若い作り手たちの、これまでとこれから。<全3回>
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2018.06.26
未来を仕掛ける日本全国の47人。
毎週、F.I.N.編集部が1都道府県ずつ巡って、未来は世の中の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”を見つけていきます。今回向かったのは、福井県の鯖江市。イクス代表の永田宙郷さんが教えてくれた、〈TSUGI〉の新山直広さんをご紹介します。
この連載企画にご登場いただく47名は、F.I.N.編集部が信頼する、各地にネットワークを持つ方々にご推薦いただき、選出しています。
地域に住まい、地域のために、あらゆるものやことを”デザイン”する人。
眼鏡や漆器、繊維など、様々なものづくり産業が集積する福井県鯖江市。この土地で今、20代、30代の若手デザイナーや職人などで構成されるクリエイティブカンパニー〈TSUGI〉が活躍しています。彼らは、“支える・作る・売る”を軸に、地域クライアントのグラフィックデザインや商品開発、販路開拓までを一貫して担当。推薦者の永田さんは「〈TSUGI〉を立ち上げた新山くんは、鯖江にいて鯖江のためのデザインを担当する、いわば”インタウンデザイナー”。彼らの取り組みを通して『地域でデザインをすること』のひとつの在り方が見えます。成果をみんなで共有して、みんなで次の未来を描こうという気持ちがとても強いところにも、未来の可能性を感じますね」と話してくださいました。新山さんご本人にお話を聞いてみましょう。
F.I.N.編集部
新山さん、どうもこんにちは。
新山さん
こんにちは。
F.I.N.編集部
今日はいろいろお話を聞かせてください。まず、活動の拠点とされている鯖江は、どんな特徴がある地域なんですか?
新山さん
鯖江は、漆器や眼鏡、繊維、刃物など7つの産業がわずか半径10キロ圏内に集まっている、国内有数のものづくり産業集積地です。また、ものづくり以外では、最近IT企業が多く拠点を構え、先駆的な取り組みが同時多発的に起こっている地域です。雑誌『Forbes JAPAN』による「日本を面白くする”イノベーティブシティ”ランキング」では第4位に選ばれるなど、チャレンジすることに寛容な土地だと思います。
F.I.N.編集部
そうなんですね。県外からの移住者も多いそうですね。
新山さん
はい。以前「F.I.N.」にも登場していた〈ろくろ舎〉の酒井義夫くんや、漆琳堂の嶋田希望ちゃん、そして僕を含め、〈TSUGI〉のメンバー8人もみんな県外からの移住者です。僕たちの住む河和田地区は、人口4200人ほどの集落で、ここ8年ほどで累計70人が移住してきています。若いメンバーが集まって、「面白いことをやっていこうよ!」という空気があって、そこにすごく魅力を感じています。
F.I.N.編集部
地方には、なかなか閉鎖的な土地も多いと思いますが、鯖江にはどうして寛容な空気があるんでしょう?
新山さん
大きな理由は2つあると思います。1つ目は、歴史的に”人”や”もの”の往来が盛んだったから。鯖江は越前漆器の産地として有名で、江戸時代後期から昭和初期にかけて、この土地の”越前衆”と呼ばれる漆掻き集団が、毎年、東北まで漆の樹液の採取に行っていたそうです。その際、地域で作られた和紙や刃物などを肩に背負って行商をし、道中のいろいろな地域の良いところを吸収して村人に還元していたとのことです。2つ目は、1995年に鯖江で「世界体操」という体操競技の世界選手権が開催されたから。アジアでの初の開催地として鯖江が選ばれたんです。一地方都市で世界大会が行われるということで、市民中が燃えに燃えたわけなんです(笑)。こんなことから、地域全体に、外から来る人を”受け入れ、もてなす”という意識が芽生えたのではないでしょうか。
F.I.N.編集部
外の人を受け入れるような風土は、具体的には何か地域の取り組みには表れているんですか?
新山さん
2004年から始まった、「河和田アートキャンプ」というプロジェクトがあります。これは、毎年夏休みに、鯖江市に地域の内外から学生を呼び寄せて、住民と一緒に、アートを通して社会課題を解決しようというものです。このプロジェクトの卒業生たちが、どんどん移住をしています。僕も大学時代に参加しました。
F.I.N.編集部
なるほど。新山さんは大学時代、建築を勉強されていたそうですね。「河和田アートキャンプ」にはどんなきっかけで参加されたんですか?
