case1|
case2|
case3|
case4|
case5|
case6|
case7|
case8|
case9|
case10|
case11|
街の一角が変わると、その場で行われる営みが変わり、人々の流れが変わり、街自体が変わっていきます。そんな変化の真ん中にある空間や建物を紐解いていくと、未来の街並みが見えてくるかもしれません。この連載では、街の未来を変えるようなポテンシャルを持った場所を訪ね、そのデザインや企画を担当した建築家やディベロッパーがどのような未来を思い描いているのかを探っていきます。
〈日建設計〉の社内ベンチャーチームから生まれたプロダクト「つな木」。小径の材木を繋ぎ合わせることで、さまざまなモノや場へと自在に組み替えられるユニットです。身近な木の可能性をひらく「つな木」は、どのような発想から生まれたのでしょう。開発者の大庭拓也さんにそのプロセスを伺いながら、木と都市、そしてこれからの建築のあり方を見つめます。
(文:片桐絵都/サムネイルイラスト:SHOKO TAKAHASHI)
「つな木」プロジェクト
木質・木造の開発研究を行う「Nikken Wood Lab」が推進する取り組み。小径の材木を組み立て・解体・移設できる「つな木」の普及を目指す。
「使える木」をもっと増やすために
F.I.N.編集部
「つな木」プロジェクトの母体である「Nikken Wood Lab」は、そもそもどのような経緯で発足したのでしょうか?
大庭さん
僕のモットーは「つくればつくるほど生命にとって良い建築」です。その答えの1つが「都市建築の木質化」でした。街に木造建築を増やすことで、木の利用が促進されます。すると、「収穫する→使う→植える→育てる→収穫する」という森林の健全な循環が生まれ、水源の保全や災害の防止、脱炭素の貢献、林業や製材所の活性化にも繋がります。そこで2018年、社内コンペで「Nikken Wood Lab」を提案し、活動をスタートしました。
F.I.N.編集部
あらためて、「つな木」はどういったプロダクトなのか教えてください。
大庭さん
ホームセンターなどで手軽に入手できる45mm角の材木を、クランプという金属部品で誰でも簡単に組み立てられるユニットです。解体・移設も容易で、同じ部材を使ってデスクや棚、ベンチ、プランター、イベントブースなど、自在に形を変えることができます。
「つな木」の活用イメージ
F.I.N.編集部
開発のきっかけを教えてください。
大庭さん
大きな気づきを得たのが、2020年に開催された「東京オリンピック・パラリンピック競技大会」の会場として設計した木造建築〈有明体操競技場(現・有明GYM-EX)〉や〈選手村ビレッジプラザ〉でした。
「木造建築」と聞くと、たくさんの木が使われるように思いますよね。しかし、中大規模の建築には多くの制約があり、強度や品質を満たすための高度な加工技術が必要となります。実際、〈有明体操競技場〉にも高精度に加工されたエンジニアリングウッドを使用しています。つまり、どんな木でも使えるというわけではないということ。そうなると、材料を供給できる製材所も限られてきます。
一方で、同大会の〈選手村ビレッジプラザ〉の設計も担当しました。こちらはセレモニーなどを行う場所で、大会終了後には解体する仮設施設です。そこで、単に建てて壊すのではなく、全国63自治体が伐採・加工した木材を集めて組み立て、解体後は各自治体へ返却し、別の形で再利用していただくという取り組みを行いました。
高密度に加工されたエンジニアリングウッドを使用した〈有明体操競技場(現・有明GYM-EX)〉(写真:鈴木研一)
大庭さん
これらの経験から、中大規模の建築を木造にするだけでは、思い描いている循環は生まれないと感じました。そして同時に、木は地域の人の手で可能性を広げられる素材だという実感も得られたんです。大きな建物だけでは限界がある。だったら発想を逆転させて、地域にある木を誰でも使える状態にできないだろうか、と。「商品を売る」のではなく、「インフラをつくる」というイメージから生まれたのが、「つな木」プロジェクトです。
「つな木」プロジェクトが目指す、森林の循環の流れ
製品化によって、供給の仕組みが固定されてしまう
F.I.N.編集部
プロダクトにしていくうえで、一番苦労した点は何でしょうか?
