地元の見る目を変えた47人。
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2018.07.17
未来を仕掛ける日本全国の47人。
毎週、F.I.N.編集部が1都道府県ずつ巡って、未来は世の中の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”を見つけていきます。今回向かったのは、長野県の諏訪市。暮らしかた冒険家の伊藤菜衣子さんが教えてくれた、〈ReBuilding Center Japan〉の東野唯史さん、華南子さんご夫妻をご紹介します。
この連載企画にご登場いただく47名は、F.I.N.編集部が信頼する、各地にネットワークを持つ方々にご推薦いただき、選出しています。
古材の”レスキュー”を通して、新しい暮らしのカルチャーを提案する人。
〈ReBuilding Center JAPAN〉の店内にずらりと並ぶのは、古材や古パーツ、古道具の数々。これらはすべて、解体される古い建物などから引き上げられた、すなわち”レスキュー”されたものです。もともと空間デザインユニットとして活躍されていたオーナーの東野唯史さん、華南子さんご夫妻が、アメリカ・ポートランドにある本家〈ReBuilding Center〉に共感し、2016年に日本展開としてオープン。推薦者の伊藤さんは、「時間が作り上げてきた美しさや思いを次の世代につなげる、“ReBuild New Culture”を理念に、自らの暮らしを楽しくたくましく作っていく人々が集うコミュニティーを生み出しています」と話してくれました。今回は、東野華南子さんお話を聞いてみます。
F.I.N.編集部
東野さん、こんにちは。
東野さん
こんにちは。
F.I.N.編集部
本日はよろしくお願いします。まずは、〈ReBuilding Center JAPAN〉(以下、リビセン)のお仕事の領域について教えていただけますか?
東野さん
うちは、ビルダーズセンター、カルチャーセンター、デザインセンターという3つの部門に分かれています。ビルダーズセンターは、古い建物が解体される時に、その建物から古材や古道具を”レスキュー”し、店舗に出して販売します。レスキュー作業は月に20件〜25件くらいでしょうか。とはいえ、古材屋と言っても、なかなかとっつきにくいのが現状。そこで、カフェの運営やイベントの開催を通して、「古材を使う」、または「自分たちの暮らしを自分たちで作っていく」という文化を広めるために活動を行っているのがカルチャーセンターです。そして、デザインセンターは、レスキューしてきた古材や、カルチャーセンターでつながった人とのご縁を生かして、古材の新しい使い方の提案や、実際の空間作りのお手伝いをするのが主な仕事です。今は全部で、8人のスタッフでやっていますね。
F.I.N.編集部
なるほど。もともとはご夫婦で〈medicala(メヂカラ)〉という空間デザインユニットとして活動されていたそうですね。リビセン立ち上げに思い至るような問題意識は、当時からあったんですか?
東野さん
日本各地を転々としながら活動していた中で、空き家や、古い建物を解体する現場を多く目の当たりにしました。本当は壊さずに、大事にできたらいいけれども、建物の老朽化や相続上の問題、家族構成の変化などで、やむを得ず取り壊す場合もありますよね。無念な思いをしている人の気持ちを救うには「取り壊された建物から出る古材・古物を再利用すること」だと思い至りました。そこから、少しずつ古材を建物の解体現場から引き上げ、空間デザインに利用していくようになりました。
F.I.N.編集部
そうなんですね。アメリカのポートランドにある本家〈ReBuilding Center〉を訪れたのもその頃だったんですか?
東野さん
2015年4月に新婚旅行でポートランドに行ったのがきっかけです。もともと雑誌などを通して知っていて、興味があったので訪れました。
F.I.N.編集部
ハネムーンだったんですね! どんなところが印象に残りましたか?
東野さん
アメリカではDIYが盛んで、古材などを扱う、アンティークショップとリサイクルショップの中間のような、サルベージショップ(*1)というお店があちこちにあります。行く前は、リビセンも普通のサルベージショップだと思っていたんですが、いざ行ってみたら、普通では売っていないような「これ、一体何に使うの?」と思うようなものがいっぱいあったんです。現地では人々はこういうものを日常的に使って、いろんなものを直しながら暮らしているんだ、ということがすごく印象に残りました。あとから分かったことなのですが、もともと本国のリビセンがある地域は、黒人コミュニティーの割と貧しい地域。だから、ホームセンターに行っても高くて買えない人のためにできたのがリビセンだったそうです。
*1 Salvage shop
Salvageとは”救い出す”の意味で、改装現場などから出た廃材を捨てずに売る店のこと。
F.I.N.編集部
なるほど、地域の暮らしの拠点として愛される場でもあったんですね。
東野さん
はい。あとは、どのサルベージショップよりも、そこで働いているスタッフが優しく、また楽しそうでした。私たちは良い空間というのは、そこで働いている人に愛されている空間だっていう風に思っているので、すごく惹かれましたね。だから、「これを日本でやってみたい」と思いました。思い切って2015年の末頃にコンタクトページからと本家リビセンに連絡を取ったんです。まさか返事が来るとは思ってなかったんですけど(笑)。
F.I.N.編集部
すごい行動力です…。それで晴れて日本での展開が決まったんですね。活動の拠点として、長野県の諏訪エリアを選ばれたのは、どんな理由だったんですか?
東野さん
そもそも、最初の接点は〈medicala〉として活動していた2014年に、3か月間住み込みで、下諏訪という隣町にある〈マスヤゲストハウス〉のデザインと施工を担当した時です。当時は東京を拠点にしていたのですが、その後の仕事も次々と地方を転々としなければならないことになり、東京の高い家賃を払い続けるのももったいないということでひとまず下諏訪に引っ越してきました。
F.I.N.編集部
なるほど。そしてそのまま2016年からリビセンを始めることになったんですか?
