2019.03.27

アパレル業界で始まる、サステナブルな新サービス

日本で作られている衣料品は、年間で40億点。その一方で、約30億点と想定される100万トンもの衣料品が破棄されています(2016年経済産業省による)。大量生産され売れ残ったりした衣料品のほとんどは廃棄焼却されています。焼却では、大量の二酸化炭素が発生。廃棄される衣料品が環境へ与える影響は計り知れません。衣料の大量廃棄が社会問題となっている今、アパレル業界では、サステナビリティ(持続可能性)が求められています。そこで今回は、衣料品廃棄という課題にアプローチする新しいサービスを展開する「airCloset」の天沼聰さんと「Rename」の加藤ゆかりさんに、それぞれのサービスやアパレル業界におけるサステナブルなビジネスについて伺いました。

衣料品の新しい選択肢を提示する新サービス

 

F.I.N.編集部

まず、お二人が行っているサービスについて教えてください。

天沼さん

「airCloset」では、日本初の月額制ファッションレンタルサービスを行っています。300強のブランド様に参画していただき、我々のスタイリストが選んだコーデによって、お客様はいろんなスタイルを借り放題で体験できます。名前の通り、一生かけても買い集められないお洋服が入っている“エアーのクローゼット”を、お客様みなさんでシェアしていただく仕組みです。

加藤さん

FINEでは、メーカー様の在庫にアプローチして、アウトレットでも買い手のつかなかった洋服、いわゆる売れ残りを弊社で買い取り、「Rename」という新しい名前のタグに付け替えて再販しています。元のブランド名は表示されないので、そのブランドのイメージが傷つかずに済みますし、廃棄にかかるコスト削減が可能です。

F.I.N.編集部

そのサービスを始めたきっかけは?

加藤さん

FINEは、CDやDVDからスタートし、家具、家電、雑貨と、商材はいろいろですが、創業以来一貫してリセール事業を手掛けてきました。その過程で、廃棄されるしかないアパレルにたくさん出会ってきたんです。ものすごく安売りされたり、いったん販売が終わり廃棄されていったりする服を見て、「服って、こんな扱いを受けるものだったっけ?」という疑問が出てきて、アパレル事業にシフトしました。

天沼さん

「airCloset」は、“買うか”“買わないか”の二つしか選択肢がなかったお洋服に、“試着”という段階があれば、もっと自由に楽しめてワクワクするよね、というのが発想のスタートです。洋服は、破棄されるためではなく、人に着てもらうことを目的に生産されたわけですから、“試着”が洋服本来の目的を達成する選択肢になりますし、結果的に今回のテーマである「サスティナビリティ」にも繋がると思います。

F.I.N.編集部

どんな方が利用してますか?

加藤さん

9割以上が女性で、20代後半から40代前半のキャリア層が多いです。

天沼さん

「airCloset」は、現在はレディースのみの扱いで、30~40代の女性が中心です。中でも9割以上の方が働いていること、4割の方にお子さんがいることが特徴的です。女性は、ライフステージの変化が大きく、自分自身に使える時間が減ってきています。以前のようにゆっくりファッション誌を読んだり、買い物に出掛ける時間もない。そんな中、自宅で自由に試着できる我々のサービスが、お洋服に出会う機会をご提供できているのではないかと思っています。

加藤さん

おっしゃる通り、私自身も含め、女性には、学生時代はあんなにもファッションを楽しんでいたのに、年を経るごとになかなかできなくなってくるというリアルな感覚があります。

天沼さん

ファッションを楽しみたいのにできない。そのギャップが大きくて、より苦痛を感じるのは女性でしょうね。後発の企業様から男性向けサービスが出てきているので、男性のニーズも潜在化するかもしれませんが。

サステナブルは結果であり、目的ではない。

F.I.N.編集部

洋服をシェアする「airCloset」も、リセール事業の「Rename」も、作って販売し、売れなければ廃棄する従来のアパレル事業とは異なるアプローチであり、サステナブルなビジネスモデルです。そんな事業を展開するおふたりは、サステナビリティについて、どうお考えですか。

加藤さん

サステナブルであることは、ごく当たり前のことだと思っています。単純に、廃棄してしまったらもったいないじゃないですか。

天沼さん

賛成ですね。サステナブルであることの本質的な意味は、合理的であること。

無駄なものを生産しないことが、結果として環境配慮につながるのに、サステナビリティという言葉が、CSRのためだけに使われているケースもなかにはあるように感じています。合理的なことを求めるという当たり前のことを徹底的に追及した結果、サステナブルになっていくはずが、企業のブランディングという目的に「サステナブルであること」が使われていることがある。もちろん、CSRは大事ですが、問われているのは、本気度。「環境にいいことをしています」というポージングのためだけのCSRでは、真にサステナブルにはなれないのではないでしょうか。

