未来定番サロンレポート
1人目
2人目
3人目
4人目
5人目
6人目
7人目
8人目
9人目
10人目
11人目
12人目
13人目
14人目
15人目
16人目
17人目
18人目
19人目
20人目
21人目
22人目
23人目
24人目
25人目
26人目
27人目
28人目
29 人目
30人目
31人目
32人目
33人目
34人目
35人目
36人目
37人目
38人目
39人目
40人目
41人目
42人目
43人目
44人目
45人目
46人目
47人目
2018.11.07
未来を仕掛ける日本全国の47人。
毎週、F.I.N.編集部が1都道府県ずつ巡って、未来は世の中の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”を見つけていきます。今回向かったのは、大分県の日田市。服飾ディレクターの岡本敬子さんが教えてくれた、〈日田シネマテーク・リベルテ〉の支配人を務める、原茂樹さんをご紹介します。
この連載企画にご登場いただく47名は、F.I.N.編集部が信頼する、各地にネットワークを持つ方々にご推薦いただき、選出しています。
”神社のような映画館”を手がけ、まちの拠り所を担う人。
原さんが手がけるのは、自らを”小さくて自由な映画館”と称す〈日田シネマテーク・リベルテ〉。閉館の危機にさらされていたまち唯一の小さな映画館を、2009年に前のオーナーから引き継ぎ、多様な人々が集えるコミュニティサロンのような映画館へと立て直されました。館内にはカフェやショップ、ギャラリースペースなども併設。音楽ライブやトークイベント、ワークショップや展示などの多彩なイベントも手がけ、映画を軸にした有機的な場を作られています。推薦してくださった岡本さんは、「原さんとは、主人が取材で日田に訪れたのをきっかけに交流を深めるようになり、今では日田に行く際には必ずお世話になっています。原さんは日田のご出身で、映画館がまちからどんどんなくなって、まちに活気が無くなること危機感を抱き、故郷に何か恩返しをしなくてはという強い使命感から立て直されたのだそう。イベントも積極的に行なうなど、映画館という場づくりへの熱い姿勢に未来を感じます」と話してくれました。早速原さんにお話を伺ってみます。
F.I.N.編集部
原さん、こんにちは。本日はどうぞよろしくお願いします。
原さん
よろしくお願いします。
F.I.N.編集部
原さんの故郷でもあり、現在も拠点とされている大分県の日田とは、どんな土地なんですか?
原さん
日田は山々に囲まれた盆地であることで、多くの河川が流れ、大河・三隈川を中心に”水郷”とも称される水の豊かな土地です。また、江戸時代に”天領”として栄えた名残りから、多彩な文化を育んできた歴史もあります。
F.I.N.編集部
素敵な土地なんですね。原さんはどんなきっかけで、〈リベルテ〉を運営されることになったのでしょうか?
原さん
その昔、日田には7つの映画館がありました。しかし、時代の流れとともに淘汰され、いつの間にか、日田に映画館はひとつに。もともと映画が好きだったこともあり、ボランティアで、その映画館の運営のお手伝いをしている中で、かつてのオーナーから引き継いで欲しい、と頼まれたのがきっかけです。
F.I.N.編集部
引き継ぐことに迷いはなかったんですか?
原さん
手伝っていたとはいえ、当時の僕はサラリーマンをしながら音楽活動もやっていたし、直接的に映画館の運営に携わったこともなかったので、中途半端には引き受けられないな、と一度はお断りをしました。それでも、どこかで映画館がまちから消えてしまうことへの危機感がずっとつきまとっていたんです。誰かがやならければいという使命感から、再び声をかけてもらった時には、やってみようと思い直しました。
F.I.N.編集部
悩まれた上で、”ふるさとの映画館を守りたい”と出された結論だったということでしょうか。まちの映画館を守ることには、どんな意義があると考えられたんですか?
原さん
映画館は、かつて神社やお寺が担っていた役割を、今の時代に担える場だと考えました。映画を見ることで、過去や未来、他の国の事情を垣間見たり、自分以外の他人の人生を疑似体験したりできますよね。そうすることで、心が少し豊かになったり、寛容になったり、明日も頑張ろうと思えたりすると思うんです。また、ひとつの作品を見ることで、それぞれ多様な意見を持ちますよね。似たような人たちだけで集まることが多い今の時代、社会で別々に暮らしている人たちが、平等に何かを感じられる機会はなかなかありません。そんな人それぞれの意見を受け止め、許容する。集う人をセレクトしない。神社やお寺がそうだったように、土地の中に自然と存在するまちの拠り所は、カフェでもなく、ショップでもなく、思いを共有できる映画館という場だからこそ担える役割だと考えました。そこでコミュニティサロンとしての映画館を考え、内装も作り変えていきました。
F.I.N.編集部
”神社のような場”という表現がとても印象的です。
原さん
映画館を神社に当てはめると、映画が神様。僕がそれを宮司さんのように伝えるイメージ。神様がいて、僕らが代を経ながら伝えていく。だから、老若男女と言わず、右から左まで、様々な意見を持った人に来て欲しいんです。映画を知っている人も知らない人も、どんなことを思ってもいい。映画を評価するスタンスではなく、映画から何かを学ぶというスタンスで、それぞれ整理できない思いをありのままに共有する場でありたいと考えています。特に田舎って、文化というだけで、どうしても身構えてしまうし、都会に対してのコンプレックスを感じている人も多い。でも、みんなありのままで良いんだと思えた方が、豊かになるし、日常がちょっと楽しくなると思うんです。その中で僕は、作品とお客さん、または、考え方と考え方の真ん中に立ち、つなぎ役を果たしていきたいと思っています。
F.I.N.編集部
そこに集う人たちが、フラットに映画から何かを感じ、思いを自由に共有できる場。今の時代には無くなってしまっている場ですね。館内には、カフェやショップなども併設されていますね。
原さん
館内の劇場以外の機能も、その源泉には映画があることが前提です。ショップに並ぶ商品は、この場に訪れたアーティストたちが手がけた作品であって、セレクトはしていない。彼らの映画の解釈や考え方が、作品という形で、買った人たちの家庭の食器棚にも並べばいいなという思いで運営しています。
F.I.N.編集部
なるほど。〈リベルテ〉では、多彩なイベントも行われていますが、こちらも自然発生的にここに集う人たちがきっかけで始まったのでしょうか?
