2019.11.21

インバウンド旅行者向けのプライベートツアーサービス「otomo」が関西に拡大するワケ

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、ますます需要が高まるインバウンド観光。そんな中、 インバウンド旅行者向けのプライベートツアーサービス「otomo」が、関東圏を飛び越えて関西圏にまでエリアを拡大しました。その魅力は、これまでのものとは一線を画す、街中に一歩踏み込んだツアープランにあるようです。今回は、インバウンド観光業界で躍進を遂げる「otomo」の沼澤建さんにお話を伺いつつ、インバウンド観光の未来を探ります。

「otomo」沼澤建さん

ただの観光じゃ物足りない?

日本で求められる体験価値の需要

FIN編集部

2019年1月にサービスの提供がスタートした「otomo」。そのサービス内容を教えてください。

沼澤さん

外国語と日本語を話せる現地に詳しい専属ガイドが、日本を訪れる外国人観光者を案内するプライベートツアーです。現在、全国15都道府県で約300プランを用意していて、1ツアーに最大6名まで参加できます。ツアー料金は、参加人数にかかわらずグループ単位の定額となっていて、1グループ15,000〜20,000円とリーズナブルなのも特徴です。主に英中韓の言語を使ったツアーを展開しており、今では月に100件以上ものご予約をいただいております。

FIN編集部

プライベートツアーに着目した理由は?

沼澤さん

2018年にはのべ3100万人の外国人旅行者が日本に訪れていて、2020年には4000万人まで伸ばそうと政府でも目標を掲げているくらい、海外からの旅行者が増えているんです。インバウンド観光の市場が拡大していく中、選ぶ旅行先も東京や大阪などの都市部だけでなく、中部や東北といった地方にも注目が集まるようになっているんです。それに旅行者のニーズは、“もの”消費から“こと”消費へと変わってきていて。例えば、ただスカイツリーに登るだけじゃなくて近くで人形を作ったりと、旅の中にも体験価値を求めるようになってきているんです。団体パッケージツアーでは物足りなくなってきた旅行者が増えている中、自分たちでは行けないような場所に専属のガイドが案内するプライベートツアーを提供しようと考えました。

FIN編集部

専属ガイドになるための、資格や条件はあるんでしょうか?

沼澤さん

旅行者を有償でガイドするには、通訳案内士という資格が必要だったんですが、2018年 1 月に改正通訳案内士法の施行に伴う規制緩和によって、有償ガイド業務に資格取得が必要なくなったんです。この試験の合格率はとても低くて、おそらく今私が受験しても多分受からないと思います(苦笑)。規制緩和前の全国通訳案内士は2万5千人程度で、1人の外国人旅行者に対して0.1人にも満たないくらいの数字です…。でもこの規制緩和によって、様々な方がガイドとして活動できるようになったわけです。現在「otomo」では、900名以上の方がガイドとして登録してくださっています。その登録条件は、18 歳以上であること、日常会話レベル以上の外国語スキルと日本語スキルを有していること、必要最小限の IT スキル(ウェブ検索・メール送受信・地図アプリ使用など)を有していること、日本国内で就労可能な在留資格を有していること、としています。

FIN編集部

この条件以外に、「otomo」としてガイドさんに求めるスキルは?

沼澤さん

そうですね。規制が緩和されて資格の必要がなくなったとはいえ、やっぱりおもてなししてくれる人って大切だと思うんです。だってガイドさんって、いわば“日本代表”みたいなところあるじゃないですか。旅行者にその国の印象をつけるというか。だから弊社では面談や研修を行っているんです。研修は任意ですが、タックスや検疫などお土産の購入時に知っておきたいことや、緊急時の対応、あと実際に外に出てガイドを実践するフィールドワークも行っています。

インバウンド観光の未来を明るくする

まだ知られざる日本の魅力

FIN編集部

なるほど。そうしてガイドさんのクオリティも維持するわけですね。今年3月には関西にもサービスを拡大されました。その意図は?