新山さん
大学の建築の先生が、「河和田アートキャンプ」を主催していたので、たまたま参加しました。実際に鯖江に来てみて、いろいろなことに衝撃を受けましたね。まず、僕が生まれ育ったのは、大阪府の吹田市というベッドタウンだったので、地域コミュ二ティーのあり方が180度異なることに驚きました。また、ものづくりの背景についても発見の連続。参加するまでは、漆器のお椀がどうやって作られているかなんてことを考えたこともなかったので、ものづくりを支える職人さんがたくさんいることに感動しました。
F.I.N.編集部
新しい発見だらけだったんですね。
新山さん
はい。これからの時代は、新しい建物をどんどん建てていく”建築”ではなく、今すでにあるものを生かしていくための”リノベーション”や”まちづくり”、”コミュニティデザイン”が重要だと強く感じました。大学を卒業する直前までは、建築家を目指していたんですが、最終的には方向転換をし、鯖江に移住し、地域コミュニティの醸成を学ぶべく、「河和田アートキャンプ」を主催している会社に就職することを決めました。それが2009年のことです。
F.I.N.編集部
そこではどんなお仕事に携わられたんですか?
新山さん
「河和田アートキャンプ」のプロジェクトや、さらには漆器の産業調査などを行いました。そこで、そもそも「ものづくりが元気にならないと、まちも元気にならないんだ」ということを痛感しました。鯖江のものづくりに足りないものを考えた時に、デザインの視点だと思い至り、何を思ったか、独学でデザインの勉強を始めました(笑)。並行して転職を考えていたところ、鯖江市役所が拾ってくれて、2012年から”市役所デザイナー”として市が発行する広報物やwebマガジンのデザインを担当していました。
F.I.N.編集部
市役所に所属しながら、〈TSUGI〉としても活動を始められるんですよね。
新山さん
ちょうど僕が市役所に入った頃、友人や後輩たちが5、6人、メガネ職人や木工職人として移住してきました。彼らとは、「仕事は楽しいんだけど、1人前になるには、まだまだ長い時間がかかる。例えばそれが10年だとした時、果たしてそこまで産地は残っているのかな」とよく話をしていました。今のうちから自分たちでアクションを起こさないと、という危機感を持つようになり、「10年後の産地の担い手になれるよう、同世代で切磋琢磨していこう」、という思いで彼らと〈TSUGI〉を結成しました。
F.I.N.編集部
なるほど。推薦者の永田さんは、〈TSUGI〉の活動のことを「一気飛びの同心円ではなく、渦巻きのように線を繋ぎなぞりながら、その活動を丁寧に広げている」と表現されていました。はじめはどんなことから取り組まれたんですか?
新山さん
2013年の結成当時は、全員別に仕事を持っていて、サークル活動のような感じでスタートしました。1年目のテーマは、「仲間を作ること」。まずは河和田に拠点を作り、そこを軸にイベントを行いました。産地の未来を考えるトークイベントをやったり、金継ぎのワークショップやったり……。すると、嬉しいことに、デザインで悶々としている人が福井中から集まってきてくれたんです。友達10人だったのが、一気に100人に増えたような。そんな基盤となる人間関係を1年目で作ることができました。
F.I.N.編集部
そして徐々に活動の幅を広げていかれたんですか?
新山さん
そうですね。特に活動2年目で参加した「福井フードキャラバン」というイベントは、僕たち〈TSUGI〉の方向性を定めてくれました。これは、福井新聞のプロジェクトで、2022年の北陸新幹線・福井開業に向けたまちづくり活動の一環として企画したものです。福井の食をPRするイベントをやりたいと悩まれていた時にたまたま出会い、意気投合し、僕らも参加させていただくことになりました。具体的には、「食のサーカス」のように、キャラバン形式で県内の各地でその土地にちなんだ食のイベントをやっていこうと提案。例えば、河和田地区はものづくりの町なので、食だけでなく、地域の企業の協力のもと、お椀などのテーブルウェアを作るところから始まる晩餐会を企画しました。参加した方からの反響も大きく、やりがいを感じるプロジェクトでしたね。そこで、いろんな人を巻き込みながら面白い動きを作っていく、という僕たちのスタンスの礎ができたように思います。
F.I.N.編集部
まさに「一歩ずつ丁寧に活動を広げていった」わけですね。そして3年目となる2015年に、法人化を果たされました。これまでの〈TSUGI〉の活動の中で最も印象に残っているプロジェクトはなんですか?
