ゲーム
2023.06.23
ゲーム
オンラインゲームやゲーム実況、eスポーツなど、目覚ましい勢いで進化を遂げるゲームカルチャー。ゲームが好きでもそうでなくても、否応なしに目や耳に入ってくるのではないでしょうか。そこで6月のF.I.Nでは、今やメインカルチャーの一つになってきている「ゲーム」を特集します。そもそもなぜ今、ゲームがこんなにも人々を魅了するのでしょうか。本企画では、デジタルゲームやオンラインゲーム、ボードゲームなどゲームを愛する目利き6人に、ゲームを好きな理由やこれからのゲームの行方など、ゲームにまつわるあれこれを伺いました。
(構成:船橋麻貴)
漫画家・山本さほさん
「その時の気分をゲームで擬似体験しています」
山本さほさん
1985年生まれ。幼少時代からの親友・岡崎さんとの友情や思い出を描いた自伝的作品『岡崎に捧ぐ』をWEBサイト「note」に掲載し、大きな話題に。その後、2015年より『岡崎に捧ぐ』の連載を開始し、2018年には単行本5巻で完結。現在は、週刊文春オンラインにて「きょうも厄日です」、週刊ファミ通‘(KADOKAWA)にて「無慈悲な8bit」を連載中。
Twitter:@sahoobb
1日5時間はゲームをするほど、ゲームの大大大ファンです。そんな私がゲームをするのは、その時の自分がやりたいことをゲームを通して体験できるからです。鬱憤が溜まっている時はストレス発散ができるゲーム、日常にマンネリを感じたら刺激的なゲームといった感じで。ここ最近は『バイオハザード RE:4』 をプレイしているのですが、1チャプター30分~1時間ほどなので、「仕事の合間に1チャプターだけ……」みたいな遊び方ができるので助かっています。
かつてゲームは、オタクと子どものものでサブカルチャーの一つだったように思いますが、近年はアイドルや俳優といった有名人の方々が「ゲーム好き」を公言してくれたことや、ゲーム実況ブームなどによって、すっかりメインカルチャーの一つに。これは子ども の頃からゲーマーだった者としては、とても嬉しいこと。それに、ゲームはしないけどゲーム実況は見る「見るだけゲーマー」が増えたことも、ゲーム業界全体の活性化になっていて面白いですね。ゲームの未来を考えるとワクワクしますが、最近話題のChatGPTなどのAI技術は、数年後のゲームに多大な影響を与えると思っています。例えばNPC(*)の顔をAIが自動生成し、会話の内容が無限通りあったとしたら……。現実世界とゲームの世界の境目がなくなる時代はすぐそこまで来ていて、考えるだけでも楽しくて仕方ありません!
*NPC・・・Non Player Characterの略。ゲーム上でプレイヤーが操作しないキャラクターのこと
〈すごろくや〉代表・丸田康司さん
「新しい思考を授かれる。それこそがゲームの最大の魅力」
丸田康司さん
株式会社すごろくや代表取締役。『MOTHER2』『風来のシレン2』などテレビゲーム開発に携わった後、2006年に近代ボードゲーム・カードゲームの専門店〈すごろくや〉を設立。現在は、東京の吉祥寺と神保町の2店舗で展開中。海外製ボードゲームの国内向けローカライズやイベント運営、自社ゲームの開発、書籍の発行など多岐に渡る活動をしている。
すごろくや:https://sugorokuya.jp/
コンピュータゲームやボードゲーム、スポーツの試合など、ゲームすべてに備わっている本質とは何か。その問いに私はいつも「自らの思考と決断によって、うまくいったと喜ぶ結果が得られる制度の枠組み」のことだと答えています。だからゲームの魅力となれば、自らの「喜ぶ結果」のために「思考と決断を行うこと」に他なりません。「喜ぶ結果」の方ではないのです。そして、大事なのはその「自らの思考と決断」の力は一人ひとり違うということ。一直線上のベクトルですらありません。だからこそ、自分の力量にあった、新たな思考のベクトルを提示してくれるゲームや対戦相手に出会った時に、「こんなに新しい考え方をさせてくれるなんて面白い!」と思える。これこそが最大の魅力です。
私がボードゲームに魅せられたのは、30年以上前。当時ボードゲームのプレイヤー人口はかなり少なかったのですが、今はメディアの拡散力によって日本でもようやく浸透し始めています。しかし、おもちゃ要素が強かったり、言葉の感性を使ったりと、見ていれば遊び方が解るくらい簡単で似たりよったりなゲームになりがち。一方、複雑なボードゲームも苦なく楽しめるフリークたちは、より複雑で長時間かかるようなものを好みます。メーカーもその需要に応えようと、より複雑化したものを大量に供給してきた結果、二極化と供給過多が進みました。その反動としてこの何年かは、「大人がほどよく考えて楽しむのにちょうどいいゲーム」が尊ばれる傾向が増してきているように感じます。そうした中、これからのゲームは、自分だけで楽しむよりも「他者に対してどう使うか」に重きを置く価値観が高まっていくでしょう。一般的にゲームはコンピュータゲームのことだけではなく、「誰かがやってくれるもの」「それを見て楽しむもの」「プレイする側の人は何か特別なスキルがある人」という価値観がメジャーになることも考えられます。一方、ボードゲームは、そのような「見て楽しめる」成分はかなり少ない。人集めも含めていかに能動的に接していけるような環境をつくれるかが課題。それを踏まえて、これからも〈すごろくや〉の事業を進めていくつもりです。
