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2018.05.05
空想百貨店。<全17回>
様々なECサイトの登場、テクノロジーの進化により、買い物環境は日々変化しています。リテールビジネスの店舗はこれから、どんな場所になったらいいのでしょう。
私たち「未来定番研究所」は、大丸松坂屋百貨店の部署のひとつとして、未来の百貨店のあるべき姿を日夜考えています。この企画では、多様なジャンルで活躍するクリエイターの皆さんの力をお借りして、未来の百貨店を自由に空想してもらおうと思います。
まずは、この企画を進めるにあたって、きっかけをくれた開発者の川田十夢さんと一緒に、“百貨店はどんな風だったら面白いか”について考えてみました。
(イラスト:KAZMOIS)
“これまで繋がりようがなかった尺度を持ち込む=百貨する”
F.I.N.編集部
川田さんは普段、百貨店に行きますか?
川田さん
よく行きますよ。遊園地感覚でいろいろと見て回るのが好きです。
F.I.N.編集部
そうなんですね。実はこの企画、以前川田さんに取材をさせていただいた際に、川田さんとの雑談から飛び出た、「百貨店でやってみたいこと話」がきっかけなんです。百貨店の未来を考える上で、どんなことを大切にしていったらいいと思いますか?
川田さん
今は、いろいろなことが過渡期ですよね。例えば、僕が連載をしている雑誌『テレビブロス』は、2018年の4月から月刊化して、テレビ誌なのにテレビ欄がなくなっちゃった。そうした“枠”がどんどん取り払われていく中で、百貨店という“枠”に今まで入っていなかったものを入れないと、人は来ないかなと思うんです。
F.I.N.編集部
なるほど。新しい要素を取り入れるんですね。
川田さん
今はアウトレットモールやショッピングモールに人が流れているけど、それらが満たすのは購買意欲だけ。でも百貨店は、売り物であろうがなかろうが、目利きとして選んだ良いものを揃えて、買い物の欲望を満たしつつも最後は文化を発信するべきではないでしょうか。こんなものがあるんだという驚きを提供するという意味で、“百貨する”視点があったほうがいいなと思います。
F.I.N.編集部
“百貨する”というのは、どういう意味なんでしょう?
川田さん
“百貨する”という意味は、横方向だけ、縦方向だけ、だったものに、奥行き方向の物差しを与えること。別々のフィールドで活躍していた人を繋げてみたり、あらゆるジャンルの層を並べてみたりなど、これまで繋がりようがなかった尺度を持ち込むということなんです。
F.I.N.編集部
なるほど。何か具体的なアイディアはありますか?
川田さん
例えば、店舗ごとにDJを立ててフロアごとに選曲。店舗限定のプレイリスト、コンピレーション盤を作るとか、小学校の教科書を世界中から集めたり、百貨店を舞台にした劇団や、これまでの通貨では買えない売り場を作ったりとか。どれも、“隣り合っていなかったものを結びつける=百貨する”という軸に沿っています。
F.I.N.編集部
瞬時にこんなに大量に出てくるとは……。全部面白そうですね。
川田さん
もうお腹いっぱいですか(笑)? その他にも、百貨店小説、百貨店ドッキリ企画、自動販売機展、試着室展などなど、まだまだアイディアは膨大にあります。
F.I.N.編集部
この「空想百貨店」の連載では、色々なクリエイターの人たちをお招きして、アイディアを出してもらおうと思っているんです。
川田さん
編集者やスタイリスト、演出家などを呼んで、その人自身の経験や尺度をもとに“百貨”してもらったら、バラエティ豊かなアイディアが出てくると思います。
F.I.N.編集部
企画のアドバイスまでいただき恐縮です……! ありがとうございます。
川田さんが空想する百貨店
①DJによる○○店限定のプレイリスト
