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2018.06.22

次世代の大人ファッションとは。<全2回>

第1回 『素敵なあの人の大人服』編集担当者に聞いた、シニアファッションの昔と今。

なぜ今、シニアファッションが注目されている?

 

シニアファッションの市場規模は3兆円以上といわれ、その世代をターゲットしにしたファッションビジネスが盛り上がりを見せています。おしゃれを楽しむシニア世代が増える中、『sweet』『リンネル』など8年連続ファッション雑誌販売部数トップシェアの宝島社が、シニア世代に向けたファッションムック『素敵なあの人の大人服』を発売しました。編集担当の神下敬子さんに、今なぜ、シニアファッションが注目されているのか、その理由や背景を伺い、シニアファッションの未来を探ります。

撮影:河内 彩

F.I.N.編集部

まず、シニア世代のファッションに注目した理由を教えてください。

神下さん

ナチュラルな暮らしを大切にする『リンネル』という雑誌があるのですが、大人世代の読者も多かったんですね。それで『リンネル』の読者層をそのまま大人世代にスライドして『美しく暮らす大人のインテリア』というムックを作ったんです。取材をしているうちに、50代60代で理想の暮らしにたどり着いた方は、インテリアだけでなくファッションもとても素敵に楽しんでいることに気が付きました。それで、ファッションを含めた「おしゃれ」というキーワードで1冊作れるんじゃないかと考えたのが創刊のきっかけです。

F.I.N.編集部

読者からの反応はいかがでしたか?

 

神下さん

大きな反響がありました。これまでシニア向けの雑誌というと、健康情報がメインで、そこに着物のリメイクなどが掲載されていて、いかにも年配向けのものが多かったんですね。大人世代の方が、洋服を買うために百貨店に向かうと、年齢別でフロアが分かれていて、シニアのフロアには花柄やレースのおでかけ着が提案されていた。それで「自分たちはもっとシンプルで、ナチュラルな服が着たいのに」と思っていたようなんです。そういった方々から「待っていた」という声をいただきました。

F.I.N.編集部

メディアや百貨店など提案する側と、読者・消費者との間にズレが起きた理由はなんだと思いますか?

神下さん

 今の60代はこれまでのシニア層とは違います。若い頃はミニスカートを履き、ビートルズを聴いて、『an・an』や『non-no』を読んだ世代です。その上の世代に比べておしゃれに対する意識が高いんですね。この雑誌を創刊するにあたり、たくさんの60代の方にお会いしたのですが、みなさん「自分たちのための服だと感じるものがない」とおっしゃっていました。新しい価値観を持つ世代にも関わらず、従来の年配の方向けの服しか提案されない。「団塊の世代(1947〜1949年)の後で人数は多いはずなのに、忘れ去られているのではないか」と。中には、若い世代から自分たちの年齢マイナス20歳くらいの女性が愛用しているブランド、例えば〈ギャルリー ヴィー〉や〈トゥモローランド〉で、天然素材のゆったりとしたシルエットの服を購入している方もいました。それから、インテリア雑貨と洋服を一緒に扱っているライフスタイル系のお店も人気でした。例えば〈無印良品〉は、幅広い年齢で着ることができるし、素材もナチュラルで価格も抑えている。そういう若い世代が好むお店で買い物をしている方が多かったんです。

F.I.N.編集部

今のシニア層は、それまでの「おじいちゃんおばあちゃん」像とは全く違うんですね。

神下さん

そうなんです。博報堂の新しい大人文化研究所が分析するには、70代以上はお見合い結婚が主だったけれど、60代以降は恋愛結婚も増えている。自分で人生を選びとるのが当たり前となった初めての世代でもあるそうです。文化的な背景を考えても、70代以上は演歌を好んでいても、60代はポール・マッカートニーやローリング・ストーンズが来日するとライブに出かけます。20代と同じ曲を聴いているわけですから、70代よりも若い世代と同じ価値観なのに、これまでの「シニア層」にまとめられてしまうから欲しいものが見つからないんです。20代から60代まで、心地よい暮らしを大事にする方は、ファッションのテイストも近いんですね。ですから、年齢ではなく、ライフスタイルで提案するのほうが、求める方に届きやすいのではないかと思います。

F.I.N.編集部

若い世代にはない、シニア層だけのファッションの傾向はありますか?

