地元の見る目を変えた47人。
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2019.06.12
未来を仕掛ける日本全国の47人。
F.I.N.編集部が1都道府県ずつ順番に、未来は世の中の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”をご紹介します。今回取り上げるのは、高知県高岡郡四万十町。〈EXS Inc.〉代表の永田宙郷さんが教えてくれた、高知県高岡郡四万十町で、〈ヒノキカグ大正集成〉の副工場長として働きながら、自身のガレージブランド〈一二〉を主宰する、高橋康太さんです。
この連載企画にご登場いただく47名は、F.I.N.編集部が信頼する、各地にネットワークを持つ方々にご推薦いただき、選出しています。
自然と家族を軸に、ものづくりをする人
「丈夫で優しいヒノキの良さを活かしながら、いつまでも使えるシンプルな家具づくり」をコンセプトに、四万十町森林組合大正集成材工場の家具ブランドとしてスタートした〈ヒノキカグ大正集成〉。高橋康太さんは、ここで副工場長として営業から企画、設計、管理まですべてをこなします。〈EXS Inc.〉代表の永田宙郷さんとの出会いは、永田さんが主催する“作り手”“伝え手”“使い手”をつなぐ場〈ててて見本市〉に、〈ヒノキカグ大正集成〉が出店したことなのだそう。永田さんは「〈ヒノキカグ大正集成〉は、自社商品だけでなく、建築家・隈研吾さんの案件をはじめ、さまざまな場所で活躍しています。また彼自身、ガレージブランド〈一二〉も運営していて、作るたびに完売しています」と話します。“自然”を軸にさまざまな活動をされている高橋さんに、〈ヒノキカグ大正集成〉やご自身のブランドについて、自然の中でのものづくりついてお話しを伺いました。
F.I.N.編集部
高橋さんの地元である高知県高岡郡四万十町は、どのような土地ですか?高橋さんが感じる魅力をお聞かせください。
高橋さん
清流と言われる四万十川が流れ、自然が豊かな町です。海も山もあり、「四万十ヒノキ」の産地としても知られています。もともとは雑木林だったところに、林業が盛んだった頃に植林したのが、ヒノキだったんです。今では、森一面ヒノキです。
F.I.N.編集部
本当に自然豊かな場所なのですね。〈ヒノキカグ大正集成〉はどのようなブランドですか?
高橋さん
森林の管理から搬出までを手がける四万十町森林組合の大正集成材工場が運営する家具ブランドです。「四万十ヒノキ」は、ほんのりと桜色に染まった色合いと爽やかな香りが特徴で、この良さを100%活かすために、木と木の組み合わせ方や加工、乾燥の方法を工夫して家具を作っています。〈ヒノキカグ大正集成〉では、無垢材だけでなく住宅用には使えず市場価値のない、山に放置されてきたヒノキの「端材」や「曲がり材」を集成材として新たに形成し、森林資源の有効活用にも積極的に取り組んでいます。ここでは副工場長として加工部門に所属していて、木工製品を制作や管理、設計、現場、営業、企画などひと通りをこなしています。
F.I.N.編集部
高橋さんが〈ヒノキカグ大正集成〉へ入社したきっかけを教えていただけますか?
高橋さん
大学時代には絵の勉強をしていたのですが、隣の木工科を見ているうちにそちらに憧れを持つようになりました。出身は、四万十町ではなく高知県須崎市なのですが、同じく自然に囲まれた場所で生まれ育ったこともあり、将来は自然と関わる仕事をしたいと考え、卒業後は長野県にある山小屋で働きながら、木工の勉強をしました。長野県で3年間暮らした後、地元である高知県に戻り、ご縁があって〈ヒノキカグ大正集成〉に入社することに。今年で9年目を迎えました。
F.I.N.編集部
永田さんからは、建築家の隈研吾さんの案件にも携わられたと伺いました。
高橋さん
去年オープンした、高知県高岡郡梼原町の公立図書館「雲の上の図書館」を建築家の隈研吾さんが設計した際は、関わらせていただきました。外装や内装には、梼原町のスギやヒノキが使われています。
F.I.N.編集部
他にはどのような取り組みをされているのでしょうか?
高橋さん
日本の生活に寄り添う家具を作り続けたデザイナー、故・佐々木敏光さんが創設した子ども向けの家具ブランド〈SDI Fantasia〉を運営するメーカーとコラボレーションで生まれた、子どもの家具シリーズ〈MORITO〉です。良質な四万十ヒノキの特徴を活かしながら、耐久性もあり子どもの肌にも優しく、素材の良さを味わってもらえるような家具を製造しています。
F.I.N.編集部
さらに奥様と一緒に、ガレージブランド〈一二〉も運営されているそうですね。どのようなブランドなのですか?立ち上げたきっかけについても教えていただけますか?
