目利きたちの、目が離せないアカウント。
2025.01.13
満たす
最近「満たされた」と感じたのはいつでしょうか。時代が進むにつれて世の中はモノがあふれ、「贅沢」を味わう手段も増えていきました。一方で、たくさん消費することよりも1点1点の質を重視する人、お金ではなく時間をかけること自体を「贅沢」に感じる人も多いよう。「贅沢」や「豊かさ」の定義が変化する今、私たちを「満たす」ものはどういったものなのでしょうか。目利きたちに自身の経験やアイデアを伺いながら探っていきます。
〈ペイトナー株式会社〉代表取締役社長を務める阪井優さんは29歳で創業し、現在6年目を迎えました。若くして社会的な評価を受けている方は、普段どんなことで「満たされた」と感じるのでしょうか? 今欲しいモノやコトはなんなのか、お金に対する価値観についても伺います。
(文:宮原沙紀/イラスト:YOSHIKO/サムネイルデザイン:久保悠香)
阪井優さん(さかい・ゆう)
〈ペイトナー株式会社〉代表取締役社長。1989年生まれ。大阪教育大学を卒業後、〈NTTドコモ〉に入社。その後ベンチャー企業の社員を経て2019年に〈ペイトナー株式会社〉を創業。フリーランスや中小企業の資金繰りをサポートするサービスを提供している。2021年には、Forbes JAPANが「今年の顔100人」として経営者を選ぶ「2021 Forbes JAPAN 100」に選出された。
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「お金のストレスをなくす」ことをミッションに、〈ペイトナー株式会社〉を創業
F.I.N.編集部
阪井さんが立ち上げたペイトナーの事業について教えてください。
阪井さん
ベンチャー企業に勤めていた頃、個人事業主の方や、中小企業の方と接する機会が非常に多かったんです。個人で事業をするには、お金の課題がたくさんあることをよく聞いていました。なかでも立ち上げ当初の資金繰りやキャッシュフローに困っている方が多く、お金を借りたいけど難しいなどの相談もたくさん受けました。フリーランスの方は、仕事をした後請求書を企業に送ります。その後お金が入ってくるまで大体1カ月から2カ月ほどかかるんです。そのタイムラグを埋めるために我々が立て替え払いをして、最短10分で前払いをするビジネスモデルです。
F.I.N.編集部
個人や少人数で働く人たちにとっては、とてもうれしいサービスですね。
阪井さん
「お金のストレスをなくす」ことをミッションの1つに掲げ、ビジネス上で障壁になっているお金の悩みを解決していきます。今後は、面倒なお金の管理をより楽にするようなウェブサービスや、ITツールの開発もしていきたいです。
若き実業家、阪井さんが今欲しいモノ・コト
F.I.N.編集部
忙しい毎日を過ごしていらっしゃる阪井さんの今欲しいモノ・コトを3つ、お聞きしたいです。一番欲しいものはなんですか?
阪井さん
プライベートの時間が少しは持てるようになったとはいえ、やっぱり「時間」が欲しいです。まだまだやりたいことがたくさんあって、仕事ももっとしたいし、筋トレをする時間も映画を観る時間も欲しいです。
F.I.N.編集部
1日が何時間あれば足りそうですか?
阪井さん
100時間でも200時間でも足りないかもしれません(笑)。無限に欲しいくらいです。
F.I.N.編集部
いくら時間があっても足りないのですね(笑)。2番目に欲しいものは何ですか?
阪井さん
「健康」ですね。なにか持病があるわけではないんですが、ずっと仕事をしていると腰や肩、目が痛いなどの不調は多々あります。仕事をするにあたって、不自由のない健康な体が欲しいです。
F.I.N.編集部
筋トレをされているのも健康のためなんですね。3番目を教えてください。
阪井さん
いつか家族が欲しいと思っています。この1、2年で自分の手から離れて社員に預けられる仕事も増えてきたので、そろそろ考えてもいいのかなと思っています。
F.I.N.編集部
モノが欲しいという願望はないんですか?
阪井さん
あまり物欲はないかもしれません。服も多くは持っていないし、車やブランド品も欲しいと思わないんです。周囲からはミニマリストだと言われます。
他人が喜んでくれることが一番の幸せ
F.I.N.編集部
では、阪井さんは何をしている時に満たされたと感じますか?
阪井さん
「自分1人が楽しい」ことでは、あまり満たされないんです。誰かが喜んでくれることに喜びを感じます。仕事をしていても自分がスキルアップしたことよりも、自分の仕事で誰かが助かったとか、感謝された時に満たされたと感じます。
F.I.N.編集部
昔からその考えをお持ちでしたか?
阪井さん
起業してから特に強くなりました。それまでは自分のスキルを身につけることに必死でしたが、自分で会社を興してからは1人でできることが限られてきました。多くの人と協力して結果を出したり、他人の喜びのために成果を出したりすることにやりがいを感じるようになってきたんです。
F.I.N.編集部
プライベートでもそうなんですか?