東野さん
はい。古民家や古いものという、私たちが”資源”だと思っているものの多くは、地方にあります。一方で、需要があるのは東京、名古屋、大阪などの都会。諏訪市は、新宿まで電車で2時間というアクセスの良さがあり、資源にも流通にも適度な場所で、「諏訪ってリビセンをやるにもちょうど良い場所じゃない?」ということになりました。他にも、温泉があって、標高が高くて、涼しくて……というのが関係しているのか、持病のアトピーが治ったんです。気候や環境も体調に合っていたのも魅力的でした。
F.I.N.編集部
まさに絶好の場所だったということでしょうか。実際にオープンしてみて、お客さんは県外の方が多かったですか?
東野さん
メディアの影響からか、オープン当時はお客さんの7、8割が県外の人だったという印象です。ですが、最近は半分くらいが県内からのお客さんになってきていて、嬉しく感じています。
F.I.N.編集部
本国のような”地域の拠点”という性格が強まってきているんですね。改めて、古材の魅力ってどんなところにあると思われますか?
東野さん
まずは見た目。新しいものでは出せないような、当時の技術だからこその風合いや、年月を経たからこそ出てきている表情が何より魅力です。これは、最初に古材に惹かれたきっかけでもあります。また、そもそも〈medicala〉で古材を使っていた理由としては、新品の木材を買うよりも、安くて質の良いものが手に入るという理由もありましたね。
また、リビセンを始めてからより好きになったところがあります。それは、地域のゴミになってしまうものを、資源として循環させることができるということ。つまり古材は、新たに木を切らなくても「資源」としてもう一度活躍ができるのです。さらには、古材を焼却すると、暖房器具などの熱エネルギーとしても使うことができる。海外からエネルギーを買って、日本からキャッシュアウトするのではなく、日本の中で古材を買い取り、その先にお金も支払って、その古材を自分たちでエネルギーとして使えるということは、お金の循環という意味でも地域で回していける可能性があるということなんです。これは、リビセンを始めてから腑に落ちたことで、気に入っている点です。
F.I.N.編集部
それは、実際に関わらないとなかなか得られない視点ですね。
東野さん
リビセンも、デザイン的な視点で切り取ってもらうことが多いんですけど、実際には、古材の魅力はそれだけではなく、地域循環という意味で未来を変えられる可能性があるところが、楽しいなと思っています。
F.I.N.編集部
お仕事の中で、一番やりがいを感じたエピソードはありますか?
東野さん
印象的だったのは、リビセンをまだ立ち上げたばかりの時、私たちが最初に行ったレスキューです。ある女性の方からのご依頼で、その方がお母さんと一緒に住んでた家を解体する現場に伺いました。その方は家を建てるところからお母さんとの思い出がたくさんあるそうで、「自分の代で手放さなければいけないのがすごく残念だけれど、これは捨てる、これは残す、と一つ一つ向き合うことが自分にできる精一杯の供養だ」と言っていました。そんな中、私たちが、床板や天井など、彼女としては再利用が難しいと思っていたものまで “レスキュー”したことをすごく喜んでくださって。「母と一緒に一生懸命選んだものが、また次の世代に使ってもらえると思うと、救われる思いがする」と話してくれました。その時、「こういう人たちの力になり、未来に繋いでいくことが自分たちの仕事だ」ということを見失ってはいけないなと痛感しましたね。
F.I.N.編集部
すごく素敵なお話です。“ReBuild New Culture”という理念を掲げておられますが、具体的に、未来に向けてどんな”Culture”を作っていきたいとお考えですか?
東野さん
自分たちでできることって限られているので、同じ未来を見ている仲間たちと、これから一緒に暮らしていきたい未来を作っていきたいなと思っています。
私たちの理念“ReBuild New Culture”には「次の世代につなぎたいものと文化をすくい上げ、再構築し、楽しくたくましく生きていけるこれからをデザインします」という思いが込められていて、その中には実は古材という言葉は入っていないんです。古材はアプローチの一つということ。農業でも、カフェでも、なんでも、この理念を共有できる友人たちと手を組んでいきたいなと思っています。
F.I.N.編集部
なるほど。最後に、未来の理想の暮らしかたについて、何か考えておられることはありますか?
東野さん
日々の生活を、自分で楽しく生きていける心強さをみんなが持てるような社会になったらいいなと思います。それは、必ずしも全部を自分でやることが良いということではありません。野菜は、プロが作ったほうが美味しいし、できる人に任せたほうがいいこともたくさんある。逆に、自分でやってみることは、それを担ってきた職人さんや企業に正しい敬意が払えるようになるという意味で良いとも思っています。自分でできる限りのことはやってみて、何かが分からないことがあっても、この人に聞けば大丈夫、と思えるような心強さと余裕が持てる社会ができたらいいですね。何事もチーム戦です。でも、周囲に甘えるでもなく、自分でできることを考えてやっていきたいなと思いますね。「そっちは任せた!」「こっちは任せて!」っていう関係性をいっぱい作っていけるといいですね。
F.I.N.編集部
それぞれができることを自分でやっていきながらも、次世代を見据えてゆるくコミュニティーで繋がっていくということでしょうか。今後の暮らしのあるべき姿なのかもしれませんね。本日はありがとうございました。
ReBuilding Center JAPAN
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