地元の見る目を変えた47人。
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2018.06.25
人工知能が切り拓く、食卓の未来。<全2回>
「人工知能(AI)は”創造“することができるのか」。チェス、クイズ、囲碁、絵画……これまで世界のAI研究者たちは、さまざまなアプローチでその「答え」を探し求めてきました。そして最近、その鉾先は「料理」にも向かい始めています。AIと料理が組み合わさると、いったい何が起きるのでしょうか。やがて私たちの日々の食事は、AIによってどのように変化していくのでしょうか。最前線に立つふたりの人物に話を訊きました。
(撮影:豊田和志)
現存するレシピは、可能性の0.000001%にすぎない!
東京・原宿にある、とあるマンションの一室。風間正弘さん(データサイエンティスト)と出雲翔さん(クリエイター)は、ここをベースに「FoodGalaxy」という名の「食の人工知能」の開発に携わっています。
風間正弘(写真左)
株式会社ハビテック、データサイエンティスト。東京工業大学工学部機械宇宙学科卒業後、東京大学大学院学際情報学府修士課程において、機械学習の研究を行い、主に推薦システムを取り扱う。また、東京大学i.shcoolでデザイン思考や人間中心イノベーションについて学ぶ。データ解析と人間行動に興味。修士課程修了後、IT会社にデータサイエンティストとして入社。
出雲翔(写真右)
株式会社ハビテック、電脳クリエイター。慶應義塾大学商学部卒業。専門は、機械学習、統計解析、データビジュアライゼーションなど。ビッグデータの解析、ビジュアライゼーションなどを通じて、人間とコンピュータの共創によって生まれる創造性、「Computational Creativity」に取り組んでいる。
「FoodGalaxy」とは、世界各地から集められたレシピデータを「ベクトル化」することによって作られた「食の世界地図」のようなもの。その基幹には、「創造性=新奇さ(Novelty)×質(Quality)」という考え方があり、「FoodGalaxy」では、「新奇さ」を「ベイジアン・サプライズ」という数式によって、「質」を「食材に含まれる風味化合物の組み合わせ」によって、評価しているのだそうです(このへん、理解できなくても大丈夫! 気にせず読み進めてください・笑)。
そもそも彼らが料理の研究を始めたのは、とある食べものとの出会いがきっかけだったと風間さんは語ります。
「クロワッサンの中に巻き寿司が入っている、カリフォルニアクロワッサンというキテレツな食べものです。文字通りカリフォルニアで話題になっていて、醤油を付けて食べるそうなのですが、これを見たとき『いったいこれは日本食なのか、フレンチなのか、アメリカの食なのか』と混乱すると同時に、食の可能性を感じ、『AIを使って、未知の料理を創造できるんじゃないか』という発想が湧いたんです」
コアメンバーはふたりのほかに、IBMのシェフワトソンを開発したラヴ・バーシュニー教授(イリノイ大学)、予防医学博士の石川善樹さん、そして、フレンチシェフとして名高い松嶋啓介さんという豪華なメンツ。風間さんは主に、世界中のレシピを集めて分析し、新しい組み合わせを模索しています。
「まずは世界中のレシピを数万件集めて、『ひとつのレシピがいくつの食材で構成されているのか』を調べてみました。すると、だいたいのレシピが10個の食材の組み合わせでできていることがわかったんです。これは言い換えると、『ひとつの料理とは、10個の食材を選ぶこと』にほかなりません。世界中には数百万の食材があるので、そこから10個の食材を選ぶ組み合わせは膨大になるわけです。つまり現存するレシピは、食材の組み合わせのうちのほんの0.000001%に過ぎず、未知の組み合わせの中に、未知のおいしい料理がある可能性が大いにあるんです。それを見つけてみようというのが私たちの研究です」
風間さんが今回用いているアルゴリズムは、実は食のアルゴリズムではないそうです。
「文章解析の手法を使っています。文章というのは、単語の組み合わせでできていますよね。一方で料理も、食材の組み合わせでできているので、実は同じアルゴリズムが使えるということに気がつきました。文章や料理に限らず、人間の日々の活動って『組み合わせる』ことが多いと思うのですが、それを抽象化したアルゴリズムを至るところに使える、というところがこの研究のおもしろさだと思っています」
「香り」が食材同士をつなぐ!?
