2022.06.20

暮らす

再び、共同体での暮らしへ。夫婦+友人で暮らすはしかよこさんに聞く、次世代的家族のカタチ。

F.I.N.編集部が6月のテーマとして掲げるのは「暮らす」。昨今ではライフスタイルの多様化やコロナ禍の到来などによって、その価値観にも変化が訪れているように感じます。そこで今月は、未来の定番となり得る第三の居場所や暮らしの道具などを探究していきます。

 

今回フォーカスするのは、暮らしの中でも欠かせない「家族」。近代では祖父母、夫婦、子どもの三世代で形成する大家族、現代では1組の夫婦とその子どもで形成される核家族と、時代とともにそのカタチを変えてきました。そんな中、夫婦+友人の3人暮らしを行い、家族のあり方を考察し話題となっているのが、誰もが自分の時間を生きられるような社会を探究するはしかよこさん。なぜ、家族に他者を交えた不思議な暮らしに行き着いたのか。3人で暮らすことで見えてきた家族の新しいあり方とは? はしさんの元を訪れます。

 

(文:船橋麻貴/撮影:森本絢)

Profile

はしかよこさん

1988年東京生まれ、東京育ち。IT業界でWEBエンジニアの経験を経て独立。その後、2019〜2020年にウェルビーイングをテーマに夫婦で世界一周を果たす。帰国後は、「Well-Being starts from the table/食卓から、善い暮らしを。」がコンセプトの生活共同体「TSUMUGI」の立ち上げ・運営に携わる。2022年3月、note記事で「ポスト家族論 -古くて新しい生活単位-」を発表。5組の友人たちが入居する都内のマンションの1室で、夫婦に友人Dさんを交えた暮らしを行い、これからの家族のあり方について考察している。

Twitter:@kayoko_coco

世界一周を経て不意に始まった、

ホテルでの夫婦+友人の3人暮らし。

F.I.N.編集部

はしさんはnote記事「ポスト家族論 -古くて新しい生活単位-」で、同じマンションに入居する5組の友人たちとの暮らしについて書かれていました。その中の1室では、自分たち夫婦に友人Dさんを加えた3人で暮らしているそうですね。そもそも、夫婦+Dさんでの3人暮らしをすることになったのはなぜですか?

はしさん

3人で暮らし始めたのは、明確な意図があったわけではなく、たまたまだったんです。遡ると少し長くなりますが、私たち夫婦は2019年から400日間ほどかけて、世界一周の旅をしていました。2020年3月に帰国したのですが、ちょうどコロナ禍に突入したばかりで、とても物件探しをできるような状況ではなくて。それで行き場を失った私たちは、私の友人のDくんが運営に携わるホテルで暮らすことになったんです。

 

もともとDくんは自宅からホテルに出勤していたんですが、当時はコロナの関係でホテルの空室に泊まり込みで業務にあたっていました。ところが、しばらくすると他のお客さんで空室が埋まってしまい、Dくんが寝泊まりできる部屋がなくなってしまったんです。コロナ禍で通勤するのも大変だろうし、それなら私たちの部屋で寝泊まりすれば?と、一時的な対応のつもりで私たち夫婦から3人で同じ部屋に泊まることを提案しました。私たちが泊まっていた部屋は、もともと定員が4名の部屋で大きなベッドが2つあって、1つはあまっていたので。

F.I.N.編集部

緊急事態とはいえ、旦那さんも、3人での暮らしをすんなり受け入れられたんですか?

はしさん

そうですね。世界一周帰りでまだ旅気分だったというのもあって、そこは違和感なく受け入れられたのかもしれません。その後、コロナが少し落ち着いて、いざ新しい住まいを持とうと夫婦で引っ越しを検討し始めたんですが、その時、「次、どこに住む?」とDくんが言い出して。

F.I.N.編集部

3人で暮らす前提ですか(笑)!

はしさん

あまり議論の余地なしって感じで、話が進んでいきましたね(笑)。だけど、私たち夫婦もDくんと3人での暮らしは楽しいからいいかって。それで2021年1月に引っ越してきたのが、今のマンションです。

F.I.N.編集部

なりゆきで3人での暮らしが始まったんですね。他者との暮らしにはある程度ルールが必要かなと思うのですが、3人で決めた暮らしのルールはあるんですか?

はしさん

作っては消えてというのを繰り返している感じです。例えば家事については、家事をした分ポイントが付与されるポイント制を導入したんですが、貯まったポイントの使い道が見いだせなくて。ポイントで家賃が安くなるのはどうか?というアイデアも出ましたが、その考えだとお金を払えば家事をしなくてもいいという発想になる。だから、ポイント制度は途中でやめました。他にも色々試しましたが、ルールを決めても形骸化しがちなので、その都度話し合ってますね。

F.I.N.編集部

それで喧嘩になったりはしないんですか?