新山さん
「RENEW」という工場見学プロジェクトです。内容は、普段はほとんど見られない鯖江のものづくりの工房をお客さんに公開するというもので、昨年は85社くらいに参加していただきました。お客さんには、見学していただくことを通して、ものづくりの背景を、理解してもらい、納得してもらった上で買っていただきたいという思いがあります。また、始めた理由は、持続可能のある産地をつくりたいと思ったこと。プロジェクト名の「RENEW」には、”再び始まる””更新する”といった意味が込められています。高度経済成長期に産地が一時的に潤ったことで、現状に満足し、変化に挑戦しない作り手に対して、危機感を持って再び動き出してもらいたいという意味を込めて名付けました。
F.I.N.編集部
実際にこのプロジェクトを通して、鯖江の人たちには何か変化がありましたか?
新山さん
大きな変化としては、産地の中に、8つもの会社が、工房の中に、外からのお客さんを招き入れるための店舗を作ってくれました。また、作り手にとって、エンドユーザーと接点を持つ機会はなかなかないので、直接反応をもらう機会を通して、「次はこんなものを作ろう」や「こんなおもてなしをしてみよう」というように、やる気やモチベーションのアップに繋がっているようです。そういう、目に見えない気持ちの変化が起こったのも、僕としては嬉しかったことですね。自分で考え、自分で行動する会社を何社増やすことができるか、ということも、ある意味では”デザインする”ということだと思って、やりがいを持って取り組んでいます。
F.I.N.編集部
お話を伺っていると、新山さんや〈TSUGI〉の皆さんからの、鯖江への強い思いが伝わってきます。
新山さん
僕たちは、鯖江出身の人よりも鯖江が好きかもしれません(笑)。移住にはみんな、それなりの熱意と覚悟を持って来ています。いきなりご飯が食べられるわけではなく、田舎だけど、全くスローライフではなく、めちゃくちゃ忙しい……。そんなある意味過酷な環境の中で、みんなで肩を組みながら、「面白い町を作っていこう」という空気があって、大人の文化祭がずっと続いているような感覚。だから、鯖江のため、というのはもちろんですが、自分たちがやりたいこと、楽しいことをやっているという思いも強いということ。それが結果的に、鯖江のためにもなっているというのが実際のところです。
F.I.N.編集部
永田さんが、新山さんのことを「成果をみんなで共有して、みんなで次の未来を描こうという気持ちがとても強いから」と話していたのも頷けます。未来に向けて、今後の目標を教えてください。
新山さん
鯖江が産地として今後も存続していくためには、あくまでも作り手たちが元気じゃないといけないと思っています。そのためには、創造的な産地を作ることが大切。思考停止になるのではなく、自分で考えて自分で行動できる会社を何社増やすことが出来るかを目標に、産地の機運醸成のお手伝いをしたいと思っています。さらには、デザインを通して、地域に隠れている資源や可能性を見つけて磨いて可視化する。それを通して、いろんな気づきが地域の内外に起こり、鯖江に移り住んでくれる若い世代がさらに増えることが理想です。それは作り手志望者としてだけではなく、面白い取り組みをしたい人たち誰もが興味を持ってくれる町になったらいいなと思います。ものづくりだけではなく、デザイナーや本屋、パン屋になりたい人などが移り住み、属性が広がることで、町の魅力の厚みが広がると思いますしね。
F.I.N.編集部
最後に、日本の地域の伝統産業を未来に繋ぐために、どのようなことが必要だと思いますか?
新山さん
伝統産業の従事者も市場も、さらに縮小していくことが想定されていますが、哲学者の鞍田崇さんが用いていた“濃縮社会”という言葉がヒントになると思っています。これは、残った人や資源を最大限活用して、きちんと縮小した状態の市場をシェアし、全体のサプライチェーンとして整理をつけるという考え方。特に伝統工芸は、分業制が敷かれている産業でもあるので、少ない人材どうし、産地を超えてネットワーキングする必要があるのではないかと思っています。産地単体という小さい目線で考えるのではなく、国全体の視点でものづくりを考えるというのが大事。産地を超えて作り手同士を繋ぐような取り組みも、〈TSUGI〉では考えていきたいです。
F.I.N.編集部
産地の垣根を越えて作り手同士が繋がりを持つこと。地域での”デザイン”という言葉には、いろんな垣根を超えた人と人、人とものとの関係性を考え直すという意味も含まれているようですね。本日はありがとうございました。
TSUGI
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