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2018.04.10

未来を仕掛ける日本全国の47人。

2人目 福島県白河市〈白河だるま総本舗〉14代目・渡邊高章さん

毎週、F.I.N.編集部が1都道府県ずつ巡って、未来は世の中の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”を見つけていきます。今回向かったのは、福島県白河市。〈rooms Ji-Ba〉ディレクター・バイヤーの石塚杏梨さんが教えてくれた、〈白河だるま総本舗〉の渡邊高章さんをご紹介します。

 

この連載企画にご登場いただく47名は、F.I.N.編集部が信頼する、各地にネットワークを持つ方々にご推薦いただき、選出しています。

300年続くだるま文化を、守り、進化させながら、未来に繋ぐ人。

鮮やかな朱色の伝統的なだるまから、歌舞伎役者やひょっとこをモチーフにした変わりダネのだるままで。〈白河だるま総本舗〉が手掛けるだるまは多種多様。推薦してくれた石塚さんは、「あらゆる角度からだるまを俯瞰し、其々の角度にあったビジネスを創出しようとしているところに未来を感じます。渡邊さんはクレバーで実行力のある方。しかも天性の人懐っこさで人を惹きつける魅力を持っている、スーパー営業マンです」と話し、日々刺激を受けているのだとか。渡邊さんは一体どんな方? お話を聞いてみましょう。

F.I.N.編集部

渡邊さん、はじめまして。東京では、満開だった桜もすっかり葉桜になり、季節の移り変わりを感じています。

渡邊さん

白河ではまだ明け方や夕方などは肌寒いですが、ようやく近所の桜が咲き始め、春を感じています。

F.I.N.編集部

良い季節がやってきますね。だるまと言えば、選挙の当選シーンなど、おめでたい場面に欠かせないですよね。

渡邊さん

この土地でも、家族の健康や会社の繁栄、高校や大学の合格や選挙での当選など、古来より人々が何かを願う際は、必ず白河だるまがそばにあり、人々の夢や希望を応援し続けてきたんですよ。願いごとをする際はまず、だるまの左目に目を入れ、成就したら右目を入れるという風習があります。

F.I.N.編集部

どのくらい歴史があるんですか?

渡邊さん

寛政の改革で有名な松平定信公の時代にまで遡ります。「民の生活をより元気に」という想いから幸運をもたらす縁起物として誕生し、〈白河だるま総本舗〉もこれまで300年もの長い間、地元の方々に愛され続けてきました。

F.I.N.編集部

300年前から地域の人々の心の拠り所だったんですね。白河だるまは、他のだるまとどんなところが違うんですか?

渡邊さん

特徴的なのは、幸運の象徴とされている「鶴亀松竹梅」が顔の中に描写されていることです。そのデザインは、谷文晁という有名な絵師が行ったと言われているんですよ。

F.I.N.編集部

由緒正しいだるまなんですね。とはいえ、時代の変化とともに、産業として難しい局面を迎えることもあったのではないでしょうか?

渡邊さん

そうですね。世界中の文化が入り交じることでライフスタイルの多様化が進み、人々の日本文化や伝統に対する関心は、以前に比べて薄まっているように思います。さらに、だるまの購買層もご年配や会社関係者の方などに限られるようになりました。冬の一時期にのみ市場で流通するなど、縮小傾向に進んでいたことは否めません。

F.I.N.編集部

渡邊さんは、どんな風にその状況に向き合っているんですか?

渡邊さん

私が取り組んでいるのは、若年層を中心にだるまを再認識してもらうこと。弊社が2017年に立ち上げたブランド〈Hanjiro〉が掲げる「伝統工芸はデザインで生まれ変わる」というコンセプトを念頭に、企業間コラボやオリジナル製品を生み出したり、実際に触れてもらう機会として、ワークショップなどのリアルな場を提供したりしています。

F.I.N.編集部

伝統に捉われず、だるまとの出会いのきっかけをたくさん提供しているんですね。石塚さんは渡邊さんのことを「スーパー営業マン」と称し、太鼓判を押していましたが、どんなことをモットーにして働いているんですか?

渡邊さん

楽しいと思うことを素直に楽しんでやることです。私は、物心がついた時からだるまがある生活が当たり前でした。でも、上京したことをきっかけに、それは当たり前ではないということを知ったんです。以来、どうしたらだるまが人々に広まっていくだろうと考えてきました。一つの考えや企画を実行することによって、また次の考えや企画が生まれる。この一連の試行錯誤を楽しんでいます。

F.I.N.編集部

ワクワクしながら働く姿も、多くの人を惹きつける理由のひとつなのですね。最後に、未来に向けて、意気込みをどうぞ。

渡邊さん

私には、日本の誇れる文化を産業として残したいという想いがあります。次の世代に文化や伝統を繋いでいくには、正面、側面、斜めから新たな可能性を模索し、まずは産業基盤を確立することが大切。直近の目標は、人々がだるまを買う文化を構築したり、だるまに触れる機会を増やしたりすることですね。いずれは、だるまを通して出会った人々に、白河だるまのファンになってもらえるよう、取り組みを続けていきたいです。

F.I.N.編集部

だるまが世代を問わず多くの人々にとって再び身近な存在になる日も、そう遠くはなさそうです。ありがとうございました。

白河だるま総本舗

〒961-0907 福島県白河市横町30

TEL:0248-22-7060

営業時間:10:00〜17:00

定休日:不定休

編集後記

最近、現代生活の用途に転換する方法や、その技術で美を追求する方法で進化する伝統的工芸品を目にすることが多くなってきました。白河だるま総本舗の渡邊さんは、デ ザインの力で「正面、側面、斜め」という3つのアプローチでの進化を楽しまれているのが印象的でした。

(未来定番研究所 安達)

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