地元の見る目を変えた47人。
2020.11.24
健康を維持するために必要な栄養を全て含んだ食品、「完全食」。1921年頃から「玄米」などを指して使われはじめた言葉は、健康志向や生活習慣病の話題が多い現代において、改めて注目を浴びています。忙しい毎日でも、おいしくて体にいいものを食べたい。そんな想いから、「BASE FOOD」代表の橋本舜さんは「主食」に フォーカス。手軽でありながらも栄養バランスの良い完全栄養食の麺「BASE PASTA」とパン「BASE BREAD」を開発しました。フードテックの先駆者として注目を浴びる橋本さんにフードテックの未来についてお話を伺います。
栄養バランスの良い食事が
社会を変える!?
F.I.N編集部
もともとIT業界に身を置かれていたそうですが、食・栄養の分野に着目した理由を教えてください。
橋本舜さん(以下、橋本さん)
日本は世界的にも少子高齢化の問題が深刻で、それによって社会保障費の負担が大きくなっています。医療費を少しでも抑えるためにも、これからは病気の予防が大事だと考えました。予防するために、「栄養・睡眠・運動・定期的な検査」の4つがきちんとできていれば、統計上では健康で過ごせる確率が高いと言われています。働き方改革などの社会変化で、「睡眠・運動・定期的な検査」の部分は、どんどん改善できるようになってきていますが、「栄養」は逆に難しくなってきていると思います。
F.I.N編集部
それにはどんな背景があるのでしょうか?
橋本さん
高度成長期時代は、まだ女性の社会進出が進んでいなかったこともあり専業主婦の数が最大でした。そのおかげか、一汁三菜の献立を家族で食べるというのが一般的な日本の食生活になっていました。時代が変わり、共働きや独身世帯が増えたことで、それまで食卓に並んでいた品数が減って、主食と主菜、副菜というような形に。徐々に日本の健康的な食生活の神話が崩れてしまっているのではと思っています。だから、そういった方々でも簡単に栄養バランスの良い食事が摂れれば予防にも繋がって、社会保障負担を抑えられるのではと考えたんです。
F.I.N編集部
「完全栄養食」に行き着いたのは、どのようなきっかけだったのでしょうか?
橋本さん
世の中で、栄養格差が健康面において問題だと言われています。経済的にも時間的にも余裕があって、リテラシーが高い人であれば、毎日の食事を徹底して管理できるかもしれませんが、一般の方の大半は、ファストフードなども頻繁に利用します。こういった食事による栄養格差をなくすことが予防にも効果的だと考えました。そこでファストフードを見直した時、すべてに米やパンなど主食が入っていることに気づいたんです。そこで、「主食をイノベーションし、健康をあたりまえに」というビジョンが生まれて、最初に完全栄養のパスタの開発をスタートしました。
テクノロジーだからできた
「かんたん・おいしい・からだにいい」
F.I.N編集部
「フードテック」という意味でも注目されている「BASE FOOD」ですが、どんな点が注目を集めていると思いますか?
橋本さん
私たちが画期的なのは、カロリーを抑えつつ栄養バランスが整った主食を、これまで誰もやったことがない配合や製法で作っている点だと思います。これまで主に小麦粉と水で作られていたパンや麺を、約10種類の原材料でサラダのように組み合わせて作り、さらに香りや風味、おいしさを追求しています。
F.I.N編集部
パスタはゆで時間が2分以下と、一般的なものに比べて調理が手軽ですが、ここにもこだわりがあるのでしょうか?
橋本さん
あえて生麺にしたのは、フライパンを使って少量のお湯で、しかも短時間で茹でられるようにしたかったからなんです。「かんたん・おいしい・からだにいい」をコンセプトに掲げているので、使いやすさも大切にしています。また、味の質というのも重要な要素だと思うので、最終的にはパティシエやシェフなど食のプロに試食をしてもらい、彼らに認められたものを販売するということも、こだわりの1つです。
F.I.N編集部
常温で長期間保存できるのもテクノロジーの賜物ですね。
橋本さん
合成保存料は使わずに、水分や酸素のコントロールを行うことで、長期保存が可能になりました。うちはサブスクリプションで商品を販売していて、常温での長期保存というテクノロジーはサブスクリプションだからこそ必要でもありました。これも今の時代だから必要になる条件ですよね。
テクノロジーの力は必要?
未来の日本の食生活とは。
F.I.N編集部
栄養バランスのよい食事に、なぜテクノロジーが必要だと考えますか?
橋本さん
テクノロジーというのは、大変なことを大変じゃなくするためにあるものだと思っています。例えば、自分に何の栄養が必要で、1日の食事でどれだけの栄養が摂れているか管理できている人はどのくらいいるでしょうか。忙しい現代社会で、これを完全に把握してバランスよく栄養を摂るのは不可能に近いと思います。だからこそ、私たちがテクノロジーを使って、栄養バランスがいい、安心・安全な主食を提供できたらと思っています。
F.I.N編集部
5年先、橋本さんはどのような未来を描いていますか?
橋本さん
正直、日本ではまだまだ、食の分野でテクノロジーを取り入れることに違和感を感じている方が多いのが現状です。ただ、社会が大きく変化している中で食だけが変化しないと、そこに歪みが生まれます。それがSDGsや健康の問題にも繋がり、いつまでも社会課題が解決しないのではと感じていて。日本の素晴らしい食文化をリスペクトしながら、時代に合わせて柔軟に変化させていくことも大切。だからこそ、私たちは誰が食べてもおいしいと認めてもらえる商品を目指したいと思っています。そのために今後は商品のバリエーションも増やしていく予定です。
橋本舜
1988年生。大阪府出身。東京大学教養学部卒後、DeNAに入社し、新規事業を担当。2016年4月「主食をイノベーションし、健康をあたりまえに」をミッションに独立、ベースフード株式会社を創業。
BASE FOOD
「BASE BREAD」のメープル味とシナモン味を11/27に発売予定。これまでの生地よりふんわりしていて、リモート中でも食べやすい形状にこだわりました。
編集後記
日本は山や海に恵まれ、四季が豊かなことから、食事において素材を楽しむ文化が根付いています。そのため「フードテック」と聞くと、どうしても違和感を覚える人が多いのではないでしょうか?わたしもその一人でした。しかし、今回橋本さんのお話をお伺いし、フードテックは「栄養格差」という世界が抱える深刻な社会課題の解決方法のひとつであり、栄養摂取をないがしろにしがちな現代のわたしたちに寄り添ってくれる側面もあるということがわかりました。時間の余裕や身体の健康を得られる完全栄養食は、一人ひとりが自分らしい人生を歩む可能性を広げてくれるものなのだと思います。それが実現する未来を想像し、ワクワクしました。(未来定番研究所 中島)
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