2018.08.23

思いを伝える、贈り物の選び方<全8回>

第7回 大橋利枝子さんの場合

「お中元」や「お歳暮」といった贈り物はあまりしない方も増えつつありますが、その伝統は今なお続く大切な文化です。一方で、手土産やお土産など、日常の何気ないシーンに贈る気軽なプレゼントの形「カジュアルギフト」の需要が高まっているのも事実。実際に人々は、どんな場面で、どんな想いからものを選んでいるのでしょうか?この特集では、自身の活動から人々に刺激や感動を与えている方たちへ聞き取り調査をしてみました。

今回お話を聞いたのは、スタイリストの大橋利枝子さん。

Profile

大橋利枝子 /スタイリスト・デザイナー

1980年代後半~90年代前半の雑誌『olive』にてスタイリストとして活躍。2012年からは、「fog linen work」にてファッションブランド〈FLW〉のデザインを手がけてきた後、2018年に独立。衣服と暮らしまわりのものを扱う新ブランド〈fruits of life〉を立ち上げ、活動の幅を広げている。著書に『FLWのソーイングとスタイル リネンでつくる着ごこちのいいおとな服』(文化出版局)などがある。

www.fruitsoflife.jp

贈りたい人:仕事でお世話になっている先輩

 

贈りたいシーン:日頃の感謝を込めて

 

贈りたいもの:〈fruits of life〉のルームシューズ

選んだ理由

 

今年独立したので、ご挨拶と日頃の感謝の気持ちを兼ねて、いつもお仕事でお世話になっている方や、相談に乗っていただいている先輩にお中元を贈りたいと思っています。とはいえ今の時代は皆さん、必要なものはだいたい持っていますよね。特にスタイリストという仕事柄、周りはセンスが良く、感度の高い方ばかり……。そんな方々に渡すものなので、増えてもあまり困らないようなシンプルなものをプレゼントしたいなと思っています。

今考えているのは、今年私が立ち上げたブランド〈fruits of life〉の革のルームシューズ。これは、靴メーカーによるファクトリーブランド〈que〉とのコラボから生まれた商品で、靴の作り方で作られているので、通常のスリッパよりもすごくしっかりしています。山羊ゴートの革を使っているため柔らかな履き心地で、クッション性があるインソールを使っているのでフィット感もある。仕事場では、外靴からスリッパへ履き替えるという方も多い中、周りの人たちがみんな靴を履いていてもあまり違和感がない、靴の延長として使えるものになっています。もともとは自分が欲しいと思って作ったこのルームシューズなら、自信を持ってお渡しできるし、シンプルなデザインなので、きっとどこかのタイミングで使ってもらえるんじゃないかな。

大橋利枝子さんが大切にする贈り物の条件

 

・貰ってもあまり困らないもの

・自分の心に残ったエピソードとともにお渡しできるもの

 

今はものに溢れた時代で、皆さんだいたいのものは持っているので、贈り物にはいつも頭を悩ませています……(笑)。なので、あまりニッチなものよりは、多くの人が日常的に使うものの中で、ひと工夫あるようなものをお渡しするように心がけています。ちょっとした手土産には、その時に自分が美味しいなと思っているお菓子やお茶などの”消えもの”を差し上げることも多いですね。

あとは、カジュアルな手土産であろうと、お祝いなどのきちんとした贈り物であろうと、何かエピソードを添えたいなと思っています。私が最近いただいて嬉しかったのは、桂の木の葉っぱの贈り物。友人が先日、京都の山奥に行ったそうで、落葉した桂の葉っぱから、甘くて良い香りがしてすごく感激したという話をしてくれました。すると、地元の方が後日、その友人宛に桂の葉っぱをどっさり贈ってくれたそうなんです。私にも「たくさん貰ったからおすそ分け」と言って、桂の葉っぱをプレゼントしてくれました。ちょっとしたものなんだけれど、その方が感動、感激したエピソードと一緒に渡してくださったので、その体験も分けてもらえたような気がして、とても嬉しかったです。私も、自分の心に残った出来事を一言添えて、贈り物をしたいですね。

 

 

最終回は、感性(センス)を学習する人工知能「SENSY」が変える贈り物の未来を考えます。