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2021.01.15
あの人が選ぶ、未来のキーパーソン。<全4回>
私たちの暮らしには、あらゆる分野の作り手たちによるさまざまなモノやコト、サービスが溢れています。それらを手掛けてきた各界の第一線で活躍する方々は今、5年先の未来を、どのように見据えているのでしょうか。この企画では、彼らに「未来の芽」とも言える次世代のキーパーソンを一人挙げてもらうことで、来たる社会について一緒に考えていきます。
今回お招きしたのは、NUMABOOKS代表の内沼晋太郎さん。新刊書店「本屋B&B」や出版社「NUMABOOKS」の経営、まちづくり会社「散歩社」の取締役をつとめるなど、本と人を繋ぐことで、本の可能性を広げる活動をしている内沼さんに、5年先の未来の担い手について伺いました。
(イラスト:星野ちいこ)
<内沼晋太郎さんが選ぶ、5年先の未来をつくるキーパーソン>
fuzkue 阿久津隆(あくつたかし)さん
阿久津隆さん
1985年、栃木県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、金融機関に入社。3年間営業として働いた後、2011年に岡山にてカフェを立ち上げ、3年間店主として一生懸命働く。2014年10月、東京・初台に「fuzkue」をオープン。2020年4月には2号店を下北沢にオープン。著書に『読書の日記』『読書の日記 本づくり/スープとパン/重力の虹』(ともにNUMABOOKS)、『本の読める場所を求めて』(朝日出版社)。
阿久津隆さんは、本にまつわる最も本質的な行為である「読む」ことについて、誰よりも真剣に考え、活動をしている人です。本を「読む」ための最高の環境を追求して、実際の空間に落とし込んでお店という形で広めようとしている彼は、本の未来を考える上で欠かせないキーパーソンだと思います。
彼との出会いは、僕が2014年から行なっている「本屋」をはじめる人のための学びの場『これからの本屋講座』でした。阿久津さんはこの講座の第1期生だったのですが、受講前からすでに「本を読むこと」に特化したお店をつくろうとしていて。そして実際にオープンさせたのが初台の〈fuzkue〉です。一見カフェのようにも見えるのですが、本がずらりと並ぶ店内は、本を読むのに最適な静けさがあります。おしゃべりやパソコン作業はできませんし、音を発生しやすいペンの使い方などにも注意するルールがあります。窮屈な制約のようにも思われるかもしれませんが、この一定のルールがあるがゆえに静けさが約束され、安心して読書を楽しむことができるのです。
彼のつくった〈fuzkue〉は、いわば本における映画館のような場所です。映画館が映画を観るための特別な場所であるように、〈fuzkue〉は本を「読む」ための特別な場所なんです。そのような場所を本にもたらしてくれたこと自体が、大きな変化ですよね。
僕が学生の時代からずっと、世の中では“本離れ” “読書離れ”が言われてきました。もちろんこれまでも、それに対してさまざまなアプローチがされてきましたが、彼ほど「読む」ということにこだわった場づくりを突き詰めた人はいなかったと思います。〈fuzkue〉が100年前から存在してもおかしくなかったはずだと僕は思っています。本がテクノロジーの影響でこの先どういう存在になるのかは、正直はっきりとはわかりません。でも、本を読むためのお店が全国各地に広まれば、それは、本にとって大きな革命。〈fuzkue〉が自分の街にあったらいいなと思う企業や団体、個人が増えることで、本の未来が少し変わるかもしれません。僕はそれを見つめ、応援しながらこれからも彼とさまざまな仕事をしていきたいですね。
<阿久津さんを教えてくれた人>
内沼晋太郎さん
1980年生まれ。NUMABOOKS代表、ブック・コーディネーター。新刊書店「本屋B&B」共同経営者、株式会社バリューブックス社外取締役、「八戸ブックセンター」ディレクター、「日記屋 月日」店主として、本にかかわる様々な仕事に従事。また、下北沢のまちづくり会社である株式会社散歩社の取締役もつとめる。著書に『これからの本屋読本』(NHK出版)などがある。現在、東京・下北沢と長野・上田の二拠点生活。
NUMABOOKS:http://numabooks.com/
編集後記
疑問に思わないことを、疑問に思う人が、未来のキーパーソンになるのかもしれないというお話が取材の中でありました。
読むという、人類の基本的な行動を突き詰め、読むための最高の環境を提供している、阿久津さんの活動は、情報過多と言われている世の中に、読書の価値の再定義をしているように思えます。
読む以外にも、様々な当たり前だと思いこんでいる行動を疑うと、新しい何かが生まれそうな気がします。
(未来定番研究所 窪)
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