2023.01.12

5年後の答え合わせ

第2回| 「中量生産」の5年後。

2017年に「Future Is Now」を立ち上げてから早5年。目利きのみなさんに、「5年後の定番は?」、「5年先の未来はどうなっているのか」など、さまざまな質問を投げかけてきました。その際の回答を元に、答え合わせを行っていく連載。

 

第2回は、「中量生産」について。この5年で気候変動やサステナビリティが意識されるようになり、大量生産からの脱却も促進しているように思います。今回は、2017年に「中量生産」を教えてくれた、作り手と使い手と伝え手を繋ぐ「ててて協働組合」共同代表の永田宙郷さん(ながた・おきさと)に、生産状況の現在地を教えてもらいました。

 

(文:大芦実穂)

■5年前の永田さんのご回答

Qあなただけが気づいている、5年後には定番になっている「もの」や「こと」は何ですか?

 

大量生産でもなく、少量生産でもない「中量生産」のように、新しい言葉や単位が生まれると思います。消費者がなんの充実のためにものを買うのか。機能の充実を求めて買うのか、物を通じた関係性を買いたいのか、そのポイントを大切にしなければいけない。そうなった時に、これまでのように大量か少量か、というような二択ではなく、中間を指し示す言葉が生まれると思います。また、「消費者」という言葉を使う企業が少なくなるのではないでしょうか。ユーザーのことはパートナーと思えるくらいの関係性が必要になると思います。オリンピックを経ているので、物欲のピークが終わった後に、どういう風にものを作って、ものを手にして、ものと付き合っていくか。そこが大切になってくると思います。

中量生産は、

5年間でスタンダードになった?

永田さんが運営に携わる「ててて見本市」のイベント風景。「中量生産・手工業」をコンセプトに、各地で小規模なものづくりを行う作り手と、販売を担うバイヤーの橋渡しを行っている

F.I.N.編集部

大量生産でも少量生産でもない、中量生産。最近では少しずつ耳にするようになってきましたが、今一度、中量生産の意味についてお教えいただけますか?

永田さん

スケールメリットを活かした大量生産でもなく、アートに象徴される希少性を売りにした限定的なものづくりでもなく、第三の選択肢として「中量生産」というものが一般的になるのではないかと以前お話ししました。つまり使い捨てできる消耗品ではなく、かといって手に届かない芸術品とも違う。その中間の「手にとれるし、使えるけれど、思いも伝わってくる、ちょっとだけ特別なもの」という位置づけです。

 

今から7年前の2015年、流行語大賞に「爆買い」が選ばれました。その頃、例えば京都のお土産屋さんに並ぶ商品の一部は海外で生産されていたりして、消費のために何かが歪み始めていました。

 

さらに遡って、2008年にはリーマンショック、2011年には東日本大地震がありました。その頃から、「丁寧な暮らし」や「ライフスタイル」という言葉が注目されるようになりましたが、市場には大量生産でつくられた安価なものか、少量生産の高価なものしかなくて、生活者はどちらを手に取ったらいいかわからなかった。その真ん中で、ちょっと背伸びをすれば手の届くものとして「中量生産」があるんじゃないかと。

F.I.N.編集部

具体的にはどのようなものでしょうか?

永田さん

職人や地域の背景がきちんとありつつ、生活の中でも使えるもの。素材や仕上げをおざなりにせず、細部にまで思いと良さが溢れるものづくりで、無理のない生活とものづくりの循環をもとめます。

 

例えば、素材視点で考える中量生産品を真鍮で例えると、真鍮の大量生産品は釘です。錆びにくく、用途によっては鉄よりも使い勝手がいいんですね。でも数百本で千円とかもう少し程度という世界。

 

その反面、真鍮の少量生産も存在していて、それは仏像です。すると今度は数十万円の価格帯になるし、1回買えば数十年とか何百年は持ちますから、そのあとが続かない。そんな中、富山で真鍮の鋳造品を手掛ける〈FUTAGAMI〉さんが考えた中量生産は、ペーパーウェイトやトレイ、ペンダントランプ、カトラリーなどの生活雑貨。安くはないけれど、大切に使い続けたい日用品として仕上がっています。同じ素材でも大量生産、中量生産、少量生産ではアウトプットも全く違ってきますよね。

F.I.N.編集部

「中量生産」の概念は世間に浸透していると感じますか?

永田さん

ものづくりに携わる方、それを伝えたり販売したりする方の間では、ある程度認知されたような気がしています。

 

先日、秋田県で全国の伝統工芸が集まる講演会が開催されたのですが、パネラーの方から「中量生産」という言葉が出てきていました。

F.I.N.編集部

消費のシーンを見たときに、5年前と大きく変わった点はありますか?