高橋さん
私たちは自然に近い場所で暮らしているので、自然の中はもちろん、家の中でも街でも、どのシーンでも快適に過ごせる衣服が欲しいと思ったんです。立ち上げて今年で2年目になります。メインの商品は、昔の女性が野良着として着用していたモンペにヒントを得た「モンペズボン」。一番の特徴は、サイズフリーという点です。男女兼用で1サイズしかないズボンなんですが、小柄な女性から大きめの男性まで着用できます。
F.I.N.編集部
それはすごいですね。素材や製法が特殊なのでしょうか?
高橋さん
素材は、リネンとナイロンの2種類で、ストレッチ素材ではないんです。アウトドア用として使いたい人にはナイロンが人気です。ナイロンでも綿の質感に近い生地を使っているので肌触りもよく、いわゆるアウトドア用という雰囲気ではないので、日常でも着ていただけると思います。1サイズなので、2色買って夫婦で共有してくださっている方も多いですよ。モンペを現代版にアップデートしたようなイメージで、ウエスト部分はモンペにはないデザインです。腹巻のように縦の幅が長く、ゴムで伸縮性がいいので、きつくないのにしっかりフィットしてくれるんです。前後左右もありません。リネンもナイロンも乾きやすい素材は日常でも便利ですし、サイドに大きなポケットと内ポケットもあるので、旅行の時にも重宝すると喜んでいただいています。
F.I.N.編集部
シンプルなのに、とても機能的なデザインですよね。家族で兼用できると思うと、とても便利ですね。なぜサイズフリー、かつ男女兼用のものを作ろうと考えられたのでしょうか?
高橋さん
「家族でできること」「家族で暮らすこと」を自然に近いところでやりたいという思いがあったので、作るものもそうでありたいと考えました。家具の制作も自然に近いものを使って作っていますし、私にとっては服も自然の中で暮らすための“道具”としての捉え方です。
F.I.N.編集部
衣服も自然の中で快適に暮らすための生活道具なのですね。もともと洋服作りの経験はなかったそうですが、苦労した点はありますか?
高橋さん
試作品を作って、実際に日常生活で試して修正して、何度もテストを繰り返して、試作期間は結構かかりました。服作りの専門知識がない状態で始めましたし、お手本もないものなので。男女兼用で、街でも着られるものをと考えていたので、シルエットにはこだわりました。女性でも男性でも、どんな体型の方でもきれいに見えるシルエットでないといけないので、そこに一番時間がかかったと思います。
F.I.N.編集部
〈一二〉としては、これからどのような展開を予定されていますか?
高橋さん
新作だけではなく、定番を作り続けていけたらと考えています。おかげさまでリピーターの方も多く、もし使い込んで傷みが出てきた場合でも無償でメンテナンスしています。長く愛用していただいて、自分の体に馴染んで道具のように使っていただけると嬉しいですね。ブランド自体はあまり大きくする予定はありません。現在はwebサイトでの販売と、一部台湾のセレクトショップに卸しています。自分のできる範囲のことをやり続けられるといいなと思っています。
F.I.N.編集部
最後に高橋さんが四万十町で仕事をするということ、現在の暮らしについてどのように考えていらっしゃいますか?また5年先の未来についてはいかがでしょうか?
高橋さん
自然が自分の生活の中心にあることが理想です。妻がいて愛犬がいて、3人で生活できる範囲で、好きなことができればいいと思っています。家族で生活できる範囲の、困らない量の仕事ができて、自然に近いところで一緒に仲良く暮らせるのが一番。5年後、もしかしたら洋服作りをしていないかもしれないけれど、その時の状況に合わせて自由に変化しながら暮らしていけるといいですね。作るもののかたちは変化するかもしれないけれど、その根幹には家族と自然があります。
F.I.N.編集部
ご自身の中にこだわりを持ちながらも“変化すること”にとても柔軟なのは、“自然と家族”という軸がブレずにあるからなのでしょうね。今後の展望はありますか?
高橋さん
〈ヒノキカグ大正集成〉にも関わりながら、〈一二〉としてお店を作りたいなと思っています。このあたりは自然が豊かなので、登山やボルダリング、サーフィンができるスポットを訪れる人も多いのですが、立ち寄る場所が少なくて。美味しいごはんを食べて山道具も買えるお店、高知の自然を楽しみに訪れる人たちの拠点となるような場所を作りたいと計画中です。自分たちで改装しながら少しずつ形にして、来年くらいにはオープンできるといいなと考えています。
ヒノキカグ大正集成
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