わたしが通いたいお店。<全6回>
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2019.01.22
未来を仕掛ける日本全国の47人。
毎週、F.I.N.編集部が1都道府県ずつ順番に、未来は世の中の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”をご紹介します。今回取り上げるのは、香川県にある離島・豊島。スマイルズ代表の遠山正道さんが教えてくれた、泊まれるアート作品〈檸檬ホテル〉の支配人を務める酒井啓介さんをご紹介します。
”泊まる芸術作品”を通して、豊島で暮らす豊かさを表現する人。
穏やかな瀬戸内海に浮かぶ豊島。人口は約800人というこの小さな島の一角に、酒井さん率いる〈檸檬ホテル〉があります。開業のきっかけは2016年の瀬戸内国際芸術祭。築100年近い古民家を再構築し、”泊まる芸術作品”として誕生した〈檸檬ホテル〉は、宿泊はもちろん、音声ガイドの指示に従って様々な体験をするインスタレーション作品として、国内外多くの人を惹きつけています。推薦してくださった遠山さんは、「彼はもともとスマイルズの社員で、〈Soup Stock Tokyo〉やファミリーレストラン〈100本のスプーン〉にて活躍をしてきました。2016年以降は東京の家を売って、夫婦+わんちゃんで移住し、生きることと働くことが一致した生き方を実践しています。〈檸檬ホテル〉をアート作品としても、また自立したビジネスとしても存続、発展させながら、世界中から来る来場者との関係性を構築しているところに未来を感じます」と教えてくれました。早速酒井さんにお話を伺ってみます。
F.I.N.編集部:
酒井さん、はじめまして。本日は色々とお話を聞かせてください 。
酒井さん:
よろしくお願いします。
F.I.N.編集部:
まずは香川県の豊島はどんな島ですか?特徴や魅力を教えてください。
酒井さん:
静かな海と綺麗な景色が魅力の島です。また、〈豊島美術館〉に代表されるように、近年では瀬戸内国際芸術祭の開催地としても知名度が上がっています。とはいえ隣にある直島と比べると大々的に観光地化されていないので、昔ながらの日本の美しさが残る島だと感じています。
F.I.N.編集部:
酒井さんが豊島に移住されることになったのは、どんなきっかけだったんですか?
酒井さん:
僕が豊島に移住したのは2016年です。それ以前は13年ほど、遠山率いるスマイルズの社員として働いていました。地方で暮らすことに興味を持ったきっかけは、2015年に新潟県の越後妻有で開催された「大地の芸術祭」でしょうか。スマイルズは初めて作品を出し、僕は現地の運営スタッフとしてしばらく越後妻有に滞在しました。普段の都会での暮らしから離れ、地方での暮らしや人間関係、生き方というのを短い期間ながらも体験することができたんです。社会人として働き始めて約20年。節目とも言えるタイミングに今後の自分たち家族の暮らしを考え直すと、地方に身を置き、何か新しい可能性を探ってみたいなと思うようになったんです。そんなことを遠山に相談したところ、ちょうどスマイルズで動き始めていた瀬戸内国際芸術祭のプロジェクトに関わらせてもらえることになり、はじめて豊島を訪れました。プロジェクトが進む中で、僕たち夫婦が実際に移住をして、作品の一部でもある”泊まっていただく”という運営の部分を継続的に担おうという話になり、移住することになりました。
F.I.N.編集部:
移住をされてみて、思い描いていたイメージとのギャップはありましたか?
酒井さん:
かけ離れているというほどではありませんが、”離島で暮らす”ことの生活環境の違いには戸惑いました。豊島にはコンビニも銀行もなく、信号機すらひとつもない。僕たちが日頃生活をしていた環境とインフラ面で大きく違っていて、その不便さに慣れるまでに1年半くらいはかかりましたね。一通り季節を過ごしてみて徐々に実感していくというか。そこは実際に経験してみないと分からない部分でした。
F.I.N.編集部:
まさに東京とは真逆の環境ですね。
酒井さん:
でもひとたび「この島は不便なんだ」ということを受け入れて、少しずつこの島での人間関係を作っていけるようになると、自然とここでの生活もまわっていくようになりましたね。
F.I.N.編集部:
閉鎖的な空気のある田舎町もあるかと思いますが、その点はいかがでしたか?
