未来定番サロンレポート
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2018.09.21
未来を仕掛ける日本全国の47人。
毎週、F.I.N.編集部が1都道府県ずつ巡って、未来は世の中の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”を見つけていきます。今回向かったのは、新潟県の上越市。株式会社HAGI STUDIO代表の宮崎晃吉さんが教えてくれた、〈高田世界館〉の支配人・上野迪音さんをご紹介します。
この連載企画にご登場いただく47名は、F.I.N.編集部が信頼する、各地にネットワークを持つ方々にご推薦いただき、選出しています。
107年の歴史を持つ映画館を未来につなぎ、地域のつながりを再構築する人。
レトロな近代建築が目を惹く、日本最古級の映画館〈高田世界館〉。1911年に芝居小屋として開業して以来、107年もの長い間、時代の流れに応じて紆余曲折の歴史を積み重ねてきました。現在は、NPO法人「街なか映画館再生委員会」が運営を担い、営業を続けています。そして、この映画館を支配人として切り盛りするのが上野さん。推薦してくださった宮崎さんは、「高田世界館は、高田で圧倒的な存在感を放つ映画館です。時間を積み重ねた空間の魅力に加え、横浜国立大学で映画評論を学んだ上野くんならではの映画のキュレーションが、地方都市で豊かに生きる可能性を感じさせてくれます」と太鼓判。上野さんご本人にお話を伺ってみました。
F.I.N.編集部
上野さん、こんにちは。
上野さん
よろしくお願いします。
F.I.N.編集部
まずは、上野さんにとってはご出身地でもある高田について教えて下さい。どんな特徴や魅力のある土地なんですか?
上野さん
400年前から続く城下町で、今でも古い街並みが残っているところが魅力です。戦前は、陸軍が駐留していたり、大学の分校があったりしたこともあり、物流や人の行き来が盛んで、様々な文化が交わる土地だったそうです。ですが、今は土地から少しずつ文化的な素養が失われ、地域全体としての一体感がなくなりつつあるような状況でもあります。
F.I.N.編集部
土地としての個性を改めて見直す局面を迎えているということでしょうか。そんな土地で100年以上営業を続ける高田世界館は、どんな歴史を経てきたんですか?
上野さん
1911年に、芝居小屋として始まりました。当時の高田の街はすごく賑やかで、他にも何軒か芝居小屋がありました。高田世界館(当時の名称は「高田座」)は、その中でも後発の芝居小屋だったので、それを逆手にとり、真新しい洋風建築の建物を作ったのだそう。現在の高田世界館の建物は、高田の街に残る貴重な近代建築の一つになっていますが、当時にしてもなかなか珍しい建物だったと聞いています。そして、開業から5年ほどで映画館になりました。
F.I.N.編集部
なるほど。
上野さん
当時は、映画文化の波が絶頂を迎えていました。1920年代になると、チャールズ・チャップリンに代表されるように映画文化が花開き、産業全体として盛り上がった時代。戦後しばらくまでは、そうした賑わいの中に高田世界館もありました。ただ、1960年代頃になると、テレビの普及などにより映画産業自体が少しずつ縮小していったんです。
F.I.N.編集部
営業の形態にも何か変化があったんですか?
上野さん
高田世界館は、日活系列の映画館になりました。日活は、1970年代頃から成人映画の路線を走っていて、それに伴い、高田世界館もポルノ映画館になっていったんです。それが、2000年代中頃まで続きました。なので今でも、高田世界館に足を運ぶことをためらう地域の方もいらっしゃいます。
F.I.N.編集部
そうだったのですね。
上野さん
映画館としての経営悪化と、建物自体の老朽化が進み、維持が難しいということで、2009年に一度閉館することになりました。しかし一方で、市民側から、この建物の文化的価値に注目が集まり、残すべきものだという認知が広がり保存運動が始まりました。そこで、運営の主体が個人オーナーから、NPO法人「街なか映画館再生委員会」に変わって存続することになり、今に至ります。
F.I.N.編集部
時代とともに柔軟に形態を変化することで、現在まで受け継がれてきた場所なのですね。上野さんは、もともと映画がお好きだったんですか?
上野さん
もともとは、人並みの映画好き。時には街の映画館に足を運ぶこともありましたが、基本は家の中でDVDを楽しむことが多く、取り立てて”映画マニア”というわけではありませんでした。一番の転機は、大学で映画評論のゼミに入ったことですね。
F.I.N.編集部
ゼミではどんなことを学ばれたんですか?
上野さん
映画の見方という感じでしょうか。フランス映画などを中心に、いかに批評的に見るかという部分を中心に掘り下げていました。単純に映画好きの視点ではなく、研究対象として見ることで、映画に対しての理解や造詣は深まったように思います。
F.I.N.編集部
では、卒業後も自然と映画のお仕事がしたいと思われたんですね?
上野さん
いえ、そういうわけでもありません(笑)。ちょうど大学院在学中の2011年に東日本大震災があって、世の中的にも自分の住む場所や周りの社会を見直すような、ちょっとした機運というのがあったように思います。その時に、自分の地元を見直すようになり、高田のまちづくりに関わりたいと思うようになっていました。当時、横浜の大学に通いながらも、高田に足を運び、地域でまちづくり活動をする地元のNPOの方と関わりを持つようになっていく中で、高田世界館にも出会いました。
F.I.N.編集部
高田世界館の支配人になりたいと手を挙げられたのは、どうしてですか?
