2018.06.05

未来を仕掛ける日本全国の47人

10人目 群馬県桐生市 刺繍作家・高澤恵美さん

毎週、F.I.N.編集部が1都道府県ずつ巡って、未来の世の中の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”を見つけていきます。今回向かったのは、群馬県の桐生市。〈水金地火木土天冥海〉バイヤーの土村真美さんが教えてくれた、刺繍作家の高澤恵美さんをご紹介します。

 

この連載企画にご登場いただく47名は、F.I.N.編集部が信頼する、各地にネットワークを持つ方々にご推薦いただき、選出しています。

”群馬のものづくり”にこだわり、新しいクリエイションを提案する人。

地元である群馬県の桐生に伝わる”横振り刺繍”の技法を用い、”刺繍花”と呼ばれる、花をモチーフとした立体的なコサージュやアクセサリーを手がける高澤さん。その作品は、花びら1枚1枚の表情が異なり、繊細な美しさに多くの人が惹きつけられています。推薦してくれた土村さんは、「高澤さんは、今まで見たことのないような、実に美しい作品を生み出しています。外国産の安い素材や大量生産型の技術の波に流されず、地元の絹糸、地元の染色にこだわり100%”群馬のものづくり”を貫く彼女の独自性とクリエイションは日本が誇るもの。まさに日本の未来だと思います」と太鼓判。高澤さんご本人にお話を聞いてみました。

高澤さんの作品”刺繍花”。

F.I.N.編集部

高澤さん、初めまして。

高澤さん

こんにちは。

F.I.N.編集部

高澤さんの地元・群馬県の桐生市はどんなところなんですか?

高澤さん

桐生は織物の町として知られ、のこぎり屋根工場や多くの重要伝統的建造物が現存しています。ほかにも、桐生天満宮で月に1回骨董市が開催されるなど、古いものが好きな私にとって”わくわく”の多い町です。また最近、そういった古い建物を、アトリエやお店に利用する方が増えているのも、嬉しいですね。

F.I.N.編集部

そうなんですね。刺繍を始められたのは、どんなきっかけだったんですか?

高澤さん

21歳の時、たまたま立ち寄った横振り刺繍の展示会で、初めてこの刺繍が地元・桐生の伝統工芸だと知りました。横振りミシンの実演を見て、実際にミシンを踏ませていただいたことでさらに魅了され、その場で刺繍会社の社長さんに働かせてほしいと願い出たのがきっかけです。高度な技術を持つ伝統工芸士さんたちのもとで3年間働かせていただき、その後独立しました。

F.I.N.編集部

その場で……すごい行動力です。そもそも、「桐生横振り刺繍」とは、どんな歴史や特徴があるものなのでしょうか?

高澤さん

繊維産業の盛んな桐生市の伝統工芸として発達した、日本独自の刺繍の技法です。 針が横に振れる横振りミシンは、膝でレバーを動かして針の幅を変えながら、足元のペダルで針のスピードを調節し、手で刺繍枠を動かして刺繍していきます。重厚さと繊細なグラデーションが特徴で、婚礼衣装やスカジャンなどに多く用いられてきました。

横振りミシン。

F.I.N.編集部

そして、高澤さんはこの技法に一目惚れをされたと。

高澤さん

昔から絵を描くことや糸でものを作ることが好きだったので、まるで糸で塗り絵をするかのような横振りミシンの動きには、まさに一目惚れでした。十数年たった今でも、まだまだ完璧に扱うことはできないのですが、難しい技術だからこそ興味が尽きないです。

F.I.N.編集部

奥が深いんですね。高澤さんの作品は、花をモチーフとされていますが、どんな時にインスピレーションを受けられているんですか?

高澤さん

何気ない生活を送る中で、自分が強く心を動かされた時です。それは人やものとの出会いだったり、ただ日々目に映る景色だったり……。

F.I.N.編集部

今回高澤さんを紹介してくださったのは、〈水金地火木土天冥海〉のバイヤーをしていらっしゃる土村真美さんです。土村さんとはどのようなきっかけでお知り合いになられたんでしょうか?

高澤さん

2009年に絹糸で刺繍花の展開をスタートさせた時に出会い、これまでずっと、作品も自分自身も成長させてくれてます。私がネガティブな時には前向きなアドバイスをくださったり、新作の発表の時はいつも私の想いに寄り添って応援してくださったりと、とても頼れる大切な存在です。

F.I.N.編集部

素敵なご関係ですね。その土村さんは、「地元の絹糸、地元の染色にこだわり、100%群馬のものづくりを貫いているところ、そして情熱を持ってぶれない姿勢に未来を感じる」と話してくれました。刺繍花の美しさの理由のひとつでもある、群馬の素材や技術の魅力はどんなところなのでしょうか?

群馬の絹糸。

高澤さん

群馬の絹は滑らかな光沢が魅力で、特に養蚕農家さんに実際に伺ったことがきっかけで、より想いが深まりました。絹糸からはお蚕さんの息づかいを感じます。何年もの間、横振り刺繍と群馬の絹に魅かれ続けているのは、やはり自分と同じ土地で育ったものだからだと思いますね。また、作品に使用する群馬県産の絹『ぐんま200』は、桐生の染め屋さんで一色一色自分好みに染めていただいています。大量に仕入れる生糸は、まず横振り刺繍に適した糸に撚糸していただき、それを染め屋さんで精錬、染色し、ミシンにかけやすい量に分けて紙管に巻いていただいているんです。今は既製品の中にも、高品質で多彩な糸がたくさんあり、手軽に手に入れることができますが、群馬で養蚕が続く限りは、私はこの糸を使い続けたいなと思います。お客様が作品に触れた時、一瞬でもこの糸の魅力を共有できたら嬉しいです。

F.I.N.編集部

地元のものづくりへの強いリスペクトと、ぶれない姿勢がすごく伝わってきます。日々お仕事に情熱を注がれているかと思いますが、逆に、お休みの日や息抜きにはどんなことをされているんですか?

高澤さん

愛犬との散歩や実家の庭でぼーっとすることでしょうか。空はいつも表情豊かで面白いですし、花や野菜は季節の移ろいを色とりどりに教えてくれます。普段はほとんど毎日アトリエにこもってほぼ同じ姿勢で作業しているので、たまの休日にゆっくりとした時間を過ごすことで、心も体もほぐれますね。

F.I.N.編集部

たまにはぼーっと過ごす時間も必要なんですね。未来に向けて、高澤さんの目標を教えて下さい。

高澤さん

桐生のアトリエにお客様をお招きして、刺繍花のオーダーメイドをしてみたいです。また、今は衣食住で言うと、”衣”のものづくりをする場合がほとんどなので、”食”や”住”のシーンでも横振り刺繍で何か提案ができたらいいなと思います。異業種の方と触れ合ったり、いろいろな土地を訪れたりして、もっと広い視野を持てるようになりたいですね。

作業台の様子。

F.I.N.編集部

どんどん創作の幅が広がっていきそうで楽しみです。最後に、地域に根ざしたものづくりの理想像について、高澤さんのお考えをお聞かせください。

高澤さん

機械が何でもしてくれる世の中になっても、人の手によって受け継がれてきた”もの”や”こと”も無くならないでほしいと思っています。その土地ならではの技術や素材、作物でものづくりをしたいという方が現れた時に、地域全体でサポートすることでより良い暮らしができるような、そんな仕組みが日本中にできればいいなと思います。

F.I.N.編集部

ものづくりの未来の担い手を、地域全体でサポートする。これからの地域を考える上で、必要不可欠な視点ですね。ありがとうございました。

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