山芽衣さん。
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