酒井さん:
この島は今、人口の3分の2くらいが後期高齢者です。なので、僕たちのような40代は、正直孫世代に近いような感じなんです。そこまで離れていると皆さん逆に興味津々というか、「何しに来たのよこんなところに!」みたいな(笑)。あまり受け入れてもらえないような空気は感じませんでした。
F.I.N.編集部:
少し話を戻します。2016年の瀬戸内国際芸術祭で発表された〈檸檬ホテル〉とは、ホテルそのものが作品というコンセプトですが、改めてどういう場なのか教えていただけますでしょうか?
酒井さん:
作品自体はもともと豊島のこの場所にあった築100年を越えた古民家を再構築して空間を作っています。作品のカテゴリーでいうと、インスタレーション作品。音声ガイドの指示に従いながら様々な体験するアートです。豊島美術館を始めとする豊島の現代アートには、自分一人で作品と対峙する性格のものが多いのですが、檸檬ホテルは”誰かと”作品に向き合うスタイル。音声ガイドの指示に従いながら、一緒に来た”誰かと時間を共有する”作品なんです。
F.I.N.編集部:
どのようにインスピレーションから作られていった作品なのでしょうか?
酒井さん:
〈檸檬ホテル〉というのは、スマイルズの中でいつかホテル事業をやりたいということで先に商標登録していたものなんです。瀬戸内国際芸術祭に出るタイミングで、何か自分たちに紐づく作品を作りたいという中から、檸檬ホテルという名前に着想を得て作品を作り上げていきました。豊島には今1000本近く檸檬の木があるので、豊島の土地との関連性もつけられるし、自分たちがやっている商売の中でも檸檬というのはすごく重要なアイテムでもあったので、そこにも結びつく。また、「檸檬」という言葉には、「甘酸っぱい初恋」、「淡いあの時」のようなイメージがありますよね。このイメージに着想を受け、「ほほ檸檬しなさい」という指示も生まれました。頭で考えるとすごく難しいんですけど、体験してみると素直にバカになれる、楽しめる、笑顔になれる作品だと思います。
F.I.N.編集部:
作品を作っていく上で苦労された点はありますか?
酒井さん:
作品の大枠を作るところは、遠山を中心としたチームで動いていたので、僕自身が産みの苦しみを感じることはありませんでした。ただ、実際にここで滞在をしていただくことも作品の重要なコンテンツのひとつ。この宿泊の部分は、スマイルズから自由にやっていいと言われていたので苦労しました。特に食に関しては、〈檸檬ホテル〉というと、食べるものも檸檬づくしだと思う方が多い中、形にしていくところですごく悩みました。
F.I.N.編集部:
どんなところにこだわっているんですか?