沼澤さん

地方の中でも、ダントツで人気なのが関西なんです。宿泊ベースで考えると、大阪と京都を合わせると東京を超える勢いですから。ニーズ的にもやはり関西ははずせません。現在は2府2県で60種類くらいのツアーを用意していますが、「otomo」の拠点である東京の社員が、全て現地に調査に行って作ったものなんですよ。

FIN編集部

ニッチなツアーがあるのが魅力的ですよね。ツアーを作る際、大切にされていることはありますか?

沼澤さん

日本人でもなかなか行かないような、おもしろくて素敵な場所を旅行の中で発見してもらうことですね。例えば、奈良県の大和郡山市。ここは、街中に金魚が泳ぐ水槽がいっぱいあって、金魚すくい名人もいる金魚だらけの街なんですよ。ここは大阪からも電車の乗り継ぎが必要で外国人はアクセスしにくいので、ガイドさんが案内してくれることで外国人旅行者の方も安心して楽しめると思います。あとは現地の人に話をいっぱい聞くことですかね。大阪の味園ビルという飲み屋さんがたくさん入居する個性的なレトロビルがあるんですが、こういったところは実際に行って現地の人にお話を聞いてみないとわからない。このような現地の人と一緒に行かないと扉が開かないところばかりですが、私たちでもこんな素敵なところがあったんだっていう嬉しい発見がいっぱいあるんです。

FIN編集部

そういうディープなスポットへ案内してもらえるのは、現地を知り尽くしているからこそですよね。

沼澤さん

その土地の文化や歴史はもちろん、町の人が通うディープで面白いスポットに案内してくれるところが魅力です。あとは少人数のプライベートツアーなので、ちょっとしたわがままを聞いたり、要望に合わせてその時に変えたり、なんてこともしょっちゅうです。もちろんできる範囲ですが。現在、15都道府県にサービスを展開中ですが、集客を増やしつつ、もっといろんなスポットにご案内できたらと考えております。

FIN編集部

最後に、5年先のインバウンド観光についてどうお考えでしょうか?

沼澤さん

2020年の東京オリンピック・パラリンピックで、外国人観光客の数は急増するかもしれないですが、その増えるスピードは変わらないと思うんです。日本には、まだまだ眠っているポテンシャルがあるんですよね。どこにいってもサービスのレベルの質が高いですし、人の親切さや丁寧さはどの国には負けませんから。一方でヨーロッパなどと比べると、その土地の魅力の発信の仕方や、多言語対応がまだまだ改善できるかなと…。例えば地域のガイドさんが案内してくれるなど、そういう体制が整えば、もっと日本の魅力を世界の方々に知っていただけるし、インバウンド観光の未来はより明るくなると思います。

Profile

otomo株式会社

インバウンド旅行者向けのプライベートツアーサービス「otomo」を運営。地域の観光資源を活用したオリジナルのツアープランの組成と、地域のガイド人材の育成を通じて、高品質なツアーサービスを外国人旅行者へ提供。英語・中国語・韓国語をはじめとする各言語に対応し、全国15都府県にて、900名以上のガイドが登録し、合計300種類以上のツアープランを展開している。
https://otomo-inc.com/

編集後記

otomoさんの素晴らしい所は、日本を代表して外国のお客様をおもてなししよう、

という、その志と創意工夫にあります。

どうすれば思い出に残る旅行を楽しんで頂けるのかを、徹底的に考えて作り上げたパーソナルなプランを、契約するガイドさんと研修・面談などでコミュニケーションを深めながら、一緒にお客様にご満足頂くクオリティに作り上げて行くことに、挑戦されていらっしゃいます。

モノからコトへ消費は変化していると言いますが、いずれにしても

そこには伝える人の「心」が大切で、今からの時代、かなめは「人の魅力」であると感じました。

 

(未来定番研究所 出井)