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まだまだ暑さの残る8月31日(日)、第43回目の未来定番サロンが開催されました。未来定番サロンは未来の暮らしのヒントやタネを、ゲストと参加者の皆さんが一緒に考え、意見交換する場です。
今回お招きしたのは、イタリア出身の詩人・俳人、そして翻訳家としても活躍するディエゴ・マルティーナさん。参加者の皆さんが持ち寄ったお気に入りの詩を朗読しながら、日本語そして詩の魅力について語っていただきました。
(文:大芦実穂/写真:西あかり)
ディエゴ・マルティーナさん(Diego Martina)
1986年、イタリア・プーリア州生まれ。ローマ・ラ・サピエンツァ大学東洋研究学部日本学科(日本近現代文学専門)学士課程を卒業後、日本文学を専攻、修士課程を修了。東京外国語大学、東京大学に留学。翻訳家としては谷川俊太郎の『二十億光年の孤独』『minimal』、夏目漱石の俳句集などをイタリア語訳、刊行。詩人としては、日本語で書いた処女詩集『元カノのキスの化け物』(アートダイジェスト)、2021年にエッセイ『誤読のイタリア』(光文社新書)上梓。「藍生俳句会」会員として、俳人の黒田杏子氏に師事。
https://www.diegomartina.online/
Instagram:@diegozeno
詩=「よくわからないもの」?
ディエゴさんが谷中にある未来定番研究所を訪れるのは2回目。前回は、日本で働いたり、暮らしたりしている外国出身の目利きに話を伺う連載「Seeds of Japan’s future(日本の未来の種)」の取材にお越しいただきました。[記事はこちら]
その示唆に富んだ流暢な日本語で語られる、ユニークでワクワクするお話をぜひ直接多くの方に聞いていただきたい!そう考えて企画したのが今回の未来定番サロンです。参加したのは、詩に興味はあるけれど身近でないと感じていた人や、普段から詩を嗜んでいる俳人や書道家の方などさまざま。今回は午前・午後の2部構成で開催。ともに満員御礼となった夏の終わりの未来定番文芸会「イタリア出身 詩人 ディエゴさんとお気に入り日本語『詩』を味わう」午後の部をレポートします。
冒頭はディエゴさんによる詩についてのお話、「なぜ、詩は難しいのか?」。確かに、「詩」と聞くと、「よくわからないもの」というイメージを抱く人は多いでしょう。ディエゴさんはこう分析します。
「小説を読む時はストーリーを追いますが、詩は明確な物語がありません。これが詩を難しく感じさせる大きな理由です。また、日本語という言語は非常に具体的な言語で、抽象的な表現がしづらい。しかし言葉の使い方によっては、詩は豊かにも難解にもなります。言い換えれば、詩は言葉を最も豊かに使える文学形式だと思います」
一方で、比較的わかりやすい詩も存在するとディエゴさんは続けます。その代表例が、ディエゴさんの研究対象でもある谷川俊太郎の作品です。
「谷川先生の詩がわかりやすいのは、イメージがはっきりしていて、言葉遣いが具体的だからです。日常的な題材を扱うことが多く、感覚的にも理解しやすいのでしょう」
ディエゴさんは谷川俊太郎の作品をイタリア語に翻訳して出版も行っている。
宮沢賢治から谷川俊太郎まで、みんなで詩を味わう
次に参加者が事前に選んだお気に入りの詩をディエゴさんが朗読しながら、その詩の内容や書かれた背景について解説していきます。
最初に挙がったのは、小学校の国語の教科書などでなじみのある宮沢賢治の「雨ニモマケズ」。
選んだ参加者は、「還暦を迎えて、気付かぬうちに驕ってしまっている自分がいる気がする。原点に立ち返るという意味で大切にしたい詩です」とお気に入りの理由を語りました。
ディエゴさんは作品の背景をこう説明します。
「宮沢賢治は当時、石灰の採掘場で働いていましたが、体が弱く病室で過ごすことが多かったんですね。同僚たちは玄米を食べて力仕事に励むなか、彼にはそれができませんでした。『ミンナニデクノボートヨバレ』という一節は、仕事もできず、皆と食事を共にすることもできなかった孤独感を表現しています。つまりこの詩は『こんな人でいられたらいいな』という理想への祈りなのです」