評論家/編集者・中川大地さん
「ゲームの進化は、現実のシステムをも塗り変えてきた」
中川大地さん
評論家/編集者。批評誌「PLANETS」副編集長。文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査委員(第21~23回)、芸術選奨メディア芸術部門推薦委員(第71〜73回)。 1974年生まれ。ゲーム、アニメ、ドラマなどのカルチャーを中心に、現代思想や都市論、人類学、生命科学、情報技術等を渉猟して現実と虚構を架橋する各種評論等を執筆。著書に、『現代ゲーム全史』(早川書房)『東京スカイツリー論』(光文社新書)など。2023年7月5日〜9月2日にかけて京都で開催される、現代アートとインディーゲームの今を発信する企画展「art bit #3 – Contemporary Art & Indie Game Culture-」(於・ホテル アンテルーム 京都)のコンセプト監修を担当。
私が思うゲームの魅力は、人間が人間らしい文化を築いていく営みの核になる性質かもしれない「遊び」の作用が、最先端の計算機テクノロジーと結びつきながら「現実」を塗り替え、今私たちが生きるグローバルな情報文明の先導役になってきた点です。私は日本でのファミコン直撃世代の一人なので、ゲームの飛躍的な発展を自分自身の成長とともに目の当たりにしてきましたが、デジタルゲーム登場以前にはここまでのスピードで、ルールに基づく制度としての「ゲーム」が書き換えられていくことはありませんでした。つまり、ゲームの発展と連動しながらIT革命やスマートフォンの普及が進行していったように、20世紀中盤までの社会革命とは違うかたちで、新たなアーキテクチャデザインが現実のシステムを書き換えていった。言うなれば自分たちの情報環境を少しずつ「ゲームチェンジ」していくことが本来的には充分に可能なのだというイメージを与えてくれた点が、実は人類がデジタルゲームを得たことの何よりの効能なのではないかと思います。2010年代くらいから世界のゲームシーンでの大規模資本によるAAAタイトル(*1)とインディーゲーム(*2)系の二極化ということが言われて久しいですが、ゲームにおける潮流として興味深いのは、そうした環境下で私小説的なリアリティやローカルな政治社会状況に密着したゲーム表現や、アナログゲームを含めた遊びやゲームの概念の境界を問い直す前衛的実験、あるいはアートとの融合などが細々とながら続いている点。ただ、狭義のデジタルゲーム産業の範疇では、インディーゲーム市場ももはや飽和気味になってきていて、なかなか決定的なゲームチェンジの芽は見出しづらくなっていると思います。その一方で、昨年からイラスト生成エンジンや大規模会話モデル(LLM)を用いたジェネレーティブAIが、目下ブームとして浮上してきているわけですが、彼らをどういうかたちで人間にとっての「遊び相手」として取り込んでいけるかが、今後の5年の鍵になる気がします。また、ジェネレーティブAIブームで少し熱量の冷めてしまった感のあるNFTやメタバースといった、「過剰な期待」を浴びすぎた技術を実利的な思惑から離れ、純粋に「遊び」のために使おうという価値転換ができた時に、ゲームと社会のブレイクスルーに繋がるのではないでしょうか。
*1 AAA(トリプルエー)タイトル・・・膨大な費用をかけて開発されたゲームのこと
*2 インディーゲーム・・・インディペンデント・ゲームの略
編集者・野口尚子さん
「世界の捉え方が広がるゲーム実況は、可能性の宝庫です」
野口尚子さん
1984年生まれ。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業後、エディトリアルの制作会社などを経て、デザイン誌「月刊MdN」の編集に携わる。現在はITベンチャーに勤めながら、フリーの編集者としても活動。デザインの知識や編集技術をもとに、コンテンツ制作やブランディング、コーポレートコミュニケーションに携わる。
私はライトゲーマーで、むしろプレイヤーとしては下手なほう。一方で、ゲーマーの皆さんの実況動画を見るのが大好きで、楽しそうにプレイされているのを毎日のようにウォッチしています。近年注目しているのは、ゲーム実況者・なむさんが始めた『ゲームさんぽ』という動画コンテンツ。気象予報士や古代ギリシャ建築家など、さまざまな背景・専門性を持った人たちとゲーム内を「さんぽ」することで、世界の捉え方は人によってまったく違うのだということが見えてきます。これはゲームを通して、私たち自身の視点を拡張するような、とても面白い試みです。
