2026.05.29

「待つ」時間をかけてでも欲しくなる一着を。〈0 STOCK TOKYO〉が提案する、これからの買い物。

スマホ1つで、欲しいものがすぐ手に入る現代。買い物は、かつてないほど便利になりました。画面を眺めていると誰かのおすすめやヒントが次々と流れて、選択肢は増えていきます。そんななかで、「買いたい」という感覚はどのように生まれ、どう変化していくのでしょうか。今回は、私たちが「何に納得して買うという選択をするのか」に目を向けながら、これからの買い物のあり方を探ります。

 

最長1年待つこともある完全受注生産型のブランド〈0 STOCK TOKYO(ゼロストックトウキョウ)〉。素材からデザインまで徹底してこだわったオーセンティックな洋服は、ミニマリストが最後に選ぶ一着を追求しています。

 

洋服というモノの消費ではなく、装うことの原点に立ち返る、新しい買い物のカタチとは。代表の大和聡さんに、ブランドに込めた思いやこれからの買い物体験の行方を聞きました。

 

(文:末吉陽子/写真:西あかり)

Profile

大和聡さん(やまと・さとる)

〈ワンハンドレッドトウキョウ〉代表取締役社長。1979年、香川県生まれ。大学卒業後、ヴィンテージ専門のリペアショップにて2年間で服の構造と縫製技術の真髄を叩き込む。その後、アパレル企画製造のベンチャー企業で実務経験を積み、2007年に〈株式会社プリンシプル〉へ入社し、2013年には取締役に就任。2021年に独立し、〈ワンハンドレッドトウキョウ〉を設立。製造から流通までを熟知したバックボーンを強みに、在庫ゼロを掲げる〈0 STOCK TOKYO〉を始動した。

https://zerostocktokyo.com

100年先を生きる人に、誇りを持って手渡せる服を作りたい

F.I.N.編集部

〈0 STOCK TOKYO〉が生まれたのは、コロナ禍の影響が大きかったとお聞きしました。具体的にどのようなターニングポイントになったのでしょうか。

大和さん

僕は、アパレルの企画製造やOEM会社などでキャリアを積んできました。長年、ほかのブランドの商品を作るお手伝いをしてきたのですが、常に期限までにものづくりをしなきゃいけないというプレッシャーがありました。もちろん、プロとして1つひとつの商品には本気でこだわっているんですけど、どこかモヤモヤした感覚をずっと抱えていたんです。

大和さん

そんな時に、コロナ禍で時間が止まりました。折しも、SNSを通じてお客様とダイレクトに話せるようになっていましたし、個人でもECが立ち上げられる環境が整っていたので、ブランドの立ち上げにいたりました。

F.I.N.編集部

完全受注生産というビジネスモデルを選んだのは、なぜだったのでしょうか。

大和さん

小規模のブランドでも、生産の履歴をしっかり追える、サステナブルなものづくりを実践したいと考えたからです。僕には10代の子供がいるんですが、今の若い世代って、僕ら世代より環境や社会のことをずっと真剣に考えているんですよね。そういう子たちに「自信を持ってやっているよ」といえるブランドでありたいなと。

 

〈0 STOCK TOKYO〉を運営する会社〈ワンハンドレッドトウキョウ〉のコンセプトは、「かわいい、かっこいいのその先へ」なんですが、100年先の未来のための会社でありたいという思いが根底にあります。

取材は7回目となるコレクションの展示会場で。完全アポイント制で、東京、名古屋、大阪で開催された。

「工場が縫いたい時に縫う」。クラフトマンシップを守るための逆転の発想

F.I.N.編集部

完全受注生産の裏側には、日本国内の衣料事情や工場への課題意識もあったそうですね。

大和さん

日本の国内衣料自給率って、1990年には50%以上あったのに、今は約2%にまで落ちているんです。

 

高い技術を持っているのに、後継ぎもいなくて廃業していく現実を、20年間ずっと見てきました。この大きな流れ自体は変わらないと感じつつも、何か自分にできることはないか。そう考え抜いた結果、完全受注生産というモデルが一番合理的だという結論になったんです。

 

アパレルは繁忙期と閑散期の差が激しく、閑散期には工員さんたちの仕事もなくなります。つまり、今のアパレルの生産サイクルは、労働問題に直結しています。だから〈0 STOCK TOKYO〉では「工場の都合で縫ってください」というスタンスをとっています。お客様には、夏にダウンが届くこともあるということをご理解いただいたうえで購入してもらっています。

