2026.02.16

ビューティライター・AYANAさん、「美しい人」ってどんな人ですか?

古くから人は心惹かれるものを美しいとしてきました。しかし、そのあり方は時代や文化によって変化しています。古代から現代に至るまで、科学や哲学、美学などさまざまな領域で「美とは何か」を探る試みが続いています。私たちはなぜ彫刻や絵画に心を動かされるのでしょう。また夕陽を美しいと感じるのは、どんな理由からなのでしょうか。こうした問いを通じて、自分では思いもしなかった美に触れることで、新しいものの見方を取り入れられるかもしれません。今後も移り変わっていくであろう「美」に対する価値観や意識について考えます。

 

今回お話を聞いたのは、メイクアップやコスメといった外見的な美に留まらず、言葉の選び方や佇まいといった内面からにじみでる美しさについても発信してきたビューティライターのAYANAさん。これまで数多くの「美」と向き合ってきたAYANAさんに、美しいと感じた瞬間や美しいと感じる人について伺いました。

 

(文:大芦実穂/写真:善村仁)

Profile

AYANAさん

ビューティライター、OSAJI メイクアップコレクションディレクター。コラム、エッセイ、インタビュー、ブランドカタログなど広く執筆。商品企画開発・店舗開発等の経験を活かし、ブランディング、商品開発などにも関わる。著書に『「美しい」のものさし』、『仕事美辞』(ともに双葉社)。

https://ayana.tokyo/

場の空気をふっと緩められる人は美しい

「この人美しいな、と思う瞬間はそれほど多くないんです。むしろ、どんな人の中にも美しさがある、という感覚のほうが強くて」

 

どんな人が美しいと思いますか?という問いに、返ってきたのは意外な答えでした。

 

AYANAさんが「どんな人でも美しい」と感じるのは、外見だけでなく、その人がどんなふうに物事を考えているかに目を向けているからだといいます。

 

「私が美しいな、と思うのは、意外な視点をくれる人。世の中で一般的に捉えられていることに対して、思わぬ切り口を差し出してくれる人は魅力的だなと思います。アーティストやクリエイターに限らず、友人との何気ない会話の中で感じることもあります」

 

こうした考え方に至った背景には、SNSの存在も大きいといいます。

 

「今の時代、SNSの影響もあって、二項対立でバトルしがちですよね。自分が属している側と、相反する立場の人たちが、お互いを理解できないまま、それぞれの正しさを主張してぶつかってしまうことが多いと感じます」

 

だからこそ、AYANAさんが惹かれるのは、AでもBでもない、Cという新しい視点をくれる人です。

 

「『そんな考え方もあったんだ』と、その場の空気がふっと緩むような瞬間があるというか。そういう人には、こうでなければならない、という強い主張よりも、面白がっていきましょうよ、という柔らかさがある気がします」

 

場を緩めるという点では、コミュニケーションの在り方にも美しさを感じるといいます。

 

「昨年の夏にインタビューした、エルメスのビューティラインのディレクター、グレゴリス・ピルピリスさんも、印象に残っている『美しい人』の1人です。個で突出するのではなく、多くの人とのコミュニケーションのなかからものづくりをしていく。その在り方が、とても素敵だと感じました」

時代とともに変わる、美しさの基準

社会における「美しさ」の基準は、時代とともに移り変わってきたのではないか、とAYANAさん。

 

「女性誌やブランド広告では、コロナ禍をきっかけに、多様性が強く打ち出されるようになりました。さまざまな背景を持つ人が『美しい存在』として可視化されていったと思います」

 

しかし、その流れが今も同じカタチで続いているかというと、そうともいい切れないと話します。

 

「コロナ禍があけて改めて見てみると、意外と画一的な『美』が打ち出されていると感じる場面もあります。揺り戻しのようなものなのかもしれません。ただ、SNSが広がったことで、多様な美しさに触れられる機会自体は、確実に増えているとも思います」