続いて紹介されたのは寺山修司の「種子(たね)」。「リズムが良く、そのまま歌詞にもなりそう」とディエゴさんは評価。
次に挙がったのは、現代詩の父とも呼ばれる萩原朔太郎の「竹」。2人の方が選ばれました。同じタイトルの詩が2つあるそうで、どちらも萩原朔太郎の独特な表現力と鋭い視点を感じられる詩です。
「シンプルだからこそ難しく、そして美しい」とディエゴさんが評価するのは、金子みすゞの「私と小鳥と鈴と」。
「『みんなちがってみんないい』というフレーズは非常に有名ですね。でも、タイトルの『私』『小鳥』『鈴』には共通点があるのをご存知ですか?それは『声/音』です。小鳥は鳴き、鈴は響き、人間は歌う。それぞれ異なる方法で音を出し、表現している。だから『みんなちがってみんないい』なんです」
その後、村野美優の「てがみ」、オクタビオ・パスの「太陽の石」と続き、最後に読まれたのが、谷川俊太郎と赤塚不二夫のコラボの詩「自分タチ」。語尾が「〜ノダ」と、バカボンのパパの口調で書かれ、漢字とカタカナが混在しているのが特徴です。
「なんとなく、漢字の部分は谷川先生、カタカナの部分は赤塚さんが担当したような気がしませんか?」とディエゴさんは推測。
ディエゴさんの詩『観覧車の空』に込めた想い
最後に、ディエゴさんが2018年に上梓された日本語での処女詩集『元カノのキスの化け物』には未収録だった詩、「観覧車の空」を朗読してくださいました。
「この詩の特徴は『回る』『上がる』『下がる』など動きのある表現を多用していることです。同じ表現を繰り返すことでリズムも生まれています。最後の『君の空ほど広い瞳に映る』という部分は、相手の目に映る自由や幸せを見て『この人となら幸せになれる』と気づいた瞬間、強い感動で心臓が止まりそうになることを表現しました。詩では言葉を厳選し、『この単語でなければ通じない』というところまで絞り込んでつくります」
ディエゴさんの処女詩集『元カノのキスの化け物』が書かれた背景について聞いてみました。
「この詩集は、2016年の終わり頃、つらい時期にさまざまな思いを抱えながら書いたものです。この頃、自分の生活が変化してまるで『化けていた』ので、その表現として日本語も『化けさせた』のです。最初は1人の叫びとして生まれたのですが、次第に誰かに見せてもいいかもしれないと。実は10代の頃からイタリア語やラテン語で詩を書いてきました。ただ、それらは人に見せるようなものではありませんでした。読んでもらうほどの価値があるか、形が整っているか、意味が深いかが重要ですから」
詩を読む際の心得についてディエゴさんはこう語ります。
「なぜこの言葉が使われているのかを考えることが大切です。詩の言葉は意図的に選ばれているからです。例えば『観覧車の空』では『心』という言葉が繰り返し使われていますが、気づかれましたか?言葉を分解して見ていくと、今まで気づかなかった効果や意味を発見できる。それが詩の面白さです」
ディエゴさんの詩と日本語への熱い想いを聞き、さまざまな詩の表現に心を打たれ、詩に対してそれぞれの感情が深みを増したところで会はお開き。参加者には記念にディエゴさんの詩を3篇選んでお渡ししました。お気に入りのフレームに入れて飾ったり、眺めたりする時間が生まれるといいな、という思いが込められています。日々に詩を取り入れることで、生活はきっと、より豊かになるに違いありません。
ディエゴさんの未来定番文芸会 第2弾を開催予定です。
日時:2025年10月26日(日)【午前の部】11時〜12時30分/【午後の部】14時30分〜16時
会場:未来定番研究所(東京都台東区谷中5-9-21 )
※イベント内容やチケットなど、詳しくは未来定番研究所ホームページ
お知らせいたします。
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第43回| イタリア出身の詩人 ディエゴ・マルティーナさんと味わう日本語「詩」の世界。
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