もくじ

2026.02.27

日常の選択を応援に変えるには?フードロス削減サービス「TABETE」がつくる、新しい支え合い。

ここ数年、応援を通じて何かを支える行為は、誰にとっても身近な習慣になりました。一方で、その熱量に疲れを感じたり、応援の対象や方法を見失ったりする人も増えているように思います。以前よりも日常に溶け込んだからこそ、応援との距離の取り方が改めて問われているのかもしれません。そこで今回は「応援はどこへ向かうのか」という問いを手がかりに、その行方とそこから生まれる新たな関係性や可能性を目利きたちとともに探ります。

 

日常の選択が結果的に誰かを支える関係に繋がっていく。そんなあり方を体現しているのが、国内最大級のフードロス削減サービス「TABETE」です。自分にとっていい選択が、巡り巡って誰かの希望になる。気負わず続けられる仕組みから見えてくる、これからの応援のカタチとは。「TABETE」を運営する〈株式会社コークッキング〉代表の川越一磨さんにお話を伺います。

 

(文:船橋麻貴)

Profile

川越一磨さん(かわごえ・かずま)

〈株式会社コークッキング〉代表取締役CEO。慶應義塾大学総合政策学部卒業。料理人修行、飲食店の店舗運営を経て、2015年に〈株式会社コークッキング〉を創業。2017年よりフードロス削減サービス「TABETE」の運営をスタート。現在はスローフード運動にも携わり、フードロスや食の未来をテーマに講演活動を行っている。

https://tabete.me/

「レスキュー」という言葉に込めた、

お店とユーザーのちょうどいい距離感

F.I.N.編集部

今回のテーマは、「応援はどこへ向かうのか」です。2019年にも川越さんにお話を伺いましたが、それから約7年が経ちました。サービスを取り巻く状況も、「応援」という言葉の意味合いも、少しずつ変化しているように感じます。今、川越さんはこのテーマをどう受け止めていますか?

川越さん

面白いテーマだなと思います。応援消費という言葉が謳われた時代もありましたし、クラウドファンディングもそうですよね。ただ、僕自身はあまり、推し活とかを熱心にするタイプではないんです(笑)。だからこそ、「TABETE」において「応援」というものをどう定義するか、あるいはどう距離を置くかは、すごく意識してきた部分ではあります。

F.I.N.編集部

サービスがスタートした当初、お店とユーザーの間にはどのような関係性が生まれることを想定されていたのでしょうか。

川越さん

立ち上げ当時は、まず海外のフードシェアリングの事例を参考にしながら、日本でどう定着させるかを考えていました。そのなかでこだわったのが、アプリ内で「買う」という言葉を使わず、「レスキュー」という言葉で統一することでした。これはただ売れ残りを安く買うのでなく、「困っている状況を一緒に乗り越える」というニュアンスを残したかったからです。

 

ただ、ここで難しいのが、あまりに切実な「助けてください」を全面に出しすぎること。お店側からすると、常に「困っています」と発信し続けるのは精神的な負担になりますし、ブランドイメージを損ねる懸念もある。実際、百貨店に入っているようなブランド力の高いお店だと、値引き販売をすること自体に抵抗があるケースも多いですから。

「TABETE」の使い方は、探して、選んで、受け取るだけと、とてもシンプル。2026年2月現在、120万人以上のユーザー、約3,000店が利用している

F.I.N.編集部

「レスキュー」という言葉が、その心理的なハードルを下げている面もあるのですね。

川越さん

そうですね。ユーザーさんに「自分がお店を救ったんだ」というヒーローのような感覚を持っていただける設計にはしています。ただ一方で、あまりに「応援」をイベントにしすぎたり、熱量を高めすぎたりするとそれはそれで続かなくなるとも感じています。「食」というのは毎日のことなので、一時の高揚感だけでなく、もう少し日常に溶け込んだカタチがいいなと思っているんです。

「TABETE」では、現在地付近でレスキュー依頼を出しているお店が表示される

「好き」の延長線上にある、

無理のない支え合い

F.I.N.編集部

日常に溶け込んだカタチとは、具体的にどんなイメージですか?

