2018.04.06

若い作り手たちの、これまでとこれから。<全3回>

第1回| 「価値の再定義」を掲げる木地職人・酒井義夫さんの場合

日本の伝統と、職人の匠の技によって作られる伝統産業。いま、若い作り手たちのセンスと力によって伝統産業は新たな魅力を持って、世の中に発信されています。日本各地で活躍する、伝統の良さを生かしつつ、新しい風を呼び込む3名の作り手に、彼らの「これまでとこれから」を聞いてみました。1人目は、1980年生まれ、福井県鯖江市で木地工房を営む酒井義夫さんです。

「価値の再定義」を掲げてサスティナブルなプロダクトを製作。

越前漆器の町、福井県河和田地区の〈ろくろ舎〉の挑戦。

〈ろくろ舎〉は、漆器の土台を作る木地師の技術を継承しながら、「価値の再定義」をテーマにプロダクトを製作しているブランドです。2015年の「インテリアライフスタイル」展でヤングデザイナーアワードを受賞した植木鉢「TIMBERPOT」など、日本の人工林で問題になっている間伐材を使ったオリジナルアイテムを展開しています。越前漆器の町、福井県河和田地区で職人の伝統を受け継ぎながら、新たな試みに挑戦し続けている〈ろくろ舎〉の代表、酒井義夫さん(37歳)にお話を伺いました。

漆器には使われない間伐材に、

新たな可能性を見出したい。

酒井さん:「〈ろくろ舎〉のモノ作りで大切にしているのは、パーマカルチャーや持続可能な社会という考え方です。間伐材問題は全国的な課題ですが、2007年に福島県で豪雨があった時に、この河和田地区でも土砂崩れの被害が出ました。実のところ、手入れが行き届いていない人工林での被害が多かったんです。漆器には良質な広葉樹を使うので、針葉樹である間伐材は使いません。でも間伐材も綺麗な素材ですし、それを使ってプロダクトを作りたいと思ったんです」

20代の頃にニュージーランドでワーキングホリデイを経験。1本のストリートに生活に必要なお店が集まる小さなコミュニティに共感した。

「土に還る」をコンセプトに、木材に傷みや割れが生じ、自然本来の経年変化を楽しむスタイルを提案した「TIMBERPOT」は、フランクフルトの展示会「アンビエント」にも招待され、高い評価を受けました。そして、間伐材の有効活用を考える企業とともに、新たなプロジェクトもスタートしています。

什器ユニット「FRAME」にはエコロジー資源である間伐材が使われている。

酒井さん:「什器のシリーズ『FRAME』は、最初、間伐材を切り倒す企業〈CINQ〉さんから「間伐材を使って器を作れないだろうか」と相談を受けたんです。器は大規模な販売網がないとビジネスとして成立しないので、もう少し大きなサイズのプロダクトがいいと考えたんです。展示会の什器って選択肢が少ないんですよね。そこで、持ち運びができる多目的な什器の商品開発を行うことにしました」

『FRAME』のシリーズは多方面の展示会で什器として採用され、出展者たちの商品の魅力を引き出す“フレーム=額縁”として、新しいマーケット空間を演出しました。

吹き付け塗装の作業台には塗料の積層が生み出される。廃材として捨てられる運命にある資材を使った「SOU」のシリーズ。

関わる人や社会が良くなれば、

アウトプットは何だっていい。

北海道生まれの酒井さんは、上京後、働きながらバンタンのキャリアデザインスクールで家具デザイン学び、木工の仕事に就くために福井県に移住。マス向けのプロダクトを製造する会社に勤めた後に、心機一転、パン屋に転職。そして再び、木工の世界へ。伝統職人の木地師に弟子入りして、2014年に〈ろくろ舎〉を立ち上げました。興味深い経歴の持ち主ですが、仕事をするうえで大切にしていることはどんなことなのでしょうか。

ろくろく舎のモットーは、クリエイションとサスティナブルな意識で、社会を良くすること。

酒井さん:「根っこにあるのは、自分の仕事によって、それに関わる人や社会が良くなって欲しいという想いです。だから極端な話をすると、アウトプットは何でもいいんですよね。例えばパン屋では、「おいしい!」というお客さんの反応を直接聞くことができたのが良かったこと。『FRAME』のシリーズでは、僕はプロデュースという立場なので、実際に製作をするわけではありません。商品企画を考えて、チームを集め、職人さんの間に入ってやりとりをするのが仕事です。自分が関わるプロセスにおいて、必要とされる役割を担うことが大事だと思っています」

〈BEAMS JAPAN〉の拭漆椀や、〈LIFE IS A JOURNEY!〉のオリジナルマテ壺などコラボ製品も展開。

価値観を共有できる、

小さなコミュニティの関係性。

ビジネスの視点も考えながら、消費者と社会にとって良いモノを作ろうとする〈ろくろ舎〉には、企業コラボレーションの依頼も増えています。伝統的な木地職人としての仕事とともに、新たなビジネスモデルを開拓している酒井さんに、若手職人として感じる課題や、これからの展望についても伺いました。

酒井さん:「大規模生産によって低価格の器が生み出されるいまの社会では、伝統的な漆器産業が斜陽なのは仕方がないこと。でも、「最後の若手職人」なんて言われると、踏ん張らないといけないという責任も感じますね。木地職人だけで食べていけるならそれでいいですが、オリジナル商品や、企業とのコラボレーションも積極的に行う必要があります。また、海外市場を目指すなら、輸送費などを含めた1.5倍から2倍の価格設定で売れるのかを検討しなくてはいけません。結局、作る側も買う側も、ちょっとずつ頑張らないといけないのが現状です。〈ろくろ舎〉としてはこれからもオリジナル商品の開発に力をいれて、価値観の合う小規模の展示会に出展したり、個展を開いていきたいと思っています」

ろくろ舎

〒916-1221福井県鯖江市西袋町512

TEL:0778-42-6523

営業時間:11:00-19:00(ROKUROSHA FACTORY&STORE)

営業日:日曜日(ROKUROSHA FACTORY&STORE)