未来定番サロンレポート
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2018.11.16
未来を仕掛ける日本全国の47人。
毎週、F.I.N.編集部が1都道府県ずつ巡って、未来は世の中の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”を見つけていきます。今回向かったのは、鹿児島県の薩摩川内市。代官山ワークスの丸山孝明さんが教えてくれた、東シナ海の小さな島ブランド株式会社の代表取締役を務める、ヤマシタケンタさんをご紹介します。
この連載企画にご登場いただく47名は、F.I.N.編集部が信頼する、各地にネットワークを持つ方々にご推薦いただき、選出しています。
土地に受け継がれてきた文脈を読み解き、暮らしの原風景を取り戻す人。
九州の南端・東シナ海に浮かぶ、鹿児島県の甑島。人口3000人に満たないこの小さな島で、ヤマシタさんは2012年、「東シナ海の小さな島ブランド株式会社」を立ち上げました。農業を皮切りにヤマシタさんたちが取り組むのは、とうふ屋〈山下商店〉、宿泊施設〈FUJIYA HOSTEL〉、そしてカフェレストラン〈コシキテラス〉など、様々な”もの”や”こと”、そして”場”づくり。「日本のおいしい風景をつくる」をミッションに、島の経済に息を吹き込み、土地の”ふつうの風景”を取り戻す活動を続けてこられました。推薦してくださった丸山さんは、「妻の紹介で一緒に仕事をする機会があり、知り合いました。ヤマシタさんは、とにかく“男が惚れる男”という印象。小さな島から誰よりも大きな夢や希望を発信し続け、過疎化で苦しむ地域を、子供たちに誇れる島に変えようとしている、その誰よりも熱い姿勢に、未来を感じます」と話してくれました。ヤマシタさんにお話を伺ってみます。
F.I.N.編集部
こんにちは。本日はどうぞよろしくお願いします。
ヤマシタさん
よろしくお願いします。
F.I.N.編集部
まずは、甑島について教えてください。どんな特徴のある土地なんですか?
ヤマシタさん
薩摩半島から西に約40キロの距離に位置する東シナ海の列島で、上甑島、中甑島、下甑島という3つの有人島とたくさんの無人島からなります。海域を含めて半分以上のエリアが国定公園に指定されていて、貴重な動植物の生息地でもあります。
F.I.N.編集部
素晴らしい大自然が残っている土地なんですね。どんな産業が盛んなのでしょうか?
ヤマシタさん
海に囲まれているので漁業が盛んではありますが、それ以外は主だった産業がないのが現状です。島内には、民宿や旅館などの宿泊施設もありますが、基本的には釣り目的のお客さんと、土木建設業の事業者向けに運営しているような状態。最近でこそ少し増えましたが、もともと観光地化されている島ではないので、街中を巡るような観光客もあまりいません。
F.I.N.編集部
なるほど。ヤマシタさんは甑島で生まれ育ち、中学卒業を機に島を出られたそうですね。
ヤマシタさん
はい。島には高校がないので、子供たちは皆、中学校を卒業すると島を離れます。僕は体が小さかったのでJRAのジョッキー養成学校に行ったのですが、厳しい減量生活に挫折し、一度甑島に戻り無職になりました。それが16歳のこと。夢を失い、何のために勉強するのか、何のために大人になるのかなど、どのように生きていいのか分からずに悩んでいた時期でもありました。当時抱いていた、”自分の居場所はここにしかない”、そして”故郷を好きになりたい”という思いが、現在の活動にも繋がっていると思います。よく「故郷が好きなんですね」と勘違いされるのですが、僕は必ずしもそうではない。好きになりたかったんです。
F.I.N.編集部
そうだったんですね。その後は、漁船の乗組員を経験されたり、また島を出られて京都の大学に進まれたりなど、様々な経験をされ、24歳の時に、再び甑島へUターンをされたと伺いました。東シナ海の小さな島ブランド株式会社を立ち上げようと思われたきっかけは、どんなことだったんですか?
ヤマシタさん
きっかけは、自分にとっての故郷の原風景が失われたことです。僕が甑島と聞いて最初に思い起こすのは、小さな港・ハトンダン(波止ん段)という場所。ここは江戸時代から続く石積みの防波堤で、真ん中にアコウの木があるんです。木陰では、漁師さんが破れた網を繕っていたり、奥さんたちが魚を干していたり、子供達が遊んでいたり、猫が遊んでいたり。おじいちゃんやおばあちゃんが夕涼みに来たり、世間話をしたり……。ここは、港を中心にした人々の暮らしの場で、幼い頃から好きな場所でもありました。そこがある時、更地になってしまったんです。それも、自分の父が運転するユンボによって。
F.I.N.編集部
鮮烈な出来事だったんですね。
ヤマシタさん
もちろん父にとっては、私たち家族の生活を守るために必要な仕事でした。みんなが当たり前にあると思っている美しくて豊かな暮らしの風景は、明日もそこにあるとは限らないのだということを、この出来事から教わりましたね。この学びを機に、しっかりと経済と結びついた形で、まちの文脈の延長上にある風景を取り戻したい、と考えたんです。そして、直接自分が種を植えて育て、収穫をする様が、そのまままちの風景になるのではないかと、農業を始めました。それが、東シナ海の小さな島ブランド株式会社につながる活動の始まりです。
F.I.N.編集部
ピンポイントでの経済活動が、暮らしの風景を作っていくとお考えになったんですね。
ヤマシタさん
僕は、風景というのは、人々の営みや暮らしの中から、自然と滲み出てくるものだと考えているんです。だから、暮らしそのものが成り立たなければその風景はいつかなくなると考えました。
F.I.N.編集部
なるほど。現在は農業に限らず、とうふ屋、宿泊施設、カフェレストランなど、幅広く活動をされていますが、一貫しているのはどんなことなんですか?
