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新しい素材が誕生する、あるいは素材の新しい使い方が見つかる。すると暮らしを豊かにするものが生まれ、やがて未来の定番になっていく。「未来をつくる素材」は、素材に着目してものづくりをする目利きとの対話から未来を考える連載です。
生地メーカーや職人を訪ね、気になる素材を見つけては、加工を試したり、異なる技術を掛け合わせる。〈MIKAGE SHIN〉の服づくりでは、素材はデザインのための「材料」に留まりません。「生地開発はデザインの心臓」と語る〈MIKAGE SHIN〉のデザイナー・進美影さんに、素材と表現の関係性をお聞きしました。
(文:白鳥菜都、写真:嶋崎征弘)
進美影さん(しん・みかげ)
〈MIKAGE SHIN〉代表取締役兼デザイナー。1991年東京都出身。早稲田大学を卒業後、電通に入社。退社後、NYのパーソンズ美術大学に入学。2019年5月に同校を卒業し、同年10月、ニューヨークで自身のレーベル〈MIKAGE SHIN〉をスタート。2020年に拠点を日本に移す。哲学的なテーマと構築的なパターンワークや、ソリッドなグラフィックデザイン、そして日本のものづくりを生かしたユニークなテキスタイルデザインが話題を呼び、国内外、性別を問わずに支持されている。
「作り込みの深さ」が唯一無二性を生む
F.I.N.編集部
服を作る時、進さんは何から考え始めますか?
進さん
私の場合は、単一の手法を順々にという形ではなく、常に同時進行で複数の工程を行ったり来たりしながら作る場合が多いです。デザインコンセプトやテーマ、デザイン画、素材リサーチ、素材のテスト、サンプル制作など、いくつかの工程を行ったり来たりしながら作る場合が多いです。1つの視点からスタートするのではなくて、「この点はこの加工で表現しよう」とか「この手法を使えばここがカバーできる」のように、常に多角的な視点から考えるからこそ、先入観にとらわれずに新しいクリエーションや柔軟な発想が生まれると考えています。
F.I.N. 編集部
素材の出会いをきっかけにアイテムの発想が広がることもあるのでしょうか。
進さん
そうですね。素材については、シーズン前にだけデザインを考えたりリサーチしたりするのではなく、年間を通じて生地メーカーの展示会や職人さんが新作を見せてくださるタイミングがあるので、年間を通じて常にインプットの機会のアンテナを張っています。
少しでも可能性があると感じたら実際に見に行ったり、サンプルを取り寄せたりします。生地開発はデザインの心臓だと思っているので、可能性を狭めず、とにかくいろいろなところへ探しに行っています。
〈MIKAGE SHIN〉27SS
F.I.N.編集部
選ぶ素材に共通項はありますか?
進さん
テーマや目的によって選ぶ素材は違うので、絶対的な決まりはありません。ただ、共通項があるとすれば、作り込みが深いこと。私はモードブランドの服は、小ロットでもいいからこだわりを追求したものを求める、芸術・思想・美学の複合的なアートクリエーションだと思っています。だから、素材もオリジナリティーと美学が感じられるかどうかが指標の1つにあります。そのうえで、デザインやパターン、シルエットなどの技術をハイブリッドに掛け合わせてアイテムに落とし込みます。
例えば、この割繊合繊生地という北陸のサテン生地。これは、ポリエステル糸を細かく割いてシルクのような滑らかな手触りにした生地なのですが、MIKAGE SHINではこれに愛知県の伝統工芸・有松絞りを加工として加えました。美しい生地に絞りを入れることで、光が乱反射して立体感が生まれ、表情がよりいっそう豊かになります。ほかのブランドではなかなかやらない新しい掛け合わせを見つけるのがデザイナーの腕の見せ所だと思っています。
加工を施す前の北陸のサテン生地。
有松絞りを施した独自開発の生地でつくられた、27SSのバッグとパンツ。
F.I.N.編集部
〈MIKAGE SHIN〉は、日本のメーカーの素材や伝統的な技術をクリエーションに積極的に取り入れている印象があります。
進さん
日本のものづくりは、品質の良さや欧米社会にはない独自の伝統技術、ユニークな美意識などがあり、ファッションの世界で注目されています。〈ルイ・ヴィトン〉は岡山の工場と業務提携していますし、〈シャネル〉は和歌山県のエコファーの会社から素材の仕入れをしています。以前、留学時にアメリカ人の友人に「君は日本語ができるから、日本の工場や職人にアクセスできてずるい」と言われたこともあるほどです。せっかくそういった環境にいるので、日本人としていいものを作るという意味でも、また日本のものづくりを世界に残すという意味でも、国内の生地や加工をなるべく使うようにしています。
記憶に残るオリジナル生地の開発
F.I.N.編集部
これまでに扱った素材で、とくに印象に残っているものはありますか。
進さん
