2018.04.02

子育て未来対談。<全4回>

第1回| 野波麻帆×永山祐子 働くママたちの子育て術とは?

待機児童問題や出産後のキャリア形成など、働くママの子育て環境がたびたび論じられています。育児と子育てに忙しく走り回るママたちは、どんな工夫をしているのでしょうか。そして、未来を担う子供たちにどんな願いを託しているのでしょうか。建築家として活躍する永山祐子さんと、女優であり子供服ブランド〈himher〉をディレクションする野波麻帆さんと一緒に、子育てをしながら働くこと、そして子供たちの未来を探ります。

(写真:河内彩)

子供との限られた時間を、密度濃く過ごすために。

F.I.N.編集部

まず、お子さんの年齢を教えてください。

野波さん

幼稚園に通う4歳と、未就園児の2歳の女の子2人姉妹です。

永山さん

保育園年長の5歳の男の子と、4歳の女の子です。

F.I.N.編集部

お2人は、忙しい毎日の中で、お子さんとの時間はどのように作っているんですか?

野波さん

仕事が終わって家に帰ってから一緒に過ごしたり、休みの日は一緒に外出したりしています。下の子はまだ幼稚園に入る前で、毎日家にいるので、私が仕事の時は、母や姉に預けたり、自宅に来てもらったりなどしています。家族がみんな近くいるのでサポートしてもらっていますね。

永山さん

うちは朝9時から夜7時半までは保育園。お迎えに行って帰宅してからが家族の時間で、ご飯を食べさせたり家事をしたり、その合間に話をしています。土曜日も保育園なので、日曜日はなるべくどこかに出かけるようにしています。

F.I.N.編集部

仕事をしながら子育てをする上で、何か自分の中で決めていることはありますか?

野波さん

仕事をすれば、当然、長い時間は一緒にいられないので、会話をする時間が短くなってしまうかもしれない。でも、時間の長さより密度だと考えました。私の母もずっと仕事をしていたのですが、一緒にいる時にはいろいろな話をしましたし、高校生の頃は一緒に渋谷の109に行って服を選んだ楽しい思い出もあります。そんな母を見て育ったこともあって、私自身、仕事をする母にネガティブな感情がありませんでした。一番大事なのは愛、スキンシップだと思っているので、たくさん抱きしめています。

永山さん

我が家は今、夫と自分の2人ともが「お父さん」役の状態で、お母さん役をどう作り上げるかが課題です(笑)。でも、できる範囲で頑張るしかないと思っています。下の子が3歳の時に、マンションを自分でリノベーションしました。部屋は大きなワンルームにして、キッチンにいても洗濯していても全体を見渡せるように設計しました。子供は親の姿が見えないと不安になるので、いつも人の気配がするよう、トイレも寝室も引き戸にして、開けっ放しにできるようにしています。

野波さん

それはいいアイデアですね。我が家は夫も義父も絵を描くことが好きで、部屋の中にたくさん絵を飾っています。子供たちが描いた絵もあるので、素敵なインテリアというよりはガチャガチャした部屋になっていますが、飾ってもらうと子供も喜びますから。子供たちは本当に絵が好きで、どこにでもスケッチブックを持って行くんです。動物園でもスケッチしながら歩くので、とても時間がかかるんですよ。下の子も、まだちゃんとした絵ではないけれど、お姉ちゃんの真似をして描いています。

家族や周囲のサポートは、必要不可欠。

F.I.N.編集部

プライベートな生活と仕事の時間をどうやって分けていますか?

永山さん

建築業界では、以前は女性で子育てをしている人は少なかったのですが、最近増えてきました。私が最初に事務所を立ち上げた時、偶然、スタッフが全員女性だったんです。彼女たちが全員ママになったので、みんなで情報を共有することもあります。今は自宅、事務所、保育園の3カ所がどれも近い場所にあるので、打ち合わせの後、スーパーで食材を買って、それを家に置いてから事務所で仕事をしたり、仕事の合間で洗濯物を取り込んだり。仕事の合間に家事をしています。スタッフと自宅で打ち合わせをすることもあります。建築模型を持ち帰ると、子供に壊されそうになったりしますが(笑)。スタッフも事情を理解してくれるので助かっています。

野波さん

私も仕事と生活が一緒。女優業では、自宅でセリフを覚えたり、役について勉強したり集中する時間が欲しいので、それは子供が寝た後や幼稚園にいる時、誰かに預けている時に確保しています。他にも、夫と〈himher〉という子供服のブランドも運営していて、それは子供たちがいる時間にデザインしています。子供たちが遊んでいる時に、自宅で夫とパタンナーさんと打ち合わせすることもありますね。

