もくじ

2026.04.04

〈調理室池田〉オーナー・池田講平さんの、わざわざ行きたい場所。

生活の多くがオンラインで完結するようになった今でも、私たちは何かを求めて外へ足を運びます。時間がかかっても、多少手間がかかっても、わざわざ行きたい。そんな気持ちを抱かせる場所には、どんな魅力があり、私たちは何を期待して足を運ぶのでしょうか。

 

F.I.N.では、好きな時に好きな場所へ出かけられる今、「わざわざ行きたい場所には何があるのか」という問いを手がかりに、目利きたちとともに、そこでしか得られない価値を考えていきます。

今回は、川崎市中央卸売市場北部市場という決してアクセスがいいとはいえない立地にお店を構え、お客さんの絶えない人気店に育てた〈調理室池田〉オーナー・池田講平さんに、ご自身がファンとしてわざわざ行きたい場所を教えてもらいました。

 

(文:大芦実穂/写真:池田講平)

Profile

池田講平さん(いけだ・こうへい)

フードビジネスのブランディングや新規事業開発に長く携わるプランナー。2018年、川崎市中央卸売市場北部市場内にカフェ〈調理室池田〉をオープン。店のディレクションと、2階ギャラリーのアンティークの買い付け、イベントの企画を担当する。1階カフェを担当するのは料理人である妻・宏実さん。

何があるかわからないから面白い

骨董市や蚤の市

骨董市や蚤の市に着いたとたん、アドレナリンが全開になってしまうんですよ。学生時代からイギリスの音楽が好きでレコードをたくさん買い集めていました。特に、雑誌にも載らないようなバンドやアーティストが好きだったので、そうするともうレコード屋に足を運んで勘を頼って片っ端から探すしかない。そこは今も昔も変わらなくて、自分の目で見て、何かを見つけるという行為そのものが好きなのだと思います。骨董市や蚤の市は、行ってみるまで品ぞろえもわからないし欲しいものが手に入るかどうかもわからない。しかも一畳ほどのスペースに、売り手の趣味の世界が広がっている。限られた場所で自分をどう表現するのかという点でも、骨董市や蚤の市は勉強になることが多いです。

蚤の市の購入品

「ドライブして行く」というプロセスが大事

小田原の日本料理店〈だるま料理店〉

明治26年創業の日本料理店で、大正時代に再建された建物も趣があります。それでいて大箱で、来る人を選ばない。来る人を選ばないというのは、自分の店でも大切にしていることです。風情や料理のおいしさだけでなく、自宅からほどよい距離にあることも、この店に足を運びたくなる理由のひとつです。車を1時間くらい走らせた場所にあるのですが、ドライブしながら家族と車の中で話して、名物のアジのにぎりと天丼を食べ、さらに老舗のかまぼこ屋に寄って、家に帰る。そこまで含めて1つのパッケージのように楽しんでいます。僕はなんでも企画にしたがるたちなのですが、「外食する」という企画だとすると、遠すぎず近すぎず、全てが最高のバランスなのだと思います。

お寿司は、その日のネタが紙に書かれて提供される

媚びない姿勢にお客さんが賛同する

〈コム ギャルソン 青山店〉

〈コム デ ギャルソン〉は、オンラインショップがないので、お店に行かないと情報を得られないことも多いです。しかも商品入荷のタイミングも細かく分かれているので、お店に合わせてお客さんが動くのが当たり前というか。それでもお客さんを惹きつけてやまないのは、結局のところ「やりたいようにやっている」からだと思います。それに、とにかく洋服のエネルギーがすごくて。それをもらいに青山店に通っているといっても過言ではありません。私の店もお客さんにエネルギーを感じてほしいと思いながらやっています。〈コム デ ギャルソン〉の圧倒的なエネルギーは、常に新しいことに挑戦し続けている姿勢や、何かに対するアンチテーゼから生まれているのではないでしょうか。

自宅にある〈コム デ ギャルソン〉2026年春夏のDMカタログ

池田さんが、わざわざ来てもらうためにやっていること

「前提を覆し、役を演じる」

店をつくるときに、一番こだわったのは場所と建物です。結局、皆と同じ便利な場所で店を構えると、同じような店にしかならない。じゃあどうすればいいか。それは「前提を変えてしまう」ことです。例えば、平均より家賃が安い場所だったら、その分、別のことにお金をかけられるわけですし、アクセスが悪ければそれを覆す何かを考なくてはならない必要が生じます。そうすると商売上の方程式がどんどん変わってくる。

 

それから、お店を営業するうえで心掛けているのは、いろんなものの境界線を曖昧にしていくこと。そのために、お店のスタッフとお客さん、市場の人、皆を「劇の登場人物」のように捉えるんです。お店に立ちながら、「このタイミングでこういう人が来たら面白いな」と常に考えています。その時ちょうどよく水産棟の魚屋が朝に買い付けた魚を届けに来たら、無視するんじゃなく、あえて積極的に話しかける。だって役を演じているわけですから。すると、お店の中で、それぞれの境界線が曖昧になって、皆が1つの劇を演じているような感覚になる。それが面白いと思っているし、お客さんもそんな一体感を楽しみに来てくださっているような気がします。

〈調理室池田〉

住所 神奈川県川崎市宮前区水沢1-1-1 川崎市中央卸売市場北部市場関連棟45

営業時間 7:00〜13:00ラストオーダー(土曜日は14:00)

定休日 水・日・祝

Instagram:@ikeprox

【編集後記】

今回の取材を通して改めて感じたのは、わざわざ足を運ぶからこそ味わえる面白さが確かにあるということです。少し前にフリーマーケットに行ったのですが、何に出会えるかわからないまま目の前のものを見て回る時間そのものに、気持ちが高まる感覚がありました。いまは行く前に多くの情報を集められる時代ですが、調べすぎないことで、その場で初めて出会うものに素直に驚ける。そのワクワクは、効率よく正解にたどり着くこととは違う種類の豊かさなのだと思いました。さらに今回のお話を聞きながら、わざわざ行きたくなる理由は、そこで何かを手に入れることだけではなく、向かう時間やその場の空気、その場所に流れる姿勢や熱量まで含めた体験全体にあるのだと感じました。

(未来定番研究所 榎)