いろいろありますが、例えばオリジナルで開発した23AWの刺繍生地。ウェディングやアンダーウエア用の高級レースを作っている刺繍メーカーさんと一緒に作ったものです。近年の暖冬のなかで、「AWらしい情緒は楽しみたいけれど暑くて着られない」という声を聞く機会が増えたので、シアーなシフォンにウール糸で刺繍した生地を作り、情緒と機能との両立を目指しました。最終的にこの生地はシャツにしたのですが、ニットのような生地自体を気に入って着てくださる方が多くいらっしゃって、印象に残っています。
シアーのシフォンにウール糸で刺繍した独自開発の生地。
進さん
もう1つ挙げるとしたら、ブランド初期に群馬県桐生市のメーカーさんと一緒に作ったカットジャカード。ベースの生地から一緒に作って、ありものの生地ではなく、糸染めの段階から相談しました。作り込みのある生地にしたかったので、毛足が7cmもあるカットジャカードを作り、のっぺりと単調にならないようにラメ糸を混ぜているのがポイントです。1色はブラックにしようと決めていましたが、もう1色に悩み、何度もテストを繰り返して、最終的にペールミントとボルドーの組み合わせにたどり着きました。生地の厚さ、素材の選び方、色の組み合わせなどうまくできたので気に入っています。
群馬県桐生市のメーカーと開発した毛足が7cmあるカットジャカード生地。
F.I.N.編集部
シグネチャーシリーズ「錆デニム」はどのように生まれたのでしょうか。
進さん
以前から日本的な経年変化、不完全なものの美への関心が強くありました。錆もその中の1つで、ニューヨークの学校に通っていた頃に、好きなものを撮ってZINEを作る課題が出た際、街中の錆を題材にしました。
そのZINEをデザイナーになってから見返した時に、深い作り込みと、胸が締め付けられるような退廃感のある錆がやはり好きだと感じ、クリエーションに生かせないかと考えるようになりました。そんな時、ある染色工場にお伺いしたら、錆風の染色生地のサンプルがあって。これをデニムに使ったら可愛いかもしれないと思い、作ることになりました。
23SSのコレクションで実際に販売したらあっという間に完売したのですが、薬品が廃番になり安定生産が難しくなってしまって。新たに、私が過去に撮った錆の写真をデニムに転写して、再現するという方法を思いつきました。それからは、手法や色、生地やパーツを変えながら、いろいろなパターンの「錆デニム」を生み出してきました。
〈MIKAGE SHIN〉27SS 「錆デニム」
F.I.N.編集部
加工方法は職人さんとの会話しながら決めることもあれば、進さんがご自身で実験しながら加工方法を探ることもあるそうですね。
進さん
高度な技術が必要なものは職人さんにお願いしますが、自分で手を動かしながら考えることもよくあります。素材だけでなく、パターンもデザインもそうですが、頭の中だけでは想像の範疇を超えるものが出てこないので、あまり意図せず遊んでみるのも大事です。
F.I.N.編集部
そんな実験から生まれた素材やアイテムもありますか?
進さん
27SSで発表した「Heat-Scorched Bleach」シリーズはそうですね。職人さんがブリーチとウォッシュをかけてくれた生地にもう少し経年感を足したいと思って、自分で実験しました。デニムにコーヒーをかけたり、火であぶったりしたら、自然に褪色したような色が出来上がりました。
〈MIKAGE SHIN〉27SS
F.I.N.編集部
進さんはサステナブル素材を積極的に使われているイメージですが、最近はどんな風に捉えていますか?
進さん
2021年から2022年頃にかけては、メディアでもファッションショーでも、サステナブルであることを強く問われていましたよね。私ももちろん、ブランドは本質的にかっこいいものを追求するべきだと思っているので、1着を作るために何反もの生地を廃棄しているとか、環境負荷が高い生地を使っているとか、差別的な表現を含むデザインだとか、人間としてナンセンスなことはしたくないです。そういう意味で、リサイクルポリエステルやテンセル、皮革の代わりとなる天然繊維などのサステナブル素材をいろいろ取り入れてきました。
ただ、最近は流れが変わってきたように思います。モードファッションを選ぶ方は、環境負荷軽減や社会問題よりも、第一に「高品質な生地の服を着たい」といった気持ちの方が多い。そういった方々にもサステナブルにファッションを楽しんでいただくなら、純粋に1着ずつを長く着ていただくのが良いという基本に立ち戻りました。大量生産・大量消費ではなく、気に入って大事に着る、不要になったら次の世代に渡す、という付き合い方をしていただける服を作れたらと思っています
良い素材も、使う人がいなければ消える
F.I.N.編集部
ここまでのお話のなかで「作り込み」というキーワードが度々登場しました。「作り込み」のあるアイテムは、着る人にとってどんな影響を与えると思いますか。
進さん
深く作り込まれた服には、独自の迫力やパワー、存在感があります。作り込めば作り込むほど、そこには熱量と魂が宿り、ほかのブランドやアイテムにはない唯一無二のものになっていきます。そういったコレクションは、着る人自身の芸術性や品格を育て、強い自信をもたらしてくれるものになります。
F.I.N.編集部
一方で、「作り込み」のあるアイテムを作ったり販売したりする難しさもありますか?