F.I.N.編集部

とても合理的なモデルですよね。提案した時、工場側はどんな反応でしたか。

大和さん

喜んでいただきました。納期がないということは、納期遅れもないということなので。「安定して発注してくれればやりたい」と言ってくださる工場は多いです。そのためには、このモデルに共感してくださるお客様を市場に増やさないといけないので、早く成長しないといけないなと。

F.I.N.編集部

パートナーである工場とは、どのように出会われたのでしょうか。

大和さん

20年間の業界経験のなかで出会ってきた方々が中心です。高い品質と人柄、長く信頼を築いていきたいと思う素晴らしい工場ばかりです。〈0 STOCK TOKYO〉を立ち上げるタイミングで「こういうことをやりたいんです」と直接お願いして回りました。

 

大切にしているのは「ミニマリストが最後に残す服」というコンセプト。だからこそ、難しい縫製ができる工場でないといけません。例えば、コート1つとっても、通常は18パーツで作るところを38パーツで作るような服もあります。

F.I.N.編集部

一見すると究極にシンプルなのに、その裏側には途方もない工程が隠されているんですね。工場との印象的なエピソードはありますか。

大和さん

最初のコレクションを届ける際に、工場の社長さんが直筆のメッセージを書いてくれたんです。「なぜ〈0 STOCK TOKYO〉の仕事をしたのか」「このブランドに何を感じたか」を手紙にして、商品と一緒に届けました。そのおかげでお客様から「待っていてよかった」という声をたくさんいただきました。

原価率45%に誠実さを込めて。在庫ゼロだからこそ実現できる品質

F.I.N.編集部

通常のアパレルブランドの原価率が25%程度とされるなか、〈0 STOCK TOKYO〉は45%前後とのことですね。

大和さん

余剰在庫を一切持たないから実現できる数字です。数字に固執しているわけではないものの、「お客様を1年待たせる以上は、価格以上の品質を届けなければいけない」という誠実さの指標でもあります。実際には55%くらいになる商品もあるんですが、卸がない、店舗もない、ECのみで運営しているからこそ出せる原価率の上限値だと思います。

F.I.N.編集部

具体的には、どんなところを大切にしていますか。

大和さん

例えば、生地作りです。市販の生地を使えばロットの心配はないけれど、どこにでもある定番商品になってしまいます。一段上に行くには、素材からオリジナルで開発するしかありません。

 

ただ、オリジナル生地を作るには、大きな機械を準備する手間がかかるため、どうしても一度に大量に作らないと採算が合いません。少しだけ作ろうとすると、手間に対して利益が出ないため、普通は断られたり、売れ残った生地が大量の在庫リスクになったりします。でも、プロの生地チームがあえて難しい小ロット生産に協力してくれているおかげで、在庫を抱えずにこだわりの服を作ることができています。

大和さん

また、お客様の声を反映することも大切にしています。例えば、寝ている時間以外ずっと着ていられる服をコンセプトにした「17hours series」でいうと、「もう少し快適に」という声に応えて、見た目はそのままに生地目付を50g/m軽量化するなど、細部までアップデートを重ねました。

F.I.N.編集部

お客様の層はどんな方が多いですか。

大和さん

「たくさん服はいらない。この1枚があればいい」というミニマリスト志向の方が多いですね。

 

黒が好きで、黒のなかのどのブランドにするかを考えて〈0 STOCK TOKYO〉にたどり着いた、という方もいれば、カジュアルな服しか持っていなかった方が来てくださって、以来リピーターになってくださることも多い。試着会に来られるお客様の多くが購入してくださるんですよ。試着するものも事前に決めてきて、3、4着まとめて購入される方もいます。

F.I.N.編集部

「何を買うか」だけでなく、「なぜその買い方をするのか」まで問われているようにも感じます。

大和さん

そうかもしれません。たくさん服を持つことに価値を感じる人もいますし、流行に合わせていろいろ楽しみたい人もいる。それはそれでファッションの楽しさです。

 

ただ、僕たちが考えるミニマリストは、モノを減らす人ではありません。自分にとって納得できるもの、長く付き合えるものに囲まれて暮らしたい人です。大げさにいえば、グラスが1個でいいなら〈バカラ〉のグラスを1個持ちたいし、ボールペンが1本でいいなら〈モンブラン〉を持ちたい。そういう生活が、自分にとっての贅沢であり、幸せな時間になると思っています。