F.I.N.編集部

働きながらの子育てに、周囲のサポートは不可欠なんですね。

永山さん

仕事で出張に行く時は、一緒に連れていくこともありますが、どうしてもそれができない時は、両親に泊まりに来てもらうなど、家族総動員でサポートしてもらっています。祖父母や他の親戚など、広い年代の人たちと交流できるのは一石二鳥です。それから、私の父が物理学者で、孫たちを集めて「G学校」というものを開いているんですよ。子供たちは、日常の中で不思議に感じることを「はてなノート」に書き留めて「なぜお月様は光っているのか」などの些細な疑問をじいじが答えてくれる。子供たちも、いろいろことを考えて質問を作っています。私が育てられない時間は、他の人に育ててもらえば、子供たちの人生もより豊かなものになるんじゃないかと思っています。

野波さん

それは私が通いたいくらい! 子供たちにとって、おじいちゃん、おばあちゃんが教えてくれることは大事ですよね。夫の両親がお花屋さんなので、遊びに行くと、子供たちが自分で花束を作ったり、お花の名前を覚えたりしてくるんです。どこかに出かけても「これはじいじのお店にあった花だよ」なんて話をしてくれます。

子供としてではなく、ひとりの人間として接する。

F.I.N.編集部

これまでの子育てでぶつかった一番大きな壁は何でしたか?

永山さん

それは、まさに今。よく2歳がイヤイヤ期と言われていますが、4歳になるともう一度、夜泣きの時期が来るんです。目が覚めた瞬間、「嫌だ!」と全身で何もかもを拒絶する状態になるので、背中をさすってあやして、落ち着くのに時間がかかっています。どうやら4歳は感情が豊かになる時期のようなので、自分で気持ちを調整しているのかもしれません。親もそれに付き合うしかないのですが、あまりひどいとこちらもイライラしてくるので、それが辛いところですね。上の子も4歳の時にそうだったので、しょうがないとは思いつつも、スキンシップを求めているのかなとか、理由を考えちゃいますね。ワンルームなので誰かが目を覚ますと全員で起きることになるので、家族で睡眠不足に陥っています。

野波さん

確かにうちの子も4歳になったばかりの頃、呼吸困難になるくらいまで泣き叫んだことがありました。落ち着いてから理由を聞いても、本人にもわからない。伝えたいことがあってもうまく伝えられなくて、もどかしかったのかな。イヤイヤ期ともちょっと違いましたよね。私がぶつかった壁は、下の子が生まれてくる時。ちゃんと2人を育てられるか心配になったんです。当時、長女は2歳で、私が不安なら、彼女も不安に感じるだろうと思って、寝る前に大人の言葉でゆっくり説明したんです。これから赤ちゃんを迎え入れて、4人暮らしになること。ママは仕事を続けるから、もしかしたら一緒に過ごす時間が短くなるかもしれないこと。最後に「大丈夫だよね?」と言ったら、長女がベッドの一端からコロコロと転がって来て「ママ、私のこと愛してる?」と聞いてきたんです。今でもその瞬間のことは忘れられません。私が不安になっても、愛していればいい、愛があればどうにかなるんだと教えてくれた気がして。それから、悩みはあっても不安はなくなりました。いつも寝る前、子どもたちに「愛してる」と伝えて、ぎゅーっと抱きしめています。

(後編へ続く)

Profile

野波麻帆(写真左)/女優・スタイリスト

1980年東京都生まれ。1996年に東宝シンデレラオーディションでグランプリを受賞し女優に。2012年に俳優の水上剣星さんと結婚、2013年に長女、2015年には次女を出産。2016年には子ども服ブランド〈himher(ヒムハー)〉をスタート。

http://www.himher-children.com/

Profile

永山祐子(写真右)/建築家

1975年東京都生まれ。青木淳建築計画事務所を経て、2002年に永山祐子建築設計を設立。「ルイ・ヴィトン京都大丸店」や横尾忠則の美術館「豊島横尾館」、小淵沢のホール複合施設「女神の森セントラルガーデン」、「カヤバ珈琲」、「木屋旅館」などを手がけている。主な受賞に2014年度日本建築家協会JIA新人賞「豊島横尾館」等。

http://www.yukonagayama.co.jp/

子育て未来対談。<全4回>

第1回| 野波麻帆×永山祐子 働くママたちの子育て術とは?