永田さん

やはりコロナ禍をきっかけとした、生活における視点でしょうね。オフィスに出勤していた方も、いったんリモートワークで家で仕事をするようになった。ずっと家にいるから、それまでは気にならなかったランプシェードの色とか、椅子とか、お風呂を洗うスポンジとか、生活の中にあるものを一度問い直すようになりましたよね。例えば、久々に家の椅子に長く座ってみて、なんだか空間や目的に対してしっくりきてないことがわかったから買い換えようとなり、インテリア需要も伸びました。コロナ禍は「この空間にしっくりくるものってなんだろう」とか「自分の思想や経済的にもしっくりするものってなんだろう」とか、心地いいものを探すきっかけになったんじゃないでしょうか。

 

あと、エシカル消費を心がける人も増えました。社会や未来にとって何がいいか、道徳的であるかどうか、そういう点を気にして購入する人も増えたように思います。

F.I.N.編集部

生産者側でも何か変化はありましたか?

永田さん

自社のプロダクト(ファクトリーブランド)をつくるメーカーがすごく増えましたね。コロナ禍中にオリジナルブランドを展開したところは多いです。切羽詰まって今やらないと食べていけないとか、今なら時間があって動き出せるとか、さまざまに理由はあったと思います。ただ、言い換えると自分のものづくりで何ができるのかをしっかり考えて挑んだり、本来やらなきゃいけないことに注力できた期間でもあったんだろうなと感じてます。

 

同時にウェブサイトを持つ生産者が増えて、直接オンラインショップで販売するようになりました。ですから、百貨店など、生産者と生活者の中間に立つ人は、その役割をもう一度問い直されたタイミングだったと思います。これからは右から左ではなく、中間に立つからこそ、「こっちの道の方がいいんじゃない」と案内したり、提案したりする重要度がどんどん上がってきそうですね。

 

コロナ禍になって、10年くらいのスパンで予想していたことが、3年くらいで過ぎ去った気がします。

F.I.N.編集部

これだけ生活者と生産者に変化があると、ものの価値も変わっていきそうですね。

永田さん

やっとですが幅広い層で「経年変化」が受け入れられるようになりましたよね。景気のいい時は、傷つくことを「劣化」と言いますが、不景気な時代は「経年変化」とか「ヴィンテージ」などと呼んだりする傾向はありましたが、いまは時間や物語の重なりを自分なりの価値を感じ取れる人が増えたように思います。

 

フランスでは、2022年1月から、「衣類破棄禁止令」が施行され、売れ残った新品のアパレル製品を焼却や埋め立てによって破棄することが禁止されました。なので、以前のように、製品を余るほどの量つくれなくなった。それで何が起きたかというと、高級メゾンがかつての商品を買い戻し、修繕して、販売しているんですよ。時間が経たものの価値を上げていこうというムーブメントが起きています。

 

ユニクロでは、ドイツ、アメリカ、シンガポール、マレーシア、台湾に、リペアスタジオがあって、修繕を引き受けています。2022年10月、世田谷千歳台店に試験的に「リ・ユニクロ スタジオ(RE.UNIQLO STUDIO)」がオープンしました。あと数年後には、おしゃれなリペア屋さんがたくさんできるようになると思います。その時には、「どこで誰がつくったか」辿れることが大事。つくった人は修理の方法もわかっていますから。そして、この流れの先にあるのは、顔が見え、素材を丁寧に使い、こだわりや思いも含めて伝える中量生産の出番ということだと確信してます。

中量生産でものづくりを行う作り手の方々

F.I.N.編集部

次の5年間でどんな「もの」や「こと」が定番になっていると思いますか?

永田さん

僕自身がやれたらいいなと思うことで、5年後くらいにスタンダードたったらいいなと思うのは、甘酒のスタンドです。コーヒースタンドはたくさんあるけれど、子どもや妊婦さんは飲めないし、意外と若い人も甘酒のもつ発酵の力には興味ありますしね。すでにある素材を今の時代に合わせてバージョンアップする試みが、今後どんどん増えていくんじゃないでしょうか。

 

コロナ禍や気候変動により、人々の消費態度は一変しました。永田さんの言うように、「ちょっといいもの」を買い求める人が増えたように感じます。「中量生産」でつくった人や背景のわかる商品を手に入れたら、今度は「経年変化」を楽しむ時代へと突入しそうです。いいものを大事に使う。当たり前のことですが、これまでできていなかったことを見直す5年間だったのではないでしょうか。

Profile

永田宙郷さん(ながた・おきさと)

1978年生まれ、福岡県出身。

金沢21世紀美術館、デザインプロデュース会社を経て、TIMELESSを設立。2012年より作り手・伝え手・使い手を繋ぐ「ててて商談会(旧ててて見本市)」の運営をはじめ、伝統工芸・地域産業のプロデュース、企業との事業推進、自治体プログラムの開発など、複数の切り口からものづくりに関わる。

https://nagataokisato.themedia.jp/https://tetete.jp/

【編集後記】

時を経て、オフライン/オンライン、大量生産/少量生産、男性/女性など、かつて二項対立と捉えられていた考え方が今一度問い直されているように思います。

生産者と生活者の中間地点に立つ私たち百貨店は、生産者のストーリーを借りて伝えるのではなく、商品を正しい知識とこだわりを持った目利きで揃えお店や売り場のストーリーをつくって生活者にご提案する、ストーリーテラーからストーリーメーカーへあるべき姿が変わってきているように思えます。

(未来定番研究所 小林)

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