 

買った瞬間に満足するのではなく、着続けるなかで「やっぱりこれでよかった」と思える。これからの買い物では、そういう納得感がより大事になるのではないでしょうか。

「届くまでの時間」を楽しみに。進捗の共有が、買い物をエンターテインメントに変える

F.I.N.編集部

商品を注文してから届くまでの期間、お客様とはどんなコミュニケーションをとっているのでしょうか。

大和さん

先にお支払いいただいて、1年待つとなると、「本当に届くの?」という不安が生まれますよね。だから進捗をダイレクトメールでお知らせしています。「今、富山県のこの工場に生地が入りました」「縫製がスタートしました」「第1弾を来月お送りします」というように。

 

もともとはお客様の安心感に繋げるためだったんですが、実際にやってみると、その報告が知的好奇心を刺激するエンターテインメントになっていたんです。「自分の服が今ここで作られているんだ」という感覚で、見たことのない工場の風景を楽しんでくださるお客様もいます。

F.I.N.編集部

服の裏側にあるストーリーに興味を持っているということですね。

大和さん

思っている以上に、皆さん興味を持ってくださっています。試着会に来られると、「石川県のあの工場で作ってるんですよね」と話しかけてくれる。やっている側は安心感を届けているつもりだったのに、お客様は楽しみに変えてくれていた。それは発見でした。

F.I.N.編集部

作り手と買い手の距離をここまで縮めてきた大和さんは、5年後の「買い物体験」がどのように変わると予想されますか。

大和さん

これからの買い物では、「なぜこれを選ぶのか」を自分のなかにちゃんと持てることが、より大切になっていくのではないでしょうか。日本人の可処分所得が急激に増えることは考えにくく、節約志向は進んでいくと思います。だからこそ、そのニーズを満たせる体験がますます求められるはず。ファッションを楽しむ層ほど、よりシビアに「投資先」を選ぶようになるはずです。

 

現在、多くの人がギリギリまで服を買わずに、寒くなってから一斉に店頭やECに駆け込みますよね。ただ、「今すぐ欲しい、明日から着たい」を満たせる買い物体験は、生産側に大きな負荷をかけています。誰が、どのように作っているのか。届くまでの時間に何を感じるのか。そして、手にした後の暮らしがどう変わるのか。そういうところまで含めて納得できるものを選ぶことが、これからの豊かさに繋がっていくと思います。

 

その観点でいうと、〈0 STOCK TOKYO〉は派手ではないけれど、原料からパターン、縫製まで細部を磨きあげ、時代が変わっても着る人の個性に寄り添い続けるブランドです。ガシガシ扱える丈夫さもあります。

 

それだけではなく、原料やパターンに徹底的にこだわり、少しだけ贅沢な気分になれる。つまり「着飾る」と「装う」のちょうど中間のポジションです。消費活動が冷え込む時代だからこそ、このポジションを守り抜くことが、ブランドが生き残り、お客様の大切な1着であり続けるための道だと思っています。

F.I.N.編集部

そのポジションを貫いた先に、どんな世界が広がっていると思われますか。

大和さん

〈0 STOCK TOKYO〉のモデルを真似するブランドがどんどん増えてほしいですね。僕が工場に「1,000枚分、いつでも好きな時に縫っていいですよ」という猶予を与えたとして、同じことをするブランドが100社集まれば、工場は10万枚分の仕事を自分たちのペースで縫えるようになる。これって、生産現場にとってはものすごく安心なんです。

 

自分だけでやれることは小さいので、包み隠さずこの仕組みを発信していきたいです。「待たせる」ことはネガティブに捉えられがちですが、それが当たり前の選択肢になれば、もっと売る力のあるブランドが参入してきます。そうなれば僕らがトップでいられるかはわかりませんが(笑)、日本の工場にとっては大きな力になるので、同志の皆で頑張っていきたい、という思いですね。

【編集後記】

〈0 STOCK TOKYO〉に新しさを感じたのは、購入者が「早く入手する」という効率を手放すことで商品が健全に生産される関係性です。つまり買い手は、ただ購入しているのではなく「いい商品をつくる」手前というパートを少しだけ担っているといえるのではないでしょうか。このような買い方がさらに広がれば、「作り手が納得していること」が買い手の納得に、「作り手が納得する買い方で買いたい」が商品やブランドを選ぶ理由になっていくのかもしれません。

(未来定番研究所 渡邉)

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