若い作り手たちの、これまでとこれから。<全3回>
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2018.12.18
未来を仕掛ける日本全国の47人。
毎週、F.I.N.編集部が1都道府県ずつ順番に、未来は世の中の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”をご紹介します。今回取り上げるのは、兵庫県の姫路市。「和える」代表の矢島里佳さんが教えてくれた、漆工芸職人の江藤雄造さんをご紹介します。
この連載企画にご登場いただく47名は、F.I.N.編集部が信頼する、各地にネットワークを持つ方々にご推薦いただき、選出しています。
確かな腕と自由なアイディアで、漆工芸に新しい息を吹き込む
伝統的な文化財の修復から古美術の修理、漆器の製作や蒔絵、金継ぎ……。漆を軸に幅広く活躍する江藤さん。近年では、アクリルやガラスなど、これまでになかった素材に漆塗りを施すなど、確かな技術と自由な発想で漆塗りの新しい魅力を日本に、そして世界に伝えています。推薦者の矢島さんは「かれこれ10年以上のお付き合いになりますが、毎年新たな挑戦を続けておられ、その活躍はとどまるところを知りません。ありとあらゆる漆の技術を学び、神社仏閣の修繕、金継ぎによるお直し、アート作品、工芸品など横断的な仕事を得意とされているところに未来の可能性を感じます」と教えてくださいました。江藤さんにお話を伺ってみます。
F.I.N.編集部
江藤さん、はじめまして。本日はどうぞよろしくお願いします。
江藤さん
よろしくお願いします。
F.I.N.編集部
まずは、江藤さんの現在のお仕事について教えていただけますか?
江藤さん
重要文化財に関わる漆塗りの修復がメインの仕事です。仏像の修復もあれば、寺社仏閣などの建築物に関わる修復もありますし、その修復の範囲は、漆塗りに留まらないこともあります。一方で、器の漆塗りを施したり、仏壇の中に蒔絵を描いたり。アクセサリーのようなものも作ります。大きいものから小さいものまで漆に関わるあらゆることに取り組んでいます。
F.I.N.編集部
なんとも幅が広いのですね。
江藤さん
そうですね。さらに普通、漆の業界と言うのは分業制なんです。木地、塗り、蒔絵など、作業別に担当が分かれているのですが、それを全部一人、もしくは父親と取り組み、一貫して行えるというのが自分たちの強みです。
F.I.N.編集部
お父様も漆工芸職人として活躍してこられましたが、江藤さんご自身は、漆工芸の道に進むことに迷いはなかったのでしょうか?
江藤さん
学生の頃から手伝いに行っていたので、あまり迷うことはなかったですね。そもそも集団行動が苦手で……(笑)。サラリーマンよりも、自分で考えて手を動かすことの方が得意なので、今の仕事は合っていると思っています。趣味の延長のように自然と始めた仕事なので、日々楽しくできていますね。
F.I.N.編集部
漆工芸の仕事は、どんなところが魅力ですか?
