地元の見る目を変えた47人。
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2018.04.24
未来を仕掛ける日本全国の47人。
毎週、F.I.N.編集部が1都道府県ずつ巡って、未来は世の中の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”を見つけていきます。今回向かったのは、青森県八戸市。イクス代表の永田宙郷さんが教えてくれた、東北の地域文化や伝統的なものづくりの発信に取り組む金入健雄さんをご紹介します。
この連載企画にご登場いただく47名は、F.I.N.編集部が信頼する、各地にネットワークを持つ方々にご推薦いただき、選出しています。
東北のものづくりと暮らし方。その本質的な価値を発信する人。
青森や東北の工芸品やアートを集め、地域文化を発信するセレクトショップ「KANEIRI Museum Shop」を手がける金入さん。さらに、ものづくりを軸に、東北の豊かな暮らし方を見つめるWebサイト「東北STANDARD」をはじめとし、地域と関わる多様なプロジェクトを立ち上げています。推薦してくれた永田さんは、「金入くんに『どんな戦略で事業を手掛けてるの?』と聞いた時、『そんなに深く考えないかも。いつも直感ですよ』と軽く返事をくれました。だけど、その返事の軽さと裏腹に、本人だけでなく周りが幸せになる、ずっしりと地域に根付くプロジェクトを次々と立ち上げ続けているんです」と話します。金入さんご本人に、これまで、そしてこれからのことを聞いてみましょう。
F.I.N.編集部
金入さん、はじめまして。青森の桜は、そろそろ見頃ですか?
金入さん
もう満開ですね、弘前城の桜は圧巻ですし、八戸だと八戸公園という所が2000本くらいの桜が咲いていて地元の方のお花見スポットになっています。
F.I.N.編集部
さぞ綺麗なんでしょうね……見てみたいです。金入さんは、ご出身地でもある青森県の八戸市のどんなところを魅力に感じていますか?
金入さん
八戸は、港町らしく“新しさ”を受け入れる風土があるように思います。一方で、日本の原風景とも言える厳しくも豊かな自然環境のもと、飢饉や震災を乗り越えながらも育まれ続けた知恵や伝統が、様々な形で暮らしの中に残っています。“新しさ”と共に、日本元来の“普通さ”が存在することが八戸の魅力ではないでしょうか。近年では特に、この地域ならではのクリエイティブな刺激にも満ち溢れていますよ。
F.I.N.編集部
そうなんですね。金入さんご自身は、どんな経緯で、地域の文化や伝統産業に関わるプロジェクトを始めることになったんですか?
金入さん
2011年の、八戸市の公共施設「八戸ポータルミュージアム はっち」のオープンがきっかけです。地域の資源を大事にしながら、新しい魅力を生み出していくことをコンセプトに掲げたこの施設の1階に、株式会社金入として、地域の工芸品やクリエイターの作品と共に、デザインプロダクト・アート関連書籍をセレクトした〈KANEIRI Museum Shop〉をオープンしました。
F.I.N.編集部
もともと株式会社金入は、本や文房具、OA機器や事務用品の販売をメインとする会社ですよね。新しい分野に踏み出すのは、会社としても大きな挑戦だったんではないでしょうか?
金入さん
そうですね。新しい事業に挑戦する根本には、大学に入って最初の経営学の授業で、教授が放った「君たちに、これから5年でつぶれる職種を教えてあげよう。文房具屋、本屋、おもちゃ屋だ」という言葉があります。家業である文房具屋と本屋という2つが当てはまっているので、なんとかしなければという危機感が芽生えたのを覚えていますね。
F.I.N.編集部
それは、すごくドキッとする言葉ですね。
金入さん
そうなんです。そこから、〈伊東屋〉さんや〈NADiff〉さん、〈COW BOOKS〉さんのように、本や文房具を扱いながらも、市場の単純な流れとは別の形で成立している個性的なショップを見るうちに、この地域、そして自分たちならではのショップとは何なのか考えるようになりました。新たなショップの可能性を模索する中で、技も生き方もかっこいい職人さんや、発想も作品もおもしろいクリエイターたちの“ものづくり”の力をまとめあげ、この地域ならではの文化発信の拠点とするというコンセプトの〈KANEIRI Museum Shop〉が生まれました。
F.I.N.編集部
その後、仙台にも2店舗目をオープンされるんですよね。
金入さん
はい。せんだいメディアテーク1階に、〈KANEIRI Museum Shop6〉をオープンしました。この店舗は、青森を中心としていたコンセプトを広げ、東北のものづくりや文化の発信拠点としてスタートさせました。
F.I.N.編集部
なるほど。そのタイミングで東北全体へとフィールドを広げられたんですね。
金入さん
はい。さらに、事業を展開する中で、土地に思いのあるクリエイターと関わる中で、「東北の魅力、東北らしさとは何なのか」を自問するようになったんです。そこで、東北の暮らしを見つめるプロジェクト「東北STANDARD」も始めました。このプロジェクトでは、ものづくりの背景にある、地域固有の文化やその土地にある暮らしを私たちが学び、職人やそこで暮らす人々への取材や協業によるものづくりから「東北らしさ」を立体的に浮かび上がらせることを目指しています。現代に生きる全ての人の、これからを生きるインスピレーションとなればと発信を続けています。
F.I.N.編集部
新しい分野への挑戦はどんどん続くんですね。何かお仕事をする上でモットーにしていることがあるんですか?
