2024.04.05

挑戦し続ける大人

ジェーン・スーさん×堀井美香さんの挑戦メソッド。「つべこべ言わずに、いいからやれ!」

「挑戦し続ける大人」とは、どんな人か。そう考えた時、常に価値観のアップデートが行われ、バイタリティーあふれる人。そんなイメージがふと浮かび、TBSラジオの大人気 Podcast番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』のパーソナリティ、ジェーン・スーさんと堀井美香さんの存在が欠かせない気がしました。

 

今年1月に開催された同番組の2DAYSイベントでは、演技やドラム、ダンス、マジックなどに挑戦し、互助会員(*)たちに前向きな気持ちを授けてくれました。今回は、番組収録を終えたばかりの二人を悩める編集部員たちが直撃。叱咤激励ありの、笑いと涙のインタビューとなりました!

 

*同番組では、お互いの助け合い精神から、リスナーのことを「互助会員」と呼んでいる

 

(文:船橋麻貴/写真:嶋崎征弘)

Profile

ジェーン・スーさん

作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。1973年生まれ、東京都出身。レコード会社勤務などを経て、コラムニストに転身。2015年にエッセイ『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)で講談社エッセイ賞を受賞。『死ぬとか生きるとか父親とか』(新潮社)はドラマ化され話題に。ほかに、『おつかれ、今日の私。』(幻冬舎)、『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』(文藝春秋)など著書多数。

X:@janesu112

 

堀井美香さん(ほりい・みか)

フリーアナウンサー。1972年生まれ、秋田県出身。1995年TBSにアナウンサーとして入社し、2022年に退社。現在はフリーランスアナウンサーとして活動する。ナレーション、朗読の名手として知られ、名作小説の朗読会シリーズ「yomibasho」のほか、映画予告やCMなど多彩に活躍。著書に『音読教室 現役アナウンサーが教える教科書を読んで言葉を楽しむテクニック』(カンゼン)、『一旦、退社。50歳からの独立日記』(大和書房)がある。

X:@horiimikaTBS

人生を劇的に変えるような挑戦なんてない

F.I.N.編集部

今回の特集テーマは「挑戦し続ける大人」です。編集部では即座にスーさんと堀井さんの顔が浮かんだのですが、お二人の周りにもそういう大人はいますか?

堀井さん

中年になると余白みたいなものができるから、昔の夢ややりたかったことに挑戦してみようと動き出せるんですよね。私の周りにもそういう先輩方が多い。だから自分もフリーランスに挑戦しようと思ったんですよね。じゃ、私もやってみようって。

スーさん

そうだね。活動的な先輩方、たくさんいるよね。ただ、誰も挑戦しようとは思ってない気がする。今までだったら慎重に考えてやらなかったであろうことも、50代になって迂闊な好奇心に動かされてやっている感じ。

F.I.N.編集部

若い頃と50代に入った今では、挑戦のハードルの高さが違うのでしょうか?

スーさん

私は下がりましたね。若い頃だったら結果を求められ、成果を出さないといけないと感じていたけど、今は別に達成しなくてもものにならなくてもいいと思えるんですよね。自分に嘘をつかなければ、それで十分満足なので。

堀井さん

そうそう。若い頃と違って今は、自分の軸を理解できているんだよね。もし自分の範疇を超えて違うところに飛んでいってしまっても、また自分に戻ってこられるというか。時間やキャリアを重ねてきたから、自分を俯瞰して見られる余裕ができたのかも。

スーさん

挑戦できるようになったというより、迂闊にいろいろできるようになったんだよね。今は「やりたい」「やりたくない」という自分の気持ちに向き合って決められるけど、やっぱり若いうちは「私なんかが……」という変な自意識があった。私には「似合わない」「分不相応だから」って。だけど、そんなもの自分の可能性を狭めるだけなんですよね。

F.I.N.編集部

たしかに「私なんか」という言葉、つい使いがちです。お二人はこれまでにいろいろな挑戦をされてきたと思うのですが、その中で自分を変えたというような経験はありますか?

