未来定番サロンレポート
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2018.07.27
未来のキャッシュレスな暮らし。<全3回>
第1回目はストックホルムの街中で見つけたキャッシュレスについて、第2回はスウェーデンの人口6割以上が利用をするSwishと、キャッシュレス先進国となった経緯について特集してきました。
今回の最終回では、キャッシュレス化が進んで暮らしにどのような変化を与えたのか、良くなったことや改善したことに触れてみたいと思います。またストックホルムに暮らす女性2人に、彼女たちの身の回りではどのような変化があったのかをそれぞれお聞きしました。
(撮影:Markus Karlsson Frost)
大迫美樹(Miki Osako)/コーディネーター・ライター
コーディネーター、ライター。2007年よりスウェーデンのストックホルム在住。大学卒業後、アパレル会社や広告制作会社勤務を経て、スウェーデンへ移住。現在はスウェーデン人の夫と暮らしながら、フリーランスで雑誌や広告、TV、日本企業の仕事を中心にコーディネート全般、執筆を手がける。
インスタグラム:@mikikosmic
現金の消えた街で、感度の高い女性たちに起こった変化
キャッシュレス化が進んだことで、私たちの生活は大きく変わりました。実際、どこへ行ってもカード1枚で支払いができるのは、なかなか便利なものです。カードでの支払いは、現金払いに比べるとミスも少なくスムーズに決済ができ効率的。また、支払いの際に現金が足りず、ATMまで走る必要もありません。店が現金を取り扱わなくなることで、決済の利便化だけでなく犯罪の抑止にもつながっているのも事実です。スウェーデンの店や銀行の強盗犯罪は、2008年を境に大きく減少傾向にあると伝えられています。犯罪防止のための行政機関「Brottsförebyggande rådet」が発表している統計によると、2017年の犯罪自体は2016年より増加。一方、店や銀行の強盗に関しては13%減少しているんです。
また、最近スーパーやファーストフード店で増加しているカード決済用のセルフレジは、企業側の人件費削減にもつながっています。
キャッシュレス化に伴う様々なメリットがある中、暮らしの中での大きな変化のひとつに財布やバッグのコンパクト化があげられます。私も普段は小さなカードケースを財布代わりとして持ち歩いていて、カードケースのみの所持でいいので、バッグを選ぶ際の選択肢は遥かに広がったと感じています。
そこで、ストックホルムでファッション関係の仕事に従事するふたりの女性に、キャッシュレスが進んで彼女たちの財布やバッグ、ファッションに変化があったのか、またライフスタイルの変化についてお聞きしました。
ファッション関連会社プレス・Gunillaさんの場合
まずお話を伺ったのは、スウェーデンのファッション業界の教育や、ファッションフェアやイベントの開催などをしているStockholm Fashion Districtでプレスチーフを務めるグニッラ・グルッブ(Gunilla Grubb)さん。
彼女の日常的な支払いは、デビットカードだそうです。また最近では、Swishでの決済の機会も増えてきていると言います。ただ、他の国はスウェーデンほどキャッシュレス化が進んでいないので、海外旅行をする場合は、現金を使用しているとのこと。キャッシュレスのどんなところが便利なのかを聞いてみると、財布に入っている金額を常に把握する必要がないことや、重いコインやお札の入った財布を所持しなくていいところだと答えてくれました。現金を下ろすためにATMを探して列に並んだりすることもなくなり、時間も有効に使えているように感じるとも。では、ライフスタイルで変化したことはあるのでしょうか。
グニッラさん:「現金での買い物は、事前にお金を下ろして準備が必要です。でもカードの場合はその必要がなくなり、前もって計画を立てて準備をしなくても大丈夫なところがいいですね。またちょっとした散歩のついでの急な買い物でも、スマートフォンさえあればSwishで支払えます。ちょっとした変化ですが、昔と比べると随分と便利になったと思います」
グニッラさんはファッション面では特に大きな変化があったと言います。
グニッラさん:「大都市と比べてこの町は小さいので、手に入らないブランドはまだたくさんあります。でもカードでネットショッピングができるようになったおかげで、日本やフランスのようなスウェーデン国外からも手軽に服やバッグを手に入れることができるようになりました。しかもカード決済のおかげで、ややこしい支払いがないことも大きなポイントです。ファッションに関しては、キャッシュレス化で新しい世界が広がったと思います」
また、財布やバッグについての変化を尋ねると、この10年で確実に小さくなったとのこと。現金はほぼ持ち歩かないという彼女の財布はカードケースのみ。仕事にはPCを入れる必要があるため、トートバッグのような大きなバッグを持つこともありますが、日頃のお出かけ時はカードとスマートフォンに少しのコスメを持ち歩くのみのため、コンパクトなバッグをメインに使っているそうです。荷物が最小限で済むのはとても便利だと話してくれます。
グニッラさん:「そのうちお財布は必要なくなり、カードケースが主流になると思います。お財布というよりもカードとスマートフォンが入るくらいの小さなクラッチのようなものが人気となり、種類が増えそうな気がします。バッグの選択肢が増えると、それに合わせる洋服の幅も広がるので嬉しいことですね」
実はグニッラさん、ティーンエイジャーのお子さんふたりを持つ母でもあります。お子さんには13歳よりデビットカードを持たせているそうです。お小遣いはネットバンキングとSwishでのやり取りが多く、お子さんふたりも普段はカードとSwishの利用がメイン。現金はあまり使わないということでした。子どもたちのお金は、むしろ現金よりも管理しやすいと言います。
アパレル店員・Malouさんの場合
