地元の見る目を変えた47人。
2022.01.24
コロナ禍によって、私たちの食生活も変化し、存在価値が見直された自動販売機(以下、自販機)。これまで飲料がその取り扱いの中心でしたが、現在では冷凍品と併売ができるものまで登場しています。今後も日本の食を豊かにするであろう自販機の進化と未来はどうなっていくのでしょうか。高機能自販機「マルチ・モジュール・ベンダー(MMV)」や、冷凍自販機「ど冷えもん」など次世代自販機を製造・販売するサンデン・リテールシステム株式会社 広報室室長の芳賀日登美さんに聞きました。
(文:船橋麻貴)
誰でも簡単に操作できる、無人店舗を実現する自販機が登場。
店舗や倉庫向けの冷凍・冷蔵コールドボックスや、コンビニの冷凍・冷蔵ショーケース、コーヒーマシンなどを製造・販売するサンデン・リテールシステム株式会社。「冷やす・あたためる」をコア事業として、自動販売機の製造・販売を行っています。
2019年にリリースされた次世代型の高機能自販機「マルチ・モジュール・ベンダー(MMV)」では、商品を自由に組み合わせることを可能にし、一台で無人店舗を実現させました。
「これまでは飲料中心だった自販機でしたが、MMVではドリンクはもちろん、お弁当やおにぎり、サンドイッチ、惣菜パンなどの食品に加え、文房具や衣服といった日用雑貨も取り扱えるようにしました。MMVが一台あるだけでそこで店舗のように営業できる。人手不足が深刻な流通業界やサービス業界の一助となればという思いで開発しました」
また、どんな人でも自販機内の商品補充や入れ替えをできるようにした点も、自販機界にとって大きな進化だったといいます。
「実は、みなさんがよく目にする飲料の自販機は、複雑な構造のため、専門の業者さんが商品の補充や入れ替えをしなければならないんです。この高いハードルをどうにか下げたいと思い、MMVは一般の方でもそれができるシステムを構築しました。
また、従来のように商品が搬出口に出てくる仕組みではなく、ベルトコンベアを使って機械が商品を取りに行く技術や、商品探知システムを開発したことで、これまでの自販機では難しかった壊れやすい商品、お弁当や丼、そして卵まで対応可能になっています」
販売商品に合わせ、MMV1台の中でさまざまなパターンの温度帯に調整できたり、複数の商品を一度に3つまでまとめて買えるようになったのも、自販機における進化のポイントといえそうです。
コロナ禍で需要が激増。飲食店の窮地を救う冷凍自販機。
コロナ禍に見舞われる前より、サンデン・リテールシステム株式会社では、業界初の多彩な梱包形式の商品を販売可能にした冷凍自販機「ど冷えもん」の開発を始めていました。
「『ど冷えもん』の開発を始めたのは、2019年3月のことです。これまでの冷凍自販機といえば、おおよそアイスクリーム販売機くらいでしたが、開発当時、コンビニでも冷凍食品の需要が増え、消費者のみなさんの購買行動に変化が起きていました。冷凍技術が更に進歩し、冷凍食品はここ数年でもずいぶんおいしくなったと思います。個食も進み、弊社では冷凍自販機の開発を進めることにしたんです」
2020年春になると、コロナウイルスの拡大によって多くの飲食店は大打撃。それに伴い、個人事業主のお店でも自動販売機を導入したいという声が多く寄せられました。とくに、自分のお店の味をそのまま提供できる冷凍自販機が求められたのです。
「本当はもう少し先のリリース予定だったのですが、飲食店のみなさんから多くのご要望をいただき、支援したいという思いで、なんとか開発を進めて2021年1月に発売しました。現在では47都道府県に『ど冷えもん』を1,000台以上も設置していただいています。取り扱い商品で多いものは餃子やラーメン、珍しいものでいうとイクラや鰻ですね」
最大11種類、308個の商品を販売することができる「ど冷えもん」。コロナ禍によって急ピッチで開発を進めたものの、機能の充実度には実に驚かされます。
「液晶タッチパネルの搭載でスマートフォン感覚で簡単に商品を選べたり、オプションで電子マネーやQR決済などキャッシュレス決済に対応できるのはもちろんなのですが、一番はクラウドサービスのネットワークを通じて、遠隔で売り上げ状況や在庫確認ができるところですね。さらに、自販機内の温度がマイナス15度以上が90分続いた場合、販売中止になる機能も備えています。24時間いつでも利用できるからこそ、こうした機能を充実させることで、売る側にも買う側にも安全・安心を届けられたらと考えています」
時代とともに変わった自販機の未来。
自販機の歴史を振り返ると昭和期には、購入したカップラーメンを自販機内でお湯を注げる機種や、冷凍食品を付属の電子レンジで温められる食品自販機が大活躍します。
そして平成に入ると、缶ジュースや缶コーヒーが主流に。しかし、24時間営業のスーパーやコンビニなどの台頭によって、顧客獲得は困難を極めます。そんな中でも自販機を作るメーカーの努力は留まらなかったと言います。
「あまり知られていないのですが、今国内で最も省エネが進んでいるのは、自販機なんです。10年前、年間消費電力が約3,500kWだったのに対し、現在は450 kWほど。自動車で言えば、リッター150キロの走行を実現させたくらいの躍進なんです。これは私たちだけでなく、自販機メーカー全社の努力あってこそだと思います」
消費電力が減ると、販売者の光熱費が抑えられるため、運営する際の利益率は向上します。自販機の導入には初期費用がかかりますが、中間マージンを取られることもなく、省スペースだから家賃もそれほどかからない。現在の自販機の利益率の高さもまた、販売者のメリットになっています。
安いものを手軽にから、いいものを確実に買うに変化。
こうしてさまざまな変化が自販機業界でおこる中、消費者の購買の傾向にもさらなる変化が。
「EC販売や冷凍技術の向上などもあって、消費者のみなさんが専門店の味や、本物の味を購入できることが当たり前になったと思います。そんなこともあってか、自販機は従来500円以下の買い物が主流でしたが、現在は専門店さんが提供するような3,000円台と高額な商品もかなり多く売れています。またこれまで自販機で販売できる金額の上限が9,999円でしたが、非接触型キャッシュレス決済が機器に搭載することで、1万円以上の高額商品の販売も可能になりました。このように自販機はこの先もさらに、安いものを手軽にから、いいものを確実に買うというフェーズに変わっていくと思います」
撮影/YUKO CHIBA
【編集後記】
最近、街中を歩いていると目新しい自販機をよく見かけるようになりました。
その時は、「餃子まで自販機で買えるようになったんだ!」とただの1種の驚きで終わっていましたが、取材を通して、時代の変化・消費行動の変化にあわせて自販機は進化しているという事を目の当たりにしました。
1人の消費者として、今後どのような自販機が街中に設置されていくのか、注目していきたいです。
(未来定番研究所 小林)
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