加藤さん

本業の中で、結果的にサステナブルな仕組みを作ることが、社会的な価値を生んでいくわけで。結果から見たらサステナブルという形が理想ですよね。

天沼さん

そうなんです。何かを捻じ曲げて考えるから、無駄が生じて、サステナブルじゃない状態になってしまう。お客様や関係者の方々、ステークホルダーを大切にすることを真摯に突き詰めたら、そのままサステナブルになっていくはずです。よく「airCloset」をサステナブル的ということで取り上げていただくんですけど、サステナブルだと結果を判断していただけている意味では、とても嬉しいんですが、サステナブルであることが目的のサービスではありません。

加藤さん

「Rename」も同じです。業界の廃棄問題とか、目の前にある解決したい課題をクリアしようとしていることが、たまたま社会的なブームに合致したのであって、サステナブルなことをしようと取り組んだ事業ではないんですよね。

F.I.N.編集部

では、サステナブルな未来のために、アパレル業界全体としては、どんな課題があるのでしょう。

加藤さん

これまで、大量の服を廃棄せざるを得なかった理由が、必ずあるわけです。私はアパレル出身ではないので、業界の常識をそのまま常識として捉えられないんですね。プロパーとアウトレットを分けなきゃいけないことひとつとっても、業界構造が複雑でクローズドに感じてしまいます。そのことによって上手くいかないことが増えてきてるから大量廃棄などの問題が生じているので、もっとフレキシブルでオープンになることが、業界全体のサステナビリティにつながっていくのではないでしょうか。

天沼さん

もちろん、ブランディングは大切です。ブランド様がブランディングしなければ、ブランドではなくなってしまいます。ただ、情報が限られていた時代とは違い、これだけ消費者がさまざまな情報を得られる今、私はブランディングのプロではありませんが、守るべきところは守り、見直すべきことは見直すといった議論を投げかけてみることはできると思うんです。もう消費者が生産背景や環境に与える影響度を理解している現状があるわけですから、サステナブルなブランドを消費者と共に作っていくことが、今後、ひとつの価値になっていくと思いますね。

加藤さん

それでも、どうしても廃棄せざるを得ないものに対して、日本環境設計の取り組みが注目されていますよね。

天沼さん

弊社では昨年12月日本環境設計様とブランド様との着なくなったお洋服を回収して最後まで活かすプロジェクトをスタートさせました。第一弾として、〈フランドル〉様にご協力いただき、店舗で、ご自宅にある着ないお洋服を回収させていただきました。リユースできるものは、喜んでくださる方に着ていただき、できないものは、次の洋服作りに活かせる資材に日本環境設計さんにリサイクルしていただく試みで、大成功でした。

加藤さん

やはり、生産された衣料品の最終的な出口を増やすには、1社ごとの取り組みだとなかなか広がっていきませんよね。横とのつながりがあまりない業界なので、将来的には、もっと“ごちゃまぜ”になったらいいのにって思います。

天沼さん

アパレルの廃棄問題に真剣に向き合うプロジェクトに賛同してくださる方々が一丸となって、問題解決に取り組む動きが、今後増えていくといいですよね。我々も、より多くのブランド様と取り組んでいきたいと思っています。

Profile

加藤ゆかり

写真左)株式会社FINE代表取締役CEO。椙山女学園大学で心理学を学ぶ。卒業後、ミサワホーム入社。2008年、株式会社FINEを設立。名古屋でメディアソフトの卸売事業を始める。その後2015年、事業ドメインをアパレル事業にシフトして現事業に至る。

Profile

天沼 聰

 

写真右)株式会社エアークローゼット代表取締役社長 兼CEO。イギリスのゴールドスミス・カレッジで経営とコンピューターを学ぶ。2011年、楽天株式会社に入社。グローバルマネージャーを務めた。2014年、ライフスタイルに根付く“新しいあたりまえ”になるようなサービスを生み出すことを理念に起業。

お二人に共通するのは、現代社会の問題点をしっかり認識して、お客様がかかえていらっしゃる課題を真摯に考え、モノやサービスやオペレーションを考案していらっしゃるところでした。

それは、「サステナブル」というお題が先に有りきで考えるのではなく、「お客様の幸せ」を考えるという姿勢が、先にあること。

そこから発案された内容が、まさに今、現代社会が求めている「サステナビリティ」という価値に合致し、多くのお客様に支持され、愛されているのだと感じました。
(未来定番研究所 出井)