上野さん
もともと、まちづくりや街を盛り上げるためのイベントをやりたいという思いがありました。当時は東京にアパートを借りていたので、イベントだけをやるのであれば、その時だけ高田に戻って来ればいい、くらいの心持ちだったんです。でも、まちづくりNPOの方と関わったり、イベントに参加したりするうちに、高田に拠点を構え、しっかりと場を持っている方がやりやすいことが多いと感じ、さらに映画文化に関心もあったことから、最終的には是非やりたいと手を挙げました。
F.I.N.編集部
映画のキュレーションは、どんな思いでされているんですか?
上野さん
まずは映画館を維持していくことが先決。場がなくなると、文化の普及云々ではなく、街から映画文化そのものが消えてしまうので、まずはお客さんを途切らせないことを一番に考えています。とはいえ、大手が配給する派手な作品を選ぶことはできないので、現実的な選択肢の中から、地域と接点を持ちやすい作品を選ぶようにしています。例えば、一見地味なドキュメンタリー作品には、その社会性によって、派手な映画とはまた違う波及力があり、地域とのひとつのつなぎかたができると考えています。介護問題のドキュメンタリーがあれば、介護関係の人に声をかけたり、医療関係のドキュメンタリーであれば、医者だけでなく保健所とか、いろんな施設にお知らせを送ったり……。特に、初期の頃は逐一試写会などを開いて見に来てもらう機会を作っていました。今までポルノ映画館だったため、地域とのつながりが皆無だったんです。だからこそ、ドキュメンタリー作品の問題意識によって、地域と場を繋いでいく作業を地道にやっています。
F.I.N.編集部
足を運んでもらうきっかけを作るために、ピンポイントでアプローチしているんですね。
上野さん
もともとこの土地の人たちには映画を見る文化がなかったんです。でも、問題意識があれば、声もかけられたからちょっと行ってみるかっていう風になりやすいんですよね。今、映画はオンデマンドで見られる状況にあり、映画館に足を運ぶモチベーションを作り出すところに難しさがある。そうした中、今の地方では、なんでもない娯楽作品よりも、自分と関係のあるトピックの方が、足を運んでもらいやすいと考えているんです。いずれは、もうすこしライトな形で映画文化が広がるといいなとは思っていますが、今は映画館って悪くないな、と思ってもらうはじめの作業に取り組んでいますね。
F.I.N.編集部
なるほど。すでに長い歴史を経てきた高田世界館ですが、この場を未来につないでいく意義について、どうお考えですか?
上野さん
映画は、他者を理解するためのツールだと思っています。グローバル化が進み、不理解の中で生まれる言説などもある中、共感することってすごく大事。映画を見ないと、みんなもっと相手の気持ちを想像できないようになってしまう気がして……。映画館がどこまでできるかはわからないけれども、場をなくしてはいけないと考えています。
F.I.N.編集部
リアル空間に足を運んでもらう意義については、どうお考えですか?
上野さん
地域の人と人を結びつける意味で、意義があると思います。先日も、あるドキュメンタリー作品を上映していた際、別々に声をかけて観に来てくれたAさんとBさんが、たまたま顔見知りだったということがありました。二人は久しく会っていなかったそうなのですが、たまたま同じ映画を観て、同じ時間を過ごしていたことから、すごく盛り上がっていました。こんな風に、人と人とを結びつける場って地域には絶対に必要だと思うんです。映画館だけがその機能を果たすべきとは思わないので、高田の街全体で、文化的良心を持つ一部の人だけでなく、多くの人を巻き込める場を多く作っていけたらいいですね。
F.I.N.編集部
映画館としての存続は、映画文化の普及、そして地域のコミュニティの場の創出に意義があるということなんですね。未来に向けての目標はありますか?
上野さん
高田世界館は、今のところは街の象徴として注目してもらうことが多いですが、実利の部分でもっとインパクトを残せればいいなと思っています。今、全国的なコンパクトシティのモデル地区のひとつに高田が選ばれるなど、街としても注目が集まる中、映画館単体では年間1万5千人ほどの出入りを生めるようになってきてもいるんです。高田世界館も、地域経済への波及力という意味で、街の中で、不可欠な場にしていきたいですね。
とはいえ、今の現時点の入りでは、ダイナミズムはないというのが現状。今はまだまだ文化的良心のある一部の市民の中で生きている状態です。やはり、郊外の大型ショッピングモールへの人の流れというのには、ものすごいものを感じますね。小さなパイの中で、プライド高くやっていくのではなく、もう少しわかりやすく多くの人々を惹きつける場にできればと思います。それは、映画館1個では無理だとしても、今、映画館の周りにカフェができたり、宿泊施設ができたりしているので、相乗効果で、エリアが稼ぐ体力をつけていければいいですね。
F.I.N.編集部
高田世界館が、象徴としてだけでなく、経済面においても街の核となる日は、そう遠くなさそうです。ありがとうございます。
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