川越さん

今の「応援」って、すごく熱量が高いですよね。でも、食の領域でそれをやろうとすると、飽きるのも早いし、続かないと思うんですよ。「このお店が好きだから、絶対にレスキューしなきゃ」と思い詰めると、それはもう義務になってしまいますから。

 

例えば、パン屋さんや駅ナカのお惣菜屋さんって、飲食店と違って滞在時間が短く、接客も一瞬です。本来、関係性がすごく希薄になりやすい業界なんですよね。でも、「TABETE」でレスキューに行くという体験が加わることで、お店の人と「ありがとうございます」「助かりました」というやり取りが生まれる。このほんの一瞬の温かいやり取りが、食という日常のなかではちょうどいい距離感なんだと思います。

F.I.N.編集部

熱狂的すぎないからこそ、長く続けられるということですね。

川越さん

僕は、「やっていたら行こうかな」くらいの「好き」の延長線上が、継続可能な関係性として一番いいと思っていて。例えば、仕事帰りに「あそこのおいしいパンが安く出てる。ラッキー、レスキューして帰ろう」というような自分にとってのメリットがちゃんとあることが、結果的に長く続く理由になると思います。

飲食店だけでなく、パン屋からのレスキュー依頼も多い

F.I.N.編集部

「お得だから」という動機でいい、というのは意外な気もします。

川越さん

正直、入口はそれでいいと思うんです。安くておいしいものが食べられるというのは、生活者にとってはすごくわかりやすいメリットですから。でも、面白いのはそこからの変化です。最初は「安さ」を目当てに使い始めたユーザーさんがそのお店を気に入って、日常でも来店し始める。お店の人とも顔見知りになったりして、「このお店、いつもちゃんとおいしいな」とか、「この場所からなくなってほしくないな」という気持ちが自然に芽生えてくるんです。

F.I.N.編集部

お店に通ううちに、愛着が湧いてくるのですね。

川越さん

そうですね。やっぱり、食において「失敗したくない」という心理はすごく強い。だから多くの人は、一度知って安心した店をぐるぐると回る傾向があるんです。「TABETE」は、その知っているお店になるための入口を作っている感覚に近いかもしれません。最初から「応援してください」と呼びかけるのではなく、まずはユーザー自身の利便性を満たす。その結果として、お店の収益を支え、廃棄作業をしなくて済む日が少しずつ増えていく。ユーザー側からすれば「自分のための選択」が、知らない間にお店の支えになっていた。この「結果としての応援」という構造こそが、負担を感じさせない支え合いの正体なのだと思います。

F.I.N.編集部

お店側からは、どのような声が届いていますか?

川越さん

「『TABETE』のお客さんは、お店のことを理解してくれている感じがしてうれしい」という声はよく聞きます。中食の現場って、どうしても効率重視になりがちですが、レスキューに来るお客さんとは、少しだけ深いコミュニケーションが発生する。それが、現場で働く人たちのモチベーションに繋がっているという側面は確実にあります。

効率化の先にある、

顔の見える関係性へ

F.I.N.編集部

これからの「TABETE」について、川越さんが描いている展望を教えてください。

川越さん

現状の「TABETE」は、出てしまったロスをどうするかという事後処理の側面がまだ強いんです。でも、究極の理想をいえば、ロスがそもそも発生しない状態をつくりたい。そのためには、もっとお店とユーザーさんが約束できる関係になる必要があると思っています。

F.I.N.編集部

約束ですか。

川越さん

例えば「明日の夜、仕事帰りに寄るから、このパンを取っておいてほしい」というような予約が、もっと自然に行われる世界です。今は売れるかわからないなかで、多めに作らざるを得ないお店も多い。でも、顔が見える関係性があれば、需要の予測精度はぐっとあがります。

F.I.N.編集部

それは、単なるマッチングを超えた、コミュニティに近いようなカタチでしょうか。

川越さん

そうです。すべてのお店が強固なコミュニティをつくる必要はないかもしれないけれど、お店にちゃんとファンベースができている状態はすごく大事かなと。例えば、よくあるポイントカードのように「ポイントを貯めること」だけが目的になるのではなく、もっと違う楽しみがあってもいい。将来的には、お店の新商品の試食会にユーザーさんが呼ばれるような、そんな関わり方も考えていきたいですね。

F.I.N.編集部

川越さんが考える、5年先、10年先の理想的な応援はどんな姿でしょうか?

川越さん

それぞれが「絶対になくなってほしくないお店」を持っている状態が理想的ですね。「このお店がなくなったら悲しいな、嫌だな」と思える場所がある人って、実はそんなに多くない気がしていて。これからも「TABETE」で、そういう接点をつくっていきたい。気合いを入れすぎず、お互いに少しずつ得をしながら支え合っている。そんな関係性を、これからも広げていければと考えています。

【編集後記】

「TABETE」はとてもシンプルでスマートなサービスですが、それが「顔が見える関係」のきっかけにもなり、より豊かな体験や関係を生むかもしれないという点がとてもいいなと感じました。自分が「顔の見える買い手」となること、お買い物を「ちょっとだけ深いコミュニケーション」にすること。これからの応援には、そのような1歩の変化を楽しむ応援者が欠かせないような気がします。

(未来定番研究所 渡邉)