ヤマシタさん
”誰かの言い訳になる場”を作ることでしょうか。僕は、今の時代、言い訳がまちの中から消えていっていると思うんですよ。例えば、「水を汲みに、井戸に行く」など、暮らしの中で自然と発生する”仕事”を言い訳に、本当はみんな世間話をしにいっていた。それが、時代の流れとともに自然と失われていったんです。都会では、もしかするとその役割をスタバのような場が担うようになったのかもしれませんが、田舎町ではそんな新しい場が生まれることはなく、それどころか、カフェでお茶を飲もうもんなら、次の日には「あの人は働かない人だ」と後ろ指をさされてしまう。そんな閉鎖的な面もあります。でも、余白が排除されている世の中は、すごく息苦しいと思うんです。だから、例えばとうふ屋〈山下商店〉には、豆腐を買いに行くという”仕事”のついでに、コーヒーを飲んだり、世間話をしたりできるような空間を設けています。“仕事”を言い訳に、かつてハトンダンのアコウの木の下で起きていたような、自然な営みが生まれる場作りは、ずっと大切にしていることかもしれませんね。
F.I.N.編集部
“言い訳をしてつながれる場”、確かになくなっているような気がしますね。
ヤマシタさん
そうなんです。僕らの活動は、何かを新しく立ち上げているわけではないんです。これまで、価値がないと見過ごされてきたものや、大人の事情で失われてしまったことを、引き継ぎ、再生しているんです。でもそれは、例えば空き家だから何でもかんでもリノベーションしよう、再生しよう、ということではない。そこでの営みを大事に思ったり、まだ必要としたりしている人がいる場所にこそ、着実に光を当てていきたいと思っています。
F.I.N.編集部
そうなんですね。それだけ地域のことを意識した活動をされるのは、やはり地域への愛情ゆえなのでしょうか?
ヤマシタさん
もちろん愛情はありますが、核にあるのは、まずは自分が笑えることをしたいということ。自分が喜ぶ仕事をしなければ、隣にいるスタッフが笑顔にならない。ひいては、そのスタッフの隣にいる友達も笑えないわけですよね。でも逆に、僕らが喜んでいる姿を見て、隣の人もつられて笑う。そんな姿を見て、「なんかよくわからないけど、あいつら楽しそうにやってるよね」と。そういう輪が少しずつ広がっていくことで、結果的に地域が変わっていくのではないでしょうか。自分たちが幸せだと思える暮らし方やビジネスをちゃんと作って、目の前にいる人に喜んでもらうことを大切にする。その結果、地域が変わればいいなと思っています。
F.I.N.編集部
なるほど。確かに、自分や、周囲の人を幸せにするということが、地域を笑顔にする第一歩なのかもしれませんね。
ヤマシタさん
はい。ただ、地域のことで言えば、甑島で生まれ育った子供たちのために、という思いはあります。今は、長男だからとか、家業があるからという理由で故郷に帰らなくてもいい時代になってきましたよね。どんなまちで、どんな仕事をしてもいい。いくつもの選択肢がある中で、故郷というのは、選ばれないといけない場所になってきていると思うんです。大学時代は京都に5年間住んだり、海外のさまざまな都市を巡ったりしてきた中で、自分が気づいたことは、みんなが素敵だと憧れるまちにあるものは、甑島にもあるということ。姿やかたちは違うけれど、歴史や自然、土地が纏う空気感など、構成しているコンテンツはすべて甑島にもある。ただ、それをみんなが大事にしていなかったり、その価値に気づいていなかったり……。これまで見過ごされてきた要素にもう一度光を当て、取り戻す活動をすることで、子供たちには、甑島を選んで帰ってきてほしいなと思っているんです。ネガティブな理由ではなくて、甑島に夢を抱いて帰ってきてほしい。そんな思いを持ちながら、今は地ならしをしているところでしょうか。
F.I.N.編集部
子供たちが、無数にある選択肢の中から、甑島を選んで帰ってくる。そんな未来を作るための今でもあるのだと。素敵ですね。最後に、今後の目標はありますか?
ヤマシタさん
「東シナ海の小さな島ブランド株式会社」という名前は、英語では「island company」と表記します。この名前に込めたのは、甑島に限らず、鹿児島にある数多くの島々の中で、一番のリーディングカンパニーにしていきたいという思いです。デジタルが加速する今の世の中でも、“場”を作ることから逃げないでいたいなと思います。
F.I.N.編集部
今後のさらなる活躍が楽しみです。本日はありがとうございました。
山下商店 甑島本店
鹿児島県薩摩川内市里町里53番地
TEL:09969-3-2212
FUJIYA HOSTEL
鹿児島県薩摩川内市里町里172番地
コシキテラス
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