2020.12.31

わたしの「しない贅沢」

第4回 山伏・坂本大三郎さんの場合

目まぐるしいテクノロジーの進化とともに、さまざまな情報がひっきりなしに目に入る今の世の中。現代における贅沢を考える上で、暮らしの「余白」をつくることが、毎日の生活を豊かにするのではないでしょうか。各界で活躍する方々に、気持ちをリセットしたい時や自分自身を整えたい時などに行う、「〇〇しないこと」をお聞きすることから、真の贅沢は何なのか、一緒に考えていきます。

 

今回お招きしたのは、山の文化を伝えるため、東北を拠点に活動している山伏の坂本大三郎さん。山菜や川魚、熊や鹿、猪肉など、山で採れるものをお金に変え、現代社会における山伏の生活を実践している坂本さんに「〇〇しない贅沢」を伺いました。

<坂本大三郎さんのしない贅沢>

好きなものを食べる前は、食事をしない。

写真提供:坂本大三郎さん(ご自宅の近所から見える自然の風景。)

山伏の暮らしは、日常生活で行っていることを極端に減らしたり、増やしたりするので、「しない」ことは身近にあります。その中でも、一つ選ぶとしたら、自分の好きな食べものを食べる前は、食事をしないで空腹にしておくことです。今から15年前、30歳のときに初めて山伏の修行に参加しました。山形県・出羽三山(でわさんざん)で修行中、ほぼ断食に近い状態だったのですが、山頂で食べたおにぎりとたくあんがものすごく美味しかったんです。その頃はまだ東京に住んでいて、美味しいものを食べたいときは、いろいろなレストランを調べて自ら訪ねていました。しかし、山で食べたおにぎりをきっかけに、自分自身を変えることでも美味しいものに出会えるんだ、と気付いたんです。これは人生においても大きな発見だったと思います。

また、定期的に森の中に入っていって、日常を遮断するようにもしています。自宅の裏山が月山で、ブナの原生林になっているのですが、たまにそこで、穴を掘って埋まるんです。これも修行の一種で、文化的にもとても深い由来があります。穴や洞窟など、うつろな空間に籠ることによって豊かさが増すと考えた古代人の思考で、その名残として桃の中から生まれる桃太郎や、竹に包まれて生まれるかぐや姫の民話が残されているという説があります。穴に蓋をして、完全な闇の中にいると、体の感覚が変わっていくのがわかります。断食でも同じことですが、何かを止めることで、感覚が研ぎ澄まされていく。このような経験をもとに創作活動をしたいと考えて、芸術や言葉、お店の運営などを通じて発信しています。

僕は山で生活をしているので、お金とは無縁だと思われがちなのですが、それは逆なんです。もともと山伏は市での交易に深く関わる存在でもありましたし、今、コンビニまで車で30分はかかる、お金を使う機会の少ない山の中で生活をしてみるなかでも、改めて「お金を使うことは豊かだ」と実感したんです。

例えば、みなさんも仕事でがんばって疲れたときには、お金を使って、ちょっと贅沢なごはんを食べたり、休日の旅行でリフレッシュしたりすると思います。これは、家で休むだけでは癒しきれない心身を、お金を使うことで回復させているという見方もできます。つまり、自然に暮らす中で得られるものとは別種の、お金を使うことで得られる豊かさというものが、あるのではないでしょうか。

経済の根本にある「交換」とは、誰かにとっての“ありふれたもの”と、“価値のある貴重なもの”とを取引する行為です。両者は客観的には等価であっても、その人にとっては同じ価値ではありません。この「交換」のうちに便利さや満足感が発生するからこそ、経済は発展してきたわけですよね。お金は使い過ぎれば身を滅ぼしますが、お金を使うことで得られる豊かさと、私たちの心身には、深い関わりがある。そのことを僕は、山で生活する中で発見しました。

人間の行動は常に環境に規定されます。そうであれば、私たちを取り巻く関わりについて、思考を巡らせてみることが大切です。ただ自然の中に飛び込んでいけば豊かに生きていけるわけではない、と僕は思っています。お金というものに関しても、いま一度捉え直して、じっくり考えてみることが、日々の暮らしを豊かにするのではないでしょうか。

Profile

坂本大三郎さん

山形を拠点に活動する現代の山伏。芸術家として『山形ビエンナーレ2014、2016』『瀬戸内国際芸術祭2016』『リボーンアートフェス』等に参加。2021年には、自然と人の関わり合いで生まれたものを扱うショップ「十三時」を山形市から西川町に移転、オープン予定。著書に 『山伏と僕』(リトルモア)、『山伏ノート』(技術評論社)、『山の神々 (伝承と神話の道をたどる)』(株式会社 エイアンドエフ)がある。

web:https://www.13ji.jp/

twitter:@daizabu3

編集後記

「自分自身を変えることでも美味しいものに出会えるんだ、と気付いた」という坂本さんの言葉を伺い、じわじわと自省の念が湧いてきました。ともすると、いまこの瞬間の自分を幸せにしてくれるものごとを探し、それらを刹那的に消費してきた自身の体験が思い起こされたからです。坂本さんのお話を通して、贅沢や幸せはその瞬間の自身の体調や気分によって感じ方が変わる相対的なもの、だからこそ贅沢を存分に感じ、幸せに気づくためには自分自身を整える必要があるのだということを学ばせていただきました。

(未来定番研究所 中島)

 

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第4回 山伏・坂本大三郎さんの場合