大庭さん
「つな木」の要である、接合部のクランプです。実は、その原点となったのも〈選手村ビレッジプラザ〉なんです。あの施設は解体を前提としていたため、木材を繋ぐ部分は、あらかじめ取り外しやすいように設計しておかなければいけませんでした。この時の研究が、クランプの形に生かされています。
ポイントは、木材同士をクロスさせて留められること。ビスなどで固定すると、少しでも長さが違ったり、曲がっていたりするとうまく接合できません。しかし「つな木」はクランプが木材の寸法差や曲がりなどのばらつきを吸収してくれるので、高価な材料も特別な技術も必要ありません。また木を組み替えれば、さまざまな用途で使い続けることができます。
そのほか、触れても怪我をしないように丸みを持たせたり、木に食い込む部分をギザギザにして強度を高めたりと、細部にまで工夫を施しています。さらに、90度で固定するものだけでなく、3Dに動かせるクランプも現在開発中です。完成すれば、もっと使い方の幅が広がると思います。
「つな木」のクランプ。WEBサイトではCADデータも公開している
F.I.N.編集部
実際には、どんな使われ方をされていますか?
大庭さん
パブリックスペースでのイベントで使っていただくことが多いです。とある池袋のまちづくりイベントでは、1,000個ものクランプが活躍したと聞きましたし、NHKのイベントでは、公園内に「つな木」が大規模に組みあげられていて驚きましたね。ただ正直、全貌はよくつかめていないんです。
というのも、当初は安全性や利用上の観点から、ある程度デザインを限定した木材付きのキットを展開していたのですが、そのように製品化していくと、自然と使う木の種類が狭まっていき、供給元が固定されてしまうことに気づいたんです。
地域にある木の利用促進が目的なのに、サプライチェーンを生んでしまっては意味がない。そこで、強度などの情報をきちんと開示したうえで、クランプを単体で販売することにしました。また、全国の事業者と「つな木つながるCLUB」というコミュニティをつくってクランプの使用・販売を委託したり、キットのレンタルも始めました。すると今度は個人レベルでの利用が増え、事例が把握しきれない状況まで広がったんです。
F.I.N.編集部
強度などの情報を開示し、使い方やデザインを利用者に開いたからこそ、広く、自由に使われるようになったんですね。
大庭さん
そうです。重要なのは〈日建設計〉が開発したことではなく、「誰がつくったものかは知らないけど愛用している」といった状態が全国に広がっていくことなので、理想のカタチに少しずつ近づけているのはうれしいですね。
こうした状況を踏まえて、今後は各地で生まれたデザインを集め、別の地域でも参考にできるようなプラットフォームをつくりたいと考えています。例えば、長野県のお祭りでつくられたやぐらの図面と材料が公開されていれば、それを見た福岡県の人がアレンジして、さらに違うやぐらをつくることができます。そんな風に、デザインの連鎖が生まれる仕組みを構築できたら面白いなと思っています。
熊本県南小国町で毎年催されている新嘗祭(稲の収穫を祝い翌年の五穀豊穣を祈るお祭り)で、地元の小国杉と「つな木」を使ったテントが設置された
日建設計総合研究所が主催する社会実験イベント「SMILE (Shibuya Mobility and Information LoungE)」にて、LUUPのポートエリアに、周辺地域の情報を掲示するラウンジを「つな木」で制作。渋谷の中心地2カ所に設置した
小さな穴から、新しいアイデアが生まれる
F.I.N.編集部
「つな木」の考え方は、そのほかのプロジェクトにも生かされていますか?
大庭さん
もちろんです。象徴的なものの1つが、渋谷にある〈北谷公園〉。ここは渋谷区初のPark-PFI(公募設置管理制度)による公園で、〈日建設計〉が「しぶきたパートナーズ」の一員として設計・運営に携わっています。ポイントは、公園内のカフェの外装材に木を使っている点。この木材は取り外すことができ、イベント時には「つな木」として公園内の屋台や仮設什器などに転用でき、平常時には建物自体が都市の貯木場として機能します。
また、「つな木」は風などで倒れないように固定する必要があるのですが、砂袋などの重りを使うと、屋台の配置が制限されてしまうことも。そこで、あらかじめ公園のいたるところに固定用のポールを差し込む穴を開けています。これによってイベントの柔軟性が増し、景観も保たれます。
〈北谷公園〉内のカフェ。この木材は取り外すことができ、イベント時には「つな木」として屋台や仮設什器に転用できる(写真:株式会社エスエス)
〈北谷公園〉のステージエリアに開けられた穴を使って「つな木」を設置した時の様子(写真:Shimei Nakatogawa)
F.I.N.編集部
小さな仕掛けが、場の使われ方に大きく影響するんですね。
大庭さん
「つな木」のクランプに穴を開けているのも、そのためなんです。何かを差し込んだり、ひっかけたりしてみたくなるじゃないですか。穴というとっかかりがあることで、アイデアを出しやすくなるんですよね。今僕が担当しているプロジェクトでは、意識的にあちこちに穴を開けています。
建築を完成させず、有機的な変化を促す
F.I.N.編集部
「つな木」プロジェクトでの経験が生かされているプロジェクトはありますか?