スーさん

そんなものはないです(きっぱり)。人生ってトライアルアンドエラーだし、そんなに劇的にできてないと思うに至りました。

堀井さん

でも、スーちゃんは異業種からエッセイストやラジオパーソナリティになっているじゃない。これは挑戦じゃないの?

スーさん

それは単なる船の乗り換えです。そもそも自分のターニングポイントって考えたことないんだよね。たしかに最初は「どうしたもんかな」という戸惑いがあったけど、信用している人から「これ、やってみたら?」と言われたらとりあえず飲み込んでやってみる。それで、その船に乗ってみたら思わぬところまで連れて行ってもらえた。意識的に挑戦するというより、信用している人から言われたことは1回やってみるようにしてます。美香ちゃんはどう?

堀井さん

私も人を信じやすいので、「こうしたらいいんじゃない?」という周りの意見は聞きますね。局アナからフリーランスに転向できたのも、柔軟に進路変更できるタイプだったから。それは対応力や素直さといった成熟したものではなくて、「この人がそう言ってくれているんだからやってみるか」という、すごくふわふわした感じ。でも、そうやって生きてこられたのは、唯一自分を褒められるところですね。

F.I.N.編集部

挑戦には失敗がつきものですが、お二人は失敗をどう捉えていますか?

スーさん

一生懸命やって自分なりの最善を尽くしたのであれば、私はそれを失敗だと思わないです。もしうまくできなかったとしても、その一つひとつの成果や出来を自分の人格とひもづけて、否定的になることはないかな。

堀井さん

私はスーちゃんとは違って、失敗するとズドンとなりますね。いまだに3日くらいは落ち込みます。でもこれはもう性格なので、60代や70代になっても変わらないと思う。自然な感情だからそこはいいかなって。それに1週間もすれば、すっかり大丈夫になる。忘れちゃうんです。

スーさん

落ち込むのは悪いことじゃないと思う。でもそうやって落ち込みすぎると、次に何かやる時にドキドキしない?

堀井さん

今、ちょうどせめぎ合ってるんだよね。「苦手分野だから無理してやらなくてもいいじゃん」と「もう1回ちょっとやってみよう」という気持ちの狭間というか。自分への期待と希望をまだ持っているお年頃なんですよね。

夜中にエールや大笑いも! 2DAYSイベントの練習秘話

F.I.N.編集部

今年1月に開催された『OVER THE SUN』の渋谷2DAYSのイベントでは、演劇やダンス、マジック、ドラムなど、自分の得意分野じゃないことにも挑戦されましたね。

スーさん

イベントの前、美香ちゃんとは「当日何かしら失敗はあると思うけど、このイベント自体が失敗作になることはない」と話していたんですよ。実際、動画を流す場面で音響のトラブルがありましたし。でもハプニングはあって当然だし、中年にもなるとそんなこと、なんてことないよね。

堀井さん

むしろ楽しめるようになるんだよね。結局、もう一度最初から動画を流して見ていただきましたし。改めてイベントを振り返ってみて、どうですか?

スーさん

準備はすごく大変だったけど、ただただひたすら楽しかったね。

堀井さん

文化祭みたいだったよね。

スーさん

本当にそう。準備日数が全然ないって言いながら、ペンキ塗っているのと同じ。

堀井さん

仲間と一緒に何かを作りあげる経験をいただけたのも、とてもありがたかったですね。二人で一緒にドラムにも挑戦できたし。

スーさん

できないことができるようになっていくのも楽しかったよね。音楽教室に通って少しドラムが叩けるようになると、もっと上手にできるようになりたいって思うようになって。自分の中に「精度をあげたい」という欲がちゃんとあることがわかって、まだまだ捨てたもんじゃないなと思いました。

堀井さん

初めてドラムに挑戦して自分の枠を超えざるを得なかったし、むしろ超えていこうみたいな力が湧いてきたんだよね。この歳になると新しいことをここまでやらせていただく機会なんて、なかなかないじゃないですか。だから本当にありがたかったし、自分自身が上にも下にもぎゅって伸びていく感じがあったんですよね。それは負荷によるものなのか、成長によるものなのか、わからないですけど。

F.I.N.編集部

お二人で一緒に練習をされて、競争心は生まれないものですか?