 

こうした変化は、外見に限った話ではありません。内面に向けられる「美しさ」へのまなざしもまた、少しずつ移り変わってきました。

 

「少し前まで、奥ゆかしさや清楚さが美しいとされていましたよね。でも次第に、女性が自己実現していくことや、自分たちの権利をきちんと考えられる人が美しい、という価値観も広がってきたと思います。

 

そうした流れの中で、今、魅力を感じている存在として挙げるのが、俳優の小芝風花さんです。

 

「自分を下げることも、過剰に上げることもなく、ただそこにいて一生懸命にやっているように感じられる。その姿がとても美しいと感じます。頑張っているのに悲壮感がなく、無理をしているように見えないところも印象的です」

未来の美しい人は、「生きる力」がある人

コロナ禍から現在に至るまで、わずか数年のあいだに、人々の「美」の基準は大きく揺れ動いてきました。5年先、10年先の未来には、どんな人が「美しい」とされているのでしょうか。

 

「これからは、生命力を感じる人に美しさを見いだしていくのではないかと思います。時代がどんどん大変になっていくなかで、それを打開する力や、生き抜く力を持っている人です」

 

AYANAさんが言う生命力とは、単に前向きであることや、楽観的であることだけではありません。

 

「現実から目を背けるのではなく、時代にきちんと腰を据えたうえで、『どうやって生きていこうか』と考える姿勢がある。この人と一緒にいたら、なんだか楽しそうだな、と思わせてくれる人が、これからはより魅力的に映るのではないでしょうか」

 

そのイメージに近い存在として例に挙げるのが、YouTubeやTikTokで恋人との日常を発信するConyさんです。

 

「Conyさんは、発言や表情のそこかしこから生命力を感じる方です。ネガティブな状況に対しても前向きなだけでなく『そうやって返すんだ?』という機転があって、元気をもらえます。特別なことをしているわけではなく、日常のやりとりそのものが、こんなにも楽しいものなんだと教えてくれる人です」

「こうなりたいと思えるような人がもしいたら、まずはよく観察すること。理想だと思う人の言葉やふるまいに意識的に触れ、『この人ならどう返すだろう』と考えながら日常を見てみる。そうすることで、少しずつ自分の中にも取り入れられていく気がします」

 

ただ、何かの基準について、そこまで真剣に受け止めすぎなくていいというのが本音だそう。そう思うようになった背景には、ポッドキャストの『歴史を面白く学ぶコテンラジオ』の影響があります。

 

「歴史を知ることで、人がどれほど時代の空気に影響されてきたかが見えてきます。価値観や、何を幸せだと思うか、何が正しいとされるかは、本当に簡単に変わってしまう。だからこそ、目の前の出来事に近づきすぎず、少し引いた視点で眺めてみる。その感覚が大事だと思うようになりました」

 

最後に、時代が変わっても、変わらない「美しさの価値」についても聞いてみました。

 

「美しさというのは、いつの時代も人の心を強く打つものだと思います。造形的な美も『美しさ』を構成する1つの要素かもしれませんが、その奥にある“魂”のようなものが、見る人の心を動かすのではないでしょうか。そして、多くの人の心を打つものは、時代を越えて、長く愛されていくのだろうと感じます」

【編集後記】

自分にない意外な視点をくれる人に魅力を感じ、美しいと思う、というAYANAさんのお話は、まさに自分にはない視点でした。世の中の主流と違った表現ができる人、コミュニケーションが上手な人、人と何かを一緒にできる人……。心に、それら全てを備えたある女性が浮かびます。その人の佇まいには周囲の環境や影響により育まれたであろう、揺るぎない美しさをひしと感じ、ふるまいを見ていたくなります。美とは人の心を打つもの、古びないもの。そうして多くの人の心に残っていくもの。美とは何か?どこにどう自分が感じたのかを、もっと関心を持って過ごしたくなりました。

(未来定番研究所 内野)