2021.09.27
本気で外遊びに取り組んでいる大人たちの姿から、遊びの本質と可能性を探るこちらの企画。Vol.1の「かくれんぼ」に続き、今回登場いただくのは、一般社団法人として活動する「鬼ごっこ協会」。3,000種類を超える鬼ごっこをベースに、企業のプログラムから婚活イベントまで手掛けています。なぜ、協会までつくって鬼ごっこの普及に取り組んでいるのでしょうか? 素朴な疑問をひっさげてインタビューを実施しました。
鬼ごっこにハマり、鬼ごっこが仕事に。
「鬼ごっこ協会」平峯佑志さん。
今回お話を伺うのは、2010年に設立された「鬼ごっこ協会」の広報担当・平峯佑志さん。「鬼ごっこは他のゲームや、映画鑑賞、読書とは違う“人間同士の関わり”で生まれる楽しさがあるんです」と語ります。
平峯さんが鬼ごっこに出会ったのは、就職活動をしていた大学生の頃。代々木公園で開催された若者向けの鬼ごっこイベントに興味本位で参加したところ、思わぬ楽しさを知ったのだそう。その後、同年代の若者と共に、地域の学校やお祭りに鬼ごっこを広める活動を始め、大学卒業と同時に鬼ごっこ協会の設立メンバーとして参画。鬼ごっこを仕事にしてしまった、というわけです。
「大学時代は他にも学生団体やサークルにも参加していて、鬼ごっこの普及活動はその中の一部でしかありませんでした。でも、なぜだか1番長続きしたんです。しかも仕事にもしてしまいました。なぜそこまで?と聞かれることもありますが、理由は『楽しいから』に尽きると思います」
いまは「寝ても覚めても鬼ごっこのことを考えている」というほど鬼ごっこにハマっている平峯さんいわく、鬼ごっこの魅力は誰とでもプレーできるのがポイントだといいます。たとえば、同じ外遊びでも、スポーツは経験者とそうではない人に技術の差が出てしまい、経験がないと心から楽しいと思えない……なんてことも。対して鬼ごっこはシンプル。走る、逃げる、タッチする。この基本的な動作さえできれば運動能力の差に関係なく誰でも楽しめるところが魅力。
そうした特性もあって、鬼ごっこ協会が開催する大会やイベントに参加する人はさまざまだとか。中でも20代から40代現役世代の参加割合は全体の約4割と多め。
「普段インドアで、パソコンと向き合って仕事をしている人も、多く参加してくれています。それはやっぱり外遊びだからという理由ではなく、人間対人間の遊びならではの楽しさがあるからではないでしょうか」
鬼ごっこをするのは、ただ「楽しい」から。
「楽しければ、何でもアリ」がつなぐ未来。
協会主催のイベントでは、主にスポーツ鬼ごっこが行われています。2チームに分かれて相手陣地の宝をとったり、自陣の宝を守りながら敵に捕まらないよう逃げたりするルール。通常はコートの線が決まっていますが、浜辺や森、水の中でプレーするのもアリ。楽しければどんどんルールを変えることで、鬼ごっこのあり方を広げているそう。
また、企業や団体が鬼ごっこをコミュニケーションやチームビルディングのためのツールとして活用する例もあります。ちなみに、鬼ごっこ協会によると、鬼ごっこの種類は全部でおよそ3000種類ほど。平峯さんは豊富な種類の中から、企業や団体が求めるゴールにつながる鬼ごっこを提案しているとか。
婚活パーティでは、トークタイムの前に「背中タッチ鬼」や「手繋ぎ鬼」のように体が触れる鬼ごっこを取り入れてコミュニケーションを深めることに活用。人材育成会社からは部署や役職の垣根を超えた交流を促すために鬼ごっこプログラムを実施したいと相談されることも。チームに分かれての7つの宝を集めながら敵から逃げる「宝集め鬼ごっこ」という鬼ごっこなら、一体感の醸成につながります。ある企業の社内旅行では、廃遊園地で「謎解き鬼ごっこ」を開催したこともあるそう。
それぞれのタイプごとに鬼ごっこが与えてくれる経験というのはさまざまですが、平峯さんは鬼ごっこの1番の魅力はシンプルに「楽しいこと」だと話します。鬼ごっこ協会では、「鬼ごっこはこうあるべき」といった固定観念からも自由です。
「何かに生かしたいと思って鬼ごっこイベントに参加している方はほとんどいません。子どもの頃のように『鬼ごっこして遊ぼう』というノリで集まり、その時間を皆で楽しく過ごすっていうのと同じ感覚で参加される方がほとんど。大人になると、そうやって遊べる機会はあまりないので、だからこそ貴重だと思います」
鬼ごっこが生まれたとされるのは約1300年前ですが、戦略性や戦術性、気軽さを突き詰めて常にルールを進化させているそう。古来より伝承されてきた普遍的な楽しさを持つ遊びながらも、子どもたちからの人気はオンラインゲームなどの新しい遊びに押され気味でもあります。
その理由を「今まで鬼ごっこを真剣に普及させようとする人がいなかったから」だと分析する平峯さんは、将来的に鬼ごっこと最新技術を組み合わせることで新たな可能性が生まれるのではないかといいます。
「VRや仮想空間を使えば、日本にいながら世界中の人と鬼ごっこをして、触れ合えるようになるかもしれないと想像しています。リアルに固執しないで、デジタルを融合させながら鬼ごっこを広めていきたいです」
鬼ごっこの「楽しい」ポイント
1.一人じゃなくて、誰かと一緒に楽しい時間を過ごせる
2.「走る、逃げる、タッチする」だけで運動能力関係なし
3.3000種類以上あるからその時々や目的に合わせた遊びができる
一般社団法人鬼ごっこ協会
2010年設立。鬼ごっこイベントや大会の開催やオリジナルの鬼ごっこ「スポーツ鬼ごっこ」を普及に取り組む。最近では、スポーツ鬼ごっこイベント・大会と連動したウェブアプリをリリース。鬼ごっこの文化を広めることで、社会を楽しくすることを目指しているという。
【編集後記】
かくれんぼも鬼ごっこも子どものころは周りが真っ暗になるまで飽きることなく遊び続けていた記憶がありますが、それでも最後に遊んだのがいつのことか記憶にもないくらい遠い気がします。
今回お二人のお話をおうかがいして、大人でも変わりなく楽しめるシンプルさと、大人だからこそ楽しめる要素が入った、いずれの遊びも改めて参加したいと思いました。
技術や経験値など難しい話もなく、ルールもシンプルなこれらの遊びに、お二人が描くように良い意味で「大の大人」が真剣に参加するのが普通になると、世界が優しいものになる気がします。
(未来定番研究所 織田)