地元の見る目を変えた47人。
2020.08.31
コロナの影響下で食について見直す機会も増えてきた今日。日常の中にある食事について、その意味や向き合い方、これからの未来における日常の食がどんなものに変わっていくのか関心が高まっていると思います。 郷土料理のアレンジや、新しい料理に挑戦していらっしゃる料理家のminokamoさんに、アフターコロナの食についてお話を伺います。
(撮影:河内彩)
未来へのヒントは過去に学ぶ、
岐阜の郷土料理「朴葉寿司」。
コロナ禍によって、私たちの暮らしは一変しました。外出自粛によって、自由な食の楽しみは制限され、友人たちと集まって食事を共にする機会も減少しました。誰もが否応なく新しい時代を迎えた今、これからの暮らしはどうなるのでしょうか。
「こんなときだからこそ、一度、立ち止まって、いつもの生活を見直してみては。昔から伝わることから、ヒントが見つかることもあります」と語るのは、料理家・写真家のminokamoさん。
生まれ育った岐阜県・美濃加茂市を始め、日本全国の郷土料理や、季節の食材を使った料理で、日常の中から「美味しい」を作り出す活動をしています。新型コロナウィルスの感染拡大に揺れる今、未来に伝えたい料理として、朴の木の葉っぱで包んだ「朴葉寿司」を作ってくれました。
「朴の木は、岐阜では山はもちろん、朴葉寿司用に庭に植えていることもあります。朴葉寿司は祖母が作ってくれ、子供の頃から大好きでよく食べていました。朴葉には殺菌効果があるので、少し日持ちするんです。もともとは農家の方が田んぼ作業の時に食べていたお寿司です。手が汚れても食べやすいし、ラップを使わず、葉は土にかえってくれるので、ゴミも出しません。それになんと言っても、美味しそうですよね!」。
この日の朴葉寿司には、梅干し入り酢飯、しいたけの醤油煮、梅酢生姜、焼き鮭を甘酢で和えたものなど、暑い日でいたみづらい具材を包んでくれました。
「岐阜では、一度に100個位の朴葉寿司を作ることも。街に住んでる孫へのお土産にしたり、親戚の集まりで作ったり。多くてびっくりされるかもしれませんが、皆さん手際よく作られ、みんな大好きなのですぐなくなるんですよ」
岐阜の周辺では、道の駅などでも朴葉寿司が売られているほど一般的な郷土食。朴葉には殺菌効果があって日持ちもして、しかも美味しそう。大活躍の朴葉ですが、東京など街中では、ほとんど見かけることはありません。
「昔はもっと、食文化に葉は身近にあったと思います。日本各地には、昔から葉で包む食文化がありますよね。柿の葉、茗荷の葉、笹の葉、月桃など。街では気軽に入手できないですが、街でも緑が増えて気軽に葉を食に取り入れて、緑を楽しむことができる。そんな近い未来があったらいいなと思います」
家庭菜園を始めると、食べることがもっと楽しくなる。
minokamoさんのアトリエでは、広いベランダで、しそ、バジル、きゅうりなどたくさんの植物を育てています。
「今回の外出自粛の期間に、家庭菜園を始めた方も多いと思うのですが、少しでも土に触れて、こうやって育つんだと知るのは楽しいですよね。しそは手をかけなくてもたくさん葉をつけるので、お店で買うより、たっぷり新鮮なしそを食べることができます。今年、きゅうりを3本だけ収穫できたんですが、数本でも嬉しくて。これをどうやって料理しようかという楽しみが増えます。プランターでなくとも、コップでハーブを育ててみたり、ちょっとしたことで植物の成長、収穫を楽しむことができますよ」
この日は他にも、minokamoさんのベランダ菜園で採れた野菜や薬味をたっぷり使った料理を作ってくれました。
「イワシ梅種の梅煮には、香りづけにベランダ菜園のオレガノを入れました。外出自粛の頃、スーパーの商品が品薄になったときにも、魚だけは残っていたんです。料理が面倒だと敬遠する方もいますが、日本は海に囲まれているし、なんといっても美味しい!もうちょっと魚を食べてもいいんじゃないかと思って。イワシやアジ、切り身など、手に入りやすい魚で、煮付けや焼き魚は調理も簡単なのでおすすめです」
