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  • 人類学者・比嘉夏子さんに学ぶ、これからの組織に生かす第三者の姿勢。

2026.07.08

人類学者・比嘉夏子さんに学ぶ、これからの組織に生かす第三者の姿勢。

外からの視点が、物事の流れを変える。最近そうした場面を見かけるようになりました。新しい視点が交わることで、人々の思考や関係がほぐれたり、新しい発想が生まれたり。F.I.N.では、5年先を見据えた時「第三者の存在」が1つの鍵になると考えます。組織やチームの外にある視点がもたらすものや、そうした声の取り入れ方について、目利きの実践を辿りながら探っていきます。

 

今、ビジネス界で注目されている「ビジネス人類学」の旗手・比嘉夏子さん。企業や組織に人類学的アプローチを持ち込み、イノベーションや人材育成の支援まで、多岐にわたる協働を行っています。そんな比嘉さんの実践から、第三者の声を変化の原動力に生かすヒントを伺います。

 

(文:船橋麻貴/イラスト:Ayumi Nishimura)

Profile

比嘉夏子さん(ひが・なつこ)

人類学者、博士(人間・環境学)、山梨県立大学特任准教授。〈一般社団法人みつかる+わかる〉理事。アカデミアとビジネスの知を架橋すべく2022年に〈合同会社メッシュワーク〉を創設。人類学的なアプローチと認識のプロセスを多様な現場に取り込むことで、よりきめ細かな他者理解の方法を模索し、多くの人々に拓かれた社会の実現を実践的に目指す。著書に『贈与とふるまいの人類学―トンガ王国の〈経済〉実践』(京都大学学術出版会)、『地道に取り組むイノベーション―人類学者と制度経済学者がみた現場』(共編著、ナカニシヤ出版)など。

X:@natsuko_higa

「教える」のではなく「教わる」。

言葉の手前にある本質をすくう作法

F.I.N.編集部

比嘉さんは人類学者として、企業や組織のさまざまなプロジェクトに関わっていらっしゃいます。一般的なコンサルタントとは、何が違うのでしょうか。

比嘉さん

コンサルタントさんとの違いは、かなり「体を張って泥臭い」アプローチをしているところかもしれません(笑)。都市再生機構(UR)さんの団地の活性化プロジェクトでは、私たち自身がその団地に2カ月間住み込んだり、ある企業の長時間労働の改善プロジェクトでは、丸1週間現地に張り付いて現場の社員さんと一緒に過ごさせていただいたり。データ分析から入るのではなく、徹底的に現場に溶け込みながら相手の行動を観察する「参与観察」というアプローチでリサーチを行っています。

F.I.N.編集部

比嘉さんご自身が「第三者」として現場に入り込むうえで、大切にされていることは何ですか?

比嘉さん

「知っているから教える」のではなく、「わからないから教えてください」という姿勢ですね。人類学者って、どんなに偉い先生でもフィールドワークを行う時はその土地の人たちの弟子になるんです。

 

私も毎回違う現場に入るので、まずは1から「教えてください」と教わりに行きます。そのプロセスそのものが、実はすごく大事な観察になっていて。業界未経験の私に対して、現場のメンバーが「何から優先して教えようとするか」を見ていると、マニュアルには載っていない、その組織が本当に大切にしている価値観が浮かびあがってくるんです。

F.I.N.編集部

言語化されていない価値観や想いは、どのようにして掴んでいくのでしょうか。

比嘉さん

目の前にある言葉だけに頼らないことですね。ビジネスの場って、すべてをきれいに言語化して進めようとしがちです。でも、人間って自分の考えていることや大切にしていることを、急に聞かれてもとっさに言語化できないのが当たり前だと思うんです。

 

だから私は、1対1の面談をするようなアプローチはしません。それよりも、一緒に手足を動かす。学生たちにもよく言うのですが、「農家のおじいちゃんの仕事を理解したいなら、インタビューじゃなくて畑に行って1時間お手伝いしてきなよ」って。同じように対象を見て作業をするなかで、「ここはこうやって工夫してるんだよね」という生きた言葉が自然とあふれてくるんです。

