2020.12.28

わたしの「しない贅沢」。<全4回>

第3回| 〈みんげい おくむら〉店主・奥村忍さんの場合

目まぐるしいテクノロジーの進化とともに、さまざまな情報がひっきりなしに目に入る今の世の中。現代においての贅沢を考える上で、暮らしの「余白」をつくることが、毎日の生活を豊かにするのではないでしょうか。各界で活躍する方々に、気持ちをリセットしたい時や自分自身を整えたい時などに行う、「〇〇しないこと」をお聞きすることから、真の贅沢は何なのか、一緒に考えていきます。

 

今回お招きしたのは、日本や世界各国の手しごとを集めたウェブショップ「みんげい おくむら」の店主兼バイヤーの奥村忍さん。世界を旅する中で出会った「暮らしを支える道具」をECサイトで紹介している奥村さんに「〇〇しない贅沢」を伺いました。

<奥村忍さんのしない贅沢>

「無理に生産されたもの」を買わない。

写真提供:奥村忍さん(ご自宅で愛用されている、無理のない量で生産されたワインとリサイクルの素材でつくられたワイングラス)

29歳で自分のお店を始めるまでは、商社で世界中の食品の輸入をしていました。その会社は高度経済成長などの追い風を受け大きくなったのですが、僕が就職した頃はとっくにバブルも終わり、景気は停滞期。輸入しただけのものが簡単に売れる時代は終わっていました。会社勤めをしていた20代の頃は、欲しいと思うものは一通り買っていましたがどこかしっくりこなかった。そんな日々の中で、いつしか民藝(*1)に興味を持ちはじめ、「自分がこれまで買ってきたものは、買った瞬間が100点で、そこからどんどん劣化していくもの。そういうものの消費はもう止めたい」と思うようになりました。そのことに気付いた20代後半からは、生活に取り入れるものは食器にしても服にしても、無理のない量だけを生産しているところから買うようにしています。それは、機械ではなく手で作られたものや、身近にある素材を使ったものなどです。大量生産品は極力買わないようにしていますし、買わないものを決めると、暮らしがすっきりします。例えば、僕はテレビも持たないし、雑誌もほとんど読まない。自分が買わないものをはっきりさせたら、消費させようとするものに興味がなくなってしまった。戦後、日本は豊かさを追求してきましたが、今はその最終局面に立っていると思います。情報やものが溢れ、生活者が何を買えばいいのかわからなくなっている状態。逆に、うちで商品を買ってくれる方は、自分の中にある基準や軸があって選んでくれているんじゃないかと思っています。この仕事を通じて、全国各地に繋がりができました。これからは、2人の子どもを連れて、ものづくりをしている人たちやその土地での暮らしを見せてあげたいですね。

 

*1民藝

昭和初期、柳宗悦(やなぎ むねよし)らが提唱した生活文化運動。名もなき職人の手から生み出された日常の生活道具を「民衆的工芸品」として、生活の中に美を見つけていく価値観を追求した。

Profile

奥村忍さん

日本や世界の生活道具を集めたウェブショップ「みんげい おくむら」の店主兼バイヤー。大学卒業後、商社やメーカー勤務を経て独立。2010年に自身のお店をオープンした。10年にわたり中国の手しごとを探し歩いた著書『中国手仕事紀行 (雲南省・貴州省)』(青幻舎)が発売中。

web:www.mingei-okumura.com

編集後記

奥村さんの「買わないものを決める」という姿勢から、現代におけるとても重要な学びをいただきました。一度スマホを覗けば情報が溢れ出てきてパニックにさえなりそうな今日、それらすべてを受け取っていては心身が疲れてしまいます。隙あらば買ってもらおうと誘導する声に振り回されることなく、自律した選択をしていきたいと同時に、そのような人々に寄り添う小売のかたちとはなにか?を考えていきたいと思いました。

(未来定番研究所 中島)

わたしの「しない贅沢」。<全4回>

第3回| 〈みんげい おくむら〉店主・奥村忍さんの場合