スーさん

全くないですね。むしろ協力心。お互いカバーしながら、とにかく「ファイト一発!」だったよね。

堀井さん

夜中にLINEでエールを送り合ったりしたよね。「死ぬなよ」「頑張ろうね」みたいな。

スーさん

お互いにやりすぎだとは薄々感じてたよね。美香ちゃんから「スーちゃん、この日の夜中12時にもう1回練習入れない?」というLINEが来た時は、「もういいって!」ってさすがに思いました。

堀井さん

ふふふふふ。

F.I.N.編集部

その様子、目に浮かびます(笑)。お二人は演技にも初挑戦されましたよね。

堀井さん

そうなんですよ。テレビ電話でお芝居の練習をしたよね。「そのセリフ、もっと早く言ってよ!」「なんであんたも早くセリフ返してこないの!?」って言い合ったりしながら。

スーさん

で、しばらくしてお互いに「あれ?」ってなって。テレビ電話だからラグがあることに気づいたんだよね。

堀井さん

おかしかったよね〜。深夜に二人で大笑いして。

他人がどうこうではなく、「自分との約束」を守る

F.I.N.編集部

練習からすでに笑いに満ちていたんですね。今回のイベントでは堀井さんはマジック、スーさんはダンスと、それぞれの挑戦もありました。

堀井さん

あの日初めてMr.マリックさんに会ったんですよ。だから練習というか、リハすらしてない(笑)。

スーさん

マリックさんが当日でOKと言ってたのに、美香ちゃんの腹筋が思わぬ事態を招いたという。でもそこが面白かった! あれは美香ちゃんにしかできないから。

堀井さん

ありがとうございます(笑)。私もスーちゃんのダンスに感動した。ラジオ終わりに練習に通っているのを知っていたから、結構グッときてしまいました。

スーさん

ダンスの練習もすごく楽しかった。センスなどという前に、体がちゃんと動かないと美しく見えないという学びがあって、実際にやってみないとわからないことがいっぱいありました。今回のイベントは準備も含めて、とにかく超贅沢だったね。

F.I.N.編集部

多忙を極める中、お二人がそこまでやり切れたのはなぜですか?

スーさん

互助会員のみなさんが私たちのことを手厳しくジャッジしないことをわかっていたからこそ、どこまでも真摯に向き合いたかったんです。美香ちゃんも私も弱音を吐いたり、途中で匙を投げるタイプじゃないのもよかったですね。「自分一人で盛り上がってるんじゃないか」みたいな心配も全くいらなかったですし。全力でお互いをラリアットし合っているというか、そういう絶対的な信頼関係があったから、最後までやり切れたんだと思います。

堀井さん

そうだね。あとは、自分たちが本当に楽しかったというのもあるかな。何か新しいことに挑戦する時って、誰かに見てほしい、聞いてほしいという自己承認欲求が少なからずあると思うんですが、今回は目の前のことをやっている時間が楽しくて仕方なかったんです。誰かの評価や共感を気にするのではなく、自分が楽しめたのが一番大きかったですね。

スーさん

結局は、「自分との約束」なんだよね。おそらく、私たちが「イベントをあんまり頑張りたくない」と言ったとしても、スタッフも互助会員さんたちも受け入れてくれる。だけど、それって最終的には「やる」と決めた自分を裏切ることになるんですよね。「自分との約束」を守ることが、一番自分を傷つけないと思うので。

「つべこべ言わずに、いいからやれ!」

F.I.N.編集部

「自分との約束」ですか……。私たちもお二人のように、周りの目を気にせずに新しいことに挑戦できますかね?

スーさん

突然暴力的な発言になりますが、「つべこべ言わずに、いいからやれ!」です。若い頃を思い出すと、私も自意識に足を引っぱられてました。だけど、その時間って本当にもったいない。せっかくチャンスが来たとしても、逃してしまうかもしれないじゃないですか。それに、自分には絶対に嘘をつけないし騙すこともできません。だから他者がどうこうじゃなくて、目の前のことを一生懸命やってみる。それが一番自分に自信をつけられると思いますよ。

F.I.N.編集部

心に染みて、なんだか泣きそうです。

スーさん

泣くなし(笑)。「頑張れた」という経験が未来の自分の支えになるんですよね。それに失敗してもいいじゃないですか。そういう経験があれば、「あの時よりはマシ」と思えるし。美香ちゃんはどう思う?