原さん
そうですね。たくさんイベントをやっているけど、こっちから企画しているものはないです。コミュニティサロンで飛び交った話からだったり、頼まれたり、誘われたり。最初の接点は、自然と。そこから企画の組み立てが始まります。それこそ、編集者の岡本仁さんもよくトークイベントをやってくれています。先日は、パターソンという映画の上映に合わせて、アメリカの現代詩をテーマに話してくれました。
F.I.N.編集部
原さんを紹介してくださった岡本敬子さんの旦那さんですね。
原さん
一見、渋谷でやるイベントのようですよね(笑)。でも、田舎の人にも都会の人にも、” NYもパリも、東京も日田も”という感覚を持ってもらいたいんです。面白い人がいたら人は集まっていくんだと。そのモデルになれるかは分かりませんが、そんな世の中を目指すことは僕の生き甲斐にもなっているのかもしれません。
F.I.N.編集部
〈リベルテ〉の運営を続けられる中で、何か印象に残っている出来事はありますか?
原さん
うちで封入作業を手伝ってもらっているある青年が、ここでの手伝いをきっかけに、映画が大好きになってくれたんです。彼は小学校3年生から引きこもっていて、もちろん、勉強はできないし、計算もできない。お金のやり取りもなかなかうまくいかないけど、映画監督になりたいと言い出しました。周りの大人たちも、どこかで無理だと思っていたけれど、そのために必要なことは何か、いろいろ考えていく中で、彼は必死に努力をし、映画の専門学校に受かったんです。彼は今25歳。家から飛び出すどころか、日田からも飛び出して映画について学んでいる。その事実だけで僕はもう嬉しいなと。たとえ映画監督にならなくても、彼が生き生きと社会と関わりを持ち始めたことが自分の喜びでもありますし、続けてきて良かったなと心から思いました。
F.I.N.編集部
”人をセレクトしない”という原さんの思いが、一人の青年に踏み出すきっかけを与えたんですね。すごく素敵なエピソードです。映画館の運営を続けていく中で、日田のまちに対して何か思いはありますか?
原さん
僕は、自分の活動によって、まちおこしをすることを念頭に置くのではなくて、今を一生懸命に活動してゆく中で、結果的にまちおこしになればいいなと思っているんです。今はある意味”地方ブーム”で、地方に注目が集まっている時代ですよね。行政の施策として地域おこし協力隊が地域に入り、土地に新たな価値を付与することに注力されています。でも本来は、既存の資源の中で、地域のための活動を続けていくことで、共感者が増え、まちが変わっていくというのが自然だし、理想。何かやってみて、その結果を見てまた何か考えればいい。理想論だと言われることも多いですが、活動を始めて約10年経ち、少しずつ共感してくれる方が増えていることも実感しています。
F.I.N.編集部
なるほど。
原さん
田舎になればなるほど、毎日同じ人が集まって、同じ酒場で飲み会が繰り広げられる。つまり、みんなが小さなコミュニティで群れたがります。それを沼のようなまちと例えるならば、僕は川のようなまちになったらいいなと思っているんです。川は、新しい水=恵みが常に流れていくところ。寄せて返さなくてもいい。絶えず様々な意見や人が集まり、みずみずしい恵みが集まっているところには、新しい人も、もともと住んでいる人も、留まりたいと思うんじゃないかな。そのためにも、自然と多様な価値観を日常的に受け止められる映画館という場を、僕は受け継いでいきたいと思っています。宮司さんのように(笑)。
F.I.N.編集部
原さんの、おおらかなスタンスが、日田のまちを着実に変えているようです。本日はありがとうございました。
日田シネマテーク・リベルテ
〒877-0016 大分県日田市三本松2丁目6-25 日田アストロボール2F
営業時間:9時〜22時
電話&FAX:0973-24-7534
1人目
2人目
3人目
4人目
5人目
6人目
7人目
8人目
9人目
10人目
11人目
12人目
13人目
14人目
15人目
16人目
17人目
18人目
19人目
20人目
21人目
22人目
23人目
24人目
25人目
26人目
27人目
28人目
29 人目
30人目
31人目
32人目
33人目
34人目
35人目
36人目
37人目
38人目
39人目
40人目
41人目
42人目
43人目
44人目
45人目
46人目
47人目