大庭さん
進行中のものですと、愛知県の三河安城駅近くで建設中のアリーナ〈三河安城交流拠点(仮称)〉があり、2028年を予定しています。基本はコンクリート造ですが、今後変化する可能性のある店舗部分は、木造のユニットとして増減できるようにしています。
フレームは大手ゼネコンが建設しますが、木造部分には地域の木材を使い、地元の大工さんの技術でつくれる構造にしたのも特徴ですね。大規模な建築であっても、地域の人が参加できる余地を残す。こうして、つくり手や材料の裾野を広げておくことも「つな木」的なアプローチだと思います。
〈三河安城交流拠点(仮称)〉の外観イメージ(Ⓒ日建設計)
〈三河安城交流拠点(仮称)〉の多目的コンコースのイメージ(Ⓒ日建設計)
F.I.N.編集部
「Nikken Wood Lab」の活動を通して、木と都市との関係性は変わってきたと感じますか?
大庭さん
そうですね。これまで森林と都市部の間には大きな溝がありましたが、「カーボンニュートラル」や「地方創生」といったテーマを通じて木材利用の取り組みが増え、都市と森林の双方が少しずつ向き合い始めている印象です。この動きがさらに進んでいけば、街に新しい循環が生まれ、景観やアクティビティもどんどん変化していくのではないでしょうか。
F.I.N.編集部
今後、都市にはどんな場が必要だと思いますか?
大庭さん
これまでの設計は、ある種、建築を「1つの瞬間に固定する」という行為だったと思います。しかし今後は、設計段階では一度形を定めつつも、完成させすぎず、時間とともに変化できる仕組みを組み込んでおくことが重要です。一瞬だけかっこいい建築をつくるのではなく、数十年後もクライアントや社会に寄り添い続ける。その状態をどうつくるのかということを、常に意識しています。
「つな木」は木から始まったプロジェクトですが、その思考は木以外の素材にも応用できます。例えば、現在設計中の表参道の商業施設〈GINSEN表参道プロジェクト〉では、サッシの表面にたくさんの穴を開け、そこにサインを取り付けたり、下地を付けて石張りにしたりと、テナント側で自由にアレンジできるようにしたいと考えています。
表参道の商業施設〈GINSEN表参道プロジェクト〉のイメージ(Ⓒ日建設計)
F.I.N.編集部
まさに「つな木」の応用ですね。
大庭さん
表参道地区の実態を調査すると、テナントの入れ替わりのたびにスクラップ・アンド・ビルドを繰り返しているビルが多いことがわかりました。今回の施設では、できるだけ同じことはしたくない。そこで「つな木」の手法を生かし、サッシそのものを取り外してスケルトンにできる仕様も検討しています。さらに、外したサッシを保管する倉庫を建築に組み込めば、新しいテナントが入った時に、また戻して再利用することができます。これによって、入れ替えに伴うコストや作業が減り、CO₂をはじめとする温室効果ガスの大幅な削減も期待できます。
F.I.N.編集部
テナントの入れ替えがしやすいと、施設はもちろん、周辺地域の新陳代謝も活発になりそうですね。
大庭さん
そうですね。竣工時にはブルーの外観だったのに、5年後には全然違う色になっていて、「あれ、こんな建物あったっけ?」なんてことも十分起こり得ると思います。建築を起点に、街の風景が有機的に変わり、育っていくと楽しいですよね。「つな木」がその小さなきっかけになればうれしいです。
大庭 拓也さん(おおば・たくや)
Nikken Wood Lab ダイレクター。2005年、福岡大学工学部建築学科を卒業。東京工業大学大学院に進学し、建築と地球環境について研究。2007年、〈日建設計〉に入社。数々の建築設計にて、農林水産大臣賞、環境大臣賞、林野庁長官賞、グッドデザイン賞などを受賞。
【編集後記】
使い手・作り手を選ばない、わかりやすく簡単なルール。やや曖昧な精度でも、保ち吸収してくれるアロアンス。カスタマイズを可能にする、無数の穴のデザイン。大庭さんが考える、自由な発想を生む余白と、継続性に必要な大きな「循環」の思考の全てが、シンプルで小さな「クランプ」に丸ごと宿っていました。
人が交流し、時間が流れることで、建築の中も外も移り変わっていく。その変化に関わる当事者である私たち一人ひとりが「つな木」的思想を取り入れていくことで、これからの「あるべき循環の姿」に近づいていけるのではないかと感じました。
(未来定番研究所 永井)
case1|
case2|
case3|
case4|
case5|
case6|
case7|
case8|
case9|
case10|
case11|
未来場スコープ
case11| 〈つな木〉木を巡らせ、街を育てる。
閲覧中の記事
case11| 〈つな木〉木を巡らせ、街を育てる。