F.I.N.編集部

たしかに、一緒に汗を流している時の方が、ぽろっと本音や生きた言葉が出やすい気がします。

比嘉さん

大人同士って、わかり合おうとすると急に「あなたはどう考えてる?」と、膝を突き合わせがちじゃないですか。でも、子供を連れて公園に行った時は、ただ一緒にそこにある世界を見て「あのお花、面白い形をしてるね」と言い合っている。それと同じことを、企業や組織の中でもやればいいのにと思うんです。

 

質問する・されるという関係性を崩して、同じものを見ながら「ああだね、こうだね」と対話する。直球の質問で「欲しい情報」だけを取りに行こうとすると、その周りにある本当に大切な本質を取り逃がしてしまいます。だからこそ、一緒に何かをしたり雑談をしたりする「余白」を意識的につくること。それが、私が第三者として現場に関わるうえで大切にしていることです。

いい第三者になれるのは、

新入社員や転職したての人

F.I.N.編集部

一般的に組織の中に外からの視点を入れると、「自分たちの何を知っているんだ」と頑なになる場合もあるように思います。そもそも人はなぜ、外側から来た意見に反発してしまうのでしょうか。

比嘉さん

皆さん「ちょっと違う視点が欲しい」とおっしゃるんですが、とても厳しい言い方をすると、身体のツボを押すのと同じで「痛すぎるのは嫌」なんだと思います(笑)。「あ〜、そこそこ」という適度な痛気持ち良さは欲しいけれど、絶叫するような痛いところをグッと押されると、「そこまで求めてない!」ってびっくりして防衛反応が出ちゃう。ただ、なぜ拒絶反応が起きるのかというと、実は「薄々気づいていたから」だと思うんです。

F.I.N.編集部

薄々気づいている、ですか。

比嘉さん

「ここがうちの組織のダメなところだよな」って皆さん何かしら引っかかっている。だけど、組織の中にはいろいろな力関係があったり、これまでの事情があったりして、ちょっとした違和感を表に出しづらい。どんな人でも組織に長くいれば、そこのルールを身につけ、適応していくので、違和感はどんどん「当たり前」になってしまいます。それは誰が悪いわけでもなくて、いちいち違和感を感じていたら、そもそも仕事がしづらくて生きていけないからでもあるんですよね。

 

だからこそ私は、新入社員や転職してきたばかりの人って、すごく良い「よそ者の目」を持っていると思っていて。入ってきたばかりの人って、「前の会社にはこんなルールなかったのに、何なんだろう」とか、小さな違和感を山のように感じるじゃないですか。外から来たての人ほどフレッシュに感じやすいので、彼らはものすごく良きフィールドワーカーになれるんです。

F.I.N.編集部

新入社員や転職者が気づいた小さな違和感は、企業や組織にとって課題解決のヒントになるわけですね。

比嘉さん

以前、新入社員研修で面白い試みをしたことがあるんです。新入社員の方々に、まだ直属の上司がいない段階で、先輩社員の人たちにインタビューをしてきてもらったんです。それを持ち帰ってもらって、「この会社らしさってどう見えた?」というのを皆で分析しました。組織にずっといる人たちが語る「私たちらしさ」とはちょっと違う、外から入りたての人たちのフレッシュな眼差しと、中から語られる言葉が重なり合うことで、新しい視点が編み出されていったんです。中にいると当たり前になってしまうからこそ、定期的に誰かがフレッシュな眼差しで見て、「たしかにそうだ」と気づくプロセスが必要なんですよね。そうやって企業や組織はもっと、社内の「よそ者の目」を活用したらいいのにと思います。

F.I.N.編集部

そうした「お互いの見え方の違い」に気づけないままだと、組織の中でコミュニケーションのねじれが起きてしまいそうですね。

比嘉さん

そうなんです。よく企業さんから「経営層が作ったMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)が現場に浸透しない」というお悩みを伺いますが、これってまさに、上層部が決めた言葉と現場の人が使う言葉の間で、すれ違いが起きている状態なんです。実は、公園で同じ花を見ている時のように、ボトムアップですり合わせれば、違う言葉を使っているだけで「同じ方向を目指していたんだ」とわかり合える可能性もある。だからこそ、組織の中と外、あるいは上と下を繋ぐ「翻訳者」が必要だし、それは組織の中に意図的に作ることができると思っています。

F.I.N.編集部

どんな人が企業や組織の中で「翻訳者」になれますか?

