谷中日記
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2018.09.13
未来定番サロンレポート
夏も終わりに近づく8月31日。東京・谷中にて、2回目の「未来定番サロン」が開催されました。未来定番サロンは、未来のくらしのヒントやタネを、ゲストと、参加者のみなさんと一緒に考え、意見交換する取り組みです。2回目の今回は、東東京エリアを中心に古民家の再生活動に取り組む株式会社まちあかり舎の水上和磨さんと、大丸松坂屋百貨店・未来定番研究所の安達淳さんが対談を行いました。
(撮影:河内彩)
大丸松坂屋百貨店の未来定番研究所が事務所を谷中の古民家に移転したのは、2018年3月のこと。この古民家は、鍛金職人「銅菊」の工房兼住居として使われていた、100年の歴史を持つ建物です。そして、この改修を手がけたのが、水上さん率いる「まちあかり舎」。トークイベントに先立ち、古民家の改修と、このイベント開催に至るまでの経緯を、水上さん、安達さん、そして、東東京エリアを拠点に創業支援を手がけ、今回の未来定番サロンの主催者でもある「Eastside Goodside(イッサイガッサイ)」の小林一雄さんに伺いました。
F.I.N.編集部
そもそも「未来定番研究所」が、この古民家「銅菊」に出会い、事務所にするまでに至った経緯を教えてください。
安達
「未来定番研究所」は、大丸松坂屋百貨店が掲げる「5年先の未来定番生活を提案する百貨店」というビジョンを実現するための研究機関として2017年3月に設立された部署です。設立当初から、所長の今谷さんは、大丸松坂屋の魅力のひとつでもある“伝統”に、未来を掛け合わせたいという思いから、古民家に事務所を構えたいと考えていました。特に、谷根千エリアがいいのでは、というインスピレーションがあったようで、私はそのオーダーを受けて、この地域で古民家を探し始めました。
F.I.N.編集部
どんな風に探していかれたんでしょうか?
安達
最初は不動産会社に話を聞いてみたのですが、あまり良い物件には出会えませんでした。そこで、私は知り合いの勧めで9年前に千駄木に引っ越してきて、この辺の地理に詳しかったものですから、自分がこれまで培ってきた様々なコミュニティを辿って探してみようと思い、飲食店さんや、八百屋さん、酒屋さんなどを訪ねて「古民家をお借りしたいのですが、どなたに聞けばよいですか?」と聞いて回りました。そんなことを繰り返す中で、ある方から、この地域の古い建物の保全活動をされている「たいとう歴史都市研究会」というNPO法人代表で、のちに「まちあかり舎」のメンバーとなられる椎原晶子さんと出会い、仲良くさせていただくようになりました。様々な物件をご紹介いただく中で、この物件に巡り合ったのが始まりです。
F.I.N.編集部
なるほど。一方で、水上さんはどんな経緯で、「まちあかり舎」としてこの物件の改修に携わることになったのでしょうか?
水上
僕は、もともと台東区の谷中・根岸を中心に、古い建物の再生に取り組むNPOなどで活動していました。ある時、もともと共に活動をしていた椎原さんから、「なくなってしまいそうなもったいない物件がある」という話を聞いて、椎原さん、HAGI STUDIO代表の宮崎晃吉さんと3人で見に行ったのが、この「銅菊」の古民家でした。それは2016年の暮れ頃だったでしょうか。「ここはもったいないから、どうにかしたい」という思いから、見に行ったその日のうちに改修に取り組むこと、そして、これを機会に会社を作ることを決めました。
F.I.N.編集部
「未来定番研究所」と「まちあかり舎」。それぞれが別のきっかけでこの古民家に出会い、心惹かれたというのは素敵です。改修は、どんなところにこだわられましたか?
水上
建物の調査を進めていくと、明治、大正、昭和と、時代によって用途や表情が変わってきたことが分かりました。そこで掲げたコンセプトは、「銅菊時間旅行」。どこか一つの時代を切り取って”凍結保存”するのではなく、昭和の職人さんの風景が見えたり、大正時代の洋風でモダンな雰囲気が感じられたり、でも、2階はオフィスとしての使いやすさも考えたり……。各所でその変遷を感じられるようにすることが、これから新しい活動が起きていく、未来の定番を探る部署のオフィスとしては良いのではとご提案しました。
安達
とても素敵なコンセプトですよね。大賛成でした。過去の歴史の積み重ねを引き継ぎながら、もしかしたら、いつか我々も出るときが来るとしても、その先の未来のストーリーまで考えられるというのがすごくいいなと思っています。
F.I.N.編集部
まさに”未来を考える古民家”になったのですね。今回の未来定番サロンでの対談は、どんな思いで実現したのでしょうか?
小林
私たち「Eastside Goodside(イッサイガッサイ)」は東東京をワクワクする地域にしていくことを目指している創業支援ネットワークです。その中で、東東京で活躍する先輩たちのしごと現場におもむき、創業の体験談や東東京の魅力、創業のストーリーを聞く「Speak East」というセミナーを開催していて、今回のイベントは、その第9回目でもあります。
水上さんと安達さん、それぞれの物件との出会いというのは、企業活動の範囲でではなく、人と人とのコミュニケーションだからこそ可能になったと思っています。そうした人と人との繋がり、そして地域のつながりというのを掘り下げたい、という思いで今回のイベントを企画しました。僕たちも、街の古くからの文脈を守り、未来を育てていくことを目指す中で、”凍結保存”ではない、新しいことを起こす東東京をつくっていきたいと思っています。今まで見過ごされてしまっていたところに価値を見出す人たちも集まりつつあるので、東東京の魅力をどんどん伝えたい。その中で、古いものにもこういう素晴らしい活用の仕方があるよという例を、イベントを通して伝えていければなと思います。
F.I.N.編集部
この古民家「銅菊」のような場から、伝統と未来、その両者が共存する東東京が作られていくのですね。ありがとうございました。
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第2回| ”未来を考える古民家”ができるまで
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