2018.04.13

若い作り手たちの、これまでとこれから。<全3回>

第2回| 技術と生産性を学ぶ若き女性塗師・嶋田希望さんの場合

日本の伝統と、職人の匠の技によって作られる伝統産業。いま、若い作り手たちのセンスと力によって伝統産業は新たな魅力を持って、世の中に発信されています。日本各地で活躍する、伝統の良さを生かしつつ、新しい風を呼び込む3名の作り手に、彼らの「これまでとこれから」を聞いてみました。2人目は、1992年生まれ、〈漆琳堂〉で塗師見習いとして働く嶋田希望さん。

(写真:片岡杏子)

江戸時代から続く「漆琳堂」に、若き女性が塗師として就職。

学んでいるのは、漆器を塗る技術と良品販売のための生産性。

2015年、漆器の漆を塗る職人「塗師」の世界に、ひとりの女性が23歳の若さで飛び込みました。現在、修行3年目を迎える嶋田希望さんが働くのは、江戸時代から続く福井県鯖江市河和田地区の老舗塗師屋〈漆琳堂〉。旅館などで使われる業務用漆器を手がける一方で、カラフルな漆器シリーズ「aisomo cosomo」や、現代の暮らしに寄り添う漆器「お椀や うちだ」など、オリジナルブランドも立ち上げている会社です。伝統産業では継承者問題が深刻ですが、嶋田さんが〈漆琳堂〉で働こうと思ったのはなぜなのか、お話を伺いました。

〈漆琳堂〉のオリジナルブランド「aisomo cosomo」。色彩豊かな漆器として好評を得ている。

色彩豊かな漆器に惹かれ、

「働きたいです」と電話をかけた。

嶋田さん:「漆に興味をもったのは高校時代に見た現代アートがきっかけでした。絵画作品の塗料として漆が使われていたんです。その後、京都伝統工芸大学校で漆の基礎を2年間学びました。でも、卒業してもやりたい仕事が見つからなくて、東京に戻ったんです。京都で学んだ京漆器の世界は作家性が強く、弟子入りが一般的。でも、お給料が安定しないんですよね。もちろん弟子の方々は目標を持って活き活きと仕事をしているんですけど、私にはしっくりこなかったんです。私は職人として数をこなしたいと思っていました。ある日、東京のセレクトショップで色とりどりの漆器「aisomo cosomo」を見て、『〈漆琳堂〉で働きたいです』と電話をかけたんです」

電話で応対したのは〈漆琳堂〉の専務であり、8代目継承予定の内田徹さん。当時、人材募集は行なっていませんでしたが、オリジナルブランドの展開や直営店オープンの計画などがあり、人を増やすことを検討していたそうです。内田さんが展示会の仕事で東京に来る際に、嶋田さんと面接をすることになりました。

嶋田さん:「学生の頃からいろんな色の漆を使って作品を作っていたので、専務に会う時には、卒業制作で作った茶席の器や自作のアクセサリーを持って行きました。専務からは業務内容や雇用制度、そして今後はお椀以外のモノ作りにも力をいれていくビジョンも話してもらえました。長年、職人の社員雇用はなかったけれど、これからの事業展開のために人を雇うことを検討していたそうです。漆は他の塗料と違って乾燥のプロセスなども特殊なので、私が学校で基礎を学んでいたのも良かったのだと思います」

回転風呂と呼ばれる機器で、上塗り後の漆器を乾燥させる行程。

(写真:片岡杏子)

若くても責任ある仕事をまかされ、

家族のようにサポートしてくれる環境。

そして嶋田さんは福井県に移住し、晴れて〈漆琳堂〉の塗師見習いとして働き始めました。基礎を学んでいた甲斐あって入社数ヶ月で刷毛を持たせてもらい、「下塗り」「中塗り」の仕事を経て、二年半が経過した現在では社長や専務について、仕上げの「上塗り」を学んでいます。

嶋田さん:「作品づくりではないので、生産性、スピードが大事だということを心がけています。漆器は乾かないと最終的な仕上がりがわからないので、その場での確認・修正ができない。緊張もしますね。社長や専務の仕事を目で覚えて、日々、注意しながら仕事をしています。漆の世界では、「下地3年、塗り10年」と言われるので、いまの環境はとても恵まれています。また、安定したお給料だけでなく、移住する家を探してくれたり、お昼には食卓を囲んでみんなで食事をしたり、家族のような感覚で受け入れてもらえていて、すごく働きやすいです」

製作途中に割れてしまった漆器を素材に使った、アクセサリーのシリーズ「kacera」。

生産性と売上のバランスを考えて、

新たなアクセサリーを開発したい。

〈漆琳堂〉では、嶋田さんの入社後も若い世代の雇用に積極的です。2人の若者が、直営店の店長、嶋田さんの後輩塗師見習いとして働き始めました。そして、塗師として1人前を目指す嶋田さんには、「漆琳堂」で実現したい新たな目標が出てきました。それは、金継ぎのワークショップとアクセサリーブランドの本格展開です。

嶋田さん:「器選びにこだわるお客さまから、『ひび割れてしまった器を金継ぎして長く使いたい』と言われる機会が多いんです。そのため、金継ぎのワークショップを開催したいんです。漆をもっと身近に感じてもらえるし、福井に訪れるきっかけにもなりますよね。ただ、金粉をまくのは塗師とは異なる技術なので、しっかり準備をしてから始めるつもりです。アクセサリーについては、今も『kacera』というシリーズがあって、これは、『aisomo cosomo』の製作過程で割れてしまった漆器を素材にして作っているもの。将来的には、アセサリーの独立ラインを作りたい。課題も多くて、絵をいれるためには蒔絵師の協力が必要ですし、色を増やすと乾かす時間が増えてしまう。生産性と売上のバランスを考えて、いい商品を考えていきたいです」

福井県鯖江市にある漆琳堂の直営店。工房見学(事前予約制)も行なっている。

職人の技術とともに、生産性と売上のバランスを考えることも、伝統工芸の未来において重要なこと。オリジナルブランドを展開し、直営店を運営する〈漆琳堂〉では、両方の視点をリアルに学べる環境が整っています。新たなチャレンジを続ける〈漆琳堂〉で、嶋田さんの若き感性がどのようなプロジェクトに発展していくのか、ますます期待が高まります。

漆琳堂

〒916-1221 福井県鯖江市西袋町701

TEL:0778-65-0630

営業時間:10:00-17:00 

営業日:日・祝日以外