阪井さん
友人の起業相談に乗ることも多く、起業するまで一緒に伴走する機会も多々あります。今年も後輩が起業したんですけど、そのサポートもしていました。実際に売上が立ったと報告を聞いた時「生きていてよかった」と感じました。
F.I.N.編集部
個人的な楽しみのためにあまりお金を使わないんですね。
阪井さん
アート作品を集める趣味はあるんです。でも自分だけが観るのではなくてオフィスに飾って、誰かが見てくれて喜んでくれるのがうれしいです。
F.I.N.編集部
阪井さんの視線の先には常に誰かの喜びがあるんですね。
阪井さん
そうですね。この間も後輩が、これまで海外旅行に行ったことがないと話していたんです。「それは絶対行った方がいい」と思ったので旅行をプレゼントしました。
F.I.N.編集部
他人の旅行代を出すなんて、なかなか簡単にできることじゃないと思います。
阪井さん
他人の幸せを願うことは、もしかしたら究極のエゴかもしれないとも思っています。自分のことだけにとどまらず、他人の人生にも首を突っ込みたいという。見方を変えれば自分勝手でもありますよね。それが良い方向に行けばいいと、僕は思っているんですけど。
F.I.N.編集部
そういえば、〈ペイトナー〉には面白い福利厚生が充実していました。こちらにも阪井さんの「人を喜ばせたい」という考えが反映されているのでしょうか?
阪井さん
はい。僕のアイデアも入れて、面白く作っています。休日と休日で挟まれた平日がオセロのようにひっくり返って休日になる「オセロ休暇」や、「推しメン休暇」などいろんな福利厚生があります。
F.I.N.編集部
社員の皆さんは、活用されていらっしゃるんですか?
阪井さん
アイドル好きの社員も多いので、「推しメン休暇」を使ってライブに行くなど、皆結構使ってくれています。
F.I.N.編集部
とてもうらやましいです。
満たされるお金の使い方とは
F.I.N.編集部
お金を貯めることや増やすこと、例えば貯蓄や投資などは大事だと感じていますか?
阪井さん
趣味程度の投資はしていますが、実際は全然魅力を感じていません。持っていても自分の資産が増えるだけなので、それよりも誰か喜んでくれることにお金を使いたい。お金を増やすことよりも誰かとご飯に行って、ご飯代を出して喜んでもらう。そんな風にお金を使うことが多いかもしれないです。
F.I.N.編集部
寄付などもされているのですか?
阪井さん
大きな額ではありませんが、しています。将来的には困っている方に自分のお金を使ってもらえるような財団をつくる夢があるんです。まだまだ妄想段階ですが、困っている人の力になってより社会が良くなることに貢献できたらいいなと思っています。
F.I.N.編集部
会社の社員の皆さんにお金の使い方についてアドバイスをされることもあるんですか。
阪井さん
お金の相談を社員から受けることもあります。皆に伝えていることは、自分を高めたり成長したりするためにお金を使った方がいいということ。自己投資にお金を使うことで、仕事においてもリターンがあると感じているんです。
F.I.N.編集部
ここまでお話を聞いてきて、人の笑顔や自己投資のためにお金を使う阪井さんに感服するばかりです。お金や時間を浪費してしまったと反省することはないんですか?
阪井さん
夜お酒を飲んでそのままラーメンを食べに行くなど、健康を意識せずにノリだけでお金を使うことももちろんあります。何事も経験してみないと、それがどういう結果になるかは分からないので、一度は経験することが大事だと思います。
F.I.N.編集部
阪井さんのような「自分以外の人の幸せを願う精神」は、難しいと感じる人もいると思うのですが、この価値観は、これから広がってくると思いますか。
阪井さん
広がると思いますよ。日本人は謙虚で控えめという、ネガティブにも捉えられるイメージを持っている人も多いですが、それは日本人の良さでもあると思います。今後日本から世界に出ていくためには、相手のために陰ながら支える精神性をもっと海外の人に知ってもらうことも大事だと思うんです。世界の中でも真っ先に他の人にお金と時間を使うことで幸せがどんどん波及して、皆が笑顔になっていく。そういうことが体現できると、より日本が強くなっていくんじゃないかと思います。
事業を大きくすることで、より多くの人の幸せに貢献する
F.I.N.編集部
阪井さんのような考え方をしていると、人脈も広がっていきますか?
阪井さん
人脈を意識したことはないんですけれど、先ほどお話したように起業相談に乗ることも多いので、自然と「阪井は相談に乗ってくれる」なんて口コミが広がっているようです。まったく知らない人からSNSでメッセージが来ることもあり、徐々に人とのつながりが広がっている実感はあります。
F.I.N.編集部
人の輪が広がっていくのも豊かなことですね。今後経験してみたい「満たされる経験」はなんですか?
阪井さん
まだまだ小さな僕の会社ですが、もっと規模を大きくしたいです。会社の社員が、安心して楽しく働ける仕事環境を作っていくことが目標。例えばたくさんお給料がもらえる会社、働きがいのある会社、キャリアアップできる会社など多くの人が働きたいと思ってくれる職場を目指していきたいです。社員にも社会にも貢献できるようになれば、僕自身も満たされるかなと思っています。
F.I.N.編集部
阪井さんの今後のご活躍が楽しみです。ありがとうございました。
【編集後記】
ものが放つ魅力に日々翻弄され物欲に負けがちな自身を思いながら、阪井さんのような視野で発想できる方が、若くして経営者になるのだなあと改めて感動に近い確信を覚えました。日本人の、相手を陰ながら支える精神性について「世界に誇れるもの」で「日本は相当恵まれた国。真っ先に他の人にお金と時間を使うことで幸せが波及して世界が良くなっていくのでは」という、外から自分の国を見た方ならではの強い言葉は、その価値を感じられた稀有な時間となりました。ずっと気になっていた〝ノブレス・オブリージュ〟〜身分の高いものはふさわしい義務を負う〜という言葉が脳内を駆けめぐっています。
(未来定番研究所 内野)
目利きたちの、目が離せないアカウント。
F.I.N.的新語辞典
「働く」の解放