江藤さん
その時々の環境によって、出来上がるものの表情が変わるところでしょうか。ペンキや人工的な塗料は、毎度同じような時間や質感で乾き上がるのですが、漆は天気や湿度、気温によって乾き時間や最終的な色味が変わるんです。例えば、赤色の漆を塗っても、乾く時間が短い日であれば真っ黒な色が出るし、ゆっくり乾く日には綺麗な赤色が出る。日々状況が変わることによってもちろん苦労することはあるし、失敗もあるけれど、実験のようでとても面白いですし、毎回勉強になりますね。
F.I.N.編集部
なるほど、一つとして同じ色の出方の作品はないのですね。唯一無二の魅力を持つ漆工芸ですが、なかなか今の世の中では出番が少なくなっているというのも事実ですよね。
江藤さん
そうですね。特に仏壇はあまり売れなくなりましたね。10年ほど前は毎月10件、20件と依頼が来ていたのですが、今ではほとんど来ません。また、漆塗りはやはり高価なもの。お椀でさえも、安くてもひとつ1万5千円くらいしてしまうので、それ相応の価値や魅力を感じてもらえないと、なかなか手にとってもらえない難しい時代になっていると実感しています。そうした中で心がけているのは、まずは、お客さんがすでに持っている漆塗りをもっと使ってもらえるような提案をすること。例えば、重箱なんかは各家庭にひとつはあるという方も多いのではないでしょうか。お正月にしか出番がないという声も耳にしますが、花器にしたりとか、来客用の果物入れにしたりとか、極論を言えば、小さい子どものお道具箱として使ってもいい。蔵の肥やしにしておくのではなく、もっと気軽なシーンで使うことを提案しています。用途の幅が広がれば、自ずともの本来の魅力にも気づいてもらえるのではないでしょうか。
F.I.N.編集部
使い方の固定概念を破るような提案をされているんですね。
江藤さん
そうですね。他にも例えば、矢島さんが代表を務める「和える」との共同の取り組みとして、4畳分のパネル全面に漆塗りを施し、それを床に敷いて子どもたちが遊ぶスペースとして提供する取り組みもしました。また、来年2019年の3月には、品川で金魚の漆塗りを施した作品の上でお茶席をするイベントが決まっています。作品に直接に上がって、踏んでもらう。そんな実験的なこともやっているんですよ。
F.I.N.編集部
漆塗りを踏むとは……いまだかつてない取り組みですね。さらに江藤さんは、陶芸家の西山宗滴さんとのコラボで、陶器に蒔絵を施す「播磨陶胎蒔絵」というブランドを立ち上げ、新しい挑戦もされています。こちらはどんな試みなのでしょうか?
江藤さん
実は、陶胎漆器というのは昔からあるんです。これは、陶器を単に素材として使い、陶器の全面に漆を塗るものです。一方で私たちが今取り組んでいるのは、陶器の模様を部分的に見せて、それを生かしつつその上に蒔絵を描く。西山さんと僕、二人の個性が生きる作品を作ってみたら面白いだろうと思いつき、始まりました。
F.I.N.編集部
矢島さんや西山さん。多彩な方々との化学反応もまた魅力ですが、意識的に外の方と繋がりを持たれているんですか?
江藤さん
外部の方と繋がることを意識するというよりは、とにかく新しいことに挑戦したいんです。そこを追求していたら、自然と新しいご縁がたくさんできました。最近は、ガラスやアクリル、プラスチックや皮など、これまで漆塗りとは接点のなかった素材に漆塗りを施すことにも挑戦しています。普通はガラスに漆は乗らないのですが、それを乗せるためにはどうしたらよいかを考えるのがたまらなく面白くて。なんでもやってみて、ダメだったらやめればいいと考えるタチなので。
F.I.N.編集部
江藤さんの中で新しいアイディアはどこから湧いてくるんですか?
江藤さん
それは、子どもが遊びを思いつくのと同じ。自分の性格が子供っぽいから。それだけなんです(笑)。自分が楽しかったら、きっと周りも楽しいと感じてくれるだろうなという考えでやっているだけなんですよ。
F.I.N.編集部
枠にとらわれずに活動されるところに、江藤さんのパーソナリティが出ていますね。今、全国各地の様々な伝統工芸が、産業を未来に繋いでいくための課題を抱えていますが、江藤さんはその突破口としてどんなことが必要だとお考えですか?
江藤さん
伝統工芸は正直、根気がないとできないので、どうしても辞めていく人が多いですね。そして、なかなか”食べられない職業”であることも事実。IT企業などで働き、日々何億も稼ぐような人から見たら、本当に割に合わない仕事だと思うかもしれません。でも僕はお金云々ではなく、楽しむことをモットーに取り組んでいるので、そういう職人が少しでも増えていけば良いですね。また、伝統工芸は何よりもまず知ってもらうことが大切。これからも、漆のパネルを作ったり、新しい素材に漆を施したりなど、お椀や重箱だけではない漆塗りを見せられたらと考えています。また、来年からは海外のアートフェスにも進出する予定。漆の”う”の字を知ってもらい、少しでも世の中との接点を増やしていけたらなと思います。
F.I.N.編集部
今後、漆がどんな新しい表情を見せてくれるのかワクワクしますね。本日はありがとうございました。
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