酒井さん:
基本的には、私たちがここの島で生活をしていく中で、「ね?豊島っていいでしょ?」と素直に誰かに伝えたくなるものをここで滞在していただくお客様にも感じていただきたいと思っています。それは、自分自身が良いと思うことももちろんですし、この島だからこそ感じてもらえるものを提供したいということ。スーパーマーケットすらない場所なので、何か特別なものを仕入れられるわけではないのですが、豊島の今の季節に合っていて、かつ自分たちの生活の範囲内で手に入って、一番美味しいものをお客さんに提供しようと工夫しています。豊島では、野菜は自分たちで作るのが当たり前。地域の方からおすそ分けをもらったり、見よう見まねで失敗しながらも作り方を学んだりしていく中で、その土地で育った季節のものが一番美味しいという当たり前のことを学んだんです。その基盤を作るまでには結構時間がかかりました。
F.I.N.編集部:
地域の方達と密にコミュニケーションをとられているんですね。
酒井さん:
畑にいるお母さんに「何を作ってるんですか?」と話しかけてみたら、大量に譲ってくださったりとか、「野菜を作っていないだろうから」って心配して持ってきてくれる方がいたり。野菜だけではく、漁師さんからお魚をもらうこともあります。いただくばかりで心苦しく感じていた時期、自分たちにできることは料理をすることだと痛感したんです。いただいた野菜をスープにしたり、お菓子にしたりしてお母さんたちにお返しする。「この前のお野菜ありがとうございました」なんて言って持ってくと、すごく喜んでくださるんです。料理という手段があって、コミュニケーションできる。お金がかかることではないですが、気持ちの交換ができると良い関係がつくれるのではないですかね。
F.I.N.編集部:
今年、2019年の7月で檸檬ホテルは丸3年を迎えますが、これからの目標はありますか?
酒井さん:
この3年間は、多くの方にサポートしていただきつつも、ホテルの運営は夫婦二人でやってきました。食事の提供、食材の調達、施設の清掃とか鑑賞時間の案内。やれることややるべきことは、この3年でやれてきていると感じています。なのでこれからは、自分たちのやりたいことだけではなく、地域を支えるような取り組みに参加したり、何か形にするお手伝いができたりすればいいなと思っています。
F.I.N.編集部:
それは具体的にはどういうことですか?
酒井さん:
島の中には、移住してくる方がちょこちょこいるんです。そういう方たちと横で繋がって豊島の文化を守り、地域を盛り上げるような活動ができればいいですね。それは大きなことではなく、例えば畑しごと。この季節にはこんな美味しいものがあるけれど、一人でやっているとなかなか手が回らない。だから手伝って一緒に作業をしようということもひとつですし、高齢化が進んでも変わらず秋祭りの神輿を残していくために知恵を絞ることもひとつ。今ある豊島ならではの文化を残していくために、僕たち移住者たちと地域の方たちが一緒になって動いていけたらいいんじゃないかな。
F.I.N.編集部:
土地が受け継いできた美しい暮らしを守っていくような活動でしょうか。
酒井さん:
島に訪れる観光客も年々増え、”豊島=アート”というイメージは定着してきていると思います。でもアートを見て帰ってしまうだけではもったいない。豊島の魅力は生活者の力強さにもあると思うんです。なので、1泊でもいい。少しだけでも長い時間滞在して、豊島で生活をしている人たちだからこそ感じている良さを伝えられるようなことを、チームになって何かやれたら面白いなと思います。
F.I.N.編集部:
なるほど、暮らしそのものが持つ魅力を守り、広げたいと。
酒井さん:
そうですね。豊島は交通の便も良くないので、東京から来ること自体がとても大変。ましてや住むというのはなかなかできないと思います。だからこそ、せっかく訪れたからにはそこで生活している人たちと同じ空気や温度を感じていただけたらいいですよね。地元の人たちにとってみれば、綺麗な景色も暮らしの中の当たり前のこと。でも外の視点から見ると、そのこと自体がとても素晴らしいこと。魅力に溢れた暮らしや文化そのものを残し、そして味わっていただく仕組みや流れが必要だと思っています。そういう中で、〈檸檬ホテル〉のコンセプトの中に”誰かと”という言葉があるように、僕たちが誰かに伝えたいことや、誰かと一緒にやったことを誰かに伝える、ハブのような役割になっていけたらと思います。
檸檬ホテル
香川県小豆郡土庄町豊島唐櫃984
作品鑑賞の方)
開館時間:10時30分〜16時30分
*冬季:12月〜2月は11時〜15時30分
休館日:火曜、水曜
*月曜、火曜が祝日の場合は、水曜休館
鑑賞料:500円(税込)
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