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2018.09.14
街の家事室〈喫茶ランドリー〉の秘密。<全2回>
2018年1月、東京・墨田区に〈喫茶ランドリー〉がオープンしました。このお店は0歳からお年寄りまで、誰もが自由に使うことができる店。この日も老若男女たくさんの人が訪れては、それぞれの時間を楽しんでいました。〈喫茶ランドリー〉とは、一体どんな場所なのか。その秘密について、企画・運営を担当する「グランドレベル」の田中元子さんにお話を伺いました。
(写真:鈴木慎平)
田中さんが代表を務める会社「グランドレベル」は、その名の通り建物や公園、公開空地などの“一階”に特化したまちづくりの会社。「1階づくりはまちづくり」をテーマに活動されています。
「一階って、商空間の中ではとても大切にされているけど、住空間になると必ずと言っていいほどエントランスホールになってしまうのはなぜなんだろう……。そんな疑問からこの会社は生まれました。街に人の気配がないことの大きな原因は、一階が死んでいるから。一階が人の居場所じゃなくなることで、隣もまた人の居場所じゃなくなる。逆に一階に流行る店ができると、その近くにも店ができて人の流れが生まれるんです。一階はよくも悪くも街の中で連鎖を起こす場所なんです。私たちは、街にいい連鎖を起こすきっかけを作りたい、という思いで活動をしています」。
この辺りは隅田川に近いこともあり、水門を利用した物流が盛んでした。〈喫茶ランドリー〉があるこの建物は築56年。もともとは手袋を梱包して出荷する、いわゆる梱包作業場だったといいます。
「空きビルとなっていたこの建物のオーナーさんが変わり、ここでなにかしたいという相談を受けたんです。私自身この街に10年くらい住み街の移り変わりを見てきたので、いろいろ考えた結果ランドリーカフェを提案しました。このアイディアは、昔コペンハーゲンで見たカフェとランドリーが併設された場所からインスピレーションを受けています。そこは洗濯機があることで、若者も主婦もサラリーマンも、多様な人が集まるきっかけになっていて、面白く感じました」。
田中さんが目指したのは、「カフェ」でも「ランドリー」でもなく、訪れる人が使い方を自分で選んで、好きなように時間を過ごせる場所。
「ランドリーがあるなしに関わらず、お客さんが一人の消費者になるのではなく、この空間を道具のように、自分のもののように使いにくるという状況を作りたかったんです。ここに来る人は、コーヒーを飲みに来る人と洗濯機を使いに来る人という二択ではありません。ひとりになりたい人、誰かと話したい人、人を集めてイベントをやりたい人。使い方は人の数だけ無限にあると思っています」。
“ランドリー”ではないといいながらも、洗濯機が持つ役割は大きいように感じます。田中さんは、本当は洗濯機でなくてもいいのかもしれない、と話します。
「洗濯機でなければならないとは思っていません。ただ、これまでの日本の歴史を考えると、コミュニケーションのきっかけは風呂場か洗濯場か、井戸端だったのではないかと思います。すべて水場。せざるを得ないことを共有することが何かを生み出すんです。だから、洗濯機は本当にきっかけです。洗濯を通じて、洗濯している人同士が話をする、そんな直接的なことではなく、洗濯機が置いてある風景が、人をリラックスさせたり、コーヒーを飲む以外の多様なことが生まれているんだと感じさせたり、コミュニティを発生させやすいムードを作っているんだと思います」。
そんな“洗濯機”にまつわる、こんな苦労話もあったといいます。
「もともとは、よくあるコイン式の洗濯機にしたかったんです。その方が24時間稼働して、お金を稼いでくれるかな〜なんて思っていました(笑)。でも、コイン式の洗濯機って高いんですね。全部コイン式にしようと思ったら、軽く予算を超えてしまう。もうこのお店の企画自体無理なのでは……と思っていたところ、建築家の方に『あなたがやりたいことはコインランドリー事業ではないでしょう?』と言われて初心にかえりました。普通の洗濯機でいいんだ。レジでお金をいただいて、使ってもらう。そうせざるを得なくてそうなりましたが、そのおかげで一言だけでもレジで会話をするきっかけを得られたんです」。
オペレーションは多少煩雑になるけれど、コミュニケーションのきっかけが多くなったことで、田中さんがもともと目指していた場所にさらに近づくことになりました。
「コイン式をやめたことで、浮いたお金でミシンやアイロンも置くことができたんです。そこで、『あ、これは街の人みんなで使う家事室だ!』と気づき、お店のコンセプトが生まれたんです。ミシンもアイロンも洗濯機も、このあたりのマンションの人たちはみんな持っていると思います。でも、持っている人こそがターゲットなんです。マンションの家事空間は、そこまで気持ちのいいものではない、というのは私も長年マンションで暮らしているのでわかります。しぶしぶやることを、“しぶしぶ空間”でやることは、もっとしぶしぶ感が強まる。さらに近所に知り合いがいないという人も多く、孤独を感じている人がいるなら、たまにはここでお茶でも飲みながら、広々と気持ちの良い空間で家事をやりませんか?という提案ができるな、と思いました」。
街の家事室というコンセプトはありつつも、ターゲットは主婦だけではありません。サラリーマンもお年寄りも、一人暮らしの学生さんにも抵抗のない場所にしたいと考えていた田中さん。お店のデザインもターゲットを絞りすぎない、おしゃれだけど居心地のいい場所を目指してこだわられたそうです。
後編では、そんな喫茶ランドリーのこだわりの内部、さらに美味しいと評判のフードメニューの秘密についてお話を伺っていきます。
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