そして、もう一品は、おばあちゃんが作ってくれたような昔懐かしい田楽のような茄子みそ炒めに、ベランダ菜園のバジルを加えた「田楽みそバジル」。意外な組み合わせですが、コクのある味噌と香ばしいピーナツに、摘みたてのフレッシュバジルは、驚くほどしっくりくる新しい美味しさです。
郷土料理に現代の要素を加え、新しい“普段の食”を象徴するような、「田楽みそバジル」のレシピをminokamoさんに教えていただきました。
田楽みそバジル
材料(2〜3人分)
茄子(中) 3本
味噌 大さじ2と1/2
みりん 大さじ3
オリーブオイル 大さじ2
ピーナッツ 15粒位
バジル 適量
水 150cc
作り方
1. 茄子は、縦に3本分ほど皮をむいて厚さ3cmにカットし、5分ほど水につけてアクを抜いたら水を切っておく。事前に、味噌とみりんを混ぜ、ピーナッツは刻んでおく。
2. フライパンにオイル、茄子を入れて強火で焼き、表面に火が通ったら水を入れ、蓋をしてある程度火が通ったら蓋を外し、水分を飛ばして煮る。
3.混ぜた味噌とみりん、ピーナッツを入れ混ぜたら火を止め、ちぎったバジルを入れ混ぜたらたら出来上がり。
ポイント
バジルの代わりに、紫蘇やハーブ、ない時は生姜を入れて気軽にアレンジを楽しんでくださいね。
世界中が知ったかけがえのない日常。
5年先は“アクのない”優しい世界に。
minokamoさんは、コロナ禍によって、食べることがより大切になったと語ります。
「例えば、悩み事があっても、みんなでご飯を食べたら楽しくなって、心が軽くなりますよね。なんでもない日常の料理でも、みんなで食べると美味しい。でも、それが簡単にできなくなり、本当に会いたい人に会うことに真剣になった気がします」
帰省したり、気軽に旅行をしたりすることも難しくなった今。郷土食を食べるたびに、その土地を思い出すことも。
「初めての場所に旅をしても、そこで食べた郷土食が美味しかったら、その土地を好きになることがありますよね。以前、群馬で小麦粉料理について取材したのですが、昔はお米の収穫が難しく麦の栽培に適した環境だったので、美味しい小麦粉料理が発達したそうです。そんなふうに、1つの郷土料理の中にも歴史と背景を感じることがあります。こういう時代だからこそ、先人たちの知恵を活かせたらいいですよね」
5年先の未来、minokamoさんは、もっと人が優しい時代になったら、と語ります。
「今回のコロナ禍で、良い方向に見直しができるといいですね。食材の買い占めなど、気持ちにゆとりがなくなる話もありましたが、家族、故郷、自然、友人に会えること、ご飯がおいしいと思えることに、改めてありがたみを感じる機会にもなりました。料理で言うと、アクをすくって味が丸くなるように、優しい時代になるといいですね」
minokamo
岐阜県美濃加茂出身の料理家・写真家。祖母と作った料理への思いから、全国各地の郷土食を取材し、執筆、アレンジ料理の提案をし、先代たちの知恵を後世に伝える活動中。日常の食卓が豊かになる、器の盛り付け提案も各媒体でしている。郷土食取材をまとめた「料理旅から、ただいま」(風土舎)2020年10月発刊http://minokamo.info/
編集後記
郷土料理のあたたかさ、優しさを感じます。日本人として食文化は自慢ですが、その根幹となる、それぞれの地域の伝統ある郷土食を自分自身のソウルフードのように、受け継ぎ、大切にして行きたいと感じました。私は、兵庫県出身ですので、まずは「いかなごのくぎ煮」の作り方を、お袋に教えてもらおうと思います。
(未来定番研究所 出井)
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