ゲームが、私のように視聴者として楽しむ人も含めた「みんなのコンテンツ」になってきた背景の一つには、配信や投稿に関わるガイドラインの設定があります。ゲームは著作物なので、本来は第三者が勝手にゲーム内の映像や音楽を利用することはできません。しかし、配信やSNSでの利用についてメーカー各社がガイドラインを定め、ある程度の範囲で利用できるようにしていく動きが広がり、より多くの人がゲームに親しめる環境が生まれています。こうした取り組みは、今後ゲーム以外の分野でも検討されていくのではないでしょうか。また、ゲームを原作としたアニメ化などメディアミックスも広がっていますし、ゲームは世代を超えたカルチャーのハブになる可能性があるなと感じています。さらに、ゲームの中の世界が豊かになっていくにつれて、よりゲーム外の専門性も求められていくはずです。例えば、フランスのUbisoftが制作している『アサシン クリード』シリーズは、古代のエジプトやギリシアなどを舞台に、まるでその時代に訪れたかのような街並みを描き出しています。これらは丁寧な時代考証がなければ実現しません。デザインの側面でも、グラフィックや建築、ファッションなど現実世界のデザインの知識・技術がゲームの世界で活かされるようになるはず。よりさまざまな分野の人たちがゲームに携わり、作り手の垣根がなくなっていくようなことが広がればいいなと期待しています。
映像作家・ゆはらかずきさん
「オンライン上でも、他者とのつながりを感じられます」
ゆはらかずきさん
1996年生まれ。VR映像作家、ゲームクリエイター。多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース卒業。東京藝術大学大学院映像科アニメーション専攻ゲームコースの在籍中にゲーム制作を始める。アニメ『ポプテピピック』第二期のオープニングアニメーションのディレクションを務めた。
僕が考えるゲームの魅力は2つ。まず1つは、その世界に一人で没入できること。一人のプレイヤーとして世界を隅々まで冒険することができるから、作られた世界であることですら忘れられます。プレイヤーとしてその世界に降りた時は、まだ何も知らない赤ちゃん同然。一歩進むごとに新しい発見があります。プレイヤーとしてその世界の事象をあるがままに受け入れ、世界を歩くことで何か魅力的なものを探す旅をすることができます。もう1つは、他者とのつながりです。オンラインでプレイすることが一般的になった今、プレイしながら会話したりと、ゲームはコミュニケーションツールとして優れていると思います。とくに、4人1チームで会話しながら協力して戦う『スプラトゥーン3』は、他者とのつながりという点でとても考えさせられましたね。
そして、近年のゲームの動向として面白いのが、やはりYoutuberやVtuberなど配信者とそれを取り囲む人々の動き。関連コンテンツとして、YouTubeやTwitchでの実況も面白いムーブメントです。例えば、『スプラトゥーン3』では数カ月おきにフェスが開催され、そこでは3つの派閥に分かれて戦います。自分が気になる配信者と同じチームになってフェスに参加することができ、オンライン上ながら一体感を感じられます。このように、現在ゲームは1人で楽しむものから、多くの人が同じ場所で体験を共有するものへと変化しました。今後この動きはさらに加速し続けると思います。また、単純により多くの人が場所を共有するものへと変化していくと予想します。さらに言えば、それとは逆行する小さなコミュニティで形成されるゲーム体験の共有も、これからムーブメントとして起こっていくと思います。
東京藝術大学 大学院映像研究科 ゲームコース在校生・山根風馬さん
「ゲーム制作の中にあるゲーム性が面白い」
山根風馬さん
1999年生まれ。2022年に東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業し、現在は同大学院映像研究科アニメーション専攻修士1年。ゲームや映像、インスタレーション作品を主に制作している。海洋のゲーム「Whale Fall」を個人で制作しており、2023年夏にSteam・Epic Gamesにて発売予定。
Twitter:@Fuma_Yamane
僕がゲームをするのは、別世界を体験してみたいという興味と、目標達成による高揚感を味わうためです。ところがゲームを作るようになってからは、その中にあるゲーム性に魅了されてしまいました。どうしたら理想のゲームが作れるのか熟考し、作戦と努力の蓄積によってゴールを目指す。それはまるでゲームで遊んでいる時と同じような楽しさがあるんです。ゲーム制作をしている身としては悔しいのですが、最近ゲームを取り巻く動きとして面白いと感じているのは、AI。NPC(プレイヤーが操作しないキャラクター)がAIを用いてプレイヤーと会話したり、背景やキャラクターをリアルタイムに生成することが可能になってきています。この先は、僕らが寝ながら夢を生成するように、無作為な世界で無作為な設定を体験することが可能になると思います。また、ゲームをプレイすることの価値は、ドキュメンタリー映画を見るような感覚に近くなるとも感じています。AIがあらゆる世界を自動生成して、プレイヤーが好きなようにすべてを体験できるのは、現実の僕らと世界との関係に近い。それでも僕らがドキュメンタリー映画を観るように、すべてが思い通りに作れる世界になったとしても、誰かが切り取った作為的な視点の記録を体験することに価値を感じられるのではないかと思います。