堀井さん

そうですね。私が前職で管理職を経験して思ったのは、いくら小さい仕事でもいかに楽しんでできるかどうかだなって。例えばコピー1枚取るにしても、舐めたら終わりなんですよね。他人からの評価を気にするより、まずは自分を楽しませる工夫ができるかどうか。それが例えスモールスタートだとしても、どんどん膨らんで結果的に大きなものになったりします。私の例で言うと、朗読会ですね。最初20人ほどのお客さんからスタートしたんですが、いつの間にか数百人の方が来てくださるようになりました。だから、必ずしも大きな一歩じゃなくてもいいんじゃないですか。小さな一歩でもすごい遠くまで行けたりしますから。

F.I.N.編集部

小さくてもいいから、まずは一歩を踏み出すことが大切なのですね……。では一歩を踏み出せたとしても、それを完璧にこなせなかったらどうしたら良いですか?

堀井さん

私は完成したものに対してではなくて、そこにたどり着くまでの道のりで評価を考えます。自分が納得できるまで準備できたかどうか。そこに対する満点は自分でしかつけられませんから。

スーさん

完璧を求めがちだけど、実は完璧って自分が気づけないところにあるんだよね。念入りに準備したとしても、70、80%くらいの結果になったり。って、説教くさい話に巻き込んでごめんね。

堀井さん

ふふ。私たちいつもふざけているから、たまにはこういう真面目な話もいいんじゃないですか。

スーさん

たしかに。今日の収録もずっとふざけてたもんね。顔にテープを貼ってどのくらいリフトアップできるかを試したりして。

堀井さん

そのくらい適当にやっていかないとダメです、本当に。

スーさん

ちゃんとやれる人みたいな言い方、やめてもらっていいですか(笑)。そもそもちゃんとできないんだから。

堀井さん

最近ちょっと真面目すぎるので、適当を学び直すために高田純次さんの本を買いました。

スーさん

今のままでも十分だと思うよ。でもまぁ、「自分との約束」を守りつつ、これからもふざけながら「負けへんで」精神でやっていきましょう。互助会員のみなさんも、ぜひご一緒に。

F.I.N.編集部

はい! スーさん、堀井さん、本日はどうもありがとうございました。お二人にお話を伺い、歳を重ねることがいっそう楽しみになりました。

スーさん

歳を取ると、シワも体重も増えるし、体力もなくなるし、若い時ほど頭も回らなくなる。だけど自己受容ができるようになるので、加齢は悪いものじゃない。むしろ最高です!

堀井さん

そうそう。だからみんなも早く来な! その頃、私たちはおばあさんになっていますけどね。

番組情報】

TBS Podcast『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』

毎週金曜日の夕方5時に新作配信。

番組HP:https://www.tbsradio.jp/ots/

【編集後記】

「人生、劇的ではない」。スーさんがおっしゃったこの言葉にハッとさせられました。きっと頭のどこかで、私たちとお二人は違うのだと、無意識に線引きをしていたのだと思います。ですが、取材を通し、お二人もこれまで目の前のことに対し、一つひとつ真摯に向き合ってきたのだと伺い、改めて身の引き締まる思いでした。

歳を重ねるにつれ、「私なんかが」という自意識や、周りの目、挑戦するためのもっともらしい動機付けなどにとらわれ、一歩を踏み出すまでの足取りが重くなる一方でしたが、お二人のお話から、そういった心の呪縛を解くことができるのはほかでもない自分自身であり、そのうえで「自分自身に誠実に向き合うこと」を通して得られた経験が、これからの人生の助けになっていくのだと気付かせていただいたように思います。

取材終わり、堀井さんが「みんなも早くこっちへ来な!」と私たちにお声がけくださったように、いつか、お二人からもらった勇気をまた次に繋いでいける、そんな「大人」になりたいと強く思いました。

(未来定番研究所 岡田)