はしさん

何度もありました。「自分ばっかり家事をやっている!」と私のモヤモヤが爆発し、大喧嘩になって家出をしたこともあります(笑)。それで翌日に帰ってきたら、夫に「ここはDくんの家でもあるんだから、居づらい雰囲気にするのは違う」とたしなめられたんです。最初はびっくりしました。妻である私をかばうのではなく、Dくんの肩を持つのかと。でも、よく考えたら、夫はそれほどフラットにDくんを家族のメンバーと捉えているんだなと、むしろ感動してしまって。

 

そもそも、なぜ家出するほど腹立たしかったのか掘り下げて考えてみたら、単に自分の負担が増えているから怒っていたわけではなかったんです。同じ家族のメンバーなのに「家事 = 家の事」にコミットしてくれないことが、家を蔑ろにされているみたいで悲しかったんです。それからは、単純に怒るのではなくて、Dくんにも夫にも、都度自分の気持ちを伝えるよう努めています。

F.I.N.編集部

そういう喧嘩を経た今、はしさんご夫婦にとって、Dさんはどんな存在になっているんでしょうか?

はしさん

3人で暮らしてみて気づいたのは、Dくんがいないと夫婦での会話ってそんなにないんだなって(笑)。Dくんがいると、自然と会話が増えて盛り上がります。私と夫との仲を取り持ってくれる調整役になってくれることもあります。関係性に名前をつけるのは難しいけど、Dくんは家族同然というか、私たち夫婦にとってはなくてはならない存在になっていますね。

夫婦+友人の暮らしに4組の友人が加わり、

おもしろおかしいご近所付き合いがスタート。

はしさんの部屋には、ほかの部屋の住人たちが自然と集まってくる/写真提供:Eichi Tano

F.I.N.編集部

ほかの部屋に住む4組の友人たちは、どのように集まってきたんですか?

はしさん

4組の友人たちは、もともとDくんや私の友人たちなんです。それで縁あって、新築で全戸空室で貸し出されていたこのマンションに引っ越してきました。

ベッド横の長テーブルが、ワークスペースとなっている

F.I.N.編集部

ほかの入居者たちとは、どんな交流をされているんですか?

はしさん

ごはんを一緒に食べたり、調味料の貸し借りをしたり、昭和期のような深いご近所さん付き合いみたいな感じですね。

 

メンバーの中にはピンポンも押さずに、実家のリビングのようにうちに入ってくる人もいます。なんでこんなにナチュラルに自分の家のように入ってこられるんだろう?と考えてみたのですが、これもDくんの存在が大きく関係しているじゃないかと思っています。もしうちが1人暮らしの部屋だったり、夫婦2人だけの住まいだったら、プライベート空間だからきっと入りにくい。私たち夫婦にDくんが加わることでパブリックスペースのような雰囲気になるから、ほかのみんなも入りやすいんだろうな、と。

F.I.N.編集部

はしさんの部屋はリビングのように自然と人が集まってくるんですね。ほかの住人たちとの暮らしの中で、はしさんが気をつけていることはありますか?

はしさん

私がみんなにごはんを振る舞う場合にあまりやりたくないのが、お金を回収すること。なぜなら、値段を決めると市場の商品と比べられるようになると思うから。冷蔵庫にあるものでささっとごはんを作る場合もあるし、鮮魚を買って豪華な食事を作る場合もある。それに合わせて価格を設定するのはなんか違うし、そもそも友人からお金を受け取るのも寂しいなって。

 

その代わり、ほかのメンバーはどこかに行ったらお土産を持ってきてくれるし、外食に連れて行ってくれたりします。こうして1回ごとに精算しないから、いい関係が続いていくと思っています。

はしさんの部屋のテーブルには、ほかの部屋の住人たちからのおみやげがたくさん

時代や社会によって変わってもいい。

自分らしい家族のカタチを探して。

F.I.N.編集部

はしさんが家族のあり方について、考え始めたのはなぜですか?

はしさん

さっきお話しした通り、Dくんとの関係性を考えた時、「家族同然」「家族みたいな存在」という呼び方がしっくりきたんです。ただ、「〜同然」「〜みたいな」ということは、やっぱり家族ではないということじゃないですか。それで、本当の家族と、「家族同然」「家族みたいな存在」の境目はなんだろうと。考えてみると、Dくんとの3人での暮らしを親には言いにくいことも関係しているのではと思ったんです。親からすると、自立していないような感じに捉えられるかもしれないし、びっくりするかもしれない。一般的な夫婦での暮らしとは違うので、とくに親世代には理解できないんじゃないかって。だから、感情論ではなく、社会や時代の背景を踏まえて、他者を交えた家族での暮らしが合理的であると伝えたかったんです。

 

それで改めて家族のあり方の変遷を調べると、今のような核家族が当たり前になったのは、ここ100年のできごとだということがわかって。江戸時代は、結婚とは家と家を繋ぐもので、男女の自由恋愛に基づくものではなかったようで、生活のベースは家族よりも大きな共同体にあった。昭和期になると祖父母、夫婦、子どもの複数世代で形成される家族が生まれるわけなんですが、私たちが「家族」と聞いてイメージするのは、この時代の家族観なんですよね。長い歴史から見たらこの家族観って、たった100年くらいの間で起きた変化なんです。だから家族のカタチは、時代や社会に合わせて変わっていくのは当然のことなんだと思いました。

F.I.N.編集部

Dさんとの3人での暮らしは、どの辺が合理的なんでしょうか?