比嘉さん

例えば、特定の部署に完全には属さない「どっちつかず」の立場や部署を作ったり、誰かに「あなたは翻訳係だよ」と役割を与えたりしてみる。大事なのは、その人がいろいろな部署を流動的に動き回って、双方の言葉に耳を傾け続けること。企業や組織の中で長く働いてカルチャーが染みついていたとしても、実は他の部署のことまではよくわからないもの。だからこそ、部署をまたいで動き続ける存在が、立派な「翻訳者」になれると思います。

中の人でも、外の人でもない。

どっちつかずのよそ者が社会を豊かにする

F.I.N.編集部

完全なる外の人間でもなく、中の人間でもない。その間をグラデーションのように行き来する、比嘉さんのような第三者の存在が、これからの企業や組織には不可欠だと感じました。

比嘉さん

人類学者って、まさにその「どっちつかず」の典型みたいな人たちなんですよね。よそ者ではあるけれど、中に入って関係をつくって関わっちゃう人間というか。よそ者でもあるし、行為者でもある。そんな両方の視点を持って間を動く人間がいることが、すごく大事なのかなと思っています。私自身、人類学という研究の世界にもいながら、会社を経営してビジネスの現場にも入っているという意味で、どんどん「どっちつかず」の領域に入り込んでいっています。時々、孤独だなと思うこともありますけどね(笑)。

 

でも、今の社会を見渡してみると、少しずつ風向きが変わってきているのを感じます。フリーランスとして働く方が増えたり、複数の名刺を持って活躍する方がいたり。会社の役職でも部署の名前でも、昔より肩書きや自己定義の仕方がすごく多様になりましたよね。

F.I.N.編集部

たしかにそうですね! 自分の肩書きをあえて1つに絞らない、固定しない働き方や生き方を選択する人が増えている気がします。その「名付けられない領域」に身を置く人たちが、これからの社会の鍵になるのでしょうか。

比嘉さん

そうですね。外から一方的に変革を迫るのではなく、中と外の境界線を溶かしながら、お互いに影響を与え合う。そんな関わり方を持った人たちが、新しい視点を双方の現場にもたらしていく。そうやって動く人が増えるほど、社会全体の見晴らしがどんどん良くなっていくと思うんです。5年先の未来を考えた時、そういう「どっちつかずのよそ者」的なプレイヤーがより増えて、当たり前のように活躍する状態になっているんじゃないかなと、肌感覚で思っています。

F.I.N.編集部

最後に1つ、それぞれの場所で「第三者」として新しい視点を持ち込もうと奮闘している方も多くいると思います。時に「手応えが得られない」と心が折れそうになる瞬間があるかもしれません。そんな未来に向けて種を蒔き続けている人たちへ、比嘉さんからエールをいただきたいです!

比嘉さん

「これは何になるんだろう」と不安になる瞬間、本当によくわかります。私たちの仕事って、今日明日ですぐに目に見える結果が出るものではなくて、じわじわと変化の兆しが生まれたり、バランスが整っていったりするもの。例えるなら「漢方」のような仕事だと自覚しているんです。

 

だからこそ、「自分自身も、この土壌の一部であり、養分になっているんだ」というイメージを持ってみてほしいなと思います。自分がその組織や現場に一歩飛び込んだその時点で、そこの土の成分は確実に少し変わっています。自分がその場にいること自体が、もうすでに変化の一部だし、土壌を少し変えている。だから、「やってられない」と思う日があっても、企業や組織に心地よい風穴を開けているくらいの気持ちでやっていきましょう。

【編集後記】

比嘉さんのお話を伺って感じたのは、第三者の声は、そのままではなかなか届かないということです。外から見れば違和感があっても、中にいる人にとっては、これまでの経緯や日々の業務、関係性のなか、簡単には受け止められないことがある。だからこそ必要なのは、外からの意見をそのまま伝えることではなく、その声を組織の中にいる人が「解決した方がいい」と捉えやすいカタチに置き換えていくことなのだと思いました。

とはいえ、小さな違和感をすべて受け止めていたら、物事が前に進まなくなるのも事実です。日々の仕事には期限があり、優先順位があり、今は飲み込まなければならない場面もある。そこで大切なのは、違和感を「なかったこと」にしないことなのかもしれません。

第三者の視点とは、そうした小さな声をすぐに答えへ結びつけることではなく、まずは見過ごさず、みんなで考えられる問いとして置いてみるための第一歩なのだと思いました。

(未来定番研究所 榎)

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