進さん
ブランドを運営するなかで、「(日常生活で)着られる範囲でモードファッションを楽しみたい」という需要がすごく高いのだと感じています。ストイックなテーラードやドレスよりも、日常的に着やすいデニムのほうがセールス面だけならば販売しやすいです。ただ、やっぱり皆さん、芸術性の高いモードなコレクションピースに憧れはあります。おしゃれはしたいけれど、わざわざお購入するならば、きちんと自分が扱えるかをシビアに見ています。
面白かったのが、岡山のセレクトストアでポップアップを行った際に、「岡山の若い男性たちは、だいたい自転車で移動しているからロングコートは着ない」と教えていただいて。そうすると、デニムなどパンツでファッション性を出したい方が増えるようで。
とはいえやはり、ファッションはその人の自信やアティチュードを表現するためのものだと思っているので、芸術性がありながらも、生活に根差しているアイテムを作りたいです。ブランドのシグネチャーである「錆デニム」は、そういった面で芸術性と実用性をバランスよく体現できたため岡山県や他エリアのお客様にもご好評いただきました。
F.I.N.編集部
〈MIKAGE SHIN〉Webサイトで、アイテムごとにしっかりと説明が書かれているのもそういう背景があるからなのですね。
ECサイトでは、どの商品についても、着方や手入れの方法まで詳しく紹介している。
進さん
〈MIKAGE SHIN〉は一貫して、「その服は本当に人の幸せをつくれるか?」という点を大切にしています。自分が家族や友人に心から勧められない服は作りたくないですし、Webサイトだってわかりやすい方が安心してお買い物ができると思います。だからこそ、商品のコンセプトから素材のこと、洗濯の可否までなるべく詳しく載せるようにしています。実際、ブランドの立ち上げ時に行ったポップアップで、そうした説明をさせていただくとお客様やバイヤー様から喜んでいただけることが多かったです。素材や加工の話も「知らなかった」「面白い」と。それに、本当に愛情と想いを注いで作っているものには自然と語れることがいっぱいあるんです。かっこよく見せるために、あえて情報量を少なくする選択もあるかもしれませんが、私はデザイナー自身が愛を持って語り尽くせることのかっこよさもあると思っています。
F.I.N.編集部
最後に、進さんが今、注目されている素材を教えてください。
進さん
注目の素材というと、新しい技術に意識が向きがちですが、私はむしろ、伝統的な技術に着目したいです。普段リサーチをしていて、「この生地がいいな」と思い工場にお問い合わせをしてみると、職人さんがすでに退社されていたり、生地が廃番になっていたり工場自体が廃業になっていたりしていることがよくあります。弊社のようなブランド側が工場の方や職人の方にオーダーし、需要を生み出さなければ消えていってしまう素晴らしい素材や技術がたくさんあります。例えば、〈MIKAGE SHIN〉のシグネチャーになった愛知県の伝統工芸の一つ・「有松絞り」の生地のように、ほかにも伝統的な技術を芸術と共に新たな時代に残していくことが、私のこれからの使命でもあると思っています。着る方にも作り手の方にも、両者に尊厳と美学を届けていきたいです。
【編集後記】
服を選ぶときに、その素材について知りたいと感じる場面が増えてきているように思います。今回のお話を聞いて印象的だったのは、そのなかでも「深さ」「重み」といった、機能性の高さや環境負荷の少なさといったある種の「情報」以上のものを捉えるような素材へのまなざしです。
技術の高さ、歴史(時間)、デザイナーの意志などがどれほど重なった素材なのか。これから先、その層を感じながら着ることが、着る人のかっこよさや幸福感とますます切り離せないものになるかもしれません。
(未来定番研究所 渡邉)
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#3 深い作り込みは、着る人の自信に変わる|〈MIKAGE SHIN〉進美影さん
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