神下さん

 まずは着心地がいいことが第一条件です。肌が敏感になる年代でもあるのでゆったりとした動きやすいシルエットが良くなります。天然素材で肌への刺激の少ないものや、タイトなトレンチコートよりもカシミアの柔らかくて着心地のよいコートが好まれます。それからお出かけ着よりも日常着。百貨店に行くと、お出かけ着の提案が多いのですが、60代になると退職されている方もいるので、普段に着るおしゃれな服を求める方が多いんですね。それから人気があったのは小物の特集、特にブローチのページは反響がありました。

F.I.N.編集部

 若い世代では、ブローチはあまり注目されていないアイテムですね。

神下さん

普段の服にポンとつけるだけで、目線が上がり顔まわりも華やかになります。ネックレスは首への負担にもなりますし、イヤリングも重さを感じてしまう。そんなときに、ちょうどいいアクセサリーなんです。特に作家が手作りをしている1点ものが人気でした。大人世代の方は、ストーリーのあるものをお好きな方が多いんですね。季節の小物も反響がありました。服はサイズの問題がありますが、小物なら手軽に取り入れることができます。シューズは、ハイヒールよりもフラットシューズ。年齢とともに土踏まずのアーチが崩れて、外反母趾になったり転倒しやすくなったりするので、安定感のあるシューズを選ぶことが重要になります。

F.I.N.編集部

着心地の良さや身体に合ったものを着ることが、より大切なんですね。

 

神下さん

どうしても体力が落ちてくるので、着ているだけで疲れしまうものは避けたくなりますね。大人世代はファッションも美容も、暮らしの延長線上に成り立っています。心地よい暮らしが健康を作り、その先におしゃれと美容があるわけです。

F.I.N.編集部

 表紙に結城アンナさんを起用されていますが、その理由は?

神下さん

シルバーヘアをおしゃれに楽しんでいて、ご自宅もとても素敵だったので、いつか大人世代の雑誌を創刊するならぜひ登場していただきたいと思っていました。今はヘアカラーをせずに、自然なシルバーヘアの方も増えましたが、シルバーヘアになることでファッションのカラーリングをより幅広く楽しめるようになるんです。例えばグレイのコーディネイトにピンクの差し色を入れても、シルバーヘアなら自然とフィットする。結城アンナさんに登場していただくことで、シルバーヘアがマイナスではなく、今やおしゃれのキーワードであることが際立ったのではないかと思います。

F.I.N.編集部

その世代がおしゃれになることで、若い世代も年齢を重ねることへの意識が変わりそうですね。

 

神下さん

読者の中には40代や50代の方もいます。誌面には素敵な大人世代がたくさん登場しているので、勇気づけられますよね。私は今、40代ですが、自分のためにこの雑誌を作っているところもあるんです。年齢を重ねても、欲しい服を売っている世の中であって欲しいですよね。ますます生き方が多様化する中で、一律年齢で区切るのは難しくなる一方です。雑誌や百貨店など、ファッションを提案する側も意識の変化が求められていくんじゃないでしょうか。

F.I.N.編集部

この世代はマーケットとしても可能性があると言われています。ライフスタイルとしての提案のほか、メディア・店舗が求められていることは何でしょうか。

神下さん

 前提となるのはこれまでのシニア世代とは違うという認識と、心地よい暮らしの中にあるファッションの提案です。一定のライフスタイルを送るあらゆる年代をターゲットにしたブランドが、大人が欲しくなるアイテムを上手に展開していますが、さらに求められているのは、同世代のスタッフなのではないでしょうか。大人世代が「私たちが忘れ去られている」と感じる理由に、ショップスタッフさんが若い方ばかりでお店に入りづらさを感じたり、その年齢での着こなしを相談できなかったりということもあるそうです。だから、スタッフの中に、ひとりシルバーヘアの方がいるだけで、着こなしの参考になるし、私たちは歓迎されているんだと感じることができるんですね。年齢の近い方が「着心地がいい」「履いていて楽ですよ」とアドバイスしてくれたら、その方を頼りにするし、何度も足を運びたくなるはずです。現在のシニアは新しい価値観を持つ世代なので、メディアと読者、店舗が一体になって、みんなが幸せになれるマーケットを作っていけばと思っています。

 

人生100年時代に、ますます活躍の場が広がるシニア世代。今や、散歩ブームをはじめとするトレンドを生み出す存在です。今の60代は、東京オリンピック、ミニスカート、ビートルズなど、戦後日本の新しい価値観の中で育ち、若者文化を牽引してきた存在でした。その世代が新しい「シニア」像を作り、人生を謳歌することで若い世代を勇気付けています。後編では、『素敵なあの人の大人服』に登場する読者モデルさんにご登場いただき、ひとりの女性から見たファッションとライフスタイルの歴史について迫ります。