2026.04.17

TOKYO ART BOOK FAIR プロジェクトマネージャー・東直子さんの、わざわざ行きたい場所。

生活の多くがオンラインで完結するようになった今でも、私たちは何かを求めて外へ足を運びます。時間がかかっても、多少手間がかかっても、わざわざ行きたい。そんな気持ちを抱かせる場所には、どんな魅力があり、私たちは何を期待して足を運ぶのでしょうか。

 

F.I.N.では、好きな時に好きな場所へ出かけられる今、「わざわざ行きたい場所には何があるのか」という問いを手がかりに、目利きたちとともに、そこでしか得られない価値を考えていきます。

 

今回は、「TOKYO ART BOOK FAIR」(以下、TABF)の創設メンバーであり、現在もプロジェクトマネージャーとして人と人をつなぐ「場」をつくってきた東直子さんに、ご自身がファンとしてわざわざ行きたい場所を教えてもらいました。

 

■〈調理室池田〉オーナー・池田講平さんの回答はこちら

■クリエイティブディレクター・小野寺正人さんの回答はこちら

 

(文:大芦実穂)

Profile

東直子さん(ひがし・なおこ)

1981年、熊本県出身。2009年の第1回「TOKYO ART BOOK FAIR」の立ち上げに参画。以来、プロジェクトマネージャーとして、企画制作、運営、国際協働プログラムなどを統括。現在は福岡と東京の二拠点で、2024年より「Pages | Fukuoka Art Book Fair」の共同ディレクターを務める。国内外問わず出版にまつわる展示やイベントの企画制作などを手掛け、本と人が触れ合う場を広げている。

街の掲示板に、錚々たるアーティストの作品が出現

金沢〈Keijiban〉

一見すると何の変哲もない、どこにでもある街の掲示板のようですが、実はアートギャラリーなんです。しかも展示されているのは、イギリスの現代アーティスト、ライアン・ガンダーや世界的なコンセプチュアル・アートの牽引者、ローレンス・ウィナーなど、名だたるアーティストの作品。今年2月に金沢を訪ねた際は、フランクフルト出身のアーティスト、カティンカ・ボックによる17点の銅製の作品で構成されたシリーズ《Un autre commencement》が展示されていました。日常の延長線上にアートが飾られているという体験は、ネット上ではできません。それから、金沢には21世紀美術館もありますし、独立系のお店も多く、〈Keijiban〉の近くにある〈IACK〉という書店やギャラリー、ショップを巡るのも楽しみの!つです。

Katinka Bock《Un autre commencement》(2026)。写真:東直子

 

広大なランドスケープに圧倒される

札幌のアートパーク「モエレ沼公園」

札幌に行くと必ず訪れるのが、彫刻家のイサム・ノグチが、「全体をひとつの彫刻作品とする」というコンセプトのもとに設計した「モエレ沼公園」です。公園内にある人工の山の上から見下ろすと、日常ではなかなか感じられない広大な景色が広がっていて、いつ来ても圧倒されます。ありのままの自然の風景というよりも、幾何学的な形が随所に見られる均衡の取れた景色だからこそ、そのスケールや静けさがより強く心に残るのかもしれません。ここを訪れるときは、スイーツを持参して、山の上で食べるのが定番です。そのあとに公園を象徴するモニュメントのひとつ、ガラスのピラミット内でイサム・ノグチの展示を観る、という過ごし方をよくしています。TABFを一緒に運営しているメンバーの1人が、札幌と東京の二拠点生活を始めたことをきっかけに、札幌を訪れる機会が増えました。「モエレ沼公園」は、彼女に会いに来る度に足を運んでいます。

東さんが「モエレ沼公園」の芝生に寝転んで撮った写真。写真:東直子

人と作品に、予期せず出会える場所

アートブック書店〈flotsam books〉

本というモノだけなら今はネットでも買えますが、この書店に行かないと得られない情報やコミュニケーションがあるのが魅力です。店主の小林孝行さんから直接お話を聞くことで、書籍の魅力もより深く感じられますし、少部数で発行されているzineなど、その場でしか手に取れないものに出会えることもあります。小林さんは若手の作家を応援したり、展覧会を開いたりと、写真家のコミュニティにとって欠かせない存在。デザイナーや写真家の方々や近所の人たちがふらっと立ち寄って会話を楽しんだり、ときには一緒にゲームをしたりと、自然と人が集まる場所になっています。そうした場だからこそ、これまで知らなかった作家と出会えたり、ネット上では出会うことのない人と知り合えたりする。そんな予期せぬ出会いがあるのも、この書店の面白さだと思います。

〈flotsam books〉で開催された、写真家のヴァレリー・フィリップスの写真集発売を記念した展示。写真提供:flotsam books

東さんが、わざわざ来てもらうためにやっていること

「対話しやすい環境づくり」

写真:加藤甫

来場者の方も出展者の方も、受け身ではなく、当事者として楽しんでいただけたらと考えています。そのためには対話や出会いが欠かせないと考えていて、あえて少し高揚感のある空間づくりを意識しています。動線は広いほうが歩きやすいのはもちろんですが、広すぎると今度は気軽なおしゃべりが生まれにくくなってしまいます。どうすれば誰もがオープンにコミュニケーションできるか、そのバランスは常に考えています。

 

もう1つ大切にしているのが、メンバー同士での対話です。運営には、書店オーナーやディストリビューター、編集者など、異なるバックグラウンドを持つメンバーが関わっています。それぞれの得意分野や関心を持ち寄りながら、コミュニケーションを重ね、凸凹した部分も残しつつ、カタチにしていく。その過程で、1人では思いつかないようなアイデアが生まれてくると感じています。そうした発想のきっかけになるのが、何気ない雑談です。自由なひらめきから生まれたアイデアは、経験上、面白いものになることが多いので、気軽に発言できるような雰囲気や、雑談ができる余白は、いつも大事にしておきたいと思っています。

【編集後記】

東さんのお話を聞いていて、わざわざ足を運びたくなる場所の魅力は、そこで何かを手に入れることだけではないのだと改めて思いました。思いがけない人や作品との出会いや、その場にいる誰かとの会話から、思ってもみなかった方向へ関心が広がっていく。そんな体験は、まだオンラインでは置き替えられないことだと思います。わざわざ足を運ぶ面白さは、その場で自分の見方や気分が少し変わっていくことにもあるのかもしれません。

(未来定番研究所 榎)

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