次にお話を伺ったのは、ストックホルムの人気セレクトショップ〈Jus〉で販売員をしているマロウ・フレス(Malou Frez)さん。
彼女も日常の決済は全てデビットカードだそうです。Swishも利用しますが、友人間で使うことが多いと言います。キャッシュレスの利点は持ち合わせが足りないという心配もなく、急な出費でも対応できるところだとか。キャッシュレス化により、彼女のライフスタイルは変化したのでしょうか。
マロウさん:「私の世代だと、ライフスタイルの大きな変化はないです。というのもデビットカードをティーンエイジャーの頃から使っているからです。もちろんこの近年で特にキャッシュレス化が進んだことは感じています。10代の頃は、ATMで現金を下ろすことが多かったのに、今はATMさえ行きませんから」
27歳のマロウさん。キャッシュレス化が急速に進んだのはこの20年ほど。キャッシュレス社会の中で育った今の10、20代の人々は、暮らしの中での変化がほとんどないことも頷けます。
マロウさん:「キャッシュレス社会で育った私でも、最近は財布もバッグもより小型化していることは感じます。私のお財布には小銭入れがついていますが、今はアクセサリーや薬、海外のコインなど、別のものを入れています。友人とパーティーや飲みにいくときは、いつもカード1枚だけをバッグに入れて出かけます。そのため、ちょうど素敵なカードケースを探しているところなんです」
財布の大きさを考えてバッグを買う必要がないため選択肢が広がるとも話してくれます。財布もコンパクトなことから、普段の外出はセリーヌのトリオバッグやクラッチで十分なんだそう。
マロウさんが働く〈Jus〉では現金払いも可能、とマロウさん。しかしスウェーデンの人々はほぼカード決済を利用するそうです。
マロウさん:「ショップ店員としては、現金を扱わなければ強盗の恐れもなく、安心して働けるのがいいですね。でも観光客に現金が使えることを伝えると、やっと現金が使えると喜んで現金払いをします。キャッシュレス先進国で暮らす自国民は何も問題ないですが、知らずに訪れた観光客はたくさんの現金を両替している人もいて、多くの場所で現金が使えず困っているようです。キャッシュレスは便利ですが、あまりにも進みすぎると困る人が出てくるのも少し心配です」
キャッシュレスは日本でも浸透するの?
この先、現金が消えてしまう可能性のあるスウェーデン。しかしマロウさんもグニッラさんも、現金がなくなっても特に困ることはないと言います。
ただしこのような急速なキャッシュレス化は、必ずしもメリット要素ばかりとは限りません。ストックホルムに住むお年寄りはモダンな人々が多いと感じる一方、デジタル化の流れについていけないお年寄りがいることも事実です。最近ではそのような取り残された人々をサポートする活動も年々活発になってきています。各自治体で年金受給者を対象に、インターネットの使い方からスマートフォンやインターネットバンキングの利用方法など、お年寄りのレベルに合わせたコースが開講されています。
私自身、スウェーデンのキャッシュレス化が進んだのは、デビットカードが主流というのも一つの理由ではないかと思います。デビットカードや、Swishのようなモバイル決済は銀行口座に直接アクセスして電子決済をします。後払いのクレジットカードと違って回収リスクが低いため、店側の手数料は激安だそう。日本へ帰国の際に不便だと思うのが、小さな商店やレストランほどカードがNGだということです。そこには、クレジットカードだと高額な手数料を取られてしまうという理由があるそうです。日本もデビットカードのような銀行口座を通して直接決済をする方法が主流となれば、小さな店でもカード利用が可能となり、きっとキャッシュレス化も進むのではないでしょうか。
あとがき
私が11年前にスウェーデンへ移住した頃、すでにバスや地下鉄は現金で乗ることができませんでした。そして様々なところでカード決済が可能で、なんて楽なんだろうと感じたことを覚えています。普段はお財布としてカードケースを持ち歩いているため、日本への一時帰国の際は、財布を用意して常にたくさんの現金を持ち歩かないといけないことに不便ささえ覚えます。キャッシュレス先進国のスウェーデンは、マイクロチップを手に埋め込んでいる人もいるほど。そのマイクロチップを使えば会社のオートロック解除や、自販機での飲食物の購入、そしてスウェーデンの国営鉄道にも乗ることができます。現金主流の日本でさえ、将来はキャッシュレス化が進むことはグローバル化の中では避けて通れない道であることは間違いありません。
現金信仰がまだまだ根強い日本。しかしカード決済が増えれば、スムーズな会計で行列が減り、それは私たちのストレス軽減にもなるのではないでしょうか。また店側も現金の取り扱いが減ることで、売上金の計算や銀行への入金の必要性もなくなり、より時間を有効に使えるかもしれません。そしてたくさんの小銭やお札を入れる必要がなければ、財布もバッグもコンパクト化して、よりファッションの選択肢も増えるのではないでしょうか。財布の中の残金を気にする必要がなく、ATMを探して雨の中走る必要もない。カード1枚あれば、もしくはスマートフォンひとつで買い物ができる。そう考えるとこの先キャッシュレス化が待つ日本も、思った以上に便利で暮らしやすい未来が待っていると思いませんか?
編集後記
キャッシュレス後進国の日本にいると、キャッシュレス化するのはまだまだ先の話に思えます。でも今回のスウェーデンの先行事例の話や、私たちの店頭で中国からのお客様を見る限り、何だかキャッシュレス社会の方が便利で快適、安全な印象。そして現金を管理する時間と労力、レジ待ちの混雑対策のような業務がなくなって、お客様への新しいサービスの提供へそのパワーをシフトできるのであれば、もっと一足飛びに新しいお買い物の世界が広がる気がしますよね。
まずは個人的に今以上に現金を使う機会をぐんと減らして、一人キャッシュレス化を進行。一回り小さいバッグを夢見ることから始めたいと思います。
(未来定番研究所 前川)
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