はしさん

精神的に頼れる相手が複数人いることで、自分自身も安定するし、生活がより安心かつ豊かに変わる気がします。そういう精神的な安定はもちろんですが、家事も分担できるし、家具や電化製品もシェアできるから、時間や経済的な余裕も生まれていると感じています。

写真提供:Eichi Tano

F.I.N.編集部

はしさんたちのような暮らしには、どんな人が向いていると思いますか?

はしさん

他者と暮らすことは、昔はみんな半ば強制的にやらされていたことなので、実は誰もができる可能性を持っているんじゃないかと思います。ただ、個人のプライベートの尊重が当たり前になった現代においては、ある程度、自己開示をする勇気が必要かなと思います。ちゃんと自分の弱みを見せられないと難しいかもしれません。それこそ、本当の家族や友人にも見せない顔を見せられたりだとか。

F.I.N.編集部

確かに、新しい家族や暮らしを築くには自分の殻を破ることが必要なのかもしれませんね。はしさんたちのように、他者を交えた共同体での暮らしをすること、新しい家族のあり方を構築することは、現代の私たちにどんな変化をもたらせると思いますか?

はしさん

私もそうですが、今の世の中だとお金がないとみんな不安だと思うんです。介護も子育ても家事も、お金がないと円滑に進められない。昔はそれを家族が吸収していたし、信頼関係で分担できていたから、お金を使わなくても成り立っている部分がありました。しかし、旧来の家族が崩壊している今では、生活のすべてを自分で背負わないといけない。代行サービスを受けるにもお金がかかるから、もっとお金を稼がないといけない。そうして、お金でさまざまなものを買うたびに、私たちは良くも悪くも他者との関係性を失っていると思います。

 

もともと私たち夫婦もダブルインカムで稼いで暮らし、家事は代行サービスに頼ればいいと思っていました。それが当たり前だと思っていたので。だけど、成り行きでこういう暮らしをしてみて今感じているのは、生活をシェアすることで得られる豊かさは、自分で稼いで自由でいられる豊かさとはまた異なるということ。そして、前者の豊かさは、お金では買えない。どっちの方が良い悪いではなくて、どちらの豊かさがどれくらいのバランスで必要なのか、それを自分で知っておくことが大事なんだと思います。

 

もちろん、他者と生活をシェアすることは、わずらわしいことです。けれど、どういう時間を過ごすことが一番幸せで、何に喜びを感じられるかを考える一つの切り口として、一度他者を交えた生活を検討するのは面白いのかなと思います。私自身は、わずらわしさを感じつつも、気を負わずに頼れる相手が近くにいるのは、やっぱり暮らしを少し楽にしてくれるなぁと感じています。

F.I.N.編集部

この先の未来、はしさんは他者を交えた暮らしを続けていきますか?

はしさん

今のような密度の生活を築いていくかはわかりませんが、つながりの強い人たちがそばにいる暮らしはしていきたいですね。そしてできれば、そういう暮らしをできる場を東京だけじゃなく、何拠点か築けたらいいなと思っています。

■F.I.N.編集部が感じた、未来の定番になりそうなポイント

・友人とのつながりの中に市場規範を入れないことで、良好なつながりを保つことが出来る。

・家族の責任や負担が大きい核家族化された現代では、精神的に頼る相手が家族である必要性はない。

・家族のカタチは、血縁関係のつながりだけではなくなる。

【編集後記】

「夫婦+友人の3人暮らし」この言葉を耳にした時に、はっきりと頭の中でイメージすることが出来なかった自分がいました。
家と家を結ぶ江戸時代、祖父母・夫婦・子どもの三世代で形成する拡大家族を形成していた昭和期、そして現代の夫婦のみ、またはそこに子どもが加わった核家族。家族のカタチの歴史の変遷を振り返ってみると、自分のイメージしている家族はほんの短い期間で形成された家族のカタチであり、「夫婦+友人の3人暮らし」という共同体の暮らしが全くもって不思議なカタチではないことに気付かされました。
時代・社会背景の移り変わりによって暮らし方も変わり、アフターコロナの時代にはどんな暮らし方がニューノーマルになるのでしょうか……?

(未来定番研究所 小林)