2023.02.17

もてなす

おもてなしの実態調査2022-23 橋本真里子さん(株式会社RECEPTIONIST代表)

F.I.N.編集部が調査を続けてきたテーマ、「もてなす」。ちょっとした気遣いや小さな思いやりを感じることで、心が温かくなる「おもてなし」ですが、今、私たちはどんな気配りに心を動かされ、どんな心遣いを必要としているのでしょうか。F.I.N.編集部では各業界の目利きの方々に自身の体験を伺い、おもてなしの今から5年後10年後の未来を探ります。最終回となる9人目は、長年企業での受付業務をしてきた経験を生かし、デジタルの受付システムを開発した橋本真里子さんに、受付の心構えや、今後デジタルに置き換えられていくおもてなしの未来について伺いました。

 

(文:宮原沙紀)

Profile

橋本真里子さん

株式会社RECEPTIONIST代表。

1981年三重県生まれ。2005年から企業の受付業務を開始。その後11年にわたり、数々の企業で受付を担当する。2016年に自身の会社を創業。翌年にアプリ上で受付ができるクラウド受付システム「RECEPTIONIST」をリリース。現在では年間200万人に利用されている。

Q1.最近受けて嬉しかった、おもてなしを教えてください。

忙しい日々を過ごしていた幼馴染からのサプライズプレゼント。

高校時代の友人と、毎年お互いの誕生日にプレゼントを贈りあっています。私が入籍をした年は、珍しくそのプレゼントが届かず「忙しいのかな。元気でいてくれたらそれが一番のプレゼントだな」と思っていました。その翌年、私の結婚1周年の日にお花屋さんから立派な花束が届きました。夫からの贈り物かと思ったけれど、送り主はなんとその友人。お礼をしつつ、理由を聞いてみると「前の年は子どもの受験と重なり、誕生日にプレゼントを贈れなかったから」と、贈ってくれたのです。結婚記念日を覚えていてくれたことも、夫婦間以外ではあまり祝うことのないイベントでプレゼントをしてくれたこともとても嬉しく、彼女のおもてなしは花束以上の喜びを与えてくれました。

Q2.ご自身がおもてなしをする際、大切にしていることは?

too muchにならないこと。

私が定義する良い受付とは「無駄がない受付」。待ち時間がない、お客様に余計な負担をかけない、丁寧すぎない、質問しすぎないなど、お客様にとってスムーズかつシームレスで、心理的安全性が保てる受付が一番心地よいと考えています。会社の受付には、毎日いろんな方がいらっしゃいます。商談で来る方や、採用面接の方。さまざまな年齢、性別、関係性の方がいらっしゃるなかで、心地よいと思うおもてなしは人それぞれにあると感じます。そこで私たち受付のスタッフが「私たちの会社のおもてなしはこれです」と全員に押し付けてしまうと、それはお客様にとって重く感じられてしまうことも。迎え入れられているという感覚を、それぞれのお客様に持っていただけるようなおもてなしを常に心がけています。

周囲の人と関わるときも同じ。私は要所のタイミングで贈り物をしますが、それも過度にならないように気をつけています。相手のことを思い、どういったものであれば素直に喜んでもらえるかと考えることもおもてなしのひとつ。大層な贈り物は逆に気を遣わせてしまうので、日々の感謝をものだけでなく言葉や行動で表すようにしています。

Q3.5年先、10年先のおもてなしはどのようなものになっていくと思いますか?

おもてなしする方法、相手が形式的ではなく多様化していく。

「おもてなしはこうあるべき」という考えがどんどんなくなり、その方法やもてなす相手も多様になっていくと思います。例えばバレンタインデーに、自分が食べたいチョコレートを自分用に購入する方も増えていると聞きます。誕生日に自分のためにプレゼントを買う、マッサージに行って日頃の疲れを癒すなど、さまざまなシーンで「自分で自分をもてなす」ということが一般的になってきていると思います。自分へのおもてなしができると、「これは自分がやってよかったから、今度は友達や周りの人に届けよう」という発想にも繋がる。そんなおもてなしのかたちもこれからどんどん広がっていくのではないでしょうか。

そして技術や社会が進化することで、おもてなしの方法はさらに広がっています。10年前は贈り物をする場合、直接渡すか自宅や会社などに送るしかありませんでした。でも今は、スマホからスマホに電子チケットなどで贈り物をすることが可能に。場所やかたちを問わず、届けたい人におもてなしができる時代になってきていると感じます。

Q4. デジタル化した受付のシステムが、実践しているおもてなしは?

技術の進化を取り入れることで、
人にしかできないおもてなしに注力できる。

「無駄がない受付」を実現する。受付業務で心がけていたことを「RECEPTIONIST」でも大切にしています。お客様にとって必要のない機能は実装しない。シンプルで多くの人に使いやすいサービス提供するよう努めています。システムを採用してくださる企業さまからは、内線での呼び出し、取り次ぎといった業務がなくなり、誰かの仕事を中断するということが減った、効率が良くなったという声をたくさん頂戴しております。

 

私たちのプロダクトについて、「受付という仕事をなくすものだ」という意見をいただいたこともあります。たしかに今まで人がやっていた仕事をデジタル化することは、人の仕事を奪ってしまうというイメージを持つ方も少なくありません。しかしお客さまとの会話や、空気を読んで対応するといった行為はやはり人間にしかできません。私たちのサービスを取り入れることで、受付のスタッフがより人間にしかできない仕事にコミットができます。

今まで内線の電話だけが受付だった企業さまには、より親切な受付ができるようになったという意見もいただきますし、有人の受付とデジタルの受付両方を取り入れていただいている企業さまも多いです。選択肢が増えることで幅広いニーズに対応できるようになると思います。

【編集後記】

いつでもどこでも行き届いたおもてなしよりも、その人にとって、必要なことだけ、心に残るようなサービスが好まれるように変化してきたように思えます。

多様化されたニーズに対して、いかにもてなすか?「質」の部分は、上手にデジタルを利活用することで、上質なもてなしを実現できるようです。

一見、デジタルとおもてなしは、相反するように思えますが、より質の高いおもてなしを実現する為に、デジタルの力は欠かせないものになりそうです。

(未来定番研究所 窪)