F.I.N.的新語辞典
2019.12.10
これからの5年で変わるもの、変わらないもの。<全8回>
今起きている”変化”の中から5年先の未来の種を探してきたF.I.N.。変化を追い続けてきたからこそ、これまで目を向けてこなかった、”変わらないもの”の中にも未来の種の可能性を感じるようになりました。そこで、2019年から2020年へと移り変わる今のタイミングで、ビジネス、カルチャー、ライフスタイルなど、各分野を牽引する方々にご登場いただき、「これからの5年で変わるもの、変わらないもの」について伺っていきます。
今回お招きしたのは、盆栽師の平尾成志さん。即興で盆栽を作って見せる「盆栽パフォーマンス」で今注目を集めている平尾さんに、「これからの5年で変わるもの、変わらないもの」についてお話しいただきました。
イラスト:tent
5年先に変わっているもの:「人」
5年先も変わらないもの:「植物がもたらしてくれる喜びや癒し」
これからの5年で大きく変わるのは、ずばり「人」だと思います。今も少しずつ、デジタルネイティブの世代が社会に出はじめていますよね。5年後には彼らが社会の中心になることは言うまでもありません。そして、インターネットを通して簡単に情報を手に入れてきたこの世代は、雑誌を読み漁ったり、本屋に足繁く通ったりして、必死で情報を得ていた時代の若者と比べて、探究心が薄れているのではないかと感じます。その兆しは盆栽業界にも現れていて、そのひとつはインターネット販売の普及。ちゃんとしたアフターケアを行っているネットショップもありますが、盆栽は本来、目と目が合って、直感的に「これだ!」と感じるペットのようなもので、ネットでの販売には向いていないのですが、「売れるから」と知識が無いまま簡単に売り買いされることも多くなっています。管理の仕方もきちんと説明されないがゆえ、買った人は枯らしてしまい、盆栽から離れてしまう。そんな悪循環の中で、新しい時代の人たちと生身の盆栽との接点をいかにして作るかが、いまの僕の悩みどころです。
ただ一方で、「植物がもたらしてくれる喜びや癒し」は、5年先も、いつの時代も変わらないと思っています。以前、とあるオフィスビルの植栽を手がけた時、そこで働く人たちに「水やりだけは絶対欠かさないでください」と言っても、実践してくれる人はあまりいませんでした。でも伝え方を変えて、「仕事に疲れたら、息抜きに水でもやって癒されてください」と話したら、見事に水やりをしてくれるようになったんです。これは、その人たちが植栽を「もの」ではなく「生き物」と捉えて愛情を注ぐようになった証拠。植物は人間の愛情を察知するもので、愛情をかけた分だけ健やかに育ちます。そして育つ経過を日々観察することで、私たちは段々と愛着を感じるようになり、植物は気がつけば自身の心を癒す存在にもなるんです。
だから、忙しい今の時代にこそ盆栽文化は必要で、より多くの人に注目されるべきだと考えています。未来に継ぐためには、盆栽と世の中との接点を一つでも増やすことが大切。そこで僕は、独特な形状に仕立てたり、パフォーマンスで見せたりなど、新しい手法で盆栽を提案する現在のスタイルに辿り着きました。盆栽の魅力は、見た目に表れる生き様。それまでどんな環境にいたのか、誰からどんな愛情を受けてきたか、その全てが表れるものです。自然の力と人の手が合わさって、奇跡的に過去から現在まで命を継がれてきたものだからこそ、手を加えて終わりではダメ。未来も枯らさずに生かし続けるために、文化を担う人、そして愛でる人、両軸での人づくりにこれからも力を入れていきたいですね。
平尾成志/盆栽師
盆栽師。1981年2月15日生まれ、徳島県三好市池田町出身。京都産業大学在学中に訪れた東福寺 方丈庭園(重森三玲作)に感銘を受け、日本文化の継承を志す。さいたま市盆栽町にある加藤蔓青園(かとうまんせいえん)の門を叩き、弟子入り。「盆栽を国内外問わずいろんな人に伝えられる人間になってくれ」という師事していた故加藤三郎氏の言葉を胸に修業に励み、海外へと活動の場を広げる。これまで様々な国で盆栽のデモンストレーション、ワークショップ、パフォーマンスを行い、2013年には「文化庁文化交流使」を拝命。4か月で世界11ヵ国を周り、日本固有の文化である盆栽の美意識とその楽しみ方教えるとともに、盆栽を通じて文化交流を行う。2016年ブータン王室盆栽寄贈。近年では瀬戸内国際芸術祭で高い評価を獲得し、「アートとしての盆栽」「文化継承」といったキーワードで今大きな注目を集めている。
編集後記
平尾さんの園には、なんと樹齢数百年の盆栽もあるとか。
これまで幾人の職人さんが、手から手へつなぎ続けてきたのか、
平尾さんも、それらの盆栽を、設計図とともに
次代に託していくそうである。
変えてはいけないものを次の世代へつないでいくには、
いまの人が変わっていかないといけない。
今私たちは、将来の設計図を描けているだろうか。
(未来定番研究所 富田)
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