風間さんのアルゴリズムではじき出されたデータを、わかりやすく「ビジュアライズ」しているのが出雲さんです。
「僕は普段から、『サイエンス×アート』ということを念頭に置きながら活動をしています。たとえば、優れた研究は世の中にたくさんあるはずですよね。でも、それが一般の人に伝わっていくのって、すごく時間がかかるか、伝わらないかだと思うんです。そこを直感的に表現することで、『この組み合わせは面白そう』というように具体的な印象を抱くことが出来ます。そうやって一般の方が気軽に使うことで、シェフの人が直感に基づいて新しいレシピを生み出すのと同じように、新しい発見が起こり得るのではないかと思っているんです。いわば、誰もがクリエイティブになれるというか。そういう部分を担うのが、僕の役割だと思っています」
そう語る出雲さんが、食材同士の相性の良さを解析し、一般の方でも活用できるようにデザインしたのが『Flavor Network』。科学の世界では、以前から「フードペアリング理論」というものが提唱されていたそうですが、これは、食材に含まれる「香気成分」、つまりは香りの種類や特徴を分類し、「成分が共通している食材同士を組み合わせればおいしい組み合わせになる」というもので、「創造性=新奇さ×質」でいうところの、「質」になる部分だと言えます。
「何を作ろうか悩んだ時に、『この食材とこの食材の相性がいいらしいから、それで料理を作ってみよう』というインスピレーションの源になればと思っています」
実際に「Flavor Network」を見てみると、たとえば「タマネギ×牛肉」「ニンニク×タマネギ」のような定番のものはもちろん、「コーヒー×ビール」や「コーヒー×牛肉」といった、一見なじみのない組み合わせもたくさん見受けられますね。
「確かに一般的には、コーヒーとビールを混ぜたりしませんよね。でも実際にやってみるとスタウト(黒ビール)のような風味がして、ビールとコーヒーの香りがマッチしていることがわかります。
コーヒーと牛肉の組み合わせも、日本ではほとんど知られていないと思うのですが、海外のレシピサイトで『コーヒーと牛肉』と調べてみると、コーヒー味のステーキが出てきたりします。僕たちが普通に暮らしていくなかでは、およそ出会わないような食材の組み合わせが世の中にはまだまだあって、それを可視化することで、インスピレーションを与えようというのが『Flavor Network』なんです」
「FoodGalaxy」と「Flavor Network」の関係性を、風間さんはこう解説します。
「西洋のレシピは、確かにフードペアリング理論に基づいて作られていることが科学的に示されているのですが、東洋のレシピは、実はフードペアリング理論が当てはまらないとも言われているんです。では、東洋のレシピに当てはまる理論は何なのか。世界のレシピに当てはまる統一の理論は何なのか。それを探るひとつの手立てとして、『FoodGalaxy』を開発しているんです」
白ワインとココア? 牛肉とピーナッツバター??
順調に「育っている」ように思える「FoodGalaxy」ですが、現段階での課題を挙げるとすれば何なのか、風間さんが語ります。
「たとえば、『この食材をこの食材に置き換えれば、日本食であるすき焼きを、フレンチ風のすき焼きにすることができる』といった提案はできるのですが、実際にどういう順番で、どう調理をすればいいか、というところまでは具体的に踏み込めていないので、次の課題としては、そこに取り組んでいきたいと思っています。現状、AIは解析をするのですが、解釈は人間がすることになりますので。
あとは、今は数万件のレシピデータですが、世界には数百万のレシピがあると言われていますので、どんどん増やしていく必要があります。そこに日本のデータを組み合わせることでより発展できると思っています」
風間さんと出雲さんは以前、クックパッドと共同で、「紅茶とトマト」を使ったレシピを募集するキャンペーンを行いました。人間の常識だと繋がっていないけれど、科学的には裏付けされた「ミスマッチな食材同士」を組み合わせたキャンペーンによって、多くの新しいレシピが生まれ、主婦たちからも大きな反響がありました。そこで今回F.I.N.では、「Flavor Network」が提示する意外な食材の組み合わせを使って、新しい家庭料理を考えてみることに。おふたりにご意見を伺うと……。
「試そうと思ってまだやっていなかったのが、白ワインとココアの組み合わせです。あとは、バジルとオレンジも意外性がありますよね」(風間さん)
「僕は、牛肉とピーナッツバターの組み合わせを、どなたかに解釈していただき、おいしいひと皿にしていただければと思います」(出雲さん)
なんとも斬新な組み合わせが挙がってきました! おふたりのご意見を踏まえたうえで食のプロに「Flavor Network」を見ていただき、次回は「AI発のクリエイティブな家庭料理」を実際に作ってみたいと思います。乞うご期待!
(後編へ続く)
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