店舗ごとにDJを立てて、独自のプレイリストを作るというのはどうでしょう。例えば、東京店の今月のDJは△△さん。食料品売り場、化粧品売り場、紳士服売り場など、フロアごとに選曲してもらって、1棟丸ごとの楽曲を合わせて一つのプレイリストが出来上がる。“場所のプレイリスト”というのは実はまだ世の中にはないですし、地域によってカルチャーも違うので、東京店と京都店の紳士服売り場では、選ばれる曲も違うと思うんですよ。店内には、買い物をしている人もいれば、イヤホン越しにフロアの音楽を楽しんでいる人もいて、共存できればいいと思います。通常のフロアマップの裏に、裏フロアマップとして楽曲が書いてあるのも、それを欲しいがために行く人が出てきそうでいいですよね。さらには、大丸レコードとして、コンピレーション盤を作り、その店舗限定で販売するというのもあり。これ、10年くらい前から言ってるんですけど、誰も相手にしてくれない(笑)。そろそろ技術的にも、モラル的にも、実装できるタイミングです。
②世界の教科書展
世界各国の教科書をずらっと並べて買えるのも面白いですね。僕は、教科書にすごく興味があって、特に面白いのが道徳。道徳の教科書にはそれぞれの国の違いが如実に現れるんです。例えば、アメリカは、「勝ったものが偉い」という考え方。道徳の教科書では、自分をいかにアピールしてリーダーシップを勝ち取るのか教えるんです。一方フランスの教科書には、「あなたが市長だったら、どうやって市民をまとめますか」という問題が載っていて、リーダーシップというものを子供に考えさせるんですよ。道徳教育というのは誰もが通る道で、大人になってからも、あらゆる場面で関わってくるものですよね。日本はもちろんのこと、各国の道徳の教科書を知ることは、世界の地理や歴史、宗教を知ることでもある。そういう教科書の奥行きを見せて、文化的広がりを見せたうえで、各国の商材をカラフルに見せる。お客さんは商品とともに、ちょっとした教養を持ち帰る。こうした立体的な学びを提供できるのも、百貨店ならではだと思います。
③劇団「大丸松坂屋」
実際の百貨店を舞台に、劇をやるという掛け合わせもいいですね。いつもと同じような買い物風景なのに、ある時間帯はまるっきり演劇公演にするんです。とてつもないクレーマーに対応してる人、試食を食べまくってる人、「これ売れてますよ」という言葉に敏感に反応する人、したり顔で掃除をしている人……全て劇(笑)。突然始まるとお客さんもみんなびっくりしちゃうけど、あらかじめタイムスケジュールが決まっていたら、純粋に楽しめていいじゃないですか。フラッシュモブとか、あれは嫌いな人は嫌いだし、実際にテロと見分けがつかないですから。ジリリリリーンと、上演のベルを鳴らせばいい。「百貨店あるある」を顕在化して少し大げさにして見せるっていうのは、百貨店愛の象徴でもあると思うんです。フロアを巡りながら見る演劇っていうのもなかなか面白いと思います。本当にすぐにやりたい。これはもう20年前から言ってますから(笑)。
次回から、多様なクリエイターの方たちをお招きし、自由に“百貨”してもらいます。乞うご期待。
川田十夢/開発者
1976年熊本県生まれ。AR三兄弟。公私ともに長男。通りすがりの天才。毎週金曜日22時からJ-WAVE『INNOVATION WORLD』が放送されている。『WIRED』日本版で毎号巻末に「THE WAY PASSED FUTURE」を連載。5月には、自身が企画・原案・開発をつとめるテクノコント vol.1の公演が控えている。
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編集後記
この企画の原点は、これまで取材の後、百貨店についての雑談をさせていただく機会に恵まれたこと。中でも川田十夢さんの自由で独創的なお話が、何とも印象的で、もっと掘り下げたいと考えてこのような形になりました。
今私たちは、過去の現実的なものに囚われず、まさに「百貨する」ことを考え直すチカラが試されています。今回のゼロ号以降は、クリエイターの方々とご一緒に「百貨する」ことについて、思考をうんと飛ばしがら考えていきます。果たして、どこまでぶっ飛べるのか? 最後は「空想百貨店グループ」が目標です!!
(未来定番研究所 前川)
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