金入さん
根拠は無くともまずは自分に自信を持つことです。そして、社会から仕事や役割を預かってからは、その自信の裏付けとなる行動が必要だと考えています。
F.I.N.編集部
気概と強い責任感をお持ちなのですね。金入さんは、地域の伝統産業を未来に繋いでいくため、どんなことが必要だとお考えですか?
金入さん
伝統や技術から真に大切な価値を抽出し、表現することが大切だと考えています。地域の伝統工芸品がお土産品として大量に販売できていた時期には考える必要のなかったことかもしれませんが、一般的に価値があると言われているものの、どこに人々が価値を感じるのか、一つの工芸品の様々な要素の中で、どの部分が私たちの暮らしを豊かにしてくれているのかを改めて考えることが必要です。そして、時には伝統的なデザインや形状を捨てる必要もあるのではないでしょうか。ある方に、我々のショップを称して、「東北にこだわっているが、それにとどまらない、普遍的な良さを感じる」と言っていただいたことがありました。地域への思いを持ちながらも、残すべき本質を見極める、これがこれからの時代にも伝統産業がより一層輝きを持つために必要なことだと考えています。そして東北に息づく文化の奥底にある精神性や価値観をいかに、多くの方に共感を持って伝えられるかということもまた必要だと考えています。
F.I.N.編集部
伝統に捉われず、本質的な価値を残し、繋いでいくことに注力されているんですね。最後に、地方で働くことに興味がある人に向けてアドバイスをお願いします。
金入さん
地域発の仕事というと、驚くほどに輝きを発しているものもあれば、「あぁこれだめだなぁ」とため息の出るようなものまで、様々思い起こされると思います。誤解を恐れず言えば、競争の少ないエリアでは練習なしでも自信さえあればすぐに打席が回ってきます。それは、自らの仕事のクオリティがまちの魅力や価値そのものになること、そして自らの仕事に対する意識が直結してまちの未来になるということ。まちは、そこに暮らす自分自身の意識の持ちようにかかっているのだという意識が重要だと思います。
F.I.N.編集部
地方のために何か行動を起こすことは、やりがいが大きいと同時に、責任も大きいと。金入さんのような思いを持った方がどんどん地域に増えると、日本の未来も明るくなりそうです。ありがとうございました。
KANEIRI Museum Shop
〒031-0032 青森県八戸市三日町11-1 八戸ポータルミュージアム1階
TEL:0178-20-9661
営業時間:10:00~19:00
定休日:毎月第2火曜日、12月31日、1月1日
Kaneiri Museum Shop 6
〒980-0821 宮城県青葉区春日町2-1 せんだいメディアテーク1F
TEL:022-714-3033
営業時間:10:00~20:00
定休日:毎月第4木曜日、12月29日から1月3日
東北スタンダードマーケット
〒980-0021宮城県仙台市青葉区中央1-2-3 仙台PARCO2 5F
TEL:022-797-8852
営業時間:10:00〜21:00
編集後記
東北のものづくりを軸とした、東北に根付いた「暮らし方」見つめて、「豊かな暮らし方」を 提案するご活動の方向性は、東日本大震災を経て、その思いがより強まったと伺っております。 南部裂き織りやこぎん刺しなど、生い立ちや風習を紐解いていくと、本来の価値が見えて くると教えていただきました。
(未来定番研究所 安達)
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定点観測日記<全7回>
若い作り手たちの、これまでとこれから。<全3回>
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